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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第1章――
2/59

2話 初めての出会い

 光も闇も感じられない中を漂っていた……

(ここは何所だ……思い出せない……あれ、僕は誰だっけ……)

 どれくらい漂っただろう。夢の中のように…無限に感じられる時間。

 やがて一筋の光が指す……

(あそこへ行かなきゃ……)

 分からない……が、初めてこの空間で意思を働かせた瞬間だった。

 覚醒すると光を見ていた……目の焦点が定まらない…しかし、先ほどより感覚がしっかりしている。

 だがひどい眠気におそわれ―――再度、夢の中へ……



 次に意識が戻った時にはやさしいぬくもりの中―――やはり光を見ていた。

(まぶしい……ここは何所だ。僕は何をしている……たしかエネルギーの集合体になって飛散したはずだったけど)

 まぶしい理由はすぐに分かった。

 僕は太陽を見ていた。

 にしても自分が死んだ事を確認するとは可笑しな事だ。

 僕は自分が置かれている状況に冷静に……

「あ……あう……あうあう」

(上手くしゃべれない!)

 対処出来なかった。

「あら、この子何かしゃべろうとしてるわ。何でちゅかー……もうご飯の時間かしら?」

「!!?」

 聞こえてきた言語に戸惑う―――そして周りを確認したくて首を動かそうとするが……力が入らない。

(どうなってるんだこれは。この大きな女性もそうだ。何で僕は抱きかかえられて……る?)

 考えがやはり上手く回らなくなり混乱が混乱をまねく。

 そしてそこに甘い香りが眠気を誘う―――しかし、そこは養って来た精神で押さえつけ―――そして冷静を取り戻す。

(……ええっと僕は……どうなってるんだ?)

 ほかにも体に異常は無いか確認をするため自分の肉体の一部として動かした手をみる。

 そこには、おさない子供の手がある。

(ああ、可愛いお手て……てっ赤子!!……ああ、そうか夢か)

 僕は今起きている現象が夢であろうと思い。目をつぶり夢の世界へとシフトする。

 眠気のおかげであっという間に現実逃避が完了する。



―――時は過ぎる。

 変わる季節の中、僕は色々な事を受け入れる事にした。

 最初は自分が転生した事を受け入れた……やがてここが現代ではなく、はるか過去だと言う事を受け入れ……そして最後に―――ここが地球でないことを受け入れる。

 それはとある夜の事。

(星の配置がばらばらだ……地球ですらないのかよ。そういえば、もう一つの世界を確認するとか言う実験だったもんな)

「すごい、セレクトはもうハイハイ覚えたのね」

 他に分かっている事はここが中世ぐらいの技術があり。自分がこの女性の子供で、セレクトと言う名前だということ。

 石と木で出来た部屋をくまなく探索する。

(すごいな、本当に中世みたいだ。技術も現代に生きていた時とは比べ物にならないほどにレトロだ)

 自分は宗教なんて信じていない。

 ましてや転生なんて夢物語。

 何より何で記憶が残っているのかが、気がかりだったが。こちらに来る前に一度エネルギーの集合体になったのが原因の一つかもしれない…と、いう事にしておく。

(そう言えば……教授が前に言っていた気がする。精神は別の次元にあり肉体がその精神を受信しているに過ぎないとか、何とか……)

 そんな事は鵜呑みに出来ないが……まぁ、そこは妥協するしかないと思いあきらめる。実際に現象として自分に起きた事なのだから。

 それより今―――僕はこの世界に適応しなければならない。

 だが、まだ情報が少なすぎる。

 たまに家の外に連れて行ってもらうが、分かる事は雑草と食物の種類ぐらい。

(言語は理解した。英語の文法に近く、日本語と同じ50音……まだ、親に話しかけるのは控えた方が良いな。悪魔付きとかと思われて捨てられる可能性が否めない。それより、情勢とかが分かる物とかあれば良いんだけど…)

 新聞のような物を探したが、この世界はまだ紙と言うものは高価なものらしい。たまに父親が紙を持っていたが、茶色く薄汚れた物だった。

 僕が生まれたこの家は一般家庭の中で言えば中の中で、運がよかったと思う。

 これで貧民や奴隷の子供として生まれていたら……すぐに死んでいたかもしれない。

 

 僕はそのまま1年と言う歳月を赤子らしく振舞い。親に片言で話しかける機会をうかがっていた。

「ママ……ママ……」

「あら。今、ママって呼んだ!」

「ママ……マ」

 自分で言うのもなんだが恥ずかしい――そして苦しい……そんなに抱きしめないでくれ。

 通常の子供より口数が少なく思われていたようだ。もう少し前から話しかければ良かっただろうかとも思う。

 母の名前はサマンサ=ヴェント

 父の名前はグラッツ=ヴェント

 そして僕の名前はセレクト=ヴェント

 父親の性格はかなり温厚な性格の持ち主で仕事は何かの技術者らしいが……具体的な事はまだ分からなかった。ただ二時間ほどかかる隣街?に出かけているし、たまに帰らない日もある。

 母も父に似て、かなりおっとりした性格の持ち主だ。趣味は庭の空いたスペースで野菜を作る事。よく自分もそこへ連れて行かれた。


 それから更に3ヶ月が過ぎる―――この頃には手足に肉が付き、足で立って色々な情報を得ることが出来るようになり、視野が広がった。

 しかしまだ一人で外には出してはもらえない。

 そんなある日。

 父と母が共に出かけるためか、何時もは着ない服に着替えている。

 二人の会話を聞いていると、どうやら教会に行くらしい。

 幼児が歩けるようになり無事に成長出来た事を神に祈って貰うのがこの世界の慣わしのようだ。

 教会までは父に抱き上げられて連れて行かれた。

 それまでの道のりは平坦で野原が広がっていて、小高い丘を越えたところで一面に水が広がっていた。

(海だ!)

 こんな近くに海があった事に驚いてしまう。

 馬車のあぜ道を目で追っていくと岬の先端――真新しい石造りの家が見えた。

 そこが目的地のようだ。

「海が気になるのか、すこし寄って行くか?」

「だめ、神父様を待たせてしまうわ、帰りにしましょ」

 磯の香りが強く鼻につく。

 波の音を聞きながら教会へと向かう。

 両親は他愛も無い会話をしていた。

 やがて教会へとたどり着く。

 生前に一度訪れた教会を想像する。

 しかし、思い描いていた教会とは少し違う。

 祭壇や椅子の並びまでは一緒だが、中央に置かれた台座には十字架ではなく、太陽を模した大きな石の置物が鎮座していた。

(やっぱり地球じゃないよね……)

 改めて周りを見ると自分達以外にも人が来ていて、同じように幼い子供連れだ。数にして4組――顔を確認していると時間になり、子供を集めた行事が行われる。

「では前へ」

 教会の若い神父が名前を呼ぶと、両親も付き添いで前へと出る。

 どうやら自分が一番手らしい。

「はじめます。怖がらないようにね……天の神グランモアの加護をこの者に与え、厄病を払いたまえ」

 神父は簡単な文言を言いながら片手で円を切り、もう片方の手は太陽をかたどったアクセサリーを持っている。やはりここの教会は太陽を崇拝してるようだ。

 しかし神父の祈りはそれだけでは終わらなかった。指先が光っているのである。たとえるなら豆電球ほどの光だ。

(手品……?)

 しかし、種も仕掛けも無いように見える。だが実際に指の先が光ってるのだ。

(仕掛けが分からない。発光する薬物でも塗っているのか……いや違うか)

 神父は光を放つ指を僕の額にあてブツブツと呟いた。そして儀式が終わり―――僕は父親に抱かれながら後ろに下がる。

 そして他の家族が前へと出る。

 先ほどの光が気になって仕方がなかったが、現象を間近で確認できたのはそれっきりだった。


 すべての家族が儀式を終え、今度は子供だけが神父の元へと預けられた。

 両親達は教会の出口へと移動し、こちらを見ている。一人の子供が泣き、連鎖するように2人目の子供も泣き始めてしまう。

 神父が掴んでいた手を離すと泣いていた幼児達は両親の方へと、皆歩き始める……どうやらこれも儀式の一つらしい。

 僕はそんな事より先ほどの発光現象が気になり、神父の指を触り確認する。

 いぶかしげに神父が僕の行動を見守っているのが分かった。

「ああ、さっきの光が気になるのかな? これは聖法って言うんだよ」

「?」

「神様にお願いして力を分けてもらうんだ」

「?」

「……って分からないか。それより、お母さんたちが待っているよ。ほら」

 神父が示した方向に振り向くと両親が心配そうにこちらを見ていた。

 まだ幼い子供達はおたおたと歩いている。

(仕方ない行くか)

 僕は他の子供に当たらないようにすたすたと両親の方へと歩いていく。

 やがて先頭を歩いている子供を抜くと……

(バランスが難しいな……こうか。にしてもこれだけで結構疲れるな……っておわ!)

 何かに引っ張られて後ろへと転ぶ。

(びっくりした……なんだ?)

 どうやら最後に抜かした子供が僕の袖を掴んでいたようだ。

 立ち上がった僕を見ていた子供は未だに僕の裾を掴んでいて、何でか泣きべをかき始めている。

 このまま引っ張られてはバランスが悪くて進めない、それに無理やり歩けばこの子も転んで大惨事になる。

(泣かれるのも後味が悪いしな。引っ張ってやるか)

 裾を掴んでいた手を優しく解き、改めてその手を握る。

 手を繋いだ子供は僕の事を後ろから見ていて、泣きべそもかいていない。

 やっとの事で両親の目の前に来ることができた。

「セレクトは、友達を助けてあげたんだな。えらい」

「うう……」

 母が泣いている。

 父も目じりに涙をためている。

 どうやら、両親には感動的な場面に見えたらしい。

 とりあえず抱きしめられた。しかし未だに僕の手は繋がられている。

 まだじっと僕のほうを見つめてくる幼児は、まるで僕の行動を観察しているようにも見える。

 手を繋いでる子の親が近くにやってきて、その子を抱き上げられ。

 盛大に泣き始め、じたばたと僕に手を向ける。

 親は苦笑いをして僕の両親に軽く会釈をした。

「マリーは始めての友達が出来たのね、よかったわねー……じゃーそろそろバイバイしましょうね」

 ほら、バイバイと言いながら。マリーと呼ばれた子供の手を振らせている。

 しかし、泣き止まない。仕方なく僕は近くにより手を伸ばすとマリーの母親が膝を折り、手の掴める高さへと近づけてくれた。

 すると幼児は不思議と泣き止み笑顔になる。しばらくじっとしていると、安心したのか寝てしまった。

「君お名前は?」

「あ、まだあまり話せないんですよ」

「セレクト」


「「「!!!」」」


 その場に居た全員が驚く……やりすぎたか?

(まぁそりゃそうか1歳ちょっとで名前を聞かれて答える子供なんて居ないもんな……)

 その後、両親がどうしても話させようと四苦八苦するが、僕はそれ以降は言葉を発さないようにする。

 マリーの両親と帰路に着こうとした時、神父があわてて声をかけて来た。

「すいません、少しお時間をよろしいですか」

 神父の手に分厚い本が、2冊ほど抱えられていた。

「この子はだいぶ賢いですね。もし、よかったらこれを持って行ってください」

「えっとあの、これは本ですよね……そんな高価なものいただけません」

「いや、今は使ってない物ですから。この子に読んであげてください」

「?」

「えーと、疑問に思われるのも分かります。しかし、先ほどのこの子の行動、あれは考えてやっている様に見えました。それに私の聖法に反応を示していましたし。もしかしたら今話してる言葉も理解してるかもしれません」

「いや、さすがにそれは……先ほどのも偶然かと」

 父親が否定するがそれでも神父は引き下がらず。

「可能性を否定する事は良くない事です。この子にとっても」

「んん……でも……」

「ではこうしましょう。この本はお貸しする事にします。いつか返してもらえればいいので。無駄かと思われる事でしょうが、どうかこの子に読み聞かせてあげてください!」

 本当に神父は一歩も引かない。

「……たしかにそう考えた方が面白い。息子に魔法の才があれば困ることも無いでしょうし、そのうち役に立つかもしれない。では、これは貸していただくとしましょう」

 丁重に父が本を受け取ると僕に近づける。いちおう反応を示しておこう。

「あう、ああうー!」

 両親が神父に礼をし教会を後にする。帰りにすこしだけ海岸で海を堪能した後、家へと足を向けた。

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