16話 写真
写真の研究は二日ほどでモノクロの写真が出来上がった…
「白黒じゃないか」
「まぁ焼き写しただけだからねー」
「色鮮やかなのは出来ないのかい?」
「言うと思って研究はしておいたよ」
それから3日後に今度は色鮮やかな写真を撮る事に成功。最初は色を出すのに苦労したが、紙の表面に結界を張りそれに映し出すといった趣向で作る事が出来たのだ。この実験の結果は僕にはかなり実になる結果となったが同時に課題も残した…
「…すごく鮮やかだ…」
「僕は少し腑に落ちないんだけどね…」
「でも上手くいってるじゃないか?」
「これはこれで完成なんだけど…」
それは、この写真に使われている魔法の結界…この結界の作り方はある程度理解した…しかし結界がどの様な力で作られているのかが分からなかったのだ。
次の日が休日なので僕はこの結界について徹夜で解明すべく奮闘する…
(エーテルの構造が関係してるのか…念力にも似たような働きがあったな…同じもの?)
その日答えにたどり着いたと思ったセレクトは夢の中だった…
―――朝日がカーテンの隙間から目に入ってくる…
「………ん?」
テーブルに伏せて寝ていた事に気が付いて、あたりを見渡す…
「寝てたか………あれ?…実験結果が無い………夢落ちかよ!」
ベッドで軽く仮眠を取ろうと立ち上がると―――扉が豪勢な音を立てて…
「セレクト起きてるか!」
マリーがずかずかと入ってくる…恐縮そうに後ろにリザもいる。
「ずいぶんとそっけない部屋だな…」
「…こんな朝から何?」
「む…忘れてないか?今日はお前と私の歓迎会でセレクトが料理を作るんだろ?」
「そういえばそんな約束したな…てか僕達の歓迎会なのに何で僕が料理を作るんだ!?」
「お前しか美味しく作れないんだ!」
前に約束をしてしまっているのでしぶしぶ従う事にする…なんだか腹が立ったのでマリーも食材の買出しに連れて行くことに、するとリザもついて行きたいと申し出てきた。
寮を出たところで…
「マリー…言っておくけどここ男子寮だからね?」
「そうか…で、何か問題があるのか?」
「………なんでもないです…せめてドアはノックしてください…」
市場に到着するまでにパーティー用のメニューを考える…発酵食品になるチーズや醤油、みりんといった材料は僕が持ってきているのでそれらを使う。
(チーズを使い切るか…新しく作らないとな…)
―――市場へと到着する…
「リザは何が食べたい?」
「うーん…なんでも!って言うよりセレクトの料理はケーキしかたべたことないかな…」
「あ!…御馳走するきかいが無かったな……」
作ろうと思ったが執事にじゃまされたような…
「じゃー適当な物は作れない」
「私にも料理の作り方教えてほしいなー…だめ?」
「ああ、そんな事ならいつでもいいよ」
リザと会話しながら食材の品定めをして買い物を続けていく…マリーは少し離れた所の屋台からいい匂いがしてくるのか、物欲しそうにそちらを見ている。
「マリー…今食べたら僕の料理食べられなくなるよ?」
「わ…分かっているそんな事!」
「フフッ…セレクトってマリーのお母さん見たい」
先ほどもそうだが僕がマリーと何気ない会話おしている時、リザはとても切ない顔をしている時がある………気がする。
買い物も終わり帰宅…荷物はマリーに持たせる。
「私だけやけに重くないか?」
「気のせいだよー、重くないよー、同じくらい僕も持ってるよー」
適当に棒読みで返事をする。
校門前についた時…
「あ…何処で食べるの?」
「天気もいいし…外でテーブル広げて食べようって事になってるけど…」
「なるほど、いいね」
僕が男子寮の方へと歩き始めるとリザが…
「ねぇ、女子寮で作らない?持ち運びも簡単だし…それにテーブルも女子寮の庭に広げてあるの」
「そうか、ならちょっと材料取ってくるよ。それがないと始まらないしね」
「早くしてくれ…私の荷物が重くて…」
「じゃーマリー、取ってくる物が有るから僕の荷物もってね…はい」
「な!」
有無を言わさず渡すとマリーは律儀に受け取る。僕はきびすを返して小走りで材料を取りに部屋へと戻る。後ろで何かマリーが騒がしいが無視だ。
ところ変わって女子寮の食堂…材料を広げて調理を開始。
リザが手伝いたいと進言してきたので了承した。
「自前の包丁持ってるってなんだかすごく料理人みたい…」
「不本意だけどね…」
僕は会話しながらも手は止まらずジャガイモの皮をむいていく…素人のリザに包丁は危ないので他の手伝いを頼む。
「凄く早い…」
「炉に火をつけてもらっていいかな?」
「あ…うん」
リザに料理のノウハウを教えながら料理を作り終える。
「やばい…作りすぎたか」
事あるごとにリザがやたらと驚くので調子に乗って必要以上に作りすぎてしまった。
「んー…多分大丈夫だよ、むしろこのぐらいじゃないと直ぐ無くなっちゃうかも」
料理を袋に詰めてから広場にもって行く。用意されたテーブルの上に洋風の料理、匂いを嗅ぎつけたのかマリーがやって来た…
「マリーつまみ食いは駄目だよ!」
「ん~…」
物欲しそうにしていたので注意をする、するとションボリといった顔で僕と料理を交互に見た後…一つつまんで食べる
「~♪」
「おい!駄目だって言っただろ!」
そそくさとマリーが離れていく。
「あいつは…もー…はぁ……」
「僕達の準備は出来たぞ?」
「ああ、ハーベスか…ご苦労さん、こっちも出来たよ。カトレアは?」
「カトレアは何か大事な用事があるとかで…それにしてもすごく美味しそうだね」
カトレアが大事な用事…すごく嫌な予感が…
「腕によりをかけて作って来たからね…量が少し多くなっちゃったけど…」
「んー…匂いもいいし見た目もとても色鮮やかだ…これなんかいったいどんな食材を使ってるんだい?」
「ああ、これはチーズで…ラザニアって料理」
「らじゃにあ?」
発音がしにくいらしい…そんな事をやっているとリザとカトレアが戻ってくる、後方にマリーが隠れているのが見えた。
「じゃーみんなもそろった事だし…料理が冷める前に始めますか」
「うわぁ!すごく美味しそう!」
カトレアが目を輝かせて食いつく、待てと言いたい…早く始めたいと思っていると、そこでハーベスが。
「僕が進行役を…」
「いただきます!!!」
マリーはおさえられなかったらしい、僕が教え込んだ食べる前のお礼の一言を大声で叫ぶ…よってハーベスの声をかき消されてしまう…それが合図だと思ったのかカトレアも自分の小皿に盛り始めた。リザは僕を見ていたが、僕がリザに目で促すと端っこからよそる事にする。
そんな忙しい歓迎会をしていればとても賑やかで、それでいて騒がしく…
「カトレア…?」「あなた達何食べてるの?」「すごくいい匂いするけど」
人が寄ってくるわけで…それに寮の前だし…
その後は参加者が続々増えてしまうのは必然的で…多く作りすぎてしまった料理をあっと言う間に無くなってしまった…騒動がおさまりを見せたころに複数のケーキを取り出すと…再燃
「あ!忘れてた!ケーキがあるんだった!!」
カトレアがしまったとばかりに叫ぶ…
「僕は忘れていなかったよ…」
「私が見た事も無いやつがあるな」
「腕によりをかけるって言っただろ?」
僕が切りそろえて集まった人たちに分けていく…各々で目を輝かせている。
ケーキを僕もつまもうと手にかけた時…トントンっと僕の肩が叩かれるのでそちらを見る…
「ん、どうしたのマリー?」
「あれを見てみろ」
「ん…ほぅ……」
マリーの目線が女子寮の入り口を見ていたので目を向けると…常識の範囲外を超えていたので人なのか最初は分からなかった…それはあまりにも美しく、形容するのさえ躊躇する程の麗人がいた…見た感じは翼有人…だがそれ以外に見える…いうなら天使…目が奪われていると…
「あの人は二年上の先輩で、ナターシャ様だよ」
いつの間にか隣にリザが来て説明してくれる…
「綺麗だよね………私の聖法科の先輩なんだ。スぺリアム教国の教皇として選ばれる血筋を受け継いでて次期聖女の候補でもあるんだって」
「だからあんなに神々しいのか…失礼だけど、造形物なんじゃないかと思えるぐらいに綺麗だ………」
そんな神々しい麗人が従者を引き連れてこちらに近づいてくる。マリーが少し動揺し始める…
「おい、こっちに来たぞ!?」
「………」
リザが前に出て丁寧に挨拶をする…そうした後、一緒に近づいてくる…が、そのまま隣を通り過ぎる。近くで見ると息をするのも忘れてしまいそうだ…髪は金で出来ているように輝いて見える…純白の羽は光っているんじゃないかと思えるほどの白さで、少し青白くも見える…
「はは…とんでもない人もいたもんだな…」
「私は今、女神にあったと言っても嘘にはならないよな」
何やら僕たちが食べている物が気になり立ち寄ったようだ。余ったケーキをリザが皿によそって渡している。いつの間にか周りは静まりかえっていた…
僕はこれ以上見ていると目の毒にさえ思えてしうと考えて目をそらす…するとハーベスがいつの間にか横にいた。
「あの女神は人間主義の帝国側から見ても凄く綺麗だと思うよ…」
ゴルバス帝国は絶対的な人間主義…昔は亜人や獣人を奴隷やそれ以下として扱っていた。今は3ヶ国の協定を結ぶ際に取り決めとして条約で亜人と獣人の奴隷禁止令が発令された、それでも差別意識は根強く今も浸透したままらしい。
嵐の様な歓迎会が幕を閉じたのは日が傾く少し前だ。片づけをしている時にカトレアがまた来週もやろうとかぬかすので僕はさすがに断る。それに僕の方の材料も今回でカラになっている…いくら魔法で発酵食品を早く加工出来るといっても一カ月は必要になる…
片づけが終わり自分の部屋へと戻る前に、夕飯に残しておいた食べ物をブライスさんにおすそ分けする事にした。しかしブライスさんは留守らしく、ドアの前に書置きを残して自分の部屋へと戻る。
「はぁー疲れたーお腹もまだいっぱいだな…今日も図書館行け無かったな…しょうがないか約束だったし」
その日は寝る時間を早くしたので研究レポートを作成して終わってしまった…
この学校に入学してから1週間がほどなくたった…正直、授業は僕から見れば酷く初歩的な内容だったので今では受けているふりをして魔法を試作時間としている。
教卓の前で何やら教師が鞭をふるって説明しているのを横目に周りを確認。僕の横ではマリーが何やら授業の内容で唸って、リザは一生懸命にノートを取り、ハーベスは肘をついて眺めている。
目の前の試作魔法に目を落とし、思考の海へと回帰…
(結界をもう少し改良すればホログラムのモニターみたいに扱えると思うんだけどな…魔法にそこまでの命令系統を入れるにはどうすればいいんだ?もっと複雑にするのか…う~ん)
そんなこんなで悩んでいるとリザから何やら四角い物が回されて来た、どうやら授業の内容でこれを皆に回し見してもらっているようで…僕が手にしたそれは四角い箱、封印の魔法がかけられている…
(魔法で鍵がかけられてるのか…これを解呪すればいいのか…よっと…あれ?)
魔法を発動しても箱は空かない…それどころか先ほどの解呪方法と変化している…
(どうなってんだこれ………暗号化されてるのか…)
何度も解呪の魔法を繰り返すがその度に内容が書き換えられる。
(なるほど…ってこれは使えるかも!…結界の術式に組み込めばタッチパネルとして動かすことも可能になる…そうと決まれば)
より解析するために魔法を発動…僕の目にはこの箱に使われている魔法の仕組みが詳しく映し出される…先ほどまでの適当な解呪とは違う…それは鍵穴に合う鍵を探るのではなく、鍵穴そのものを分解してしまう手法。
僕の手の中でルービックキューブを回すように箱を回転させて紐解いていく…それにつれて分かり始める…
(この箱は最初からこういう意図で作られたのか?)
やがて…かちゃりと言う音が手の中で振動で伝わる…封印が解除されてしまった
(開いた…あれ?……開いちゃったな)
これが開くとどういう事になるのか確認するために教師に目を向けるが関係ない話が進んでいる…手がかりは無いかと後ろの黒板に目を向けると…
”運命の箱””絶対に開けられない””もし開けたら大変な事が””世界が崩壊”
物騒な内容が書かれている…僕の頬から汗が垂れる、持っている箱に目をやると隣から…
「セレクト、いい加減僕にもそれを渡してくれないか?」
ハーベスが物欲しそうに今まさに僕の手に持っている箱を渡せと言ってくる…すぐさま封印するすべく魔法を発動させ渡す…
「もう、早くしてくれよ」
「……はい」
何事も無かったかのようにハーベスに渡す…しかし気が付かなかった、急いで発動した魔法が失敗している事に…
「………」
僕は目の前の教師に顔を向けたまま隣のハーベスを意識する…
「………」
「………」
「………」
やがてわなわなと震えだすハーベス…なるべく冷静になりたいハーベスは教師にたずねる…
「…あ…あの…アースベルト先生…一つ質問が…」
「ん?何ですかハーベス・ランス・リロイ、私が話している最中ですよ」
「そ…その…この箱が開くと…世界が崩壊するとか本当なんですか……?」
少し泣き声に近い声になり始める…
「まぁ言い伝えですよ…でも大変な事が起きるのは確かなはずで。だから絶対に開けられないように大魔導士ギルアンが封印を施したのです」
「………あ…あいちゃ…アイチャイ」
「ん?何を言ってるんですか…もう」
教師がハーベスの近くへと来て箱を確かめる…そして口からこぼれるように…
「…あれ…開いて…」
ハーベスはもはや白目をむいてガクガクと震えている。
「開いてる!!」
教師の言葉で…
「「「………」」」
静まりかえる教室…そして誰かが…
「キャアアアアアアァァァ!」
悲鳴が上がった瞬間に教室中が大混乱に陥る。すぐさま逃げ場を求めて出入り口へと我先に殺到。
僕は隣で白目をむいているハーベスを抱きかかえて出口へと向かう。マリーはリザを抱きかかえて窓からすでに脱出していた。
「おい!早くしろ!」
「押すな!!」
「ハヤク!ハヤク!!ハヤク!!!」
「ああー逃げないとー」棒読み
隣のクラスも騒動を嗅ぎつけたのか急いで避難をし始める…
全校生徒が校内を出て校庭に避難…大変な騒動になってしまった。
その日はそのまま全校生徒が帰される事になる…大半の生徒は喜んでいが。
主犯格の僕も久しく図書館へと出向く…あの”運命の箱”について詳しく知るために。
箱の事について詳しく調べた結果…たいした事は無い事が分かった。それもそうだ、授業の一環であれ世界が滅ぶような物騒な物をおいそれと生徒に渡すはずが無い、そんな事は考えればすぐにわかる事だった。
次の日には何事も無かったかのように軽く朝礼で説明を受けて授業が始まった…そんな午前の授業の半ばあたり…
ドアの開く音と共に女教師が一人入ってきて呼び出しを食らう…呼び出されたのが、僕、マリー、リザ、ハーベスの四名…その女教師が言うには校長が僕たちを呼んでいるという。直ぐに昨日の事件が原因だと皆が皆分かった事だろう…
学校の上層へと向かうため長い階段を上っていく…マリー達に緊張が少し張り詰めていて無言だ。
そして校長室だと思われる扉の前にやってきた…
「例の4人をお連れしました…」
すると中から…
「入ってくれ」
少し透き通るような男性の声が聞こえる…
女教師が扉を開けすたすたと中に入ってしまう…
「さぁ、あなた達も入りなさい」
続いて校長室に入っていく。校長室は僕の好きな本の匂いが漂い、本棚には少しくたびれた本達が並んでいるのが見え、その上には先代の校長と思われる人の自画像が飾られている。あたりを確認する余裕もない三人をみてから校長と思わしき人の後姿に顔を戻す。
校長が振り返る…その男は若く、想像していた校長とだいぶ違う…というか始業式の日に挨拶していた人が校長だと思っていた…
「やぁ、はじめまして。私の名前ウェルキン・ルーン・ブランド・ギルアン・ボーンだ…覚えにくいだろ?僕もちゃんと覚えるのに何年もかかったよ…どうにも人間の世で長生きすると名前も長くなるようでね」
見た目は若いが、どうやらそうでもない発言をする…人間だと思っていたが違う、よくよく見ると耳が長く…以前読んだ亜人の内容を思い出す。
とても寿命が長く二千年生きる者もいるとかいないとか。そんな歴史と共に生きる亜人…エルフ。
普段はスぺリアム教国の”創世の大樹”と呼ばれる大きな木に住み着いていて、そこからは決して出てこないと言われている…
「君たちの名前も教えてもらってもいいかな?」
多分僕たちの名前は既に知っているだろう…じゃなきゃ呼び出しなんかされないし。きっと礼儀として聞いてくれているんだ。
そして右から順に…
「マリー・アトロットだ」
「私はリザイア・ルドロ・リリアスです」
「ハーベス・ランス・リロイであります!」
「セレクト・ヴェント…」
校長は考え込むようにしてから…
「そうかそうか…で、昨日この箱を開けたのは…?」
「「「………」」」
しばしの沈黙の後、ハーベスが…
「すみません、僕が開けてしまいました」
「なるほど、君が?」
「はい、回されてきた箱に手をかけたら…」
「すでに開いていたと…」
「…はい」
「ちなみに、だれから回されてきた?」
少し笑っているように僕を見ている…呼ばれた時点で多分ばれていた…
「おい!セレクト…いい加減にしろ。この中でそんな真似出来るのはお前ぐらいだろ?」
マリーがしびれを切らして僕に返答を求める。
「………はぁ、そうだね。ハーベスには悪い事をしたよ…ごめん」
「君って奴は…何で言ってくれないんだ?」
「その事は後でゆっくり二人で話してほしいかな…今はそうだな、どうやって開けたのか聞きたいな、話してくれる?」
ハーベスには本当に悪い事をしたので白状する…
「何処から説明しようか…封印の内容から説明するべきかな…」
僕はなるべく分かりやすいように話す…すべて話し終えた後。
まいったなといった顔でウェルキン校長が…
「やっぱり二人で話した方がよかったかな…」
とかいいやがった!
「ごめんね、君の本質をちゃんと見極めておきたかったんだ…それにしても今の内容はまずいなあ…」
今の内容でハーベスと女教師だけは理解したようで…
「セレクト…君って奴は…」
「こんな子供が…」
そして校長が言った何がまずいのか…それは現時点でこの箱の封印を解いた方法…そう鍵穴そのものを分解すると言う行程…それを僕と校長を除いて他4名が聞いていた事が問題だった。
何せ鍵穴を分解するといった工程は、現に使用されている封印魔法全般を解ける…どんなに厳重に保管し、幾重にも封印を掛けた金庫も開けられるという、とんでもない事になる…
「じゃー皆、今の話は他言無用で…もし話したら退学と幽閉せざるをえなくなるから」
「………」
さらっととんでもない事を言いやがった!
「はっはっは、冗談だ。そんなに緊張しないでくれ」
冗談じゃ流せないよ!
「他言無用ってのは本当だから…それじゃー本題に入ろうか」
だれもが今の会話が本題だと思っていたので、僕はすかさず。
「今から本題って…どういう事ですか?」
「ああ…この箱には校長だけに代々伝えられている事があるんだ…ギルアンって名前は知っているかな?今では称号として扱われるほどの大魔導士の名前なんだけど…」
机に置いてあった箱を手に持ってから話し始める。
「この箱には当時の大魔導士ギルアンが掛けた封印がしてあったんだけど…それには問題があってね、ギルアン本人もこの封印を解けなかったんだ。だから彼はこの箱の封印を解いた者に…彼の財産をすべて分け与えるっていう遺言を残してる」
「って…僕にですか?」
「そう、君にはその資格が与えられたんだ」
ハーベスやリザ、マリーまでもが興奮し始めた。コホンという女教師の咳で静まる。
「それで、君はどうする?セレクト・ヴェント君」
「僕は…あまりお金には興味ないです…それに資格が与えられた…それって他にも何かあるんじゃないですか?」
「はは、君は頭が良く回るね」
ヤルグと年がら年中嫌でも言葉遊びをさせられていたんだ…このぐらいなんでも無い。
「これは箱の中にあった紙だ…何かの魔法なんだろうけど、試しても何も発動しなかった。私は見ても分からなかったけど…君なら分かるんじゃないか?」
手紙を受け取り…その魔法の式を見る…その術式に書かれている問題箇所はすぐにわかったし、そこが暗号になっている事も分かった…
「もう理解してしまったようだね…さすが、サイファンが絶賛するわけだ」
サイファン…神父様の名前だ。
「これは暗号になっています…何かの名前ですかね…カノウラン・ティかな?」
「それでそれで!?」
「そこまでしかわかりません」
「じゃー調べて私の所に知らせてください」
「自分でやってください…」
「私はこう見えても忙しいんですよ?学園以外に商業区の方にも顔を出さないといけなかったり…」
「僕の知る所じゃありません」
「なら、ここは一つ…この学園の立ち入り禁止指定の通行許可証で手を打ちませんか?」
僕は固まる…喉から手が出そうな程の物に…
「それは…図書館の…」
「もちろん」
僕が言い終える前に言葉をかぶせられる…
「今なら、先ほどから気になっているこの部屋の書物も自由ですよ」
「ああ…ああ…」
言葉にならない…そしていつの間にか…
「で、まんまと言葉に乗せられたんだが…セレクト…私達も、もちろんそのギル…」
「ギルアン」
「そう、ギルアンの遺産探しを手伝っていいんだよな?」
マリーがわくわくしっぱなしで僕に尋ねる。
「やらないの?僕は一人でも探すけど…」
「もちろん参加するにきまっているだろう!」
「僕も混ぜてもらうよ」
「私も探したい!」
どうせだからみんなでワイワイ探す方が楽しいだろうし…手間もはぶける…それにこの手紙の暗号を見るからにギルアンは遊んでいる気がする、危険は無いはずだ。
「じゃー、まずは図書館からだな…」
「おいおい、町の中を捜索するんだろ?」
「マリー…この手のものはやみくもに探しても見つからないよ。まずは情報からだ」
そうして僕たちの初めての冒険が始まった…