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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第3章――
24/59

24話 僕の罪

 この三日間ほど僕はただ単に暇をつぶしていた訳では無く、この国の歴史を事細かく調べ上げていた。

 古い文献をたどり、その中で自己解釈されていたり。エゴが盛り込まれた内容を省き真実を見つけ出すために。

 一つの伝承を翻訳するのに複数の人間でも解釈の違いが起きる。そのためこの国では様々な宗教という形が出来上がっていると仮定する事が出来た。

 そんな中に書かれたもので…魔晶石化について、さしあたっては創生の巫女なる役割について書かれた本を読み漁る。

 これらの本の特徴に気づくには数を調べるうちに分かってきた…どの宗派からも一定の時期に書かれたものばかり、その内容も言い訳がましい物だらけときた。

 その中でもとびきり古い書物を見つける。それは原本…翻訳される前の書物だ。

 その内容を見るに、魔晶石化した女性を神にささげたと書かれている…しかしこれは治療の一環で生贄的なものではない事が分かる。

 てっきり僕は大樹の結界を張る栄養源として必要な物と、この時は思っていた。が、この原本には生贄の事については触れていない。もしかしたら解釈の違いがここで起きたのかもしれない…

 何故生贄が必要になったのか、推理をする。この国も多大な問題は数あるが、その中でもとびきりなのが。結界の縮小化…

 結界が徐々に狭まってきて森が削られている…そんな問題が起きれば先人の知恵から対策を見つけ出すと容易に考えられた…負の連鎖の始まりを見つけた気がした。

 この大きなプラントとして結界に使われている魔力、大地から吸い出しているエーテルの量を数値化し考察してみた…結論からいうと人一人が魔晶石化した力以上を、この木は一日で使い切っている事が分かる。

 それは人の施しなどいらなくて…大樹自体が自立している事の裏付けになる。

 だがそんな事を僕が今叫んでも状況は変わらない…

 フィアさんに忠告された通り、今の教会の総意とは違った事を言えば消されるだけだ。

 それにしても上層階級のグレイルさんは知っているはず。

 創生の巫女が生贄として必要不可欠な事を。

 だから僕達が治すと断言した時に、他の客人を通すなと激昂したのではないか?

 しかし、それが分かった所で疑惑は消えない。

 リネアさんの妹、ミアちゃんの魔晶石化が治った所で替え玉が無ければ、このまま創生の巫女としてささげられてしまうという疑念拭えない…

 


 神殿から僕以外は帰って来て皆寝てしまった。

 屋敷に居るグレイルさんの動向を知るために僕は起きていた。

 日が昇り朝食の支度がされる前…一通の手紙がグレイルさんに宛に届けられる。

 内容は分からないが、表情を見るに絶望以外の何物でもない…

 僕は仕度をするため部屋へと戻り。誰も居ない事を確認し屋敷の裏口から出る。昨晩通った庭の通路を歩く。だが木陰に差し掛かった所で…

「一人でどこに行くんだセレクト」

「マリーか…少し散歩だよ」

「一睡もしてないのにか?」

「………」

「一人で抱えないで私たちにも教えて」

 リザも木の陰から出てきた。

 尾行されたか…いや。

「マリーに予測されるなんてね…」

「リザが最初に気づいたんだ。お前が変だってな」

 はぁ…心の中で軽くため息が出てしまう。

「お前が何と言おうとついて行くぞ」

「だろうね、そんな顔してるよ…」

「おねがい」

 そんな目で見ないでよ…リザ……

「分かった…事の真相とこれから起きる事を話そう、歩きながらね」

 僕の憶測でしか無いが二人が納得してくれるには十分だった。

 しかし、リザは何か言いたげではある…

「でも、それが本当ならグレイルさんの行動はおかしいかも…なんで私たちに治療させようと頑張ったの?」

「そこはほら葛藤したんだよ。娘の父親として数千万の民の命上に立つものの使命とさ…まぁどっち付かずって感じだったけど」

 最初こそは治せないと思い諦めがついていた…しかし僕たちの登場で希望が、光が見えてしまい。すがりたい一心で感情のまま思いをさらけ出してしまった。でも考え直せば教会の創意とは異なる事…どれだけの思いがのしかかるのだろう。僕には分からない…分かるのは僕が犯した希望と言う罪だけだ。

「でも本当にミアをさらって大丈夫なのか?結界とか」

「うん、大丈夫だと思うよ。もし生贄が必要なら毎日必要だしね。生贄をささげる周期は数十年に一度だけって割合だし。何よりこの大樹は数十万年以上はて生きてるんんだ、そして生贄をささげる儀式はこの数百年の出来事…おかしいだろ?それにエルフとの交流が途絶えたのも同時期、もしかしたら何か裏があるんじゃないかな?」

 話しながら神殿にたどり着き物陰から様子をうかがう。途中マリーのお腹がうるさいので買い出しに行かせて張り込む。

 そしてその時が来る。一台の大き目な馬車が神殿から出てきた。

「あれは棺を乗せるタイプの馬車だ…父さんが似たものを作っていたから分かる」

「あれにミアちゃんが乗ってるのね…あ、居るわ棺に入ってる…身動きはまだ取れないみたい」

「テレパシーが届くのか…そのまま励ましてあげて。それとはぐれないようにね」

 僕を先頭にリザ、マリーと続く……

 一応マリーには後方の確認もさせる。


 市街地を抜け大樹へと向かう森の中に入って行く。

「此処から先は特殊な結界が張ってある…僕でも解呪は無理そうだな」

 自然が作り出した特殊な結界…

「どうする?」

「まってて、これをこうすれば…」

 取り出したのは箱。大樹と同じ素材で作られた特殊な箱だ。

「それは前にお前が一騒動起こしたやつか」

「あれは不可抗力だよ。っとこいつで結界を同調させてやれば、あの馬車と同じ原理が作れるはず」

 結界が開く。

「もう馬車が見えない…急ごう」

 馬車が作った後を追いながら森の奥深くへと向かう。


 奥へ奥へと進み、いくつかの結界の障壁を超えた所で…何かの気配を感じたマリーが叫ぶ。

「セレクト!追われてるぞ」

「そうか、人数は?」

「3人…いや4人だ」

「了解、僕はいいけど…マリーは何とか出来るか?」

「武具は学園においてきた!私は丸腰だ」

「なら相手から奪え」

「簡単に言ってくれるな…よし、行くぞ!」

 リザを守るようにして戦いが始まる。

 相手の初動は早く、木の上から魔法と矢が飛んでくる。どれも殺す事を目的とした一撃…

 しかし、僕の結界の前では何も効果は無い。

 相手に動揺が走るが、次に地を這うようにして他の手練れが接近してきた。

 サーベルを片手に振る相手だが、それよりも早くマリーが動いて見せる。

「ボイルならもっと早いし重い…」

 数打の拳打で相手から武器を奪い。

 その奪った武器で手練れを一撃で沈める。

「安心しろ刃では当ててない…」

 倒れた者に言うが聞こえてはいないだろう。


「マリー終わった?」

「む、あと三人は…」

 すでに僕は魔法で狙撃し沈めていた。

「…早すぎるだろ」

「一応物陰に隠しておこう」

 縛り上げて木陰に隠す。

「みんな!こっちにきて」

 リザが少し離れた所から叫ぶ。

 近づいてみると僕たちが追っていた馬車が放置されている。

「誰も居ないな…ここから先に歩いたのか?」

「この洞窟に入ったのかも」

 木の根がからみついたような洞窟がそこにはある。奥を見ると人が入れるように整えられている。

「僕たちも急ごう」

 先ほどと同じように僕を先頭にリザ、マリーと続く…

 外見は自然を装った洞窟だったが、中は綺麗に出来ている。

 足音をなるべく立てずに階段を下りる。先に降りた者達が明かりをつけて行ったおかげで、あたりが見渡せる。

「木の根で天井が出来て、水が削り洞窟になったのか」

 そこに人の手が加わり祠にもなっているようだ。

「リザ…大丈夫か?」

 少し疲れたリザをマリーが気に掛ける。

「うん、大丈夫だから心配しないで…それより急いだ方がいい。奥で何かやってる」

 リザの能力で感じるられる程に近づいている…


 曲がりくねった通路を行った先に棺を担いだ者たちが居た。

「ミアちゃんの様子は?」

「うん、大丈夫、目も見えてるみたい」

 よーしとばかりにマリーが出て行こうとするが止める。

「何故止める」

「ここで止めても、数百年の儀式は止められない…ちゃんとこの先を確認しないと」

 棺の先頭に立った者が壁に何か仕掛けを施している。

「壁画かな?」

 何かつぶやいた後に魔力を注ぎ込み壁画が開く。

「隠し扉か…」

 壁画の先は水路のような洞窟になっていて光っている。

 ちなみに水位は足首まで水が浸かる程度。

 地底湖の底が青く光り、壁は薄い緑色に光ってる。

 そのおかげで足元は明るい。

「壁のは光苔かな…水中のは何だろう…」

 確認するほどの余裕は無く。

 ある程度進むと、先ほどの棺を担いでいた連中が急いで引き返してきた。

 岩陰に隠れてやり過ごす…



「早くしろ!扉を閉めるぞ!」

 後ろの方で奴らが叫んだ声が反響し聞こえてきた。

 それと重い石が動く音も聞こえる。

「先に進もう……」

 帰路は絶たれたが、こじ開ければ問題はない……それよりも問題なのはなんであいつらが急いで戻ったのか……

 もう光を使って大丈夫だろうと思い、周囲を照らす。先程の光っていたコケや地面は代わりに見えなくなる。

 しばらく歩いていると水滴がかかったのかリザがびくりと震え足元の水を弾く、そしてマリーがつぶやく。

「リザ、セレクトが居るから大丈夫だ。それよりも」

 水路が途切れその奥には大きな地底湖が広がる、天井は高く何処まで広いのか分からない。

 しかし地面は今だ浅く続いている、光を照らすと奥に祭壇が見えた。

 とりあえず棺が置かれた祭壇へと近づく。

 この祭壇の向こう側は水が深くなっていそうで奥が見えない。

 

 置いてある密封された棺をこじ開けると、ミアと思しき人物が涙を浮かべ僕たちを見た。

 そして力無い腕を上げる。

「もう大丈夫だよ。お姉ちゃん達が助けに来たから」

「ずっと話しかけてたのおねいちゃんね……んっ」

 リザがミアちゃんを抱き上げる。

「感傷には浸ってられないな。嫌な感じがする」

「マリー来るぞ!」

 感じる気配の向きにマリーがサーベルを向けるが、暗闇からの攻撃で受け流せずに、そのまま剣身で受けてしまう。

 吹き飛ぶマリーの水しぶきが顔にかかる。

「マリー大丈夫か!?」

「気をつけろセレクト!次が来るぞ」

 辺りを照らしていた光をより強め地底湖全体を照らした。

「なんだあれは…植物か?」

 木の根なのか蛹なのか特定できないが。そのような生き物が触手のように木の根を伸ばし攻撃してきていたらしい。

 何かの魔物だとは分かるが知識がそこまでは無いので。憶測も立てられない。

 逃げるための算段をしてみたが、とうの出入り口は閉まっているし、リザとミアを守るので精一杯だった。

 しかし、それ以上考えている暇は無ない。

 詠唱を必要としない自然文字を手のひらに浮かび上がらせ、衝撃魔法をぶっぱなす。

 それほど固くはなかったのだろう、その一撃で跡形も無く魔物は吹き飛ぶ…しかし、

「セレクト、下からくる!」

「え?」

 リザの忠告に目を向けたが遅く、地面から突き出た根が左足へとからみついていた。やばいととっさの判断でリザそれと抱えているミアちゃんに結界を張り、マリーの方へと吹き飛ばす。

「受け止めろマリー!!」

 ミシリと左足から鈍い音が聞こえる。とんでもない力で地面の中へと押し込まれている。

 頭に火花が散りそうになる。

 まだ自然文字だけだと瞬時の対応をしたときの魔法の威力制御が出来ないので、高速詠唱の魔法を叫んだ。

「アースバウンド!」

 目の前の祭壇が崩壊するほどの威力、僕は吹き飛ぶ……幸いな事にマリー達の近くに落ちた。

「セレクト大丈夫か!」

「左足はあるか?」

 感覚がない左足を確認をマリーにしてもらう。

「ああ、ちゃんと繋がってる」

 ゆっくりと見てみたが…元に戻るとは思えない程にぐちゃぐちゃで…

「でもコレ…酷い…」

「そうか…ちょっと待ってて…」

 このままでは危ないので、とびっきりの障壁結界を張り。

 これで触手の攻撃は防げる……

 ミアちゃんは一人で立てていた……よかった。

「増えてやがる」

 だがマリーの一言は絶望的だった。

 いつの間にか結界の外は数えきれない先程の魔物がそこかしこに沸いている…

 見ていると障壁結界を破ろうと、触手が攻撃を仕掛けてくるが、ビクともしない。

 空気を叩くような音が響く中。

 リザが治療のための魔法を僕に使う。

 でもこんな足で逃げるのは困難……

 少しでも気を緩めれば魔力の障壁結界が崩れてしまいそうだった……

「逃げる算段をしよう…マリー、先頭を頼む」

「馬鹿を言うな、お前は此処に残るつもりだろう!」

「じゃなきゃみんなが助からない!分かれよ!!」

「却下だ私は戦うぞ!」

「私もやだ、絶対にセレクトを置いてったりなんかしない」

 涙を流しながらリザが言う。

 全部僕のせいだ…マリーがあの時ミアを助けるのを止めなければこんな事にはなっていなかった。

 ダメだ……ネガティブになるな!次の事を考えろ!!

 リザの治療の様子を見ながら、僕も逃げられる算段を考える事にする。

「…………」




 沈黙の中、障壁結界を打ち付ける音は止まない。

 マリーはミアちゃんを励ましている。

 腰に浸かる水が冷たい……リザは僕の足にずっと治癒を施してくれている。

 少しずつ痛みが和らいできた……

「…………」

 いつまで持つか分からない結界の中…無駄に時間が過ぎる。

 そんな時だった…

「…………ん……何……だれ?」

 リザが足の治療をしながらつぶやした。

「リザ?」

「一瞬動きを止める……結界も……?」

 何者かがリザに話しかけているようだ。

「リザ!」

「え、あ、何だか魔物の動きを止めるからそれで何とかしてくれって。それと全部魔物は偽物で本体があの大きい木の根に隠れてるって」

 リザの指差した方向には大木のような木の根がある。

 だがそれを遮るように魔物も数えられない程にいる……

 そして何よりもそれがあるのは祭壇の向こう側、深い地底湖が広がっている。

「何とかって…」

 どうするんだよ……

「倒すぞ!セレクト何か考えろ!」

 こいつは此処まで来て僕に頼るのかよ…くそ……よし。

 足の痛みもリザのお陰で和らいでいた。何とか障壁結界への魔力維持をしながら他の事もできそうだ。

「マリー剣はあるか?」

「あるが最初の一撃を下手に受け止めたせいで折れかけている…」

 その剣には大きな亀裂のような線が入っているが、折れてはいない。

 素材としては十分だった。

「大丈夫作り変えるから」

 もっとじっくりと時間をかければいい物が作れるが、今言った所でどうにもならない。

 出来る限り座りながら錬金で一振りの”刀”を生成する。そして威力をかさましするように刀には魔法を施す。

 出来上がった刀をみてマリーがつぶやく。

「なんて研ぎ澄まされた刃だ…綺麗」

 敬意を払いマリーは刀を受け取る。

「マリー、それはなまくらだ。切れ味だけを求めて刀身の強度は保証できない。たぶん渾身の一撃で一発が限度……」

 マリーは僕の言った事を考えてから気がついたようだ。

「ん?ちょっとまて!あそこまでこの剣を一振りもせずに行こうってのか!?」

 大木のような根があるのは地底湖の深くなっている場所、その遥か向こう側…

「…大丈夫、僕とリザが道を作る…お前はあれを切る事だけを考えろ、いいな?」

「あ…ああ」

「怖い?」

「ば、馬鹿を言え、私を誰だと思ってる…マリー様だぞ!」

 よかった……少しでも怯えていたらこの作戦は辞めなければならない。

 それほどにマリーの役目は重大だった。

「リザ…僕と魔力を同調させるよ」

 僕自身の魔力だけでは足りない、僕が彼女の魔力を引き出して魔法を構築出来ると考えていた。ただ、試したことは……無い。

「え、急に言われても……」

「僕だけの魔力じゃあそこまで道が作れない……でもリザの魔力があれば簡単だ」

 僕の数十倍の魔力をリザは有している。これが平民と貴族の差である。

 僕を信じてくれとリザを見る。

「出来るか分かんないけど……やってみる」

 リザも決意を固めてくれた。

「よし、一番得意な武器とかある?」

「弓なら自信がある」

「それでいこう」


 僕は片足を引きずり立ち上がる。

 そして後ろからリザのお腹に右手を回し寄り添う。

 リザの体温を感じる……

 そして耳元でつぶやくように。

「まず弓を引くのを想像をして……それと僕の魔力を感じて…………そう……」

 リザに弓を引いた状態の構を取らせ。

 残った左手で僕はリザの突き出す手の先に魔法陣を描く。

「一回しか許されないから……イメージが大事だ」

 でないと皆が……

 魔物の動きを止め、結界を解く、そして魔法を放ち、その後にマリーが…

 全てのイメージを一度頭の中でシュミレートした後。

 そして……

「今だ」

 合図をした。



 そしてリザは目をつぶりながら魔法陣に魔力を注ぎ込む。


 何者かの力により障壁結界を叩いていた魔物の動きが止まる。


 それを見極めて瞬時に障害となる障壁結界を消す。


 リザの目の前で光を放つ魔法陣は周囲の水を吸い上げ、目の前に水の塊が出来ていく。

 

 どんどん水を吸い上げ、大きくなる水の塊。

 

「リザいいよ……」


 僕の声に反応したリザはゆっくりと目を開けたように見えた。


 リザは水の塊の中心をめがけ弓の弦を離す振りをする。


 水の塊は瞬時に形を氷の矢と変え解き放たれた。

 その軌道上には氷の橋が形成され何処までも伸びていく、途中魔物が居ようが関係はない。


「マリー行け!!」


 ひたすらに伸びていく氷の橋の上をマリーがものすごい勢いで駆け抜けていく。


 僕達はそのマリーの背中を後は見守るしかない……





 私は”刀”を握った瞬間から体の芯が震えてしょうがなかった。

 セレクトが作ってくれた剣……たったひと振りだけしか許されない剣。

 そんな重大な事を託してくれた。

 弱音ははけない……だけど……

「なんて剣だ……だめだ……セレクトが託したのだ。この私に!!」

 一度バランスを崩せば落ちてしまう氷の橋を上を全力で走る。

 途中障害物があろうが飛び越えるだけ、普段ならどうってことのない距離が長く感じる。

 そして息つく暇もなく走っているようにも感じ、それは緊張しているのだと気がついた。しかし気がついてしまうと腕が震えそうになる……

「私にはこれしかないのだ!!!」

 声を張り上げた後に息を吸う。

 気合を入れた瞬間、その先の足場が無くなっていることに気がついた。

 力いっぱいに跳躍する。

 強大な木の根はすぐ目の前……

「うおぉぉぉぉおおお!いっけぇぇえええ!!!!!!」



 飛び上がった私は刀を後ろまで振りかざし。


 

 目の前の巨大な根に向かい、刀を力一心に振るった。

 

 

 

「…………」

 私自身何が起きたのか分からない……初めての刀の手応に切れたという感触がない。

 何もない空間を振るっただけな気がしたが。

 空振りしたのかと思えば違う。

 水面へと落ちていく最中、私は握っていた刀を見ると崩れるように壊れる。

 恐ろしいまでの切れ味に私は切ったことさえ気がつかなかったのだと、その時やっと気がついた。

 水中へと落ちる間際、けたたましい断末魔が響いた気がした……



 マリーが根を切りつけてから、周りの魔物は動きを止めて朽ちた……

 周りの水は凍っている、傷ついている足を慎重に持ち上げ、痛みで気が遠くなりそうだ……

「すごい…本当に切っちゃった」

 リザは今だにマリーの方向を見ている。

 治癒してもらうにしても後にしよう……

「喜んでは居られない。早くここから出なきゃだめだ」

 けたたましい断末魔のようなカナキリ音は止むことがなく、洞窟全体が揺れ始めていると気がついた。

 それでもマリーが帰ってくるのを待たなきゃいけないが……洞窟が崩れ始める。

 大きな石が落ちる中、出入り口がふさがれてしまった…

「こんな時に…くそ」

「あ、さっきよりはっきり聞こえる!こっちだって!!」

 リザが指し示すは地底湖の中…

 それは先ほどの何者かの声だろうか、僕には分からない。

 しかし、頼れる者がそれしかない。

 マリーが帰ってこない…轟音の中では僕の声は届かない。

「リザ、マリーを呼んで!」

 リザの能力を使いマリーを先導してもらう。

 マリーが到着するまでに、僕は障壁結界で縦横2メートル程の空気の膜を作り、地底湖に浮かべた。

 いつ頭上の岩盤が落ちて来てもおかしくはないこの状況…

 

「行くよ……」

 泡のような障壁結界に全員が乗り。

 後地底湖の中へと沈める。

 すると先ほど僕たちが居た場所に岩が落ちて来ていた。

「これ、自由には動かせないんだ…」

 空気の浮上する抵抗を抑えての下降なので、うまく動かせない…それに足も痛み始めている。

 地底湖の下にはさらに洞窟が続いている。

 あそこまで行けばと思った瞬間、水が抜けているのか水流が発生する。

 僕達は否応なくして地底湖の洞窟へと吸い込まれた。

 

 洞窟の闇の中、すごい勢いで流されていることを慣性の働きで感じていた。

 結界内は二重構造で作っているため揺れはひどくはない、ただ僕は足の痛さで魔力の維持が難しくなっていた。

 どれくらいたったのかは分からない、僕には数分にも数十分にも感じられた。

 皆はこの先の事をただじっと待っている。

 そんな何が起きるか分からない闇の中……やっと浮上を開始する。

 思いの外早く水面に出れた。

 しかし、大量の魔力消費と左足の怪我で僕の意識は薄れかけていた。

 リザが光源を生み出すのが見える。

「おい、あそこに船があるぞ!」

 マリーが叫ぶ声が聞こえる。

「そうか…あそこまで…」

 もう、洞窟内になぜ船があるのかという疑問さえも浮かばない……そして意識が……




「なっ!」

 急に足場がなくなり私達は水の中に投げ出される。

「リザ!ミアを頼む!!」

 セレクトの意識が途切れ、結界が消えたのだと思い。

 私は直ぐに潜る、沈んでいくセレクトを抱き上げ何とか船へとたどり着く。

 リザがミアを抱き、水の中、船の縁しがみついていた。

 どうにかセレクトを船に載せ、リザ達も引き上げる。

 しかしセレクトはぐったりとしていて反応しない……また足の出血がひどくなっている……

 私の不安がどんどんと大きくなる。

「しっかりしろ、セレクト!」

 頬を叩くが反応が無い……するとリザに止められた。

「気を失ってるだけ…でもこのままじゃ危ない」

 治癒魔法を仕えるリザがいてくれて本当に良かったと思う。

 私は冷えてきた体を温めるため少しでも服の水を絞る。震える体は本当に冷えているだけなのだろうか……

 ミアの面倒を見ながらセレクトの治療に専念しているリザを見る。

 するとリザも震えている事に気がついた……

 



 それからどれくらい時間がたったか分からない……

 しかし、リザの治癒のお陰でセレクトの意識が戻った。

「ふぅ…とりあえず助かったんだね。よかった」

 私はいつものふざけたようなセレクトの言葉が聞けて胸が詰まりそうになる……

「皆さんごめんなさい…私の為に」

「謝らないで…ミアちゃんを助けてあげたかったのは皆同じだから」

「それよりセレクト、この船は何処に向かってるんだ?」

「………上にあがってるみたいだし。出口まで行けるんじゃない?」

 ここからは神様とやらに頼るしかない…

 それからセレクトは眠気に襲われて寝てしまい……

 それに釣られて私も寝てしまった……




 次に私が起きたのは小川の淵に船が止まり…鳥のさえずりが聞こえてからだった。 

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