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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第2章――
18/59

18話 無知は罪

 僕は鼻歌を交えながら料理をしている最中だ。僕が料理をする理由は二つ、研究に行き詰った時と人にご馳走する時、自分自身で味わう為に作ることは今までした事が無いかもしれない…しかし、今回は前者の二つには当てはまらない三つ目…




「~♪」

「出来上がりそうか?」

「もう少しまってて」


 料理をしているとマリーにせかされた。何故今、僕が料理をしているのか…それは一週間前のギルアン・サマンハルトの遺産伝々を調べるため暗号を解読した結果、料理のレシピの様なものが浮かび上がり、そしてこの中で唯一の料理担当の僕が作る羽目となった。料理自体は嫌いじゃないからいいんだけどね…


「まだ出来ないのかい?」

「焼き上げてる最中だから待っててよ」


 次はハーベスにせかされる。


「じゃーセレクトは今何してる?」

「お茶の準備…」

「不老不死の秘薬をお茶で頂くのかい!?」


 なんで僕が全部やらないといけないんだ!何時もの如く心の中で叫で手をぷるぷると震わせていると…


「そのぐらいなら私も手伝うよ」

「リザは良く働いてくれたから座っててよ」


 そう、働いてないのはこいつ等…一週間何の役にも立たなかった。図書館内で何度注意された事か…料理の具材を買いに行けば各々で迷子になるし…しまいには料理をしている僕にこんな扱いですか?ええ、自分でも驚くくらい我慢してますよ。だって僕は精神的に言えば大人ですから!ははっ…何で僕が怒らないのかって?それは多分リザのおかげだ。僕が知りたがっている資料を全部探し出してくれたし、料理の具材の買出しもちゃんとついてきて探してくれたし。それはもう前の世界で数少ない友人が言っていたフラグと言う奴が立つんじゃないかと思うぐらいに一緒に探したよ。

 そんな心で悪態をつきながらも自作したオーブンの中に入っている料理が焦げないかと見張っている。この料理は見た目はクッキーの様な物だというか果物が入ったクッキーだ。果物も全般的に甘い物が入っている、ましてや不老不死の秘薬にはほど遠い…なんでそんな話になったのかはギルアンが何者かを知っていく事でそんな話になって行った。

 暗号を解くうえでギルアン・サマンハルトという人物を調べた事は必然な結果で、そして彼が色々な書物、時代に度々登場するのがきっかけだった。

 調べた限りでは創生樹時代から黒竜戦争時代まで、様々な災害や戦争をとめたりと色々と名前が登場する事から約2500年は生きている事になる。そしてそんな彼が残した料理のレシピ=不老不死の秘薬という彼等の脳内変換っぷりだ。まぁ本人達も冗談交じりだろうけども…あっ焼きあがった。

 ミトンを手にはめてオーブンから取り出す。


「出来たぞー」

「やっとか!」

「いい匂いがするじゃないか」

「これ全部食べちゃって大丈夫?」

「校長の分は取ってあるからいいよ、さ味見だ」


 各々で感想を言いながら不老不死の秘薬とやらを味わった。





「ん、んまい!」


 場所が変わり校長室―――

 中に通されたのは僕だけ、何でも二人で話したいとか…

 そして校長が僕が作ったクッキーもぐもぐと食べながらご満悦…そして僕のテンションは下がりっぱなしだ。


「久しぶりに食べたコレは美味しいなー」

「………」


 こうなる事ぐらい内心分かっていたさ…だから僕はこの部屋に入ってからずっとじと目で校長を睨みつけている。


「で、これでいいですか?」

「ははっ全部ばれちゃってるかな?」


 ギルアンの遺産って話が全部校長がでっち上げたデマ…という落ちに一週間して気が付いた。


「全部が全部嘘ってわけじゃないよ?」

「何がですか?」

「もちろん遺産の話だよ。まぁ遺産と言うには程遠いんだけどね、この学園の立ち入り禁止地区の入場許可証ってのが遺産って事になるんだ」


 手渡された物は封印が施してあった箱と同じ材質で出来た手に収まるほどの板状の物…


「これをかざせばこの学園の大抵の封印は解けるようになっているよ、まぁセレクト君にはあまり意味が無いかな?」

「そんな事は無いです、これで罪悪感にとらわれないですみます」

「話はこれだけじゃないんだけどね…ギルアンについては何所まで調べたかな?」

「そうですね、歴史に度々出てきて色々な問題を解決している事ぐらいですかね…」

「そこまで調べたか…おおよそは見当ついているのかな?一応話しておくよギルアン・サマンハルトの秘密について…」


 ギルアンが度々歴史に姿を現す理由…それは彼では無く彼等だったからだ。歴史において大発明を起こす様な人物の名前は自然と世に知れ渡るのが世の常であるが…ギルアンと呼ばれた彼等は例外だ。現代でも解明出来ないような大発明をした者に死後に与えられる名前と言えばいいのだろうか…それがギルアン・サマンハルト。何時からその様な事になったのかまでは分からない…さしずめ歴史に名を残すほどの人物が平民といった類の出と言うのが貴族や王族が大いに嫌ったのだろう。そんな貴族達が理解できないうえ真似も出来ない、そのような魔法が作られればプライドと嫉妬の塊で出来たような貴族達は狂ったかのように無かった事にして来た。しかし貴族達も便利な物は使わずにはいられなかったようで、残すものは残して来てしまった。するとそこには矛盾が残る…誰が作ったのか?そんな疑問を引きずっていった結果、時が過ぎ、時代がたち、忘れ去られた頃に呼ばれるのだ”あの時代にはギルアン・サマンハルトが居た”と…


「だからギルアンという名前は侮蔑と敬意両方込められている名前だと言う事を覚えておいて欲しい。まぁ今は敬意の方がだいぶ意味合いは大きいけどね。だからって君にギルアンになって欲しいって分けでもないよ」

「で、今もまだ多少の嫉妬で消されるかもしれないから気をつけるようにって事ですね」

「理解が早くて助かるよ」


 苦笑いを浮かべたウェルキン校長を見てから一礼する。


「じゃー外で待たせてるんで…この辺で」

「あ、そうだ来週あたりに錬金科で実験の発表があったよね。見に行くから」

「すきにしてください…」


 そういって僕は校長室から出た。


「やっと帰ってきたか」


 腕組をしてマリーが偉そうに待っていた。


「で、どんな話をしてたんだ?」

「そうだな…今後目立たないようにって事かな」

「それは無理な話だな。なにせ私が目立つからな!」

「マリーが目立つ分には問題ないよ、むしろ目立ってくれれば僕が隠れるし…」

「それは無理だね、僕が見た限りではセレクトは十分もう目立っているよ」

「え!ほんとに?」

「そんな事より!」


 急にマリーが声を荒げる。


「冒険の話はどうなった!?」

「え、今更そんな話?」

「冒険をするってノリじゃなかったのか!?」

「そうだなぁ、まぁ今回の冒険の要素は図書館で探し物する所と買い物がメインだったかな?まぁマリーとハーベスを図書館に連れて行くってのはある意味、冒険だったかもね」

「ちょっ、僕もその中に入るのは心外だ!騒いでたのは主にマリーだろ!」

「そうだ!私は生意気なハーベスをしつけてやっていたんだ!」

「…君はそういう事をぬけぬけといえるねぇ!」

「ちょっと二人ともこんな所で喧嘩始めないで…セレクトも止めて」

「いや、リザ行こう」


 このまま放置すればうやむやに出来そうなのでマリー達は放置でリザとその場を離れる事にした…


 ハーベスとマリーは何だかんだ言ってある程度は打ち解け合っているきがする、喧嘩するほど仲が良いってこのことなんだろうな…




 あんな事から少し時間が立つ…

 写真の研究もあらかた終わらせて発表も校長の前で難なくこなした。多分この時一番緊張していたのは顧問の教師だったと思う、そんな緊張した顧問の先生方を見て校長が実は凄いんじゃないか?と改める事になる。


 それからまた少し時が過ぎる…辺りが春の終わりと夏の始まりを感じさせるそんな時期…外は酷い雨が降り続く、そんな休日に僕は図書館に泊まりこみで調べ物をしていた。

 ここは図書館でも限られた人しか出入りが許されない場所…禁書が置かれた書庫、僕は一人本に没頭している。今調べている物は僕が以前に開けられないと言われていた”箱”に施された魔法の術式を知る為だ。

 特にこの術式の気になる点は魔力を加えると変化して別の式を作り上げる…このアルゴリズムを応用出来ればと思っての事である。

 もし、これを活用できれば前の世界の精密機械の再現も用意になるはず。ただ問題なのは…膨大な情報…僕一人じゃ限界が有るのを感じている今日この頃である。

 研究も行き詰まり始めたので気分転換に外に出る…禁書の部屋から出たところで老人と目が合う。


「あー、こんばんは…あれ、おはようございますかな?ボウマンさん」

「こんにちはだ、坊主」

「お昼ですか、どうりでお腹が空くわけだ」


 この人はボウマン・ハンスさん。以前この禁書の部屋の前で僕を注意してきた人で、この図書館の生き字引であり館長を務めている。この人に探せない本は無いとか言われているとかいないとか…昔はとても厳しい人だったらしく、何処かその名残が顔に出ているきがする。まぁ今は、まだ産まれて来ても居ない孫自慢をしてしまうただのおじいさんだ。


「じゃーお昼ごはんを食べてこようかな」

「そうかい、ワシはお前さんが汚した本でも片付けるかな」

「僕はちゃんと敬意を払って本を読んでますよ…」

「そんな事しっとるわい」

「はぁ、お昼行って来ます…あ、雨はまだ降ってますか?」

「雨?そんなもん昨日の内に止んどるよ!さっさと外に行って来い」


 僕はその場からへらへらと笑いながら後にする…

 図書館から出るとやたらと眩しく感じて目を細め、手で笠を作る。雨は言われたとおりに上がっていた…それにしても水溜りが残るのに街中は忙しそうに動いている。それもそのはず一年で一番のイベントそして商売の大事なときでも有る…この魔法学園上げての学園祭。三ヵ国の重要人物が見学に来る大イベントが控えているのだ。

 そんな忙しく動く中僕は目的の飲食店を探しに出歩く、にしてもまっすぐ歩けないほどの混雑は息苦しい。やっとの事で飲食店を見つけ入る事が出来た。これだけ忙しく街が動いているのだからきっと今頃ウェルキン校長は凄い事になっているんだろうとか考えながら食事にありつく…そういえばマリー達は何してるんだろうか?



 一方のマリーとリザも同じようにお昼を取って店から出る所だった


「たく、あいつはまた図書館に行っている!」

「そんなに気になるなら私達も行く?」

「べ、別に行かなくてもいいだろう」

「だって、ずっとセレクトの話してるじゃないマリーは?」

「そ、そうか?」

「そうだよ」

「やぁ、君たち奇遇だね!」


 やる気の無い目でマリーがハーベスを見る…


「何が奇遇だ…一時間ほど前から私達の後をつけていただろ?」

「え…あーいやぁそんな事無いさぁ?」

「さぁリザ行くぞ休日までこんな奴の顔を見たくは無い」

「え、行くって何所に?」

「図書館だ!」

「行くの!?」

「そうだ、そう話していただろう?」


 そうだったかなー?と小首をかしげているリザを掴み歩き出していた方向を反転させ図書館に向かう事にその後ろをハーベスもついて歩く。


「何故ハーベスもついて来るんだ?」

「何故って僕も図書館に用事があってねぇ。セレクトに今回の学園祭の出し物を一緒に出さないかって事でね」

「…出し物だと?」

「先生の説明をちゃんと聞いていたのかい君は?下級生は学園祭の出し物は出さなくてもいいけど、出しちゃいけないとも言われてないんだよ?」


 マリーは若干うろたえ始める、そんな楽しそうな事自分を置いて始められるのは言語道断…だからマリーは。


「フッすまないがセレクトには先客が居てだな…」

「…マリー…君は今決めただろ!僕の案を取らないでくれないか」

「そ、そんな事は!」

「じゃーなんでうろたえたんだ?」

「…くっ…早い者勝ちと言う言葉を知っているか?」

「本当にずるいな君は!」

「では、お先に!」


 マリーが駆け出すその後方でハーベスが呟く…


「なら僕のも考えが有るよ」


 ハーベスが空中に文字を描き詠唱する


「名も無き土の精霊よ力有る者を捕らえよ!」


 詠唱が終わると走り出していたマリーを捕らえる。マリーは地面に力が入らなくなった事に一瞬気付くのが遅れて泥沼に膝下までつかる。


「く、くそ!何だこれは!?」

「まだ終わらないよ」


 泥沼の泥がまるでツタの様にマリーに伸びるとそのままマリーの体を拘束する、すると泥はそのまま固まってしまった。


「捕縛用の魔法だよ、いくら君でもそれから逃れるのは至難のはずさ、にしてもやっぱり君は魔法の戦いには慣れてないようだね」

「ほぅ…こんな物で私を拘束できるとでも思っているのか?」

「ずっとは無理だろうね、でも”今だけ”なら十分効果的なようだけど…それじゃお先に!」

「な!」


 次はハーベスが駆け出すが後方で膨れ上がる何かを感じると同時に爆発音が聞こえた。恐る恐る後ろを見るとマリーを拘束していた土の塊は跡形も無く吹き飛んでいる。そしてハーベスを見る目は新しいおもちゃでも見つけたような好戦的な目で…


「ひぃっ」


 気迫だけでハーベスの動きが止まる…

 そんな光景を見ながらリザは声をかける


「怪我しない程度にしてねー」


 最近やたらと見る光景にリザは慣れたものだ、そして何時の間にか集まった人たちは輪を作っていて見世物になるのも慣れた。

 セレクトの元へと行けるのはもう少し時間がかかるなぁとかリザは太陽の位置を確認しつつ呟いていた…




 セレクトは食事を取った後に外に出るとやたらと騒がしい遠くの通りに目をやる。


「喧嘩かなぁ?まぁいいか図書館に戻ろう」


 そそくさと図書館へと戻る道を歩く。


「気分転換はやっぱり大事だな」


 何かひらめいたのか眠気は何処かへ行ってしまった。うきうきと図書館へと舞い戻る。

 受付のおねぇさんとはだいぶ顔見知りになっているので魔力認証も最近は無く会釈だけで済ませている、でも今日に限ってはいないみたいで受付はもぬけの殻、魔力認証装置だけがカウンターに上げられていた。


「あれ、ご飯の前まではいたのにな…まぁいいか」


 受付を素通りして禁書の部屋に帰ろうとしている最中、なにやら広間の方が騒がしい事に気がつく…普段なら無視してしまうが騒がしいだけではなく何やら緊迫した空気にも似ている…気になってしまったら確認しないではいられないので見に行く事にする。

 人だかりは輪になっている、その輪の外に本が散らかって落ちているのを見えた。


「こんなに本を落としたらボウマンさんが怒るんじゃ…」


 言った後になぜか胸騒ぎが押し寄せる…それは凄く嫌な予感で…

 セレクトは輪の中心を確認したくなり急いで野次馬を書き分ける。中心からなにやら綺麗な女性の声が聞こえる。


「さぁ、このかたに祈りを捧げましょう…」


 よりいっそう胸騒ぎがする…


「ボウマンさ…」


 僕が目にしたのは横たわるボウマンさん……では無く知らないおじさん、それと膝を付いて祈りを捧げる天使の様な聖女…以前歓迎会を開いたときに一度見た事がある女神と称された女性その人。ボウマンさんは野次馬の中に見えた。


「私と共に歌ってください彼が安らかに…」


 しかし、安心している場合では無いと思い僕は横たわっているおじさんに駆け寄る…


「瞳孔を確認と脈拍…心臓は」

「…あなたは…」

(クソ…しくったな…こんな時のために作っておくべきだった!)


 心肺蘇生の魔法を考えておかなかった事を悔いる…


(いや冷静になれ…魔法が無くても方法は知ってるじゃないか!)

「親族の…」

「彼が倒れてからどれくらい時がたちましたか!?」

「えっ…?」

(だめだ使えない…)

「すいません、下がっててください」

「あなたこそ何ですか!」

「その…なんだ…祈ってるんだったらそっちでも出来るでしょ?急いでるんだ!」


 余裕が無くなったセレクトは声を荒げてしまう…気迫に押されて女性は少し下がる。そんなやり取りお見ていた外野から―――


「おい!お前こそ何様だ!」

(気道を確保するには顎を上げて頭を傾ける)


 必死に自動車研修の時に習った事を思い出す…


「聞いてるのかあんた!」

「彼の生きている音は消えているのです…今あなたは死者を冒涜してるのですよ!」


 後ろが五月蝿いが全部無視して心肺蘇生を開始する。


「あなたは…!!!」

「「「・・・・っ!!!」」」


 周りがその光景を見て絶句する…僕は何も考えずにそれを行なう…口から息を送る空気の循環…

 次に血液の循環と心臓の鼓動を戻す為の心臓マッサージ…


「何てむごい事…今すぐやめなさい!」


 すると後ろから何か硬いものが投げられ僕の頭にずしりと当たる。しかし、そんな事も意に介さず僕は続ける…


 必死で何度も繰り返していると今度は肩を誰かに強く掴まれる。さすがに黙ってはいられなくなる。


「駄目だ、まだ終わってないんだ!」

「黙れ!終わりだよ!」


 次々に手がセレクトを抑えて引き剥がすかのように引っ張られる。


「クソがっ!!」


 普段の僕から出ないような言葉が漏れる…必死で抵抗するが何人もの大人に阻まれては完全に動けない。

 歯を食いしばりながらも抵抗を続ける一方では一早く異変に気付く人物が居た…白い服をまとった聖女、彼女には鼓動の動く音が翼有人特有の耳には聞こえていた。

 一度止まってしまっては動き出す事の無いと思われていた音が再度聞こえてきた事に驚く…自分の耳が可笑しくなったと思い、より近くに耳を寄せて聞く…


「ゲホゲホッ」

「!!」


 咳き込んだのは他でもない倒れているおじさん、意識は戻ってないようだが何とか助かったようだ。僕は抵抗していた力を緩めると同時に僕に必要以上にのしかかっていた力も緩まる。僕を押さえつけていた野次馬共はおっさんに注目していた。


「…生き返ってる…え…うそ…でも」


 聖女はただうろたえる、そんな事をしていると野次馬の中から誰かが…


「お祈りで生き返ったぞ!」


 その後に続くように…


「リネア様はやっぱり女神様だったんだ!」

「聖女リネア 万歳!」


 万歳を連呼している野次馬に戸惑いながらリネアと呼ばれた聖女は少年を探す。先程まで羽交い絞めにされていた彼が見当たらない…その事にも野次馬達は気付く。


「おい、さっきの坊主が居なくなりやがったぞ!」

「何所行きやがった!」

「お、おやめなさい!彼の事はもういいでしょう。それよりこの者に祈りましょう!さぁ皆さんも…」


 そしてリネアが歌うと野次馬が静かになり、歌が広がる。






「危なかったなー…あの場の空気は僕が粛清される所だった…」


 間一髪、皆が皆よそ見している間に気配を消して図書館から飛び出す事に成功。すると図書館内から賛美歌が聞こえてきた…


「当分図書館には近づけないな…帰るか……ふあぁ~」


 僕は何事も無かったかのように、あくびをしながら帰ることにした…


「にしても…二度目の人生にして初のキスの相手がおっさんなんて…いや、命が助けられたんだ…それで………」


 口元に残る髭の感触となんとも言えない煙臭さが後を漂う…僕は早い所この感触を忘れる為に寮に向かって駆け出していた。





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