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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第3章――
25/59

25話 女神の再生

 セレクト達が行方不明になってから一日が過ぎ、それから起こった出来事も一部を除いて収束しつつあった。

 それはセレクト達が屋敷から居なくなったと気が付いた午後の事…スピアス近郊の森から巨大な芋虫のような魔獣が現れ首都へ進行、結界を破壊し一部の建物を損害した後に沈黙。一時的な避難勧告がだされリネア達も緊急的に避難した…普段スペリアム国内で魔獣が出現するような事は無い。話によれば既に致命的な傷を負って弱っていたらしいとか。

 フィアの中では一連の流れが偶然でないと予想していた。

 そんな時に創生の巫女が女神リアム・レアルに献上されたという事と、それが失敗に終わったと言う情報が同時に入って来た。

 その事を知ったリネアは泣き崩れてしまい。

 今は疲れて眠ってしまった。

 昨日まではあんなにも喜んでいたのにとフィアは思う。

 久しぶりに自分の隣で笑っていてくれるようになったと、思った矢先の出来事だった。

「あの方達は何処へ行ってしまわれたのでしょう……」

 自分には出来ない事をしたあの人。贈り物であんなにもリネアを喜ばせたあの人、希望で照らしてくれるあの人…

「早く戻ってきてリネア様を安心させてください……セレクト様」

 ぽつりとフィアは最後に彼の名前をつぶやいた。

 



 僕たちが目覚めたのは森の中…目に映る空が黒い事から寝ぼけ眼に夜だと思う。

 しかし、おかしな事に昼間の如く周りは鮮明に見える。

 まだ夢を見ているのではないかと体を起こすが、とんでもない激痛で現実だと理解させられる。

 左足の出血は止まったものの腫れが酷く、靴を外すのに錬金術で劣化させる必要があった。

 船の中を見渡すと寝息を立ててみんなが寝ている。

「なんだ……僕が一番か。にしても……」

 出口が大樹の天辺だとは思わなかった……

 太陽が出ているのに空が黒い理由は、此処が地表から離れ30から50キロメートルの成層圏の中間程の高さだからだと考えればなんとなくだが理解できる。

 それにそれほどの高さを誇る自然物が創生の大樹しか浮かばない。

「む……朝か……」

 マリーが寝ぼけた顔で起き上がる。周りを確認してから空をみる。

「夜か?いや朝か?…夢か」

 そう言うとまた横になり寝ようとする。

「まてまて、朝だ!起きろ」

「何がだ…空が黒いのに朝なんて…夢以外考えられないじゃないか!」

「いや、ここ何処だと思う?」

「さぁな、私の夢だろ…さっきまで酷い夢を見たんだ。だから分かる」

「いいよ、そういうのは!ここは創生の大樹の上だよ!」

「だから……夢でも叩くぞセレクト!」

 こいつはもうと僕の前で手を仰ぐと、騒がしさにリザが起きる。

「あれ、セレクト。マリーおはよう……ここ何処?」


 再度同じ説明をする。


「私たちそんな所まで来ちゃったの!?」

 そうなんです、来ちゃったんです、夢じゃないんです…

 やっと現実を直視してもらえた事に胸を撫でる。

 ミアちゃんも起きて、きょとんと座って居る。

「とりあえずこの後はどうするか」

「此処にはエルフ族が住んでるんだよね?」

「ベイブローブっていう桃源郷だか理想郷があるんだったかな?」

 先日船の中で覚えた事を話す。

「そうだったな!よし、早速移動するぞ!」

「ちょっと待って……足が」

 僕の足は痛々しく赤く紫色に腫れ上がっている。

 実際に今も空気に触れ、脈打つ度に顔をしかめたくなるぐらい痛かった。

「そう…だったな」

 マリーとリザが泣きそうな程に心配してくれる。

「痛いのか?」

「うん、すごく痛い。ちょっとの振動で気絶しそうなほどにね」

 少しでも明るく答えて見せる。


 すぐに乗って来た船の一部を分解し、錬金術で保護具を作る。

「これで少しは振動が抑えれるはず…行こうか」

「なら私の背中に乗れ」

 マリーが背負うと言い背中を向ける。

 正直とても恥ずかしいが…実際に歩こうとすると激痛で気が遠くなる。

「……お願いしようかな」

 リザに見られるのがとても恥ずかしかったが痛みには変えがたい…

 マリーは僕を軽々と背負うと、なるべく振動を減らし歩いてくれる。

「大丈夫か?」

「ああ、マリーありがとう。痛くないよ」

 森の中を歩き、とりあえず見渡せそうな丘を探し移動を始める。

「ねえセレクト、あそこに馬車が通った道がある」

 リザが指をさした方向を見ると、人の気配がある道の跡があった。

「よし。それをたどって行こう」

 歩く方向を変え確実に人気が感じられる道を行く。

「そういえば…あの時リザって誰と話してたんだ?」

 魔物の動きを止めるような事ができる人物が浮かばない。

 もしかしたら今までに吸収されてしまった人達の魂が……オカルトは好きじゃない。

 何か理由があるはずだ。

「あれが誰かは分からないけど…とても綺麗な女の人の声…だったかな」

 女性の声……それだけではやはり分からない。

「う~ん……それだけか」

「ごめん……」

 リザが萎れた花のようにがっかりする。

「いやいや。謝らないでよ。僕だってたぶん分からないし……」

「それはリアム・レアム様だと思います…」

 すると黙って聞いていたミアちゃんがぽつりと女神の名を言った。

 眉唾な藩士だが……否定しきれない。

 確かにあの時、魔物の動きを止めたのはあの声だったからだ。

 たしか……創生の大樹の化身だったとか……地面を見てから植物に意識が宿るものなのか考える。

 所詮意識なんて物はの脳の微弱な電気信号でしかない。

 この大な創世の大樹の材質は神字と呼ばれるきめ細かい魔法がナノサイズで組み込まれている。

 もしかしたらそれの一部が脳のような働きをしているのかもしれない。

 とそこまで考えてからふと思う。

「だとしたら、今リザに話しかければ僕達が彷徨う事は無いんだけどな……むしろ、リザの方から話しかけれる?」

 リザは歩きながら頭をひねねってくれたが。

「……うーん……んー………………ダメみたい」

 『そうか』と、それだけだった。

 否定的にならずに考えをまとめてみる……あの戦闘の中、リザが最後に聞いた声は鮮明に聞こえたと言っていた。

 僕の中であの魔物が女神リアム・レアルの正体だと思い始めていたが……別の視点から考えてみた。

「うわぁ。とてもしっくりくるな……どうしよう」

「どうした?何か分かったか」

「いやさ、あの魔物はもしかしたら寄生型の巨大な魔物で、ここ数百年女神リアム・レアム……大樹の意識を封印していたとしたらって考えたんだよ」

「「「!!」」」

 驚いてくれるのはありがたいけど…マリー…すごく痛い。

 もう、これしかないと言うほどに驚く三人だがまだ確証はない。


 車輪の作った道を歩いて森を抜け、遠くまで見渡せそうな丘に出れた。

「街が見えるな」

 ずっと先……湖のほとりに大きな街が見た。

 作りは普通の街並みに見える……だがその中心にシンボルのような大きな木が立っている。

 まるでミニチュアなスペリアムがあるように思えた。

 多分あの街がベイブロープだ。

「僕たちは大樹の中心を目指して進んでたみたいだね…なるべく早めにあそこまで行こう」


 凹んだ道が段々街道らしく、少し舗装された道に変わっていた。

 それでも街まではまだ遠い。

 すると周囲もだんだんと麦のような穀物畑へと変わったり。

 その農村地帯では作業をする人たちも見受けられる。

 そんな人達は皆耳が長くエルフ族の特徴がある。

 その中の一人の作業をしていた農夫が気にかけて話しかけてきてくれた。

「おめぇ様方は何処からきたでさぁ?」

 訛りがひどい……正直に答えておこう。

「下から…多分上がってきました」

「なーに、下ってぇとすぺりあむから来たってか!?」

 驚いているようだが、訛りのせいで緊張感が伝わらない

「あーあー、本当だべさね。こっちのちっこいお嬢ちゃん綺麗な羽さ生えてるよ」

 農夫の後に続いて次第に人が集まってくる。ミアが怖がり、マリーは警戒する…

「こりゃ一大事だぁ村長様に早くしらせねぇと。門が開けたって伝えりゃすぐに迎えの者をよこすと思うから。ここでまちぃね」

 口笛を農夫が吹く……

 ガサガサと麦穂が揺れて、それが目の前に現れる。

 人間と同じぐらいの大きさの鶏のような怪鳥が現れた。

 農夫は何か大な鶏に話しかけ”門が開けた”と、鶏は復唱する。

 そして鶏は言葉を連呼しながら町の方向へ走って行ってしまった。

 また農民はやさしく話しかけて来てくれる。

「おながすいてねぇか?すぐさよういするよ?」

「ばぁか言ってんじゃねぇよ。こんな粗末な物あげて、はじかくだぁよ」

「おめぇさ足怪我してんじゃねぇか…見せてみ」

 急に周りから話しかけられ、内容から僕達を心配してくれているので、敵意は無いと分かる。

 

 怪我をしている僕はマリーの背中から離れ、農夫が二人係でとりあえず腰を落ち着けられそうな場所に移動させてくれた。

 そんな農夫の一人が何か懐から箱を出し、中はクリームのように白い物が詰まっている。

 それを保護具を外して塗ってくれた。

「ひっでぇけがじゃねか。これさ塗れば痛みなくなっからよ。門が開けたなら女神様が眠りから覚めたはずだべ。後は何とかしてくれるさ。それまで我慢しぃ」

 塗り薬を塗った所から痛みがたちどころに消えてしまい、いったいどんな薬なのか…素材が気になる。

 そんなに優しくされ、不意に今までの疲れがどっと出る。

 マリーを見ると何かおいしそうな物をもぐもぐと、リザやミアちゃんも食べていた。

「マリー、僕にも少し頂戴」

 少しもらい食べてみると、懐かしい甘いサツマイモの味がする。


 それから一時間程くつろがせてもらうと、迎えの使者と思われる人たちが現れ、独特な民族衣装と怪鳥にまたがっている。

 マリーなんかもいざという時の為に警戒し始める……

 その中の隊長と思われる強面の男性が話しかけて来た。

「あなた様方が門を開いたと聞いたべさぁ」

 しかし、締まりのない訛りで台無しになる…

「……門と言うのが何なのかわかりませんけど。女神様を解放したって言うなら…たぶん僕たちですね」

「「おお!」」

 周りの使者たちも含め一様に驚く。

「ではすぐに長様にあっていただかなくてはー」

 どうやら無理やり標準語を話そうとしているのか、より違和感で仕方がない。

「普段通りにしゃべってください」

「すなねぇだ、なれてなくてねぇ。長様は古い言葉さ使えるし大丈夫だぁよ」

 古い言葉と言われたが…彼らの言葉は僕たちには田舎の訛りにしか聞こえない。

「………………ぷ……はは……あっははは」

 こらえようとしたが何故か笑いが出てくる、笑いのスイッチが入ってしまった。

 下のスペリアムでは彼らが神聖な者としてたたえられているのに等の本人たちは田舎の訛り言葉を使い。

 しかもそれを流行の様に思っていると考えると妙に僕のツボに入ってしまい。失礼な事だとは分かっているが笑いが止まらない……

「あー……すみません。連れて行って頂けますか村長様の所へ」

 僕達は農民の方々に礼を言った後、怪鳥がひく馬車に乗り、ベイブローブの中心へと向かう。


 馬車の中で向かい合うようにして二組で座る。目の前に座るリザの隣にいたミアちゃんと目があう、

「そういえば自己紹介をしてなかったね。僕はリネアさんの友達?でセレクトだ。よろしくね」

「わ、私はミア・アクア・クローチェスです」

「私はリザイア・ルドロ・リリアス。リザって呼んで」

「マリーと呼んでくれて構わない」

「セレクトさんに、リザさんにマリーさん…本当にありがとうございます……私あのまま食べられちゃうと思ってて……」

 ミアちゃんは我慢していた恐怖を思い出したのか、泣き始めてしまった。

 よくみればフェリアとそう歳も変わらなそうだ。

「大丈夫しっかりお父さんやお母さん、おねえちゃんや皆の元に返してあげるから」

 そんなミアちゃんを隣にいるリザが優しく肩を抱き励ます。

 襲ってくるような敵は居ないが、今僕たちがいる場所は創世の大樹の上だという事を忘れてはいけない。

 マリーも心配になったのか、その事で話しかけてくる。

「セレクトは此処から帰る方法とやらは見つかりそうか?」

「うーん…いざとなったら飛び降りようか」

 僕が適当に答えるとマリーがひきつった顔になる。、

「冗談だろ?」

「さぁね」

 怖がっているマリーだが。僕は半分本気だったりもする。

「にしても、日が出てるのに…何で空は青くないんだ?」

 目をそらしたマリーが外を見て不思議に思ったのかそんな事を聞いて来た。

 ただ、それを説明するにはいくつか前情報も話さなくてはならない……

「うへ、それ説明すると確実にマリーは寝るよ?そうだな……海の色が反射して空が青く見えるとでも思っておけばいいよ」

「投げやりすぎないか!?」

 納得してくれればいいものを……

「……分かった教えてやるから覚悟しろ」

 まだ街までは30分以上はかかりそうなので暇つぶしがてらに説明を始めた。

 まず空気中に含まれる成分と光の特性…光の攪乱の説明あたりでマリーは寝た。

 僕の話は催眠導入効果がマリーにはあるようだ……にしても早すぎる10分と経っていない。

 リザとミアちゃんも寝てしまっている

 今からしばらくは馬車の中は静かになった。


 またしばらく道を進む……馬車の外を眺め、町に入る様子を見る。

 するとマリーも起きたのか反対側を眺めている。

 物珍しいのだろう、そこにいる誰しもが馬車の中を覗こうと僕と目が合う。

 やがて街の中心にある大きな大木の下へとやって来た。

「リザ、ミアちゃん。着いたよ」

 目をこすりながらリザとミアちゃんが起きた。

 馬車の扉が開いたので僕はマリーの肩を借りて下りる。


 そして僕はまたもやマリーの背中の世話になる。

「長様ぁつれてきただぁ」

「うむ、お前たちが門を開いたのか……にしてもずいぶん若いのう」

 使者が向いている方向とは別の所から声が聞こえてそちらを見る。

 小さなエルフの老人が杖を片手に立っている。

「なんだぁそんな所に居りましたか長様ぁ。言われた通りに連れてきただぁよ」

「聞こえとるよ、おぬしは下がっておれ…してそなた達、此処より先は女神の庭床…選ばれた者にしか入る事を許されん。しかし、先ほどわしに女神様直々におぬしらを連れて来いと言われておる。多分入れるじゃろ」

 これより先と言われて街と大木の境界線を見る。

 そこには手入れのされてない草むらと街との間に結界が見えた。

 あっさりとした物言いの村長がそんな草むらに入って行く。

 ついて行くように結界を超えると生い茂る草の中へと入り。

 雑草はマリーの腰以上に高く、マリーの腰ほどの背の村長は草むらの中に隠れてしまう。

 何とかもぞもぞと動く前の茂みを探してついて行く。


「今度は此処から上に行くぞい」

 目の前の大木は横幅10メートル、縦は……分からない。

 大木の外周りには階段が付いており、ぐるりと一周するように上へと登れるようになっている。

 マリーの背にお世話になりながら階段を登り始めた。

 僕はそんなマリーの背中から村長様に自己紹介する。

「僕の名前はセレクト・ヴェントって言います」

「そうかいそうかい…お前さんには名前があるのか。セレクトか、いい名前じゃな」

「で、村長様の名前は…」

「うーん…忘れた。ここ最近ずっと村長だの長だのと呼ばれておるからな。村長でええよ」

 名前を忘れるなんて事があるのだろうか…

「村長様のお年は…」

「お前さんはおしゃべりが好きじゃな…そうさな、2000を超えてから数えていないのう、結構たったし2800ぐらいかの?」

 2000から2800の間を結構と言う言葉で語る。

「なーに、わしの爺様は万を超えとったわい。それに比べればわしなんてぴちぴちじゃて」

 桁が違い過ぎて想像が出来ない。

 これが大樹を守り歴史を紡ぐエルフ族だと知る。

 やがて村長の息があがり始めたころ。やっと頂上に通じる扉が見えた。

「此処から先はお前さん方だけじゃ……わしは此処で座ってるから。女神様を拝顔してきてくだされ」

 そう言うと階段に村長様は腰をかける。

 言われた通りに扉を開け中に入る。


「し、失礼しまーす…」

 部屋の中は数百年とたっているはずなのに埃の一つなく、天井は吹き抜けている。

「誰も居ないな…」

「ううん…誰かいるよ」

 リザが言うと木々の隙間からこぼれる光が屈折し、立体映像の様に女性を映し出す。

 その格好はミアちゃんの巫女装束にとても似ていて、肌は白く瞳と髪が鮮やかな緑。

 そして葉の揺らめきと部屋の反響を利用しているのか周りから声が聞こえる。

「ああ、すみません。急いで掃除をしていまして…さぁ中に入って」

 でたらめの連続と。

 今まで体験してきた事の中でも一番すっ飛んでいる出来事で。

 皆が足を止めてしまう。

「あ…あのー皆さん?聞こえてます?」

 僕はマリーの肩をたたき言う。

「ちゃんと中に入ろう」

「はい、テーブルがありますのでそちらに…」

 立体映像の女性が招く先に、丸テーブルを囲むように人数分の椅子が用意されていた。

 僕はマリーに椅子へ降ろしてもらい、皆が椅子に座る。

「すぐに紅茶の準備をしますからね」

「あ、あの。私やります!」

 座ってすぐリザが立ち上がり手伝いを申しでた。

「いいのいいの。久しぶりに動けてうれしいの」

 しかし、彼女は光の映像で実態は無いはず……なにやら隅では木の触手がせわしなく、お茶の準備をしているのが見えた。

 そして女性と目が合いニコリと笑った後に。

「自己紹介は省きましょ…私はあなたたちの事は知ってるし。あなた達も私の事をしているでしょ?」

「一応確認だけでも…女神リアム・レアル様でいいんですよね」

 僕は改めて確認する。

「はい、私がリアム・レアルです」

 改めてその場の全員が息を飲むと。触手が伸びてきて紅茶が目の前に出される。

 ミアちゃんが自分の崇拝する神様の前で緊張しているのかカタカタとカップを揺らし口にする。

「お…おいしい」

 一口紅茶を飲んだミアちゃんはがふにゃりと緊張が嘘のように解ける。

 それを見てから僕達は紅茶を飲み…緊張をほぐす。

 自然と体に染みる紅茶は体の疲れを癒し、エーテルを大量に含んでいるようだった。

「あ…本当だ。すごくおいしい」

「これは何を使ってるんだ?」

「調合の仕方を教えてほしいな……」

 各々で感想を述べると、女神様はすごく嬉しそうだった。

「これには私の新芽を摘んだ葉を入れてるんです。この木葉からしか取れないんですよ」

 自慢げに語る女神様はなんだか言ってはなんだけど……少し子供っぽい。

「…ってすごく貴重な物なんじゃ!!」

 僕は驚いて女神に聞く。

「ですかね?」

 疑問形でかわいくあしらわれた。

「あ、そうだいけない。セレクト様!」

 女神様に様をつけて呼ばれた瞬間、口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになる。

「せ…セレクトでいいです…様はいりません」

「ですが、私の命の恩人ですし…そんな事より足を見せてください!」

 慌てて僕の近くに来て、僕の足を見る……これは立体映像なんだよな?

 僕の疑問も虚しく、女神様は慌てて謝る。

「こんなにも…操られていたとはいえ本当にすみません。こちらへ来てください」

 そういわれると木の触手が僕の補助をして部屋の隅へと連れて行く。

 そこには水が湧き出る堀があるだけ。

「この中に足をつけてください」

 言われた通りに足を水つける。

 傷にしみると思ったが、冷たくて気持ちがいい…

 堀の底は木の材質に見えたが、まるで泥の様に柔らかく足が沈む。

「どうなってんだ…そういえば農夫の人が女神様なら何とかしてくれるって言ってましたけど」

「はい、こう見えても創生の大樹…創造し生み出す事が私の本来の役目ですから。足の一本や二本すぐに再生出来ます」

 壊死した細胞どころか無くなった部位をも治せるということか……

「すごいな……こんなので治るのか」

 多分このそこにある泥のような物に秘密がある。

 確かめて見たいが水から出すと、固形物へと変わり、ただの木屑になった。

 水にも何か施されているようだ……だがそれ以上は分からない。

「あの、これはどうなってるんですか?」

「……さあ?」

 女神様は自分の事なのに原理を理解していないらしい。

 多分中にはいると傷が治る泥としか認識をしていない……改めて思うが自分の事なのに……

 まあたしかに自分の体の働きを説明するには難しい話だし、分からないのは当然か……

 すると隣にマリーが来ていてリザとミアも覗き込んでいた。

 そのまま待つこと5分…女神様が足を出しても大丈夫と言うので、足を引き抜いてみた。

 そこには新品同様の左足があり、色素がやや抜けて白いがそのうち戻るだろう。

 その後は様々な雑談や食事をとらせてもらい、この大樹から降りるための方法を教えてもらう。


 ミアちゃんと女神様が一番に打ち解けあい、今では遊んでいる。

 時間もすぎ、窓の外の日が傾いてきた…

「これで僕たちは帰ります…ありがとうございました」

「いいえ、私の方がお礼を言わないといけません…私と子供達を助けてくれてありがとうございました」

 改めて深々と礼をされる。

 にしても子供達?……スペリアムに住む様々な命を含めて言っている。

「あ、いけない。セレクト様にこれを渡そうと思ったんだわ」

 そう言うと上から触手が伸びてきて一つの袋と大きい黒い球体を渡される。

「これは?」

「こちらの袋は先ほどの紅茶です。それとこちらの黒いのは私の種となります。研究で私の体を使いたいのでしょう?植えれば直ぐに育ちますから」

 何だか要所要所が卑猥に聞こえてしまい、こちらが恥ずかしくなる……

 でも……

「あれ、僕そんな事言いましたっけ?」

「その子が教えてくれました」

 女神様がその子と言って指の先は”運命の箱”がしまってある。

 元は女神様の一部なのだから、レコーダーのような働きがあるのかもしれない。

「なるほど…それでは喜んで頂きます…あ、僕からも一つ聞くのを忘れていました」

「?」

「何であんな魔物が寄生していたのですか?」

 僕の疑問に対して、思い出すように話してくれた。

「…………たしかー誰かがあの地底湖で私に封印を施して寄生させたのです……そして数百年ほど眠らされた私が起きたころにはあの魔物はかなりの大きさで、私の自由は奪われてしまっていたわけんですけど」

「誰か……ですか」

「黒い人影だったのは覚えてるのですけど……それ以上は」

「ありがとうございます。僕も調べてみます」

 手掛かりはすでに無さそうだ、何せ数百年も前の話だから…その現況たる人物はもうこの世には居ないだろう。何が目的だろう……歴史的を調べれば何かつかめるかな?


 扉を出た所に村長はうとうとと寝ていた。

 すっかりこの人の事を忘れていた。あまりにも女神の印象が強すぎて……

「村長様、起きてください。大樹の下へは村長に言えば降ろしてくれると聞きました」

「お…おお!わしは起きとるぞ、寝とらんからな。む、足は治してもらったんじゃな。よかったよかった。にしても早いのう、もう帰ってしまうのか?女神様もすごく喜んでおられたし、百年ばかしここに泊まっていかんか?」

 そんな事になれば人生が終わってしまう。

「下に待たせてる人たちが居るんです。どうしても帰りたいんです」

「そうだったな。下の人は100年も生きられなんだった、忘れとったよ。はっはっは」

 ワザとらしく笑う村長がついて来いと言い、女神が住まう大木を下りる。

 町の人たちがぞろぞろと集まり結界の前で群れているのが見えた。

「これ、道を開けんか!」

 村長の一言で人の道が出来る。物珍しいのか皆が僕達を見ている。

「耳が長くないなぁ…人間か?」

「羽が生えてる…かわいい」

「わたすらも早く下に降りたいなぁ」

 とりあえず、まずは標準語を喋れる様になってから下に降りてほしい…スペリアムの人々が呆気にとられる姿が目に浮かぶ。

 村長様はぐいぐいと移動し町の外の平原へと移動するが、その後ろには僕たち以外にも先ほどの民衆がぞろぞろとついて来る……

 そして街から外れて丘にやってきた……村長が口笛を吹く。

 また鶏似の怪鳥が現れるのかと思ったが。

 それは近づくに連れて大きくなり、まるで爆音かと思うほどのはばたきが聞こえてくる……。

 やがて目の前には船を輸送するドラゴンと同じぐらい巨大な怪鳥が居た。

「ほれ、早く帰りたいんじゃろ?はよのれ」

 村長様の後に続き、怪鳥の翼を伝って背中へと昇る。

 怪鳥の背中には掴むための棒と、腰を固定させるベルトが複数取り付けられている。

「あれ?こいつで降りるんだったら、何時でも降りれたんじゃ…」

「女神様が眠りについている内は結界が自然と働いてのう、何重にも張られていたんじゃ」

 意思とは別の防衛本能が働いていたわけか…

「村長様も行くんですか?」

「こいつを操作出来るのはわしだけじゃて」

「はぁ」

「セレクト……この爺さん大丈夫か?」

 マリー、それは今更すぎるよ……

「よーし、準備は出来た事だし。下界の湿気た空気でも吸いにいくかのう」

 村長が手綱を引くと怪鳥が飛ぶ。民衆の人たちが何か叫んだり手を振るのが見えた。


 怪鳥はすごい勢いで創生の大樹の端へと飛んでいく。

「セレクト!!お前はすごいな!!」

 轟音で聞き取れないので叫ぶようにしてマリーが僕に話す。

「何が!」

「見てみろ私たちの大地は丸いぞ!!お前の言ったとおりだ!!」

 そこから見える風景はこの星の形を映し出す。

「マリー!!リザ!!あっち見てみな!!」

「何だ!?」

「リリアが見える!!」

 僕が指を指すのは海岸沿い、三日月型の大な入江……ここからだと良くは見えないが多分リリアだ。

 だが注意をそらしていると次の瞬間、怪鳥が急降下する。

「え!?うわぁぁあああ!!」

「きゃあああぁぁぁ!!」

「ぎゃぁあああ!!」

「………」

 僕達が絶叫を轟かせ、怪鳥が錐揉みする中……

「ひゃっほおおおおい!」

 村長様だけが楽しんでいた。

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