33話 お祭り「裏」
狭い螺旋階段。
一歩一歩と下りる三人の足音が響く中…
「ワクワクするな!」
緊張感の欠片もないマリーがのんきに言う。
「僕はヒヤヒヤするよ…それに前にもこんな事があったような」
前方を光の魔法で照らしている僕は気が気ではない。
「ごめんね、無理言っちゃって…」
「…いいよ。マリーが最初から聞いてた時点で、こうなる事はわかってた気がするし」
「………」
「それに少しホッとしてる…僕も我慢出来るだけで本当は怖いからね」
そっと僕の背中の服をリザがつまむ。
階段を降りきると次に通路が続く。先程とは違い、広く作られていている。三人が横並びになってもまだ余るぐらいだ。
「まだ先があるけど…リザは何か分かる?」
「うーん……奥の方からかすかに感じるかな?」
「このままだと危ないしな。よし」
魔法の光の玉を前に解き放ち通路全体を明るくする。
向かいの扉までが鮮明に把握でき、隠れている者はいなさそうだ。
「あの扉まで行こう」
その途中、
「あ、あの扉の向こうにウェルキン校長がいる。でも他にも人がいる」
「どんな人が居るか分かる?」
「そこまではちょっと…」
まあそこまで分かれば十分だ。
「なら早く行こう、待たせてるかもしれない」
警戒するのをやめ扉へと近づく、ノックをする前に扉が開いた。
「やあ、急にごめんね。怖がらせてしまったかな?。とりあえず中に入りなさい」
ウェルキン校長に促されるまま部屋へと入る。
ドーム状の部屋には幾つもの扉が有り、円卓を囲むように強面の人達が座っている。
「ウェルキンの旦那」
「まってください、この子達に説明してからです」
よほど切羽詰っているのだろう。ウェルキン校長が僕たちを守るように男を抑制しなければ、男は”こんな小僧たちを頼るのか””まだガキじゃないか”そのような事を言ったのかもしれない。
そうなれば僕に敵対心や疑心をうませ、僕との交渉がはかどらなくなる…そんな意図が見え隠れする。
見たところ、ここに集められたのは商人だ。しかし、ただの商人じゃない。一商会を束ねるトップ。
それが一様にしてこの場にいるのだ。
「セレクト君、まずは私の話を聞いてくれるかい?その後の返答次第でこのまま帰ってもらっても構わないから」
「はい、ここまで来た理由は話を聞くためですし。なによりウェルキン校長に恩を売れるチャンスなんで」
ウェルキン校長は苦笑いを浮かべ、説明をはじめる。
「この集会の目的から話しましょうか。ここに集まった彼等は商会を束ねる長です。多くの方は商会の奥に引っ込んでコソコソと策略をねる事を生業としています。大きな市場の混乱があると、このように集まっていただき対策を練っているしだいなのです」
「すると、何か乱れてるんですか?」
「はい、普段から多少なりとも乱れはありますが、そういう事は各々で対処しているのです。しかし、今回は少しとは言わず大きな混乱になると予想されていて、事前の回避策といった感じです」
こんなに対策を練れそうなメンツを集めておきながら、僕の知恵を借りたいというだけではなさそうだ。
「んー、すでに対策は出来ていて、後は実行をするって感じですかね?とりあえずはどういった混乱なのか説明が聞きたいですね」
僕の一言に商人達の眼光が突き刺さる、獲物を狙っているそんな目だ。
「はい…と言いたい所ですが。セレクト君、この頼みを聞き入れてくれますか?」
僕一人なら悩んでいたが、その手の話を聞いて喜ぶのが一名。マリーが後ろから受けろと僕を小突く。
「…はい」
「では、お話をしましょう。今現在の混乱は物価の過度の高騰です。おもに果物関係を始め、その他の食品関係に広まりを見せています」
話の内容は身に覚えがあるし、その直撃をくらったのは言うまでもなくマリー達だ。
物価の高騰、それこそ食品関係となれば暴動が起きるほどの驚異になりかねない。
「ただの物価の高騰なら問題はないのですが…意図して引き起こされたという情報を元に、どの商会が始めたのかもこちらで把握済みです」
「そこまで分かっていて差し押さえられない理由があるんですか?」
「はい、前回の月光祭にも同じような事案が発生し、差し押さえたのですが。情けない事に黒幕には逃げられてしまっていて…」
「で、今回は根こそぎ捕まえたいという事ですね」
「はい、相手は市場を操作し混乱させるのが狙いです、そのタイミングも祭りの終わりの日を狙っているはずですから。その前にこちらで知られないよう相手を撹乱させ、手薄になった所をと思っています」
「具体的に僕達は何をすれば?」
「相手を動揺させるような、イレギュラーになって欲しい。もちろんこちらでも根回しはします」
「食べ物を売る事しか出来ませんけど」
「十分です、むしろそれだけをお願いします」
深々とウェルキン校長が僕達に頭を下げる。その向こうには商人達の視線があり…
「ウェルキンの旦那の話はそれで終わりか?したら次は俺たちの番だ」
傭兵なのかと思うほどの筋肉と背丈がある商人が、円卓に身を乗り出し睨みつけてくる。
「その小僧が本当にそんな事ができるのか、まだ俺達は信用してねぇ。だからもちろん納得させられるんだろうな…ウェルキンの旦那」
二組みの商人を除いて8人の商人は僕達を疑う。その二組というのはセプタニア所属リリア商会の人とスペリアム教国の人だ。
「そうですね…あれを使えば簡単かもしれませんね」
ウェルキン校長は横にいる僕を見る。あれとはもしかして…
「これですか?」
僕の持つ携帯紅茶セットを取り出す。
「セレクトって普段からそんな物持ってるの?」
「いざって時のためにね」
ただ単に僕のマイブームなのだけど…
ウェルキン校長が言うのは創生の大樹の新芽を使った茶葉を振舞ってくれということだ。
「おいおい、そんなので俺たちの信頼を得ようなんて言うんじゃねぇだろうな?ちなみに俺は紅茶にはうるさいんだぜ」
このおっさん…意外とノリノリである。
「知っていますよ、だからこれを使うのです」
したり顔のウェルキン校長。
適温に温められたお湯が湯気を上げ。
開けた茶筒からは香りが充満する。
その香りだけでもおっさんはうっとりとしている。
ポットに注がれる水が茶葉を湿らせ、湯気と共により暖かい香りをかもし出す。この時点で半数以上が落ちている。
人数分のカップに紅茶を注ぎ一人一人の手元へと配られ、せっかくなので甘い携帯菓子のクッキーを円卓の中心に飾る。
「では、作戦の成功を願い。乾杯!」
ウェルキン校長が音頭をとってくれたが…あれ?
「すげぇ、香りを嗅いだだけで飲んだ気分になれちまう」
「これが極上の味…究極の美としても感じられる」
「おお」
「これは」
「なんとも…」
「こちらの菓子も紅茶によくなじむ…」
全員の強面だった顔が至福の時と昇天している。
「ウェルキン校長、これは…文字通り茶番ですね。いいですけど…」
「ごめん、ここに居る方々は私が開くお茶会のメンバーでもありまして。一度お話してしまったら、ぜひ味わいたいと脅迫を受けましまい。渋々です」
「言ってくれれば紅茶ぐらい何杯でもご馳走しますよ」
マリーは騙されたとむすっとしていて。緊張していたリザはどうしてこうなったという顔をしている。
だまされたとまでは思わないが、僕の緊張を返して欲しい。
紅茶を堪能しきったおっさん達は意気揚々と僕に作戦の細かい事まで教えてくれた。
「で、セレクトの坊主の方は売り散らかすわけだが…生半可な物じゃないんだろ?」
「はい、そこは大丈夫です。クレープを最初につぶしに来たのは、その存在が驚異になると思われたからですから。隠し球ならいくらでもあります。それにクレープのポテンシャルは甘さだけじゃありませんから」
「すげぇ自信だな。それだけ言い切れるんだから十分だ。任せたぜ…」
ランタンを手に取り商人たちは各々の出口に向かう。皆が皆違う出口に向かうのはここの存在がいかに極秘なのかという事…言わずもがな他言無用である。
皆が去る中一組のスペリアムの商人と思われる有翼人が近づいて来た。
「お目にかかれて光栄です。セレクト・ヴェント様、マリー・アトロット様、リザイヤ・ルドロ・リリアス様。私はスペリアム教国で果物を全般に扱うグルーニーと申します。以後お見知りおきを…」
深々とした挨拶に恐縮してしまう。
「…こちらこそ」
「あまりこのような事はお受けしませんが。教皇さま直々にあなた様方が困っていたらお助けするようにと言われています。何かお困りでしたらこちらの羽をもちまして、商会の窓口をお叩きください」
「…ありがとうございます」
滅多に用事はなさそうだが、短期的な仕事を探したい時に役立ちそうなので貰っておくことにしよう。
羽を受け取ると彼らもまた、別の出口へと消えていった。
「私達も急ぎましょう、本番はこれからです」
来た道とは別に、僕達はウェルキン校長の後に続き地下通路の出口へと向かう。
作戦内容を頭の中で整理し行動する。
まずはクレープ屋の改造。
「マリー、すぐに屋台を持ってきて」
すでに場所は設定されている。
そこは人気が少なく広い場所…人を集めるのは商会が大々的に宣伝をしてくれる事で問題は無い。
次に材料…これなんかも商会がかき集めてくれるとか。
「屋台の改造はこれぐらいかな」
甘味の無いサラダクレープだけでは危険度として低いので、焼き物もできるようにサイドオプションを取り付けた。
そこにちょうどよく、頼んでおいた材料が届く。
「リザはクレープ担当ね、マリーは列を作らせて時々会計をお願い。僕もなるべく会計しながら作るから」
順序よく始めると、数分後にはどこからか人の波が押し寄せた。
マリーも後ずさる数に、商会の宣伝効果がいかに発揮されたのか気になる。
「わわわ、私だけではもたんぞ!」
「なんとかしろ!!会計は僕がやるから!」
「クレープが追いつかないよー」
泣き言を言っても遅い。
商会から誰かを借りてくればよかったと思うが。どこに裏切り者がいるかはわからない。
ハーベス達を頼るのも危険にさらすことになる、何よりも他言無用の話だ。
列の中には時折、いちゃもんをつけてくる人物がちらほらいる。
分かっていた事だが妨害行為だろう…そういう輩はマリーが素早く黙らせる。
夕日が沈みかけるとそんな人だかりも、だんだんと縮小していく。
「人が居なくなったな…」
「たしか、もうそろそろ観兵式が行われるかも」
「そっちに人が行ったのか」
問題は無い…むしろ好都合だ。
「見に行きたいな…ナターシャ様のコーラスとかすごいのに」
「我慢しよう、それにもうそろそろ」
人気が無くなり、辺りも暗くなっている。
「来ないな…」
「もしかしたら今日は来ないかもね…」
そんな闇の中から…ひときわ大きい人影が…
「き、貴様がくるとはな…」
現れた相手にマリーは唸る。
ぎらついた目、口から除く歯は爬虫類に近く…体格は2mはあるだろう。
「ボイル!!」
「ああ?ってマリーじゃねえか。こんな所で何してやがる。てか俺様はここに美味いものがあると聞いて来ただけなんだがな」
以前一度だけ見覚えがあった。たしか、剣術科を覗いた時にマリーと対峙していたような。
「あ、そこの兄ちゃん。クレープとかいうの作ってくれねぇかな」
「貴様に売るものは無い。帰れ!」
あいだに入ったマリーが叫ぶ。
「ああん?喧嘩売ってんのかこら……って時間が無いわ、今日は使いなんだ。お前とじゃれあってる暇が無い」
「嘘だな、お前が使い?そんな器用な事ができるか!」
流石にボイルは怒りを覚えたのだろう。
纏う魔力にそれが現れている。
「マリーそのへんにしておけ、本当に買い物に来ただけだろ。それより本命が来るぞ………」
暗闇の中から続々と人が湧いてくる、ただそれらは客なんかではなくて…殺気に満ちた面持ちでゴロツキの格好をしている。
「あ?なんだこいつら?マリー、お前らは何か知ってんのか?」
「お前には関係ない事だ、ケガをしたくなかったら離れていろ」
「いや、それはマリーもだよ」
木陰には商会が集めた傭兵が潜んでいて、互いに敵対する。
目の前で交戦が始まる勢いで敵のチンピラ共が駆け出す。
「こちとらこれでおまんまくってんだよ!じゃますんなや!!」
集まっていた傭兵と交戦が始まる…と思ったが始まらない。
ゴロツキ共は脇目もふらずにこちらをめがけて襲撃してきた。当の傭兵も動かないで見送るのみ…
「おい!なんで攻撃しない!!」
「俺達はノータッチ、お前たちのお守りもしないが敵対もしない。強いて言うならあちらさんの方が羽振りがよかったんだぜ」
先頭でマリーが防戦を強いられ。
「ボイル!たまには助けろ!」
「やってるよ…うらぁあああ!!!」
豪腕がいっぺんに数人のゴロツキを吹き飛ばす。
そんな光景に…
「え?え?」
「リザはここにいて…」
「どうしたの!?」
「校長がハメられてたのか…傭兵達が最初から買収されてた。多分あの集会のメンバーの中に裏切り者が居たんじゃないかな?どちらにしろウェルキンさん達もやばいだろ…にしてもこの数は」
2対多勢。分が悪すぎる…僕が加勢しても3に増えるだけだが。
勝機はある。
屋台全体を結界障壁で囲いリザの安全を確保。
「セレクト!私も戦う!」
「無理だよ、大人しくそこにいて………」
大量のゴロツキの中。
マリーは隙間をぬい電光石火に走りぬけ、次々とゴロツキを倒している。
ボイルも先ほどの怒りをぶつけるように豪快に周囲をなぎ倒す。
「マリー、いいもん投げるぞ!」
加勢に入った僕は錬金で精製していた木刀をマリーに投げる。
「これで5倍早く殲滅出来る…」
「ほら、くるよ」
僕にもゴロツキが襲いかかってくるが、遅すぎる。
前方に三人ほど居たが、掌打をいれ吹き飛ばす。
「衝撃波を生み出す魔法はどんな感じかな?」
ゴロツキは悶絶し、息も絶え絶えな状態で痙攣していた。
「そうだ電撃の魔法を試そうかな、AED魔法版を作るのに微調整が必要だったし…」
諦めず無謀にも襲いかかってくる敵に対して死なない程度に感電させてみる。
倒すたびに電撃の威力をあげて…
「あ、やべ。心臓とまってるわ」
蘇生もする。
「はぁはぁ…少し疲れてきたな」
「こんなもんかよ?俺様はまだまだ行けるぜ」
「少し…と、言っただろ」
マリー達の残る体力まだありそうだが、際限なく湧いてくる敵にあとどれくらい持つだろうか。
それにしてもおかしい…まるで、この街に巣くうゴロツキが一斉に集まっている。
それに現れる数もこちらの体力を削ぐように決められているようで…
「何のつもりですかね?」
ゴロツキ共に混ざって先程の傭兵が剣を向けている。
「なにって、お前たちを捕らえたら報酬が2倍だそうだからな」
「再雇用ですか…」
少し手練が増えたからといって、慌てるわけじゃない。
僕は魔法を使い体力を温存しているしマリー達も頑張れている。それよりも、これらの指示を出している奴が潜んでいることが問題だ。
周りを見渡してみるが、そのような影は見当たらない。
「おいおい、よそ見とか余裕ぶっこきすぎだろ坊主。俺は現役でお前らは学生、これの意味がわかるか?」
「でも、だいぶ苦戦してるようですが」
「無駄口叩いてないで行くぜ!!」
叩いてたのはそっちだろと言いかけ、
「貴様の相手はこの私だ!!!」
マリーが飛ぶように割り込んできた。
きっと裏切られたことの腹いせと、この中でも強い奴と認識したからに違いない。
「うおっと、こりゃすげー気迫だ」
「セレクトは手出しをするな。私一人でやる!」
好きにしてくれと思う。
とりあえずはマリーのおかげで周りの詮索が出来る。
屋台の結界を壊そうと何人かがやっきになってるが、あんなものではビクともしない。
一方ではボイルという輩もたいしたもので、傭兵相手にも臆せず素手で相手をしていた。
「嬢ちゃんつえーな!」
マリーの一撃を食らった傭兵は剣で防いだものの、後方へと押される。
「セレクトに教えてもらったからな、負けるわけがない」
「…あの坊主の事だよな。化物ぞろいかよ…ちなみにこういうのどうかな?」
素早く空中に描かれる魔法陣。
「”マグニは蒼炎をまとい、焼きはらえ”」
マリーの目の前に青い炎の玉が複数飛ぶ。
だが、その程度。避けられない事は無い。
「その程度の弾幕、よけられないとでも思ったか?」
不敵に笑う傭兵。マリーは体が勝手に動いたように高く飛ぶ。
背後から折り返してきた青い火の玉が、飛び上がったマリーの足をかすめ、傭兵の前で掻き消える。
「直感でよけやがったか、すげーすげー。でもなぁ、上はまずいぜ」
傭兵はもう一度魔法を描く、マリーにはそれがまるでゆっくりに見えていた。
「”マグニは豪炎を持ちて矢を放つ”」
何の容赦もない炎の矢が放たれ、空中にいるマリーごと空を照らす。
「燃えすぎたか、灰ぐらい残ってないと言い訳出来ねえな」
「そうだな、学生に負けたとか言い訳は出来ないよな」
少し衣服を焦がしたマリーが傭兵のすぐ後ろに居た。
「おいおい、どうやって防ぎやがった」
「そんなものは簡単だ”はっ!”と、やっただけだ」
「…意味分かんねぇ」
次にはマリーが傭兵の後頭部を強打する音が聞こえ、虚しく倒れる。
何故マリーが傭兵の後方にいたのか。それは避けることも出来ない空中で、放たれた炎の矢を木刀で受け止める。さらに渾身の魔力を木刀に溜め…魔力の限界量を超えた木刀は爆散。その威力により魔力に満ちた炎は空中に大きく散った。それが豪快にもマリーに当たったかのように見せたのだろう。
空中でぶつかり合う魔力の波動でさらには大きく跳ね上げらたマリーは、後に予想したかの様に傭兵の真後ろに着地、最後に拳打を入れたのだ。
僕はマリーの初めての実戦的な魔法戦を眺めていた、魔法をくらった瞬間はソワソワしていたが逆転されずになんとか手練の傭兵を倒した。
にしても無茶な戦い方をする。あれじゃあ魔力がいくらあっても足りないだろうし、今も片膝をついて倒れてしまいそうだ。
「マリー、無茶するな」
「すまん木刀が壊れた、少し力みすぎてしまった」
「何だ貴様ら休みやがって。まだ終わってないぞ、ごら」
と、ボイルが近づいて来たがこちらもボロボロだ。
「貴様もだいぶやったようだな」
「ああ、お前が一人を相手にしている最中に俺は5人の傭兵をやっていたからな」
「とりあえずお前達は休憩してなさい」
小さい障壁結界をマリーとボイルの周りに展開する。
「おい、なんだこれは…」
「疲れてるんだろ?二人共ちゃんと休んでろ。後は僕がやる…」
ゴロツキ共は倒れ…傭兵ももう立っている者はいない。
しかし、気配は増える。
暗闇の中、フードをかぶった黒い影…
「ずるいぞセレクト!なんだあれは!!」
「闇市の人間と関わってたのかよ…めんどくせぇ」
「マリー、本当の魔法の使い方を見せてあげるよ」
散々集まるゴロツキと、倒れる傭兵、マリー達が披露しきった事で劣勢に見えたのか、姿を現した黒い影。
どうしても僕達を捕まえたいという意思がそこにある。
たぶんだが、ウェルキン校長の方は十中八九、空振りだ。
だからこれだけの戦力がこちらに集まっていると言える…
「ゴロツキホイホイって言ったところかな?」
最初から障壁結界を使っていれば、誰かしら助けに来るまで待っていられたし。
広範囲呪文で、ゴロツキ共を瞬時に無効化も出来た。
しかし、そんな事はしない…障壁を張り逃げたとしても。絶対的な力を見せて表面だけ倒しても。僕達はこいつらに狙われ続ける羽目になる。
ならば…
「互の戦力を削り、あともう少しと思わせれば…手を伸ばしたくなるよな」
大手を広げ魔法を完成させる。
それは広場を埋め尽くす程の障壁結界となり、何人たりとも逃がさない。
愚かにも、その重大性に気づく者は居なかった。
「逆に、引き込まれるとも知らずにね!!」
周囲の小石が音を立てて弾ける。
マリー達に張った障壁結界は敵からの攻撃を防ぐための物ではなく、セレクト自身が放つ広範囲魔法の被害を受けないようにと張ったもの。
敵も手練ながら魔法を詠唱するが、
「遅いってば!!」
僕の前には無力。
マリーとボイルは眺めていた。
それは圧倒的な力、破壊の権化。
人為的に作り出された天変地異と行ってもいい。
「…ボイル、お前はこの中で立っていられる自信があるか?」
「…無理だろ。お前こそどうなんだ?」
やがて天変地異が収まると、周囲の結界も解かれる。一人だけ立っている影は…もちろんセレクトだ。
「ごめん、終わっちゃった」
「これがセレクトの本気か…狂っているな」
「にしても、どうするんだ?この人数は流石に縛りきれないぜ」
嵐の過ぎ去ったゴミのように、広場の一角に人の山ができている。
「そのへんは大丈夫。リザに頼んであるから」
「頼んである?」
リザとの打ち合わせで観兵式に居るであろうリネアさんに、能力を使い伝えておいてもらったのである。
そして、噂をすればゾロゾロと兵士の格好をした上級生が集まってきていた。
さらに空から声がする。
「セレクト様!」
どうやら心配してリネアさんとフィアが文字通り、飛んできてくれた。
「お怪我はしていませんか!」
「僕は大丈夫です。それより後ろの二人をお願いします」
マリーは疲れているだけだったが、ボイルはボロボロである。
そこにリザも到着して、
「セレクト、無茶しすぎ!病み上がりなんだよ!」
「それは、最初に言うべきじゃないかな…」
「セレクト君も無事だったようだね!」
駆けつけてきたウェルキン校長も息を荒げ、いつもの余裕はなさそうだ。
「それより、集会の中に裏切り者がいみたいですね」
「ああ、そうなんだ。でも、彼もまた人質を取られていて…」
「人質の方は大丈夫だったんですか?」
「なんとか救い出せたよ。そのせいでこちらに来るのが遅れてしまいましたが…」
情けない表情を浮かべるウェルキン校長を見ると、それ以上は責められない。
「そうですか。じゃあ急ぎましょう、まだ間に合うかもしれません」
何の事だと皆が疑問を浮かべる…
「黒幕を捕まえるんですよ」
縛り上げられていくゴロツキと傭兵。
その中の黒い衣装を身に纏った闇市の人間を尋問する。
まあ尋問と言っても、一言”黒幕は誰で、今はどこにいる”それだけですべてが解決した。
「場所は北地区の貴族街だそうで、そこのセルゲイリッヒって方に匿われてるそうです」
「嫌味が上手いあの小太りか」
なぜかハーベスが立ち聞きし口をはさむ…
「知ってるのか?」
「成金も成金。学生も金で侍らせたりする外道だ」
ベルモットもいつの間にか居る。
なんで誰も止めないのかはさておき。
後は校長達の仕事で、僕達の出番はこれで終わり。
無事、黒幕もその日に捕まえられて。ボイルにも報酬にと大量のクレープを持たせ、丸く収まった。
ちなみに僕達があんなにも狙われた理由は一つ、創生の大樹の新芽を使った紅茶が原因だったらしい。
これで、とりあえずは明日からはまた。
クリアな祭りが楽しめそうだ。
「ふふ、いっぱい撮れたわ…これで今年の裏MVPは私の物よ!」
不敵な笑みを浮かべた栗色の髪の少女…
「キャ!!」
どん、と路地裏で誰かぶつかる。
「ちょ、ぶつかったんだから謝りなさいよ!ってちょっと待ちなさいよー!!」
ぶつかった相手が誰かも分からず…
「あれ…あれ!?ない!!今のやつもしかしてスり!?ってまあいいか。お金じゃないし」
この少女は知らない。この後に起きる騒動がどのように自分の身に降りかかるのか…
それ以上にセレクトは知らない…あんな事に巻き込まれるなんて………
次もバトルかな~新キャラでるかな~
見通してみましたがまだ誤字脱字が多分…いや、絶対あります。
文章とかも疑問に思ったらバンバンお知らせください。