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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第4章――
35/59

35話 星降る夜に…

 リザは浅い眠りの中。

 鐘の音がなると…誰かが絶叫するような波動を感じ、目を覚ましてしまう。

「え…だれ?」

 寝ぼけ気味の頭でなんとか魔力の波動を感知すると。

 愛しい人物の物と合う。

 しかし…

「セレ…クト…なの?」

 本人ではないと否定したくなる。

「…校庭の方に…急がなきゃ!」

 癖の付いた髪も気にせずリザは部屋を飛び出していた。


 リザは走ることや体力には自信はない。

 現に今も階段を急いで降りているだけで、息が切れてしまう。

 女子寮の出入り口へと差し掛かかると。

「キャ!」

 慌てていたため、白い人影とぶつかりそうになった。

「リ、リザさん?どうしたのですかそんなに慌てて」

 ぶつかりそうになった相手はリネアだった。

「あの、セレクトが校庭の方で泣いてるかもしれません!」

「どういうことですか?」

「詳しくは説明できないんです。ただセレクトが」

「ナターシャ、その子がどうした?」

 記憶の片隅で見たことあるような赤黒い長髪をした長身の女性。

 彼女が上からリザを覗き込む。

 そんな説明を求められたリネアはリザへの対応が遅れてしまう。

「すみません、ナターシャ様。私行きます!」

 リザは整わない息のまま校庭へと走り出す。

 そんな後ろ姿に不安を現わにしてしまうリネア。

「リネア様、追いかけてもよろしいでしょうか」

「お願いします」

 リネアの後ろに控えていたフィアがリザを追いかける。

「おいナターシャ、一体どうしたんだ?」

「先程お話しましたセレクト様が校庭の方で何かあったようで…」

「心配なのか?」

「とても」

「なら、我も行こう」

 爆発音に近い騒々しい音が校舎の裏。校庭から聞こえてきた。

 長身の女性はその方向に顔を傾けニヤリと笑う。

「先に行っているぞ」

「メルヴィナ待ってくだ…」

 リネアが注意した時には既にメルヴィナと呼ばれた女性は空高く跳躍していた。 

 それは校舎をも飛び越え、その向こうへ…




「貴様がセレクトだな。我の名前はメルヴィナ・ドラン・セプタニアン。最愛の友が心配をしていた」

 メルヴィナはセレクトを見た後、学生たちを見る。

「ふむ、喧嘩は両成敗が我の基本だが…少しばかり数が多すぎやしないか?なあボイル!!」

 遠くからボイルのものと思える悲鳴が聞こえた。

「我はこちらに付くとしよう。そのまま牙を向けるがいいぞ」

 メルヴィナの付けている外装は鎧のようにも見えたが、引き抜く事で身の丈ほどもある黒い大剣だと知らしめる。

 剣先を向けられた学生達はピクリとも動かない。

 それは絶対的な恐怖が支配していたからだ。

「腰抜けぞろいか…全員でかかって来いと言っているんだぞ?」

 それでも学生達は微動だにしない。

「つまらん。お前はどうだ?」

 メルヴィナは目の前のマリーへと剣先を向け問う…

「ふっ、いい顔だな。悔しいか?」

「そこをどけ赤いの…」

 セレクトを背にし啖呵を切るその姿が、マリーにはたまらなく悔しかった。

「面白い、この者を守るよう言われているからな。かかってこい!」

「五月蝿い!!」

 鉄の音と火花が散り、剣と剣が交差する。

「いい、一撃だな。元気がある…楽しいぞ貴様」

「クソっ退けと言っている!」

「ならば我を踏み越えろ。でなければ貴様が地に伏せるのみ。頭をたれる事を許そう」

 一度剣を打ち合った瞬間にマリーは実力の差を感じていた。

 剣術を習い始めた頃はセレクトなどすぐに抜いてやると思っていたが。知れば知るほどセレクトが何処までも高みに居ると理解させられた。

 だから、目の前のメルヴィナがどれほど強いのかも知れてしまう。

 圧倒的な力の差に…

「そこは…私の場所なんだ!!!」

 それでも諦められるわけが無く、幾度となく剣を降る。

 猛攻の末、剣の間に垣間見たはメルヴィナの貪欲な笑みだった。

「面白いぞ!次は我の番だ!」

 剛剣がマリーを襲う。

「っ!」

 剣で受けきってはダメだとマリーは攻撃を受け流す。

「これを流すか…では、次はこれだ」

 メルヴィナの魔力が黒い大剣に注ぎ込まれると刀身が赤く彩る。

 さらに威力を上げた剛剣が同じ軌道で飛んでくる、マリーはとっさに後ろへと下がる。

 が、それがいけなかった。

 余波として作られた剣風は剛火を纏いマリーを襲った。

 

 


 

 

 僕は先程までの怒りに満ち溢れていた感情は無い。

 ただ何も感じず目の前の光景を見ている。

「どうしてこうなったんだ…」

 感情的に動いた、ただそれだけだった。

 なのになんで。

「なんでマリーにあんな魔法を打ったんだ…」

 僕は知らなかった…

 でも、下手をしたら大怪我じゃすまなかった。それも僕の手で…

 その事実は変えられずに心を締め付ける。

 どんな言葉を見繕ったって言い訳は出来ない。

 この原因はなんだったのだろう。

 カトレアに渡したカメラか?

 部屋を荒らされ脅迫を受けたからか?

 ハーベスが傷つけられたからか?

「でも、なんでマリーは向こう側に居たんだ…」

 剣と剣がせめぎ合う音が耳に響く。

 ”違う!”マリーの声を思い出す。

 目の前には苦しそうな表情をするマリーがいる。

「違う…何が…僕はあの中にマリーがいた事を知らない」

 ”違う!”

 もう一度響くと先程の苦しそうなマリーが浮かぶ。

「…マリーはどうだったんだろう…」

 僕はどんな時も冷静でいなければいけない。

 それはなぜなのか…

「何も考えてないマリーを止めるためじゃないか…」

 頭をようやく鮮明にしめぐらせると…

 マリーの”違う”と言った意味を理解する。

 それは何も知らずにあそこにいれば合点がいったと…

 もう一度マリーを見る。

 しかし、知らなくても魔法を放った事実は消えない。

 でも今も戦い続けているマリーは他の誰でもなく僕の為…

 勝手に諦めるなどは許されない。

 魔法の事は…素直に謝ろう。

 胸の痛みは消えないけれど。

 ぶつけてごめんと。

「マリー!!」

 



 衣服が焦げたがマリーはなんとか魔力を爆発させ炎を蹴散らした。

 しかし、防戦一方を強いられる状況は変わらない。

 幾度と数えられない剛剣を受け流す。

「お前は獣人かそれとも亜人か?いや、人の子のハーフか」

「私は根っからの人間だ!」

「…本当か!それはすごい!どこの貴族だ!」

「平民だ!」

「!!」

 メルヴィナは何かに感極まったのか攻撃が単純になり、マリーはその隙を付く。

 しかし、防がれてしまい後ろへと跳躍する。

「距離をとるか…いい判断だ」

「マリー!!」

 外野からセレクトの声がマリーに届く。

 いつものセレクトがそこにいた。

 その声にマリーは答えたかったがメルヴィナの猛攻が襲う。

 剣を受け流す作業がまた始まる。

「マリー、もういいんだ剣を離せ!」

「嫌だ!」

 踏ん張るマリーは何を言っていると心で反論する。

 すると、剣の柄に巻かれている革が焦げ。

 気がつけば手には激痛が走っていた。

 炎を纏うメルヴィナの剣を受けることで徐々にマリーの剣にも熱が蓄積していたのだ。

「手が痛いのではないか?離せ」

「知るか!貴様が先に離せ!」

 それはマリーの意地だった。いくらセレクトが冷静さを取り戻したと喜んでも。メルヴィナが立つ場所は…

「私のものだ!!」

「これが最後だ…離せ」

「絶対に離さん」

 やりとりをしながらも攻防は続いている…

「ならば、引導をくれてやる」

 マリーが攻撃を受け流せず、後ろに剣が弾く…

 メルヴィナは大剣を空高く突き出す、そこにこれでもかとう魔力を注ぎ込み。

「地に伏せろ」

 振り下ろす。

 メルヴィナはこの瞬間、不敵に笑うマリーを見る。


 いつもならその名を聞いただけで人を震え上がらせてきた。

 名も知らぬ者には力を見せ屈服させた。

 力を見せても歯向かうものは、力で支配した。

 メルヴィナは生まれ持っての力と魔力は他のどの種族よりも優れていた。

 王家の血筋に生まれた事で他を支配するという事は義務だった。

 だから怯える必要など無かった。

 ドラゴンですら怯えさせた彼女は他に脅かされることを知らなかった。

 笑いながら弧を描きニヤリと笑ったその者を見るまでは…


 振り下ろす大剣の速さは衰えない。

 燃え上がる大気。

 そんな圧倒的な力の前にマリーは積み重ねた技術を使い対抗する。

 剣が弾かれた勢いと、それを使いこなす回転の体重移動。

 それと、メルヴィナの過信。

 すべてが一致した点をマリーは見出し、魔力を注ぎ叩き込む。

 瞬きなどせずマリーは見つめていた…

 自身の愛剣が折れてしまうのを…

 刹那に光る剣先を…


 空高く吹き上がる火炎は噴火に似ていた。

 静寂と空白の間

 マリーは柄を手から離す…

 しかし、もうそれは剣とは呼べない。

 対してメルヴィナも、その手に剣は握られてはいない。

 魔力を込めたマリーの剣は、メルヴィナの大剣と重なった瞬間に魔力を爆発させていた。

 その勢いでもってマリーの剣は耐えられずに壊れ。

 メルヴィナは上へと弾かれる力に押し負け、大剣だけが天を貫き吹き飛んでいった。

 そんな静寂を割ったのは…

「は…はは。我がしてやられた」

「貴様が剣を…離す方が先だったな」

「そのような体でよく言う。立っているのがやっとであろう?」

「うるさい…退け。セレクトの所へ行かせて…もらう」

 メルヴィナは自分の刃を退けた相手に、父と母以外に見せたことのない敬意をマリーに送る。



 目の前にはボロボロになったマリーが居た。

「手を見せてみろ…」

「見ていてくれたか」

 やけどが酷く、赤い皮膚が見えている。

「すぐに治してやる」

「セレクトは大丈夫なのか?」

 治療をしながらそれに答える。

「…うん、それよりさっきはごめん、魔法とか…取り乱したりとか…」

「違う…もう怒っては無いのか?」

「ああ、おこってないよ…」

 自分の不甲斐なさに涙が出てくる。

 こぼれ落ちた涙が治療しているマリーの手に落ち、びくりと反応する。

「ごめん…」

 裾で鼻水を拭く…

「謝るな…先日教えてもらったばかりだぞ。互いに支え合うと…」

「ああ、そうだったね…」

「…ほら…泣くな」

「あ…マリー」

 治療の終わらない手でマリーは僕を抱きしめてくれる。

 こんなにも近くに彼女を感じた事はなかった。

 女の子らしい香りがして…暖かい…

 さっきまでこの体で戦っていたのかと思うと…

 また涙があふれる。

「おい、泣きすぎだぞセレクト」

「あ"あ"マ"リ"ぃ"」

 止めようと思っても止まらない…

「皆も来てるんだ…いい加減にしろ」

「へ?みんな"?」

 後ろを振り向けばリザとリネアさんとハーベスそれとベルモットがそこに居た。

「セレクト!マリーに甘えすぎ!私だってゴニョゴニョ」

「君も泣くんだね。初めて知ったよ」

 両腕の袖を使い鼻水と涙を拭く。

「………みっともない所見せちゃったか…マリー治療の続きだ」

 マリーの手を治した後は他にも擦りむいている所を治す。

 淡い光でマリーの傷を癒していると。

 リネアさんの荒らげる声が後ろから聞こえた。

「メルヴィナ!」

「な、何事だ」

「何事じゃないです!目の前の事に気を取られすぎです!なんでマリーさんと剣を交えていたのですか!明確に説明をしてください!」

「む、そ、そんなに怒る事ではないだろう」

「怒ります!」

「ナターシャ様、少し落ち着きましょう。話がややっこしくなりそうです」

 珍しくリザがリネアさんをなだめる。

 しかし、事の発端は解消されていない。

 写真の流出…荒らされた部屋…ハーベスの傷。


 既に学生達は散っていて、校庭には姿形が見当たらない。

「主犯格達は取り押さえておきました」

「ひぃ!」

 フィアと他の従者の方達がいい仕事をしてくれる。

 並べられる四人の少年達…その内の一人は上級生だ。

「あなたが主犯ですね。セレクト様に謝罪を…」

「すみませんでした!まさかこんな事になるとは」

「こんな事にならなければいいって事ではありません!反省が足りないようですね」

「ひ、ひひぃぃん」

 ………なんだろう…喜んでいる気がして仕方がない。

 主犯格の人からは魔力の痕跡と一致しない。

「最初に聞くが、ハーベスに怪我を負わしたのは誰だ?」

「え、私めは指示しておりませんが…」

 しかし、僕が怒っていた時は反論はしなかったのに…事前に用意していた言葉でも並べたのだろうか?

「閣下どの申し訳ございません…事をよく知らない者たちが勝手に…」

「何ー!!」

 まあどちらにしても…

「組織のトップがこういう時は罪を償うんだよな…」

「ひ、ひいいいいぃぃ」

 だからなんで少し喜んでるんだろう…しかも僕に対しても…気持ち悪い…

「あの、セレクト…話を割ってすまないが。僕は傷を負わされた覚えはないよ?」

「でもあの時魔法を…」

「因縁は付けられたけど、僕が負けると思うかい?少し遊んでやったら逃げていったよ」

「じゃあ腕の痣は?」

「昨日ベルモットと歩いていたら転んでしまってね」

「そうなの?」

 確認の為にベルモットに聞く。

「ん?ああ見ていたぞ。ハーベスがバカみたいに転んだんだぜ」

「バカはないよベル…」

 しょぼくれるハーベスはひとまず置いておいて。

 僕はとんだ勘違いをしていたようだ。

「でも、部屋を荒らされてたしな…その分もあるか」

「へ 部屋を荒らす!?」

「ああ、お前の子分がやったんじゃないのか?」

「いえそのような命令は…お前ら荒らしたのか?」

 二人の少年が前に出てくる。

 両方共に魔力の痕跡と合致した。

「ちょっと待ってください…俺達は部屋に果たし状を貼り付けただけだ!」

「部屋は俺たちが行った時には荒らされてた!」

 どういうことだか分からないが二人の波動は確かに扉の付近の二つだった。

「もう一人いるだろ?」

「え?」

「は?」

 とっさにリザを見ると首を横に振る。

 だとすると3人目は誰だというのだろうか…

「あ!そういえば。男子寮なのに女子と入れ違いになったな!」

「ああ!!獣人の子で…猫みたいな耳をしてました!」

 思い出したかのようにあたふたと言い訳をするが…

 猫の耳で僕の部屋に用がある人物は…悲しくも一人だけ浮かぶ…

「マリー…キャリアが今どこに居るのか分かる?」

「キャリアがどうした?」

「僕の部屋を荒らした犯人かも…」

 分散していく怒りにバカらしくなる。

「何!?そうなのか…分かったすぐに呼ぶ」

 マリーは深く息を吸い…

「キャリィィィィィ!!!!!」

 とんでもなく大きな声で叫ぶ。

「これで少ししたら来るぞ」

 飼い慣らしている…

 キャリアを待っていると日が暮れてしまいそうなので、残りわずかな怒りが消えない内にもう一人の手がかりを探す。

「カトレアは何処にいると思う?」

「どうだろう…」

 リザに何度も頼むのは心が痛い。

「やってみる…」


―――数分後

 しかし、見つけることが出来なかった。

「ごめん、力になれなくて」

「無理なのは承知だし、謝らないで」

「なら他の手を使おうぜ」

 ベルモットが提案をしてきたが、他の方法があるのだろうか?

「俺はカトレアの幼馴染だぜ?習性はよく理解してる…おい、そこのボンクラ共!」

 彼女が指をさすのは捉えた少年達。

「縄を解いてやるから服を脱げ」

 嫌々と少年達は服を脱ぎ捨てる…

 目も当てられないのかリネアさんとフィアは後ろを向いてしまう。

「下着もだあほぉ!」

 調子に乗ったベルモットは蹴りを入れゲラゲラと笑っている。

 見ているこっちが不憫に思える…実行犯達なのに…

「ひ、ひひひ。それでくっ付け…ほら早くしろ!」

 ぴたりとくっ付く裸の男子達の絵は何とも吐き気がする…

「動け動け!!組んずほぐれずだろ!ひーひひひ」

 どうしよう…やめてあげて欲しい…何よりも僕が見たくない。

「あの、ベルモットさん?これで本当にカトレアが来るんですか?僕にはストレスの発散にしか見えないのですが…」

「あ、ああもう来てるぜ」

 指された方を見れば地を這う生物がカメラを構えてゴロゴロと回っている。

「いいわーそうよ!そこそこ。もっとくっついて…ああいいいぃぃ!!!!年頃の男子が4人も裸でなんてサイコウヨー!!!!」

「ああああーーーー!!」

 阿鼻叫喚とはこの事だろうか…うっぷ。


 


 僕はキャリアとカトレアを正座を強制し地べたに座らせる。

 先程の男子四人は、これ以上の晒し上げは不憫に思い開放した。

 泣きながら服を回収し走っていく姿は…もはや哀れみを覚える…

 そして、やっとここに僕はたどり着いた。

「まずはキャリアだ、正直に答えろ…僕の部屋に入って荒らしたのはお前か?」

 激しく明滅する追跡用の魔法の紙。

「キャリー、正直に話せ。セレクトの部屋を荒らしたのか?」

「……はい」

 マリーが悩むように頭に手を押さえその場を離れる。

「マリーお姉様!?」

「そうかそうか、やっぱり荒らしてくれちゃったわけか…僕は非常に怒っています」

 口に言葉を含ませ威圧をかけただけで猫耳が垂れる。

「僕はそれでも優しいからね…言い訳ぐらいは聞いてあげるよ?」

「……魔が差したというか…マリーおねぇ様の匂いがしてつい…」

「鍵を壊して中に入ったと?」

「はい」

 多分だが、最近マリーは僕と一緒にいる事が多い。スペリアムに行った事もそうだが…マリーを慕うキャリアは僕に嫉妬していると思う。

「で、マリーの匂いがしたものはあったか?」

「ありませんでした…」

 何も取られてはいない…

 なんてつまらない悪意なのだと。

 これにブチギレていたかのと思うと、自分ながら情けない。

「ごめんなさいぃ!っ痛い」

 頭を下げた所にチョップを入れる。

「後で部屋を片付けるのを手伝ってくれ…」

「は、はい」

 

 解放されたキャリアはマリーへと抱きつく。

 くっつくなとマリーが怒るが頭を撫でている所を見ると本当に嫌というわけでは無さそうだった。

 完全に散ってしまった怒りをカトレアの顔を見ることで再燃する。

「次にカトレアァあ?」

 ゴミ虫を見るように見下す。

「何それ…怖いんだけど」

 怖くなくては困る、カトレアの余裕をなくすためにもと回収していたカメラを…壊す。

「ああ…そんな…私のストラーダちゃんがぁ」

 名前をつけてやがった…泣きたいのは僕も一緒だ。自分の作った作品を壊すのだから。

「あの出回ってた写真はなんなんですかぁ?10秒以内に答えてくれるかな?」

「スリに盗られて流出しました!」

 元気な声で5秒以内に答えやがる。

 それが余計に腹立たしい。

 次の瞬間、乾いた音が響き渡る。

「リザ…」

 放心状態のカトレアはやっと事の重大性を理解する。

「ふざけないで…セレクトは凄く落ち込んでたんだよ?ずっと泣いてたんだよ?…マリーだってボロボロだったし…もしかしたら誰か大怪我して取り返しがつかなくなっちゃう所だったんだから!!」

 リザのその目には涙が浮かんでいた。

「セレクトも、もう少し怒っていいよ…苦しかったでしょ…」

 友人を叩いた手が凄く痛かったのだろう、リザは手をさすりながら寮の方へと歩いて行ってしまった。

 彼女は心を読める前に感じてしまう。

 僕の感情もダイレクトに伝わっていて、もどかしくて仕方がなかったのだろう。

 それを最後に僕の怒りも消え…

 既に日は沈みかけている

 皆が皆を気にしながらその場を離れ。

 それでも何処かやるせない気持ちだけが残った…

「キャリアはこっちだろ!」

「にゃ!」





 闇の中、ポツリと三つの光が並ぶ。

 ここは人気の無い魔法学園都市の南門…

「やっと来たか」

「ごめん、遅れた」

「セレクト、調子はどう?」

「うん…それよりリザ」

「私は大丈夫、むしろセレクトの見せ場を取ったちゃったみたいで」

「いや、リザにあんなことさせちゃって悪かったよ」

「でも、私じゃないと効き目無かったと思ったから。カトレアもこれで懲りてくれると良いんだけど」

「見たこと無いぐらい落ち込んでたな」

 それはなんと言うか、自業自得なのでしょうがない。いつまでもクヨクヨと引きずるのは僕は嫌いだ。

「とりあえず出発しよう、手続きもあるし」

 この門の向こう側は草原地帯が広がっている。

 ここは基本どんな時でも門番が2人体制で付き管理を行っていた。

 手続きを済ませれば何時でも自由に出入りができる。

 門が開くと何処までも長い一本道があるのだが、今は夜なので道の両側の淵ぐらいまでしか見えない。

「どこまで行く?」

「お祭りの音が聞こえないぐらいの所かな?」

 夜も更けているのに重低音が響く…

 この道の先にはまた門があり、その先にもまた門がある。

 複数に分けられた意味合いは、そこを通る度に出会う魔物の頻度が高くなり強くなることを示しているらしい。

 この草原でもごくまれに遭遇するらしいが…この時期は大丈夫だ。

 上級生に上がれば僕達も頻繁にこの道を行き来するらしい。

 その手の話をするとマリーの食付きがよくなるがリザは怖がる。

 僕はなんとなく生前の知恵を披露する。

「じゃあ、今からいい事を教えてあげるよ。流れ星が消えるまでに心の中で3回願いを唱えると叶うっていうおまじないがあるんだ」

「本当か!」

「本当に!」

「試してみればいいよ…あ」

 夜空を見る、まだ微かではあるが星とは比較的に大きい天体が尾を引いているのが見えた。

「何あれ…しっぽがある。あれが彗星ね」

「流れ星も落ちたぞ!」

 僕達は道からそれ背中が冷えないよう適当な場所に毛布を敷く。

 寝っころがりながら川の字になり星を眺める。

 リザ、僕、マリーの順で並んでいるので、少しきわどい…

「セレクトが刀を作ってくれますように。セレクトが…ちっダメか!」

「マリーそれ長い…それと僕へのお願いだよね?流れ星に叶えてもらう事じゃないよね…」

「壊れてしまったからな…なるべく早く欲しい…」

 そんなやりとりをしているとリザがクスクス笑っていた。

「少し寒いな」

 もう一枚の毛布を僕は取り出す。

「ずるいぞセレクト、私の分は何処だ」

「無いよ!」

 そういえばランプと小さい手に持つ…それだけだったような。

「セレクト少し入れて」

 リザがくっ付き毛布へと入る。

「む、ずるいぞ。私も入れろ!」

 次に逆からはマリーが入ってきた。

 そして僕は微動だに出来なくなる。

 すると妙に静かになり星を眺め続けた。

 程よい暖かさに瞼が落ちる。寝てはいけないと思っていても、今日は怒り疲れていて…この体勢から動けない。

 いつの間にか僕は寝てしまった。







 寝てしまったセレクトの寝息が聞こえてくる。

 マリーとリザはそれを確かめてからセレクトの手に手を絡める。普段ならなんとも思わないはずなのに妙にドキドキとしていた。

 もう少し、もう少しと指先を動かしセレクトの手を触る。

 そして我慢しきれずに指を絡めてみると妙にしっくりとくる…

 その心地よさに安堵しマリーとリザもまた…寝てしまった……

ふぅ…なるべくこの話は早く出したかったんだぜ。

前回をかなり引っ張っていたので…

3度見ぐらいしたのですが誤字脱字が大荒れかもしれません(いや絶対ですね

楽しく読んでいただけたら嬉しいです。

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