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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第2章――
19/59

19話 決意

 僕は一人で男子寮の屋根の上で夜空を眺めていた。

「ああ、星ってこんなに綺麗なんだ…僕は汚れてしまったけれど」

 昼過ぎに起きた事件を忘れるために自室にて研究をまとめていたのだが、ほんの少しでも集中が途切れるたびに思い出すというジレンマに襲われ…何かいい方法は無いかと考えた結果、以前から気にしていた寮の改修作業を始めた。

 そして賑わっていた町の明かりも消えたころ、改修作業を終えた僕は夜空を見上げ、呟いた一言目がそれだった。

「こんな所に居たのか…」

 よく聞きなれた声に安堵を感じながら振り返る。

「マリーか、こんな時間にどうしたの?」

「それはこっちの台詞だ、昼間は散々探していたのに。こんな所にずっと居たのか?」

 昼間……いや考えるな……とりあえずマリーは僕を探してくれてたのかだけを考えよう。

「いや、寮の改修作業をしてたんだ…ここに来たのは今さっき。それよりマリーはよく僕がここに居るって分かったね」

「何となくだ」

「何となくで分かるのかなぁ…」

「ふっ、実は嘘だ」

「嘘かぁ…」

 疲れているせいなのか軽く流す。

「今日は朝の練習をサボったからな。夜に少しでも体を動かしておこうと思って走っていた。そしたらお前の姿が目に入ったんだ」

「そうか。で、何か用?」

「用事など無い、来ては駄目だったか?」

 何だか急にしおらしくなったな……

「え、駄目とかじゃないけど…」

 もやもやとした会話が空中を飛び交う…途切れると余計に気まずさが増すばかり。

 僕はそんなマリーの言葉に若干の違和感を覚えていた。

 月明かりもない夜。

 こんな暗闇の中で遠くの物を見て何者なのか分かるはずがなく、ましてやこの寮は隔離されたように木々に囲まれた場所にある。道を走っていたマリーには見えないはず…

「………」

「なぁ…最近セレクトは私を避けていないか?私が何かいけない事をしたのなら謝る」

 唐突な謝罪に理由を探す…しかし見つからない。

「どうした急に?」

 いまいちマリーの心境を掴めない…しかし、このままだと悪い方向に転んでしまうのではないかと思い、僕はある程度の解釈したうえで答える。

「マリーを避けてなんか無い、そういえば最近行動が別々になる事が多いね。それに今日は偶然が重なって会えなかっただけじゃないかな?日程を言ってくれれば僕が合わせるよ」 

「そ、そうか私の思い過ごしか…」

「ならよかった」

 マリーは伏せていた顔をあげてにんまりと笑って言う。

「では、早速これから訓練場に来てもらおうか」

「ん…え、今から?明日じゃ」

「駄目だ、私がどれだけ待たされたと思っている」

 ここで無下に扱うとマリーがまた悲しむのではないかと思うと拒否する事が出来ない。

「ああ、わかったよ。せめて夕飯だけ食べさせて」

「仕方ない。待たせてるやつがいるから先に行ってるぞ」

「待たせてるやつ?」

「来てからのお楽しみだ」

 屋根の上をマリーは後ろを向き走り出す。

「ちょっとマリー出口はこっ」

 言い終える前にマリーが屋根から木へ、木から木へと飛び移っていくのを傍観していた。

「おいおい、忍者かよ…ああ、なるほど」

 自分を探して奔走していたと思い込んでいた僕はやるせない気持ちになったが、すぐさまマリーを追うために適当に食事を済ませ、パンを咥えながら寮を出る。


 辺りは暗く、街の明かりが微かに見える。

 最近は街中に街灯が設置され始めたが、全面的な普及には程遠い。

 ウェルキン校長は治安維持の為にと働きかけているがみたいだが、資金がどうにも捻出できずにいるのかもしれない。

 僕は少しでも安く済ませられる方法を暇つぶしがてらに考えて歩く。

「(街全体に張り巡らされてる術式に少し工夫するだけで出来ると思うんだけどな…ウェルキン校長に持ちかけてみるかな…っとそうだこの時間は通り抜けれないんだったな)」

 校舎は夜なので閉まっているのは当然と言えば当然……

 校舎の裏手にある訓練場まで遠回りをしなくてはならなかった。

「(そういえばこんな時間に使っていいのかな?無断で使っていたらどうするか…)」

 マリーの話しぶりだと使っても大丈夫な気がしたが、情報元が彼女なので信用しきれないところが困る。

 校舎を曲がり訓練場に明かりが灯してあるのが見える。

 なるべく音を消しながら扉の前へとたどり着き、訓練所の扉をたたき中へと入る。


「マリー来たよ」

「遅いぞ、私の準備運動は終わっている。セレクトはどうだ?」

 マリーがこちらに意識を向けると、体面に立っていたハーベスが気合いの入った奇声で突撃した。

 しかしマリーは軽く体重移動するだけでよけてしまう。避けられたハーベスは体力の限界に来ていたのか、振り下ろした自らの木剣の勢いを殺し切れずにもろとも倒れる。

「奇襲なら声を出すな。すぐにばれるぞ」

「いや、ハーベスは卑怯なりにもマリーが気付けるように配慮したんじゃないか?」

「私を甘く見るな。貴様の攻撃など最初から当たらない」

 ハーベスは仰向けになるように体を動かす。

「ハァハァ、まいったよ。君はこの学園屈指の剣士だ。来年の上級生の反応が今から気になるよ…あれ、セレクトも居たのか」

 剣の練習に集中しすぎていて、僕が来た事に気づかなかったらしい。

「今きた。マリーと腕試しか?」

「うん、僕も女の子に負けっぱなしじゃ嫌だからね…まぁ、勝てる気はしないな。セレクトも腕試しかい?」

 負けっぱなしという事は、勝負を挑んだのか。

 僕は若干げんなりした様にハーベスに言葉を返す……

「マリーに呼び出されてね」

「なら最初に僕が相手になろうかな」

「だいぶ疲れてそうだな…大丈夫か?」

「このぐらい少し横になれば元気なもんさ…」

 よっこらせっといった具合に木剣を支えにして立ち上がる。

「彼女に鍛えられた腕を試すにはちょうどいい。セレクト相手には後れは取れないよ」

「あ、ああ、そうか」

 別に騙すわけでは無いが本当の事が言いづらく、体で覚えてもらう事にしよう。

「じゃー、はじめようか」

 僕はマリーに木刀を貸してもらい構える。

「打ち込んで来いハーベス。受けてやる」

「ああ、お言葉に甘えて…てい!」

 ハーベスが僕の技量を図るために放った初撃を軽く簡単にいなす。

「おいおい、こんなのが本気か?」

「いいや違うね!はっ!!」

 続けざまに放つ連撃は綺麗な軌道を描く。が、僕は軽くいなすだけ。

 さすがにハーベスもおかしなと思いはじめた顔をしている…

「ほらよっと」

 隙を見抜いた僕がハーベスの木剣に絡みつくように木刀を這わせると、ハーベスの手から木剣がするりと落ちる。

「今、戦闘以外の事を考えただろう?それと形が綺麗すぎる。ハーベスらしいけどね」

「君が反撃しないから…」

 ハーベスは言い訳を考えていたようだが……その技量の違いに僕を異様な目で見ている。

「だめだなぁ、不思議に思ったからって隙を作ったらやられちゃうぜ」

「………」

 驚きよりも困惑に近い表情をハーベスが浮かべ。

 するとマリーが口をはさんできた。

「まぁ、そんなに驚くな。私もまだセレクトには勝てないんだ」

「え…君が勝てない?…いや…嘘だ…だって」

「私の剣術はセレクト直伝の剣技だ。あえてこの剣技の流派をつくるならセレクト流だな」

「変な流派作るな。いたって僕は平凡な錬金術師だ。それに僕が剣術教えたのは内緒のはずじゃなかった?」

「うっ…しかしあれだ、黙っていたらこいつが可哀そうでな。それより私に早く剣術の稽古をつけてくれ」

「ごまかそうとしてる?まぁいいかハーベス相手なら。あまり隠し事はしたくなかったし、ちょうどよかったかな?」

「さー次は私の番だ!行くぞ!」

「ちょ、早いよ!」

 稽古とは思えないほどの打ち込みを前にハーベスが固まっているのが見える。

 ハーベスが考え込んでいる間にマリーのがばて始めた。

「駄目だー!!くそぉ、何で後一撃が届かないんだ!」

「いやいや、一月だけでだいぶ強くなってる。僕やガイアスだけだとどうしても癖が出てきちゃう所だったけど、しっかり色んな人と闘ってきたんだね、悪い癖が抜けてきてるよ」

「本当か!」

「ああ、ただ偶に動きがやたら大きくなる時があるね…あの図体のデカい奴とやりあってるのが影響してるのかな?まぁ対人戦に特化しても怪物には通用しないし、ちょうどいいと言えばいいか」

「ボイル…あいつのせいか。で今のは何割だ?」

「人のせいにするな。そうだな5割ぐらいかな?」

「そうか、5割か!やっと半分まで来たんだな!よっし!!」

 マリーがガッツポーズをしている横で我に返ったハーベスが僕に聞いてくる。

「5割って?」

「ああ、僕の本気かな?」

「あれで5割!!」

 その数字に驚愕を覚えてたのかハーベスは叫んだ。

「彼女の力量は上級生を相手にしてもトップ陣に入ると言われてるのに!そんな彼女を半分の力で相手するのかい!?正直に言わせてもらう、君は間違いなく異常だ!!」

 ハーベスが先ほどから困惑している事は分かっていた。僕自身わからないことが怖く感じる事は良く知っている。魔法を最初知った時は驚愕したし。

 この世界がどれほど不安定で余りある力が充満しているか、今だに分からない。

 だからって目を閉じ、両耳を塞ぎ、しゃがみこんだところで何も変わらないし、変えられない。

 ハーベスが言おうとしているのは周りが力を持った僕を受け入れないとういことだろう。

 でも僕は知っている、世界が受け入れないのであれば、受け入れられるように変えるだけだと。

 ただ急に大きく変えてしまうと何が起きるかわからない。

 だからまずはこれでいい、泣きそうな顔のハーベスを見ながら問いかける。

「今更何言ってるの…ハーベスは僕が怖いの?」

「…そんな事は無いと言いたい。でも他の人が見ればきっと怖がるよ」

「ありがとう、肝に銘じておくよ」

「なんで君がお礼を言うんだい…」

「ハーベスは遠回しの心配をするからね、それが他の人には伝わらない事が良くある様だけど…僕にはとてもハーベスが心配してくれてるのが分かる。だから”ありがとう”だ」

 目を見開いてハーベスが僕を見る。

「まぁあれだ。僕も自重してるんだけど。ハーベスには今後世話になりそうだし、色々と教えといて損は無いかなと思っただけだ。もしその事が重荷なら周りに言いふらしても構わない…」

 間を置いてハーベスが自分の考えを出すのを待つ。

「いや、すまない…同い年である君のその力と知識に嫉妬を覚えると僕自身思っていた。けれど最初から何故か君に魅了されていくことに混乱していた。知れば知るほどセレクトが遠い存在になっていく…なのに君が一番僕を理解して、プライドの高い僕を挫けないように君はしてくれている…余計なお世話だといって逃げる事もきっと出来るだろうけど、そんな事はしたくない!これはチャンスなんだろ?マリーと同じように僕も引っ張ってくれるんだろ?」

 黙っていたマリーは腕組みをしながら偉そうに言う。

「私は一向に構わない、ライバルが増えるのは私を強くする糧につながるからな」

「そろそろハーベスに僕の秘密の魔法を教えようかな」

「魔法を…教えていいのかい?なんだかんだ言っても僕は帝国の人間だよ…」

「そんな事はどうでもいい。僕が得た知識の代償の責任とやらを少しでも肩代わりしてもらえる人がほしかったところだ」

「とんでもない事をさらっというね君は!」

「怖いの?なんだハーベスは常識止まりか」

「…うう、なるさ…なってやるさ異常でも怪物でも!僕はその為に今まで頑張ってきたんだ。それに君が言うんだから僕にもその異常になる才能があるんだろ」

「ハーベスだけずるいぞ!私にもお前の責任とやらを背負わせろ!」

「ええっとマリーには魔法は分からないと思うから、おとなしく剣術の稽古をしててほしいな。必要なら頼むし」

 マリーに教えるとなると3回は人生やり直さないと駄目だろうな…

「本当か!?絶対だぞ!!では剣の稽古を再開だー」

「ぅおい、まだやるの?さすがにもう遅いし帰ろう…ってハーベスもやる気なの!?」

「当たり前だよ明日からじゃ遅いからね、今からだ!」

 こんなにもハーベスが熱血的だとは思わなかった…文科系だとばかり思っていた。

「そんな事よりさっき剣術が5割しか実力を出してないとか言ってたけど、それは魔法を使う前提の5割なのかい?」

「え?いや…うーんと…あ!!」

 この手の話を聞かれるとまずい相手が目の前に居る事に気づいた…頃には遅く、

「……ほぅ、詳しく聞きたいなハーベス」

「大した事じゃないさ。セレクト程の実力があれば剣を使いながら魔法を使う事も出来るはずって話さ」

 怒りを露わにした形相は鬼のよう。そんな顔を向けられた僕は冷や汗が噴き出る…

「さすがにそんなに器用な真似なんて難しいし、何より集中が」

「出来るんだな?」

「………はい、たぶん出来ます」

「それを踏まえてさっきの稽古は何割だ?」

「…二割半ぐらいかと」

 それだけを聞くと表情が戻る。以前として殺気は放たれているが…

「すまないハーベス…お前は先に帰ってくれ」

「今の僕の宣言を聞いて……わ、分かったよ僕はここら辺で帰らせてもらうよ」

 マリーの睨みはもう僕の放つ闘気を軽く凌駕しているきがする…

「そうか、ハーベスも帰るなら一緒に」

「セレクト、貴様は駄目だ!これからじっくり私と特訓をするんだからな」

「明日からじゃ…」

「だ!め!だ!!」

 その後、僕はマリーに魔法を踏まえた実践的稽古をつける羽目になり、予定していた以上の体力を消耗し、マリーが納得いくまでつき合わされてしまった。





「ふわぁ…あ、おはようリザ」

 教室のいつもの定位置の席、隣にリザが座ったので締まらない顔で挨拶をする。ちなみにマリーは横で寝ている。

「おはようセレクト…昨日はだいぶ遅くまでマリーと稽古をしてたのね」

「ん…マリーに聞いたのか。そうなんだよあいつ……あれ?」

 リザがとても怒っていると直感的に感じ取れる…というより言い知れない重圧が僕に圧し掛かる。

「リザ怒ってる?」

「知らない!!」

 しどろもどろして居ると呆れたようにハーベスが小声で話しかけてくる。

「君は鈍いね、昨日仲間外れにしてしまったじゃないか」

 確かに結果的にそんな形になっていしまった。それを故意では無かったと弁明しても、言い訳でしかない事はよくわかっている。しかしそれでしか償えない事もある…ってハーベスも一緒にいたじゃないか!




 午前の授業はリザへの謝罪に終り。何とか休みの日に買い物に付き合うと言う事で許してもらえた。


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