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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第3章――
26/59

26話 幸せな結末

 女神再来と称された少女…そんな少女の心は傷つき疲弊していたが、それ以上に大きな信仰心でもって支えられていた。

 しかし、その信仰心も疑心や不安、不満といった感情でボロボロになっている。

 少女は世界が止まれと願う。

 自身の傷が深くならないように…

 ただ気づいてしまその浅ましい願いに。

 とどまる事の無い現実は、時を刻み世界は動かす。

 顔を上げる度に広がる悲劇…きっとこれは罰なのだ。

 あの時、自分が学園へと逃げた罪なのだと悲観する。

 少女は思う、一時の希望も喜びも…すべてが自分への報いだと…そして絶望する。

 その為だけに短い間だが、最愛と呼べる友人を死に追いやったのも。全てが自分のせいだと、自身の心を傷つける。

 叫ぶ事も…泣く事も許されない…

 少女は力無く立ち上がる。

 傍らに座るもう一人の小柄の少女が疲れて寝てしまった。

 瞳に映る彼女が愛おしく…まだ自分には無くせない者がいると知る。

 虚空を見あげて擦れてしまった声を天へと捧げる、耳をいくら澄ましても聞こえてくるのは震え怯えている人たちの音…心の中で何かが折れてしまいそうになる。

 でも少女は歩き出す、もう無くしたくはなかったから。

 全てを終わらせるために…ささげよう最後の贄をと……

 

 

 沈黙していた魔獣が再度暴れだし街を破壊する。首都の防衛前線は混乱していた。

「おい、死んだんじゃなかったのか!」

 激昂する隊長だが答える者はいない。

「民衆の避難を最優先しろ!全員避難するまでこいつを市街地に何としても入れるな!!」

 兵士たちが作り出す魔法で何とか抑え込もうとするが。比較すると鼠とドラゴン……

「結界障壁で守られて魔法も剣も刃がたちません!」

 前線からやって来た伝令が言う。

「そうか、次は刃が通ってから連絡をよこせ!…………あれが俺たちの崇めてきた女神かよ……ふざけんな畜生!!」

 兵士たちの噂をでは巫女が召し上げられたが失敗したと流れ、あれは女神の化身だと噂が広まっている……目の前の怪物と相対するには常識など捨てなければならない……

 今度は後方から伝令がやって来た。

「隊長!上を見てください!!」

「ああん?この状況分かって言ってんだろうな!…ってまだ何かあるのかよ!?」

 空を見上げれば鳥が飛んでいる……遠くて見えないが……それはまるで伝説に出てくるかのような怪鳥だった…………





 地上が見えるにつれて、今しがた起きている惨状が確認できる。

「セレクト、あれはどういう事!?」

「いや、僕にも…たぶんあの寄生してた魔物が外に出たんだ!」

 地底湖が崩れたのも、封印ではなくあの魔物が暴れたからなのだと結論づけた。

「やはり、全部を断ち切らないと駄目だったか…」

 そんなマリーの反応を見るに切りつけた時に確信があったのかもしれない。

「こりゃいかん、ありゃ魔王の卵じゃ。今ならまだ間に合うはずじゃて」

 村長様が言った一言は気になるが。

 魔王、魔物や魔獣の最上位に君臨する災悪。

 ひとたび暴れだせば一つの国が半壊してしまう。

 よりにもよってここはスペリアムの首都スピアス。

 早いとこ手を打たないと大変な事になる。

「卵って…芋虫じゃないか」

「いや、このさい芋虫だろうが形は関係ないだろ。村長はどうするんです?」

「とりあえず身動きを取れんようにしようかの」

 村長様が操る怪鳥が狙いを定めてそのまま芋虫を鷲掴みにし地面へと押し付ける。

「おお、いい子じゃ。そのまま抑えとれ」

 村長様が呪文を唱えながら杖を頭上でくるくると回す。その間に僕たちは拘束してあるベルトを解き、地上に降りた。


「よっとっと…あれ?」

 僕は左足に慣れなくて足がもつれる。

 バランスを崩したが倒れはしない。

 それよりも降りた目の前に見慣れた人がうつろな瞳でこちらを見ている。

「あ、リネアさん。すみません心配かけちゃいましたよね。そうだ…」

 マリーに抱えられリザとミアちゃんも降りてきてきた。

「おねえちゃん!リネアおねえちゃんだ!!」

 ミアちゃんが喜びのあまり走って抱きつく。

 放心状態のリネアさんは何が起きているのか分からない様子だ。

 リネアさんはだんだんと状況を飲みこんでくると、枯れた声で泣き始め、いつしかミアを抱きしめていた。

 彼女の姿を見るに僕達が居なくなって、よほど心配をかけてしまったようだ。

「ミア……ミア……よかった皆無事で……うっう……」

 そんな感動の再開を見ていたいが、フィナーレにはまだ早い。

 頭上では村長様が呪文を唱え終わり、杖を魔王の卵に突き刺そうとしていた。

「む……こりゃいかんな」

「どうしました!!」

 僕はしたから声をかける。

「結界で突き刺さらん!!」

 確かに強固な結界が張られている。

 先ほどの兵隊たちもこの結界で苦戦をしていたのだろう。

 しかし、先ほどから兵隊は手を出さずに傍観している。

「結界を消せばいいんですね……強固な作りだけど単純だな。これなら」

 簡単に結界を解けた。

「ほぅ……お前さん中々やるのう。ほれ!」

 すかさず村長様はズブリと杖を魔王の卵に突き刺す。

 怪鳥が飛び上がり、村長もこちらに急いで降りてきた。

 何も起きずにしばらく間が空いてから、地響きとともに煙が舞いその中から何かが飛び出す。

 それは大小様々な木の根。

 それらが魔王の卵に絡みつく。

 どうやらあの杖は創生の大樹の力を誘導させる役割があるみたいだ。

 見る見るうちに木の根が魔王の卵を覆い尽くす。

 ギチギチと閉める音と断末魔の唸り。

 圧縮し続けた最後にはピシリ割れる音がし、木の根の隙間から魔力が放出される。

 空気中に噴き出た魔力はエーテルへと戻る時の発光現象でキラキラと光の粒子を作っていた。

 召喚された木の根は拘束を解きシュルシュルと地中に戻っていく。

 残された魔王の卵は綺麗な青い水晶…特大の魔晶石の塊へと姿を変えていた。

 呆気にとられていた兵隊達だが、次の瞬間には地を揺らすほどの喝采を巻き起こす。

「ほっほっほ…無事倒せてよかったの。あと少し到着が遅れておったら一大事だったわい」

 無事と言うにはだいぶ街並みは崩れてしまっている気がする。

 喝采は僕達へとおくられ続け、その中の一人の兵士がこちらに走って来て敬礼する。

「どなたか存じませんが。ご協力感謝します!名前を伺ってもよろしいでしょうか!」

「お前さん、自分の名前も名乗らんで、わしらの名を聞くか?」

「失礼しました!私めは第3防衛隊を任されています隊長のカラーズと申します!」

「わしは村長じゃ」

「は…?」

 聞き返すのも無理は無い。

「あの、その人自分の名前を思い出せないようで。村長って呼んでくださいってことです。ちなみに僕はセレクト・ヴェントです」

「失礼しました!村長殿とセレクト殿ですね、そちらの貴女方の名も伺ってもよろしいでしょうか!」

 隊長のカラーズは律儀にこの場に居る全員の名前を聞いてまわる。

 その後に伝令を走らせる。そしてカラーズは言う。

「すみませんが私共と一緒に来てください!」

 赴くままについて行く。

 後ろを見るとマリー達がリネアさんと再会出来た事を喜び合っていた。


 日が沈みかけたころに隊長のカラードが向かう先……神殿へとたどり着いた。

 中に入ると奥の間へとそのまま通される。

 そこには円卓囲むようにして椅子に座る初老の方々……僕達に目を向けられる。

 そんな中には見覚えのある顔も居る。

 リネアさんの父グレイルさん、それとフレイン司祭。

「リネア!それと君たちと………ミア」

 がたりと椅子から立ち上がったグレイルさんは言うや否や力無くまた座り込んでしまう。顔を覆う手の隙間から笑みがこぼれ肩で泣いている。

 反対側の席の男が立ち上がり今度は僕に指をさし、

「そいつだ、そいつらが賊だ!儀式を邪魔し、女神リアム・アレムを不完全な状態で顕現させたのは!!」

 罵声を浴びせられた。

 周りがざわつく中マリーはぎろりと殺気を送ると、その男はたじろぐ。

「見てみろあの目を!賊以外の何者でもないじゃないか!」

 余計な事はしないでほしいと思うが、そんな事はこれから言う真実で何時でも覆せると僕は平然を装う。

「静まりなさい!」

 僕の真正面に座る純白の羽衣に身を包んだ初老の女性が言う、するとすぐに周りは静まる。

「あなたに問います。あの怪物はあなたが解き放ったのですか?」

 解き放ったかと聞かれたら…たぶんそうだ。

 今この場において下手な言い訳や嘘は得策じゃないと思い正直に答える。

「……はい」

「やはりそうではないか!だとすればこれは自作自演!英雄にでも憧れ蛮行におよんだのだろう!!判決を!」

「黙りなさい!判決などいつでもできます。それよりまず彼の言い分をしっかりと聞くのも重要です」

 ほれ見た事かと騒がしくなるが、その老女はやさしく僕に問う……

「何故そのような事を?」

「それを話すにはとても暗く長く悲しい話をしなくてはなりません。ではまず最初に何から話しましょうか…」


 事のあらすじから、真実まで……この場に居る者が聞くにつれてどんより疲れた顔になる。


「それは何とも判断し難い話ですね……」

「ちょっと、お待ちください!賊の言う事を信じるのですか教皇様!」

「ですがこの者は私たちの過ちを知っていました。それに私には分かります。誰よりも真実を語っていると」

「しかしながら納得しがたい問題です!我々が……この場の全員が取り返しのつかない大罪を犯した事になるのですぞ!!」

 否定派と肯定派に今別れて議論がされる……この採決で僕たちの処遇が決まってしまう。

「エルフの長様を見てもあなたは真実を見ようとしないのですか!」

 すると他の席から罵声が飛ぶ、

「エルフなんぞ創生の大樹の上でふんぞり返っているだけではないか!信じるにあたいせん!」

 眉をぴくりと動かした村長様はつまらなくなったのか、話に割り込んできた。

「はぁ、本当に下界の者は血の気が多いのぅ…こうなったら面倒じゃ。女神様に来てもらうのが早いかのぅ」

 村長がめんどくさそうに杖を振りぶつぶつと呪文を唱える。

 詠唱が終わると円卓の中央に向けて杖を投げる。しばらく間をおいてから杖が光りだし、女神が呼び出される。

「あらあら、セレクト様。だいぶ早くお会いできましたね。すべて聞いておりましたよ」

 その場に居たセレクト達を除く全員が瞬時に椅子から床に跪く。

「この方が語った事はすべて真実です。ですけど信じるかはあなた達しだい。過ちを繰り返し偽りを語るのもいいでしょう、皆が皆、自由なのですから。ですが、それでこの方たちの自由を奪うのであれば、私は全力を持って守らなければならないでしょう」

 女神自ら対立する覚悟があるといわれた様なもの。そして彼らにとっては自らの神へ刃を向ける大罪。聖職者である者においては絶対的にあってはならない事。

「言葉を発する事をお許しくいただけますでしょうか」

 先程の反対派の男が顔を上げずにいう。

「いいでしょう」

「すべてが真実であるなら……私たちはどう罪を償えばいいのでしょう……」

 その質問に答える前に女神はその場で回る…目と目が合った者達は下を向いて動揺している。

 一通り見回した後。

「私には分かりません……ですが一緒に考える事は出来ます。だから生きなさい。何もかもを無駄にしないために。そうすればおのずと答えは見えてくるでしょう」

「「「はは!!」」」

 下を向いたまま合図もしていないのに。全員が声を合わせた。

「また、迷う事があれば祈りなさい。私は何処でもあなた方の声を聞いていますから」

「リアム・レアル様!私に懺悔させていただけないでしょうか!」

 リネアさんは女神様に祈る形で懇願し。

 女神様は微笑んで頷く。

「私はほんのわずかな間でも貴女様を疑い冒涜してしまいました。どうかお許しいただけないでしょうか」

「……あなたが疑ってしまったのは私の責任……私の罪です。謝らなければいけないのは私の方ですね。本当にすまない事をしました。ごめんなさい」

 それだけ聞くとリネアさんは何も言わなくなり、ただただ涙を流す。何かを言えば謝罪をした女神の尊厳を汚してしまうと知っているから……

 女神は教皇に向き直り。

「手荒な真似をしてしまいましたね……」

「いえ、私たちは女神様のお姿を聖書の中だけでしかお目した事が無く。長い年月の中で忠誠心と信仰心は濁り、過ちの罪から目をそむける事で、汚職に溺れる者さえも裁けずにいました。ですがその御身をこの眼で映す事で私もおろか、此処に居る者達も考え直す事が出来そうです」

「そうですか。ではこの都が元の形へと戻った時に私はまた来ます。その時はエルフの子らも含めて祝いましょう」

「はい」

「それでは私は帰ります。後の事は頼みましたよ」

 最後に誰に頼んだか分からないが杖が光を失い女神リアム・レアムは消えた。

「採決を取る必要ありませんね……この者達は何も罪を犯してなどいないのだから」

 周りを見渡したが異議を唱える者は誰一人いない。

「では、復興と民たちに伝える事と……この者達にどのような勲章を与えるべきなのか相談をしましょう」

 それでも異議を唱える者はいない。

 僕たちはこの時点で帰る事が許され。

 神殿の外に出るとフィアさんがそわそわと中を覗こうとしていた。

 近くへ行き声をかけると、散々泣きはらしたであろう顔にまた涙を浮かべてリネアさんとミアちゃんに抱き着いている。

 既に用意されていた馬車でクローチェス邸へと僕たちは送られた。


 馬車の中、目の前ではリネアさんの膝の上に頭を乗せたミアちゃんが眠っている。そんなミアちゃんの髪をやさしくなでるリネアさん。それを隣でフィアさんがやさしく見守る。

 僕ら側の席には村長様、僕、リザ、マリーの順で座り、リザは僕の肩に頭を乗せ眠っている。

 村長様が何故此処に居るのか、それは日が沈み辺りが暗くなってしまい怪鳥で飛ぶには危険だと判断した結果、一泊だけリネアさんの家に僕達と泊まる事になった。

「これでよかったんだよな…」

 ぼんやりとする頭で僕はつぶやくと、マリーが答えてくれた。

「充分だ。セレクトはミアを本当の意味で救ったんだ。そうだろ?もし私があそこで無理やり棺からミアを救い出してしまっていたら、女神をたすけられなかったどころか、魔獣は遅かれ早かれ魔王になりスピアス…いやスペリアムを破壊していた。それに助け出したミアもお尋ね者になっていたかもしれない…これ以上の終わり方がどこにある?」

 だが、その間にどれだけの人が悲しみにくれただろうか…スピアスだって…

「私たちは十分助けられましたし、死者や怪我人も出ていません」

 目の前のリネアさんも励ましてくれる

「だからセレクト様は悲しまないでください」

 そしてフィアさんも言葉で慰めてくれるが……様?

「過程を否定すると言う事は、今目の前に居るこの者達も否定する事になるぞい。胸を張れ若いのよ」

 終わりよければそれでいいと言う言葉があった事を思い出す。

 窓の外を眺めると景色が止まる。どうやら着いたようだ。

 リザをやさしく起こし、ミアちゃんはマリーがお姫様抱っこをして邸宅へと入れる。

 使用人の人たちが急いで食事の用意をしてくれたが、皆がそうとう疲れていたので各自でとらせてもらう事に…そして、僕は風呂の中でうとうとと眠りそうになりながらも用意された部屋へと戻り……爆睡した。

 




 寝るのが早すぎたのか朝日が昇り切る前に起きてしまう。

 誰にも邪魔される事の無い時間、僕はノートにベイブローブでの出来事をしたためる。

「これで……よし」

 ノートへ大体の出来事や、それらに使われていた魔法関係を書き終える。

 外から鳥のさえずりと、マリーの朝のトレーニングの声が聞こえてきた。

「僕も体を動かすかな……」

 普段着に着替えてから部屋を出る、廊下を進むと使用人の人たちはせっせと朝食の準備やらに追われていた。

 それを横目に僕は玄関を出る。マリーが居る庭に移動し彼女へ攻撃を仕掛けた。

「せい!」

 後方からの攻撃を華麗に避けられる。

「セレクトか…来い!」

 言われなくても攻撃は続けるつもりだ。

 互いに素手の戦い、はたから見たら本気の戦闘をしているように見えるかもしれないが。急所には寸止め出来る状態で戦っている。

「足の調子はどうだ」

「こんなんでハンデになるとでも?」

 さらに速度が上がる。

 マリーの限界を見極めようとぐんぐんと速度を上げてみるがついてくる。

「すごいな!こんな短期間でここまでついてこれるようになるなんて」

「話しかけるな…」

 魔法でかなり強化を施している状態で、僕も本気に近い。しかし、

「…………もう、だめだ!」

 マリーはよろめき、そのまま後ろに転がった。

「はぁ……はぁ……はぁ、早すぎてついて行けない」

「そうか?充分だろ。後は持久力と慣れかな……」

 僕も額の汗をぬぐい隣に倒れこむと、はるか頭上へと伸びる創生の大樹が映り込む。

 それを見たマリーがつぶやくように言う。

「……私たちはあの上まで行ったのだな…セレクトとだったら何処にでも行けそうだ……」

「マリーだったら何処にでも行けるよ、自分で限界を決めなければさ……それに、僕も直ぐに追い抜かれそうだし」

「まだまだじゃないか……お前には魔法がある。それを使われたら私なんて数手で詰むぞ」

「僕が本気でマリーに魔法をぶつけるなんてしないし……それって違う気がする。強いとか強くないとかさ」

 素手で最強の暗殺者とスナイパーライフルを持った狙撃主が戦うようなものだ……互いに用途が違う。

「それにマリーは魔法を使って対抗とか考えてそうだけど。そういう事はしなくていいから。避ける事を優先しな」

「そうだ!」

 僕の言葉を無視して叫んだかと思えば、急にマリーが僕に覆いかぶさる。

「な、何!?」

 にんまりと笑った後マリーは言う、

「あの時の剣を作ってくれ!」

「剣?刀か」

「刀と言うのかあの剣は。すごかったぞ、手にした瞬間震えが止まらなかった!お願いだ」

 お願いと言われても…あんなに殺傷能力が高い物をやすやすと渡すわけにはいかない……

「次の秋には私たちは上級生になる、そうすると剣術科や特定の魔法科の生徒には実習訓練があるんだ」

 それは学園の郊外で教師や他の上級生と共に隊を組み魔獣を討伐するいう過酷なもの……命の保証など誰もしてくれない。

「そうだなぁ……学園に帰ったら……作ってあげるよ……」

 だからとりあえずどいてほしい……色々と近い。

「本当か!」

 近い近い近い!

 マリーは僕から飛び退くと吼えた。

「うおっしゃぁぁああ!!」

「もう、二人とも朝から何やってるの!見ててひやひやした」

 リザが邸宅から出てきていた。

「もうすぐ朝ごはんだから行きましょう」

「飯か!」

 マリーはテンションのたかいままに邸宅へと戻っていく。

 よっこらせと僕も立ち上がる。

「ねぇマリーと何話してたの?」

「武器を作ってくれってさ」

「…大丈夫なのそれ?」

「まぁ交換条件はだすよ。人に向けて使わないとかさ」

「うーん、大丈夫かな?」

 それはまだ分からない。だけど僕はマリーに作ってやると決めた。マリーの心が折れないようにしっかりとしたとびっきりの刀を。

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