36話 煌夜祭
「何だこれ…」
まだ周囲は真っ暗で流れ星は降っている、彗星の位置から考えるとだいぶぐっすりと寝てしまっていた…
ちなみに僕が目を覚ましたのは耳元で鳴き始めたマリーの鼾が五月蝿かったから。
そして両腕の暖かさに僕は微動だに出来ない状況なのだと思い出す。
「って…あ…」
妙にガッチリと掴まれた両方の腕。
手のひらは指と指が交差し繋がれている。
どうしてこうなっているのか分からない。
そこに夜風がふく。
「寒い…」
毛布一枚では寒い。
僕はまだ両側にいるリザとマリーで暖かいが、彼女達はどうだろう。
現にリザは寒そうだった。
「リザ、ねぇリザ起きて」
「……ん…セレクト?おはよう」
リザは暖まろうとより密着する。
布越しだが柔らかい肌の感触と胸の膨らみが当たる。
「寝ぼけてないで起きて。ここ外だし、まだ寒くなるよ」
「え………あ!わああ」
顔を真っ赤にしてリザが離れる。
「ご、ごめん。私あああわわ!」
慌てるリザの声に、
「何事だ五月蝿い…まだ朝では無いじゃないか」
マリーは起きたが、すぐに毛布をかぶってしまう。
「寝るなマリー…街に戻ろう」
朝まで寝ればいいじゃないかとマリーはごねるが、まだまだ気温は下がる。
リザが風邪をひいては申し訳ない…
毛布を剥ぎ取る事で唸りながらマリーが立ち上がった。
「まだ、流れ星は見えるな」
「前見て歩きな。転ぶよ…」
僕達は来た道を帰るとする。
魔法学園都市内に入るため南門まで来て門を叩く。
「すいません!開けてください」
しかし、反応が無い。
「締められてしまったか…」
「それは変だよ、何のための門番と受付なの?」
もしかしたら門番達は寝ているのかもしれない…
「誰も居ないみたい」
言わずともリザが調べてくれた。
「飛び越えるか?」
「いくらなんでも結構上まであるし、何より結界で入れないようになってるよ…僕が行く」
魔法で作られた外壁は上を見れば30メートルはある。
久しぶりに僕は空を飛ぶための魔法を使い、飛び上がる。
フィアと翼の補助具を作っていた経緯もあり、昔よりも遥かに安定する。
結界に穴を開けることは簡単で、門の内側から鍵を開けた。
「ふぅ」
「セレクト…空飛べるの?」
「翼で飛ぶってニュアンスじゃないんだけどね…まぁ飛べると言っていいか」
「それよりなんで門番がいない」
見張り台にも人影がなく、どこへ行ってしまったのだろう。
夜中なのに祭りは一向に静まりを見せない、むしろ先ほどより騒がしくなっている気がする。
「考えてもしょうがないよ、とりあえず帰ろう」
待っていても仕方がなく寮へと帰る事にした。
―――朝
少し寝ていたせいかぐっすりとは寝れなかった。
「おはよう…今日はお祭りの最終日ね…私達はクレープを作るんだけど、セレクトはどうするの?」
リザも同じにねむそうだ。
「研究発表の表彰があるらしいから、そっちに行こうと思う」
ベルモットの親父さんにお礼を言っておきたい。
それにきっとハーベスも来ているだろう。
「じゃあ、私達もそれ見てからにしようかな?」
「セレクトの晴れ舞台だな」
マリーの中では僕はもう表彰されている事は決定事項のようだ。
そして適当に朝食を済ませた後、魔法科の実験棟へと移動する。
「なんだか…慌ただしいな」
集まった人達はソワソワと話をしているのだが、時折発狂したような奇声をあげる人がいる。
そこに僕達の存在を確認したハーベスが慌てながら近寄ってきた。
「セレクト!昨日の夜はどこに行ってたんだい!!」
「ハーベス、どうしたそんなに慌てて」
「って知らないのかい?この世が終わってしまうんだよ!」
どこかで聞いたフレーズを思い出す。
オークションでの予言の書。
「ヨルダンの予言の書?」
「そうだよ!昨日の夜すごい沢山の星が落ちて、尾を引く星まで現れていたんだよ!」
「知ってるよ。昨日の夜はマリー達と郊外に流れ星を見に行ってたんだから」
「へ?」
詳しく知らないハーベスに全てを教えるのは疲れた。
「…じゃあ。世界は終わらないのかい?」
「当たり前だろ。あんなんで終わってたまるか。僕の研究はまだなんだから。それよりもこの慌ただしいのはもしかして、その話が原因?」
「そうだよ、街の中はその話で大変な事になってるんだ!」
大変なことというのはパニックになっているという事…せっかくそうならないように二日前に頑張ったのに意味がなかった。多分だがウェルキン校長と商人達はまた集まっているだろう。
「僕も行ったほうがいいかな…」
そう思ったが、彼らが集まっている場所が分からない。
それに必要ならお呼びがかかるはずだ。
会場の表彰台で誰かが叫ぶ。
「ああーつきましてはこの後に控えている、表彰式なのですが、都合により中止させていただきます!」
中止になってしまった。
それもこれも、こんな状況なのだから仕方がない…
集まっていた人達は口々に世界が崩壊するからだと絶望し会場をあとにする。
その中に見覚えのある黒い影を見つけた。
「すみません!」
僕は顔も確認しないまま声をかける。
「お、君はセレクト君だね。調子はどうだ?」
「はい、ご覧の通り元気です。あと、その節は本当にありがとうございました」
「気にしないでくれ、運ぶことしか出来なかったんだから。それよりも研究の方はどうだ…進んだかな?」
「はい」
「それは良かった。でも残念だ世界が終わってしまうとか」
ああ、この人も信じているのか…
「冗談だ、気にはなるが世界は簡単には終わらない。それよりもこの状態だと何時暴徒化してもおかしくはない。君ならどうする?」
硬派な格好をしているのに冗談を言う、外見と内面が少し違う…ベルモットの父なのだと再認識する。
にしてもなぜ急にそんな事を僕に聞くのだろうか。
「僕ですか………ちゃんとした理由を並べて説得しますね」
「ほう、どうやってだ?」
「御布令をだすって手もありますが、もうこの状態ですしね…効果は今ひとつでしょう。ならば大きな声でカリスマ性がある人が説明すればなんとかなるかもしれません」
「大きな声とは?」
「皆が聞いてくれるぐらいのです」
「そんな事が出来るのか…」
「…僕は思いつきましたけど?」
広大な魔法学園都市、全域に届くかは分からないが、一人一人に確実に聴かせる方法を思いつく。
ベルモットの父はそんな僕をまるで新種の生物を見るような目で見て来た。
「どんな方法かな?」
「ここではちょっと、人の目もありますし」
できれば目の前のこの人にも教えたくは無い…
「なら急ごう」
「どこへ行くんです?」
「ウェルキンさんの所だ」
どこに居るのか知っているようで、僕達はついていく事にした。
「そうだ、名前を教えていなかったね。私の名前はオーウェン・ウェザ・クレリックだ。娘が迷惑をかけているようだがよろしくやってほしい。それと魔王対策研究機関”セントラル”で所属長もしている」
所属長だとすればすれば、色々なコネを持っていそうだ。
敬遠するにはもう少しこの人を知ってからにしよう…
向かう先は学園の本棟、その上の方にある校長室。
扉の向こうからは何やら慌ただしい不穏な空気が流れている…
ノックをしたが返事がなく、オーウェンさんは勝手に扉を開けて中に入る。
僕たちもそれに続く。
「ウェルキンさん」
そこにはウェルキン校長の他に商人達も集まっていた。
「オーウェン君…とセレクト君達……」
ウェルキン校長は僕の名前を言うと難しい顔になってしまう。
何をしたのか心当たりがなく、考えてみる。
「ウェルキンの旦那、いいじゃねぇか気にすんな。セレクトの坊主が来たって事は頼って良いってことだろ?なあ?」
ウェルキン校長は僕に何度も頼むのが後ろめたかったのだと繋がった。
「セレクト君。本当に申し訳がない。結局こんな事態になってしまいました」
「それとこれとは話が別ですよ。気にしすぎです。それよりこの事態をどう収拾すべきかが問題ですよね。既に僕には策がある。だから来ました」
僕の一言で視線が集まる。
「えーと、ちょっと準備が必要ですが…」
簡単かは分からないが、大体の算段は出来ていた。
それでもリザの協力が無いとできないのだけど…
もちろん彼女は快く引き受けてくれる。
僕は彼女の能力”テレパス”についてはだいぶ調べていた。
その中で分かった事として魔力には二つの波長が存在していること。
一つは魔力が持つ独特の波長。
それともう一つが魔力がエーテルへと変化する時に起こす微振動。
この微振動については電波のような物と解釈している。
彼女はこの二つを利用し相手の精神状態と思考を読む。
自分の意思を伝える方法はまた別に振動を作り出し相手に送ることも調べ済みだ。
今から彼女にやってもらいたいのは、その送り出す振動の調整。
これはとても繊細な作業なので僕はまだ装置を作り出せない。
だが、それを補助する増幅器なら作れそうなので、通常のリザが送れる思念の範囲を何倍にも拡大することができる。
…と思う。
ようは、僕が作る魔法の一部としてリザを使うという事なのだけど…
「そこらへんリザは大丈夫って事で了承してるんだよね?」
「うん!」
いい笑顔だが…理解しているのか不安になる。
「人体実験させろって事なんだよ?」
「大丈夫だよ。私はセレクトにだったらどこ弄られても……」
言いながらリザは何を言っているのだろうと顔を赤くする。
「危ない実験なんですか?」
ウェルキン校長が心配して声をかけてくれた。
「いえ、特にリザの魔力を少し使う程度ですし。大きな負担は無いと思います。ただここに居るメンバーだけでは民衆の心が動かせそうにないのでリネアさんを呼んで来て欲しいのですが」
「そんな事でしたら」
控えていた筋肉質の商人が後ろから任せろと言い、その場にいる商人を引き連れ出し探しに行ってくれた。
リネアさんを呼んで来てもらっている内に僕も魔法増幅装置を手がける。
持っていた手帳を開き複雑な魔法を編み込む。
「形は頭にかぶせるのがいいか…」
錬金で外装を作りそこに二重三重にと魔法を計算し、複数の自然文字を重ねる。
そんな作業を見つめる彼ら、あくびをするマリー。
「後はマイクを作って……とりあえずこれでいいかな?」
完全かと言うには少々早いが使う分には完成したと言っていいだろう。
「もう出来たのかい?」
「後は調整が必要なぐらいかな?とりあえず使って見ないと何処まで範囲が広がるのか分からない」
マリーを部屋の中心に移動させ、扉の向こうの壁でハーベスに立ってもらう。
「リザ、魔力を送ってもらえる?」
リザの魔力に反応しランプが発光する。
「今の魔力を維持して」
「こんなのでいいの?」
普段使っている魔法に対して今の彼女は手を添える程度の力しか出していないのだろう。
使っていると実感が無いほどに少量の魔力ですむ。それが自然文字を使った魔法なのだ。
「次は無差別に念波を送信してみて」
リザが目をつぶり送信を試みる、僕達は何かを感じることもなく至って普通だ。
”いいよ”
リザの心の声が聞こえる。
これで皆も聞こえたのか、目線だけで確かめる。
「調整は1から…マイクのテストを始めます。聞こえたら手を挙げてください」
マイクを手に取り喋ると、不思議に自分の声が頭に響く…初めての感覚だった。
するとマリーが手をあげる。
ハーベスは無反応。
続けて2段階目の調整をするとハーベスが手を上げた。
距離は4mから10mほどまで伸びる。
最大値での設定だと十数キロ先まで送信が可能だ。
何度か試していると、リネアさんが校長室にやってきた。
そんな彼女は校長室に入る寸前まで何やら疲れた顔をしていたが、僕達を見るなり笑顔になる。
それと一緒に昨日のマリーと剣を交えたメルヴィアも来ていた。
「セレクト様が私の協力が必要だと聞いてきたのですが…」
「はい。少し待っててください。台本を用意しますから」
台本を作りながら今回街で起きている事、昨日の夜の出来事の詳細をリネアさんに説明し、そして彼女の同意を得る。
そんな傍らでは…
「む、マリーではないか。また我と戦わぬか?」
満面の笑みを浮かべるメルヴィナは楽しそうにマリーに話しかける。
「ちゃんと勝敗が決まっていなかったしな。しかし、あいにく私の剣はあの一本だ」
マリーは答えるが少々威嚇気味である。
「そうか…我の剣を退けた褒美をくれていなかったな。では選べ、どのような剣を所望する。我がくれてやろう」
「ん?そんな物は要らない。私にはセレクトがいる。セレクトが私の為に作ってくれる」
マリーのしたり顔を見たメルヴィナは思う。
自分の命を預ける剣士の剣は常に信頼のおける物でなくてはならないと。
そんな中でも最高の剣を揃えることが出来るのは自分だけだと思った。
しかしマリーは言う。セレクトとやらが作ってくれると…彼女の信頼出来る剣を作ってくれると。
自分がいつの間にかマリーの信頼を得たいと思ったことに、メルヴィナが不敵に笑う。
「マリー、そなたはセプタニアの民であるな…我の側近にならぬか?」
「ふざけた事を言うな。私が守るのはセレクトとリザだ。他の誰でもない」
メルヴィナは棒にも箸にもかからぬマリーが今まで相対してきた者とはまるで違うと感じる。
次こそ力で這い蹲らせる事は出来るだろう、しかし本当に屈服させる事が出来るのかは分からない。
マリーをどう扱っていいのか分からなくなっていた。
「貴様は私の越えるべき壁だ。セレクトに刀を作ってもらったらもう一度勝負してもらおう」
引き分けたとはいえ、それはメルヴィナの過信が生んだもの。次はもうない…
既に実力の差はついているはずなのに。それでも刃を向けるという。
ドラゴンと相対した時よりも圧倒的に胸がざわついていた。
「かっかっか。ならば褒美は我の剣と交えることとしよう。何度でもかかってくるがいい」
「言われなくてもそうするところだ」
互いに不気味な笑いをし、互いを好敵手と判断した。
「二人共…周囲の魔力を乱さないで欲しいんだけど」
台本を作り終え、リネアさんも一通り目を通し。
これで準備が整った。
「じゃあ早速、リネアさん準備はいいですね」
「はい」
「リザ魔力を送って…始めましょう!では…3…2……」
一を手で表し増幅装置を最大値にする。
「皆さん、聞こえますか?私はリネア・アクア・クローチェスです。今は女神の力を使い一人一人の方に話しかけています。今、皆様はとてつもない不安の中にいて混乱をしている事でしょう。けれど安心してください、世界は終わりません…予言者ヨルダンの残した著書には様々な解釈が施されて世に出回っていますが、今回の予言は決して世界の崩壊などではありません。彼は星の配置を誰よりも知り、星の動きを読むことで未来を想像しただけです。その一節を読みましょう…夏と春の日の間、星が降る日は稀にあり、尾を引く星も希にある。互いに重なり合う時は一度きり。私はこれを見れないことが残念だが仕方がない………これが書かれていた内容です。一言も彼は世界が崩壊するなど言っていないのです。この出来事を憂えてさえいたのです。星降る夜と尾を引く星を…私達が見れたことは幸運であり神の祝福ではないのでしょうか?今一度自分達の慕う神を祈りながら、考えてみてはいただけないでしょうか…」
リネアの説得の声と共に心境と映像が流れ込んでくる。
それと同時にこの増幅装置の危険性を物語る。
それはほんの少しの悪意だけで民衆を洗脳することが出来てしまう。
そしてリネアさんが話を締めくくると僕は装置を切った。
「リネアさんありがとうございました」
「セレクト様の為であれば」
「リザも付き合わせてごめん」
「楽しかったよ」
二人がそう言ってくれたおかげで気持ちは楽になる。
そしてこの装置に対して…僕は最初から決めていた事をする。
「ってセレクト。それを壊してしまうのかい!?」
驚異を知らないハーベスが驚く。
「当たり前だろ、この装置はリザがいて初めて動くんだ。これのせいでリザが危険にさらされる可能性があるんだから壊すさ」
ハーベスだけではない、この場にいる全員に口止めするように言う。
「だから、記録なんかしないし。跡形もなく壊す」
それ以上の反論や異議は誰も口にしない。
カメラの起こした事件が頭にチラつく…
「そうだウェルキン校長にお願いしたいことがありました…」
「なにかな、私でよければなんでも聞くよ?」
「カメラの事についてなんですが…学園側で作ったと言う事にして貰えないでしょうか」
「構いませんが、どういう事でしょう?」
昨日の出来事を事細かに話す。
「セレクト君に魔法を打ち込んだ…しかも大量に?」
「まあはい。僕には効きませんが」
「いえ、大量に打ち込まれたという事実が黙認できないのです…一人だけに向けて…数で……」
ウェルキン校長の様子がおかしかった。何時も何処か安心させる表情を浮かべているのだが、今はそれが無い。
僕がウェルキン校長と話しているとフィアが近寄ってきた。
「その件につきまして調べてみたのですが…あの件に関しては3つの団体が関与していたようです」
泣き寝入りしなくてはならないと思っていたが、フィアさん達が調べていてくれたようだ。
リネアさんが校長室に入るさいに疲れていた表情もこれに関係しそうだ。
「教えていただけますか?」
「今は関与した人物の特定とリストを作成しておりますので、出来上がり次第お持ちします」
「出来るだけ早くお願いします」
影の差すウェルキン校長が凄く怖い…
「教職者としてモラルはしっかりと叩き込んでいなかった私の罪です…本当に申し訳ありません」
謝られても僕はどうしていいのか分からず、ずれてしまった話を戻すことにした。
「あの、カメラの件については」
「と、そうでしたね。カメラの件については少しこちらで預からせてもらいます」
怖いほどに表情が変わるウェルキン校長…
関わった人物達がどんな責め苦を受けるのか想像することが出来なかった。
そして…
「やりました!嘘のように混乱が収まって、船乗り場も通常状態に戻りつつあります」
伝令の少年が吉報を知らせに来てくれた。
街の混乱が収まったとは言え、表彰式は見送られることとなった。
それよりも問題なのが、ベルモットの父…オーウェンである。
彼は魔王対策研究機関”セントラル”の所属長で、一研究者。
僕の魔法に対する技術を少しだけ見せてしまった。
「いやあ実にすごい!魔法の無限の可能性をまじまじと魅せられてしまった…普段から書類ばかり見ているとダメだ。それに研究に対しての責任も十分に理解している。娘の婿に来て欲しい!!」
感極まったオーウェンさんの最後の一言を聞いて僕は死を覚悟する。
早く訂正しなければと必死になる。
「ままま、間違ってもベルモットにそんなこと言ったらダメですよ!いいい命が狙われますから!ベルモットには好きな人がいるんですから!!!」
「む、そうなのか…それは一度会っておきたいな…」
好きな人がいると言う言葉に反応し一瞬で素に戻るオーウェンさん。
既に一度会っているなど言えない。
ごめんよハーベス…僕は自分の身可愛さに君を引き合いに出してしまった。そして近い内にハーベスの名もばれるかもしれない。
「セレクト君、夏休みにでも研究所を見に来ないか?ぜひ案内をしよう」
それはチャンスだった。この世界に来て初めてのちゃんとした設備が整い、どういうような魔法研究がなされているのか知る機会。
昔、神父さんから言伝にしか聞いたことが無かったので、凄く興味がそそられる。
そんな僕を見透かしたかのようにオーウェンさんは言う。
「君は魔法研究界における異端児であり革命家だ。あの魔法構築をみてそう思った。私はあんな方法を今まで見たことがない。ウェルキンさんも大事にするわけだ…セレクト君は常に自分が利用される恐怖を抱いてる、そうだろ?」
見抜かれていた。
「大丈夫…とは言えない。でも、研究者として私は君を応援したい。どんな手を使っても君の後ろ盾になろう。だから自由に研究をしてみないか?」
それは僕に研究室を用意してくれるという胸が踊り出してしまいそうな申し出だった。
しかし、僕の技術はそんな簡単に世に出していい物じゃない。もっと準備が必要で…
「迷わせてしまったな。心配は要らない学校を卒業するぐらいは待てる。今決めなくていいよ」
なぜダメなのか。それは僕の手の届かない場所へと行ってしまうのが怖い。
自然文字の兵器の転用は何かの装置を作るよりも簡単で、合理的な解釈の下で研究が行われれば際限をしらない大量破壊が可能となる。
せめてその制御が出来るようにならなくてはいけない…
だからその方法を見つけるまでは、この申し出には答えられそうに無かった。
「見学だけさせてもらっていいですか?」
僕は諦めた表情を浮かべ…
「構わない。是非来てくれ」
オーウェンさんは笑って流してくれた。
遅い昼食をオーウェンさんに奢ってもらい。
見学の日程は夏休みに入ってすぐにと決まった。
結局のところマリー達もゴタゴタのせいでクレープ屋は出せなかった。
しかし祭りはまだ終わりではない。
祭の最後の締めくくりは、祭りで出たゴミや使い物にならないものを燃やす煌夜祭がのこっている。
西門を出てすぐにそのゴミの山があり、夕日が傾くと火が放たれた。
「すごいゴミだな」
「去年はもっと大きかったんだけどね」
「午前中は世界が滅びるとか忙しかったのに。今じゃ流れ星を数えているね」
彗星に祈りを捧げる人たちもいる。
しかし、祭りの終わりにしては華がない…
「華といえば…火を扱わなければ危なくないし。光のコントラストを使えば…」
「セレクト、何をぼそぼそと喋ってるんだい?」
「ああ、まあ見てなって」
何枚かの紙に魔法を描く。
閃光を散らせる光の魔法は煙を出さない花火。きっと綺麗に夜空を照らしてくれるはずだ。
空に魔法を描いた紙をかざす。
魔力を込めることで魔法が発動し、光の塊が生み出され夜空に高く打ち上がる。
「おおーこれは綺麗だな」
「まだだよ」
上空で高らかに登った後に光の玉は、花が開くように綺麗な丸い光の花火を作る。
夜空を彩ると静かな驚く声が聞こえた。
「皆もやってみる?」
「出来るのか!?」
「すこし魔力をこめれば打ち上がるよ」
夜空へと沢山の花火が打ち上がり。
人々はそれを目にし歓声を上げる。
そして長かった初めての月光祭は終を迎え、僕達の初めての夏休みが訪れようとしていた…
だめじゃー 一人で誤字脱字を確認しきれない…
すいません、多分今回も…多いかも…