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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第4章――
31/59

31話 勇気の翼

 入院生活は初めてだったが、2日目には退屈で仕方がない。

 ハーベスが資料を持ってきてくれれば多少なりとも暇はつぶせるが、彼が来るのは午後である。

 なんとか付き添い有りで多少出歩くことが許されたが、それも施設の中だけだった。

 特別な事はないと分かってはいても、なんとなく気分転換にと廊下を歩く。隣には午前中だけ付き添ってくれるフィアがいた。

「今日もいい天気ですね、昼食は中庭で取りましょうか」

「あ、いいね…でも午後から雨降るかもね」

「?」

「空気が少し湿っぽいし、南の空もちらほら雲があった。風向きも考慮すると降る確率は極めて高いはずだよ」

 親切心で言ってしまったが、大抵の人間には鼻で笑われる。こんなに晴れてて降るわけがないと。

「そうなのですか。ではリネア様達にも事を伝えておかないと…すこし使いの者を出したいので下の階に行きましょう」

 だが今の彼女は疑う事はせず、素直に僕の助言を聞き入れてくれた。

 1階へと降りた僕はフィアの用事を待った後、適当に散歩を続ける。

 患者の人達は僕よりもほんの少し年上の上級生に当たる人達が多い。

 彼らの傷は骨折が目立つ。

 そういえば上級生に上がれば実践的訓練で課外授業をするとか…

 課外授業とはこの魔法学園の外に広がるエリア。

 ”後悔の根城”への遠征を意味する。

 そこは数多くの魔物と頻繁に出没する魔獣がおりなす危険地帯…そこでひどいケガをした有翼人がここの患者というわけだ。

 そんな患者達の中、ふと目に止まる者が…

「あの子供達は?」

 有翼人の子供達が少し広い間で何やら遊んでいる。外傷はなさそうだが何かの病気だろうか…

 考え直すがやはり少し変に思える。医療分野ではスペリアムが一番発展しているはずなのに、なぜ外国に?

 見たところ魔法を学ぶにしては幼すぎるし…

「あの子達は…飛べない子達です」

 話を詳しく聞いてみると、有翼人の中でも翼はあるが原因不明で飛べない人が出てしまうらしい。

 ここに居る子達はその中でも高位の生まれで、表面上は治療と称してここに預けられているとか。

 この病状に見舞われた一般の人は翼を切り取り人として生きていく。もちろん偏見も大いにあると予測できる。

「島流し…臭いものに蓋か…可愛そうだね。もしかして親からもひどい目で見られてるんじゃない?」

 ドキリとしたのかフィアが少し固まる。

「…はい。慈愛を掲げるスペリアムでも彼らの待遇は酷いもので。高位になればなるほど露骨ですね。それで婚約や結婚の破談、家族が離散したなんて話はいくつもあります。きっとあそこで遊んでいる子達もいつの日か翼を切り、地上の人として生きて行く道しか…」

 重い…すごく重い話だ。フィアの目がだんだんと虚ろになっていく。ダメだ何とかしないと。

 僕は医者ではないが魔力に関係する治療ならあるいは…それに有翼人の翼に触れるチャンスかもしれない。

 有翼人の翼は誇りであり、飛べることが本当の自由の証とされている。そんじょそこらの人にいいですよと触らせる物ではないのだ。

「だめだめ…」

 若干の邪な気持ちを払い子供達がいる場所まで近づく。

「あ!あの人見たことがある!」

 その中の一人の子供から指をさされる

 え?僕?もうそんなに有名なの!?

 スペリアムでは隠れた英雄だが…そう隠れているので知っている人などいないはずだが。

「ほらリネア様のよくおそばにいる」

 フィアの事か…

 急に群がられたフィアはバランスを取るが、足の踏み場に困っている。

 僕はちょうどいいと思い、一人の少年の翼を後ろから見る。

 至って普通の翼だが人が飛ぶには小さい。航空力学的に考えると明らかに足りないのは明白だ。

「やっぱり魔力だよな」

 とりあえず見てみるが案の定、魔力の流れは僕でも解析不能の魔法で構成されている。ほぼ創生の大樹と同じだ。

「解析は今は無理だけど…比較できればどうだろう?」

 ここはスペリアムの有翼人御用達施設だ。医者から看護師、ほぼ有翼人。

 素材は揃っている。 

 僕が神妙な面持ちでフィアの開放を待ち、その後に中庭へと移動する。

「何をしてるんですか?」

「いやね…ちょっと実験でカメラをいじくってるんですよ。…よし、フィア後ろを向いてください。なるべく翼が見えるように」

「え…?」

「いいからいいから」

 写真を撮らせてもらい確認する。そこに写っているのはまるでレントゲン写真のように写る魔力の流れ。

「こんなふうになってるのか…とりあえず数を揃えないとな」

「あ…あのこれには」

「フィア、このカメラで施設内のあらゆる有翼人の翼を撮ってきてください」

 なぜそのような事をするのか分からないといった表情を浮かべるフィアに、真剣な眼差しで言う。

「お願いします。冗談でやってるわけじゃないんです」

「は…はい」

「じゃあ僕は部屋で待ってますからね。なるべく早くお願いします」

 彼女に任せた理由は簡単だ。僕だと十中八九変態扱いされる。だが、その点彼女は有翼人でリネアさんの側近という肩書きがある。

 適材適所というわけで僕は資料作りをする予定だ。

 

 病室に戻ってから1時間ほどでフィアが戻ってきた。

「これでいいですか…」

 彼女も何か感づいたらしい不安な顔をしている。

「うん、ありがとう」

 写真に目を通す…この中から魔力の流れを比較し、同じような模様を見つける。

 まあ有るかは分からないのだけれど…

 自信がなかったから彼女には話せない。下手に病気が治せると希望を持たせてしまうなんて僕には出来ないからだ。

「あの、もしかしてこれは…あの子達のために」

「研究の一環だよ…有翼人の翼がどうなっているのか知りたくてさ」

「………」

 気づかれてはいるようだ。

 とりあえず二つの写真を合わせ、似たような形を探してみる。が、数がある。だが統計学的には明らかに少ない資料だ。

 少なすぎるかな…と思った矢先。

「あ…似てるかも。こっちとこっちすごく似てるかも…あ!!」

 僕が声を荒げるとフィアが近寄ってくる。

「あの、この写真でこの模様と似た物を探してください」

 またしても彼女に手伝ってもらう。

「他にもまだあるかもしれない!」

 


「だいぶあったけど…まだ少ないかな」

 やはり足らなかった。

 いやしかし…フィアの顔を見ると…

 頑張るしかない。やってみるしかない。

 ダメ元でもやらないよりかはやったほうがいい。

 言い聞かせフィアに言う事にした。

「正直にいいます。治せるか治せないかで言ったら…確率は極めて低いです。取ってつけたような理論ですから」

「構いません。このままだといずれ、あの子達の翼は切り取られてしまうのですから…」

 

 

 子供たちの集まってる階へと僕は移動しながら、ふと窓の外に目をやれば雨が降っていた。

「午前中は大丈夫だと思ったんだけどな」

 何かを予期しているようで不安な雨だ…

 

 フィアは子供達の輪の中に入り適当な言い訳を言い、僕に翼を見せるように促す。

「ねぇねぇおまじないって何するの?お兄さんってあの人の彼氏?」

 怖い事は言わないでくれ。

 ただえさえ集中しなくてはならないのにフィアの視線が痛い…

 とりあえず目に魔力を集中して覗き込むようにじっくりと少年の翼を見る。

「うーん、欠損や奇形って訳でもなさそうだな」

 どうにか子供たちの翼を順に見比べて行き…


 全員の翼を見終えた。


「どうですか?」

「難しいね…」

「そうですか…しかたありません」

 僕は治してあげられないもどかしさで胸がいっぱいになる。

 諦めたと思ったフィアは僕の袖を強く握ってくる。

 もともと資料が足らなすぎた…それにこの方法が合っているとは限らない。

 やっぱり僕に医者の真似事は出来ない。根っからの科学者で発明家なのだと再認識する。

「少し心のどこかで僕には出来るとか思っちゃってたかもな。って…あれ?僕は科学者じゃないか?なんで医者の目線から見てるんだ!?おかしいだろ!」

「どうしました?」

「ごめん、フィア…やっぱり今の僕にはこの子達を治してあげられない…」

「………」

 僕の言った一言は彼女の希望を崩してしまうかもしれないが、

「でも、作ってはあげられる!!」

「!!」

 簡単な事で無ければ補う、ただそれだけの事。

 とりあえず軽く丈夫そうな木材を錬金で加工し羽の上にかぶさるように作る。

 そしてその上にこの翼で飛べるようにする魔法を描く。まあこれは僕の知識での力技みたいな物だが…

 出来上がった翼をみた少年の一言、

「かっけええ!!」

 満足の行く出来上がりに喜んでくれた。そんな少年に付けてして僕は言う。

「これで君も飛べるようになったはずだ!」

「え?」

 その場の時間が止まる。

 それもそのはず、なにせ彼らは僕達がしていた事を教えていないから、ただのおまじないでアクセサリーか何かだと思ったのだろう。

「魔力の使い方は習ってる?」

「え…あ…うん。でも…飛べるの僕?」

「じゃあ背中の羽に魔力を送ってみようか」

 最初は弱く魔力を込めるように言う。それはどれほど浮くかは未知数だから。

 少年は背中に魔力を少しずつ集めていく。

「あ…あ!…あああ!!!」

 何か確信できる物を掴んだのだろう、翼を羽ばたかせた瞬間、少年の体は浮き上がる。

「僕飛んでる!?飛んでる!!すっげええええ」

 その後は他の子たちの分も作る。中には飛ぶ事に怖がる子もいたが、自転車と同じでひとにぎりの勇気と一度でも感覚をつかめれば飛べるようになった。

「ふぅ、丸く収まってよかった。誰も泣かない結果になってよかったですね」

 後ろを振り向けば…

「うっうっ…うわあぁぁん」

 フィアが号泣していた。

「どどどどうしたんですかフィアさん」

「だって、この子達は皆飛ぶ事に憧れてでも諦めざるをえなくて…でも飛べたんです…今、これがどんな事か…もう私は…うわあぁぁぁん」

 フィアが泣き止んだのは、外の雨が止んでからだった。


「とまぁそんな事があったんだよ」

「君はさらりと史実に残るような事をまたしたのかい?だんだん慣れてきたよ僕は…ほら頼まれていた資料だよ」

「ごめんね、ありがと。これで午後も暇がつぶせる」

 これで次の魔晶石研究が出来る。

「休みなよ!!」

「ええー」

 ハーベスに注意されたのでやめておこう。適当な雑談をして交代の時間を迎えた。

 しかしこの後のカトレアは今日は来ない、リザに頼んで外してもらったのだ。

 代わりに時間の空いている人物が来るというのだが。 

 それが…


「………」

 沈黙が支配する。それは僕が知る心地よい静寂とは違う。

「………」

「…ちっ」

 時たま聞こえる舌打ちをする人物。それはベルモットである。

「ベルモットさん?どうこれ魔晶石」

「…寝ていろ」

 ハーベスと共に居れない怒りに満ちたベルモットは怖かった。

 この状況を打開する事が寝ることにあると理解したが、寝息の音にさえ彼女は舌打ちをするのだった。



 寝れたというには少し違う、緊張のあまり気を失ったのかもしれない。

 次に起きれたのは嗅覚を刺激された事による空腹でだった。

 目を開けてみればリザがスープを持ってきてくれていた。

「よかった。暖かいうちに食べて」

「お腹がすいてたんだ…ありがとう」

 もぐもぐと食べながらリザの今日の話を聞く。

 なんでもフィアが送った伝言を聞き、リザ達は雨宿りできそうなテントを貼り人を集めクレープを売ったらしい。あまりにも大盛況で何度も材料を買い足したとか…

「でね、フィアが戻ってきて話は聞いたよ。セレクトもすごかったんだって?」

「たいしたことないよ…一生懸命だれも泣かないよう努力はしたけど」

「やっぱりすごいな…でも、フィア、度々溜息を吐いてたよ?」

「ああ、そうなんだ…」

「ため息を、だよ?」

 何か重要なのか僕に二度確認してきた。

「うん…?」

 リザの意図がつかめない内に話題が変わる。

「でもその後ナターシャ様に怒られてたな。セレクトに無理をさせないようにって」

「無理じゃないよ。リハビリだよあんなの」

 雑談は続き夜も深くなる。あくびをするリザと、それに釣られるマリー…

「今日は大丈夫だよ、明日は退院だし。二人ともちゃんと休まないと僕の二の舞になるかもしれないよ」

 帰って寝るように促す。

 リザは拒否したが意外にもマリーが了承してくれた。引っ張られるようにリザが帰っていった。

「なんだか珍しいものを見た気がするな」

「なあセレクト」

 入口から首だけを出したマリーが、

「サンドイッチは好きだよな?」

「え?好きだけど」

「ならいい、確認しておきたかっただけだ」

 なんのことやら…

 


 そして退院の日を迎える。

 午後からは晴れての自由だ。とりあえず自分の寮に戻ってから次の行動を考えよう。

 一応フィアが僕のお手伝いに今日も来てくれた。

「それは私がやりますから座っていてください」

 使っていたベッドを多少なりとも綺麗にしようとしていたら止められ。

 手元が寂しく魔晶石を弄っていると。

「一応、昼食を用意してきたのですが…食べますか?」

「ああ…食べます。昨日は雨降ったり忙しかったりで中庭で食べれなかったですよね」

 昼食にはまだ早かったが僕達は食べることにした。

 

 ところ変わって中庭。

 フィアが作ってくれたのは、なんとサンドイッチだった。

「あれ?サンドイッチだ…」

 これは有名な食べ物ではない。むしろ僕とリザとマリーぐらいかしか知らないはず。

「はい、マリー様に聞いてセレクトさ…んが好きだと」

「マリーに聞いたのか」

 昨晩、去り際に残していった言葉が脳裏でつながる。

「しっかりと具材が挟んでて見た目も綺麗だし、美味しそうだ」

「あ、ありがとうございます!」

「いや、お礼を言うのは僕の方です。作っていただいてありがとうございます。では早速いただきます」

 食べようと口を開き、サンドイッチを半ばまで入れてからふと気がつく。

 このシュチュエーション…

 中庭…太陽が照りつけ、涼しい木陰の下。

 女性の手作りのお弁当…

「はうあ!!」

「あの…お口に合いませんでしたか?」

「え、いやすごく美味しんだけど…」

 誰かにこんな場所を見られたら…

「セセセ、セレクト!!」

「リザってか皆」

「何してるの!?」

 昼食を食べている…誰と?フィアと二人きり…並んで?まずい…非常にまずい。

「退院するからと皆で来てみればこれか」

「フィア、これはどういうことですか!?」

 た…助け舟をだれか。

「君ってやつは…研究の事以外はさっぱりだね」

「ふっ…」

 慌てるのは僕だけじゃない、フィアもやっと気がついたようで。

「え…あ…ち、違います!これはその!…いや!」

「へぶし!」

 ドンと僕は背中を押され横に倒れる…なんで。

「きゃああ」

 と、恥ずかしさのあまりフィアは何処かへ走って行ってしまった。

 一人にされた僕は一点に針のむしろ…

 幸いな事はカトレアがいなかった事ぐらいだろう。

 何とかごまかしつつ皆で昼食をそこで済ませる。

 途中でフィアも我に返って戻ってくれと、リネアさんに平謝りだった。 

書いているうちにフィア回になってしまった。こんなはずでは…

次の話はバトル入れるかな?

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