15話 学園生活
図書館は朝晩関係なく年中無休でやっているらしい…そんなわけで僕は6日間にわたり図書館にこもり続けた…その間の食事の回数は3回ほどで睡眠時間は10時間にも満たない。
それだけの時間を費やしても置いてある蔵書十分の一も攻略できていない。
(この扉の構造はすごいなー…でもこれなら外せそうだなー………警報装置も付いてるのかー…なるほどなるほど…で鍵穴はどこかなー………)
僕は図書館地下にあるとても厳重に封印が施されている扉の前に来ていた…
「こらーそこで何やっとるか!」
振り向くと初老の白髪の爺さんがこちらに向かって歩いてくる。
「ここは許可証を持っていない者は立ち入り禁止じゃ!」
そういえばそんな立札があったな…
「ほれ若いの、こっちじゃ!」
しぶしぶ付いて行くとそのまま図書館から追い出されてしまった………
(あと少し見たかったな………やべっ明日は始業式だった!)
7日目にしてようやく安定した睡眠をとることを決める。
(書き写した呪文の解読して自然文字に直して。新しい魔法の構想もできたしから、あとは実用化にむけて微調整…それと魔剣の構造から何か作れそうだな…)
これからの研究の流れを考えながら帰路につく。すでに太陽は傾きかけている…
部屋の前までやってくると何か麻の袋がドアノブに引っ掛けてある、中身を確認すると制服が中に入っていた。適当に中身を物色しながら部屋に入り、それらの荷物を机の上に置くとすぐさま久しぶりのやわらかいベッドに倒れこむ…空腹も気になっていたが、あっという間に寝てしまった………
目が覚めた時は何時か分からない…どれくらい寝てたのだろう、外は暗いので夜なのは確かだ。ただ9時なのか12時なのか、それとも夜明け前の4時ぐらいなのか…外が静まりかえっているので多分12時は過ぎている。
そんな予想をしながら悩んでいると自分の体臭が気になり、すぐさま共同の風呂場に向かう。
初日に寮の中に風呂が有ることは分かっていた、下町の銭湯を絵に描いたような構造だが肝心な物がいくつか足りない…
(一般市民は風呂なんて無いのに…魔法学園だけの事は有るのか?)
なのに建物は酷く劣化してる…やはり風呂場もだいぶかび臭かった。
この寮にはブライスさんと僕だけなので使う人が居ない。最近使われた痕跡が無いのでブライスさんもまだ利用はしていないようだ。
(まぁ、これだけ汚れてるもんな…)
長い間放置された風呂場を僕は掃除から始めることにした。
小一時間ほど魔法で直しながら掃除をすることで新築同様の輝きを戻せた。
(さすが僕だな、後でシャワーとか蛇口を付け足しておくか………折角だこの寮を快適に改造してやろうか…)
不適に笑って見せたが一人なうえに時間が時間なので直ぐにお湯を張り、風呂を済ませる。
そそくさと部屋に戻ると次は急激な空腹に襲われる。
(今何時だろう…まぁいいか。これでも食べておくか)
鞄から取り出したのは例の物…この簡易魔法食品はかなり便利だ、この6日間これに助けられた。コレが有るだけで3ヶ月は旅が出来るだろう…僕はすぐさま空腹を満たす。スープの内容は変化を楽しめるので、なかなかに飽きない。
(我ながら、万能なアイテムを作ってしまった…)
一人でキャラを作ってみたが虚しくなるだけだった…
気がつけば外は明るくなりだしていた…夜明け前だったらしい。朝食を待てばよかったかと自問したが、空腹は待ってくれない。
朝を知らせる鐘が鳴るまでの間に僕は呪文とそれらの内容をメモしたノートに目を通し。昨晩机の上に放置した制服に着替える事にした。茶色ずくめの服には軽く刺繍がしてある
「ズボンにブレザー…マント?」
朝を知らせる鐘が鳴る…軽い眠気に襲われたがたいしたことは無い。
あくびを手で抑えながら部屋を後にする。
制服に挟まれてあった予定らしきメモ用紙を片手にまず食堂に向かう。予定では朝食を取りながらの始業式だ。
食堂にやってくるまでに色々な制服を着た学生達を目にする。多少この学園の事も調べておいた事を思い出しながら周りを見る…この制服はどうやら学年や国、身分といった事で変わるらしいのだ。
セプタニア出身は茶色、帝国は黒、教国は白、他に赤い制服がある…それは魔法学園の出身の者だ。
魔法学園アルデバランに永住している人は沢山居る。たとえば学園の創設に関わった子孫…魔法研究の為に身をおく者、他国の人間と恋愛の果てにここに流れ着く者…と、様々な理由がある。
色取り取りの学生達を見ながら、食堂までやってきた…
(マリーとリザは見当たらない…か)
待ち合わせをしていたわけではないので、会えずに適当な席に着く。
すでに朝食の準備が出来ていた、目の前の朝食とは思えないような肉やら何やらが置いてある…
(朝には重いな…さっき食べたし控えめにしておこう………)
全校生徒は千人ほどだ。全体的に赤の割合が多い気がする。
食事の前に学園の責任者と思わしき人物が専用の教卓で挨拶を始める。
最初は手短にと言っていたが、かれこれ20分ほど話が続いた。
ようやく話の終盤になり新入生に向けた挨拶を終え、やっと朝食にありつけた。
(うわぁ…この鶏肉冷めちゃってる…)
手元で小さく魔法を使うと肉がまたおいしそうな匂いと熱を戻す。
自作した魔法の一つだ。両手で軽く添えてその間の物体の電子の動きをコントロールする、逆に電子を止める事も可能なので冷凍にも応用が利く。
朝食を食べ終えたところで周りの生徒が雑談を始める。
こいつ誰?と、いった目線が向けられている気がするが自前の空間を作ることで回避する。ボッチとか言うな!
一人で虚しく心の中で突っ込んでみるが返事は返ってこない…
息苦しい時間は鐘の音と共に解消された。
学生達が各々に教室へと向かう、皆は分かっている分に移動が早い。
食堂から出て行く人ごみの中にリザの特徴的な銀色の髪が見えた気がした…ちらちらと見えるリザの後を追いかけつつ手元の紙に書いてある教室を目指す。ある程度の人間が枝分かれしていき分散する。するとリザの後姿がはっきりと見えた、その隣にはマリーも居る。とある教室の前でマリーとリザが止まり、あたりを見回していると僕と目が合った。
「あ、おはよう」
「おはようじゃない!お前は7日間ずっと何処に居たんだ!」
「図書館だけど?」
「7日間ずっと……か?」
「うん」
「………」
後半は怒りが諦に変わる様に見えた。しかし、マリーのスカート姿を今まで想像した事が無かった…まじまじとマリーを見てしまう。健康的な体…腰とスラリと伸びた足は丁度いい感じに引き締まっているのは日ごろの鍛錬のおかげだろう。長く伸びた赤いブロンドの髪は後ろで束ねてある。
「ん…なんだ?…くっ!そんなに見るな!」
「いやー、マリーもそんな事で恥ずかしがるんだなー」
………このスカートは短すぎないか?
対してリザは特に怒っていない様子だ…あたりを見回した後に手元の案内の紙を見る。
「この教室だな…リザもこの教室なのか?」
「そうじゃない?」
何故かにっこりと疑問系で返された…撤回しよう、リザはとても怒っていらっしゃる。
どうやってリザをなだめようか考えていると。リザはそんな僕を見て少しだけ表情を崩した。今のやり取りで許してくれたようだ。
僕とマリーは顔を見合わせて気合を入れる、これから僕達の本当の新しい生活が始まる…そんな気がしたのは僕だけじゃないはずで、隣を見るとマリーも緊張している。
リザを先頭に教室に入る。もうすでに席は半分以上の人で埋まっている…教室は扇状に作られていて大学を思い出す。席は決められておらず適当に開いている席に座る。
順番は、マリー、リザ、僕…そして腰を席に着けると僕の隣にもう一人誰かが座る。コレだけ広いのに自分の隣に座る奴は誰だろうと目を向けると。黒い制服を着た人物が不服そうに僕を見てくる。
完全に僕の記憶には無い…そういう事にしておこうと思ったが、男が話しかけてきた。
「君達はミス・リザイアとどういう関係なんだ?」
「えーと…誰だっけ?」
「…んっ!くっ僕はあの時酷くプライドを…」
「ああ、思い出した!気持ち悪い男な?」
僕の一言で気持ち悪い男の思考が何処かに飛んでいってしまう…黒い服が白く見えたのは僕の気のせいだろうか。
そんな事を無視してマリーとリザに向き直り話していると教室に教師が入ってくる。黒いローブを羽織った姿は魔術師そのもので、年は30代前半だろうか。この世界では珍い漆黒の髪をはやしている。この世界でこれほど黒い髪は見たことが無い気がする。多少黒でも茶色に近かったりしたのは居たが…
「おはようございます、皆さんお久しぶりです、初めての方も居ますね…」
温厚な口調でしゃべり始めた。
「えーと、マリー・アトロットさんとセレクト・ヴェント君ですね。自己紹介をお願いします」
その場で先に呼ばれたマリーが自己紹介をする。
「マリー・アトロットだ。よろしく」
それだいけ言うとその場に座る………おい!先生が困惑してるじゃないか!
「………あれ?…うーん…じゃー次に」
マリーの威圧に負けて僕に振られた…
「あー、セレクト・ヴェント。専攻は錬金です。さっきのそっけないマリーとはリリアから来ました。こちらのリザとは同郷で友達です。とまぁ、こんなところです。よろしく」
教師は僕の自己紹介で満足してくれた。
後は適当にホームルームを終えて、これから夏までの授業予定を教えられた。
基本的に午前中は、基礎体力と魔法の向上それと歴史と宗教学を日替わりで学び、午後からは専攻した分野の鍛錬。と、簡単な内容になっている。
教師が午後までは自由時間だといい終えた後、何か用事があるのか教室から出て行ってしまった。扉が閉まる音と同時に僕たちのそばに人が群がる。
その中の栗色のショートへアの女子が僕とマリーを交互に見た後…
「ねぇねぇあなた達って恋人どうしなの?」
一発目の質問からとんでもない事を聞かれ三人は別々の反応をする。
セレクトは飲み物を飲んでいたらきっと鼻から噴き出していたであろうリアクションを…
リザは片方の眉をピクリと動かしただけで笑顔のまま固まっている…
マリーは何でそんな事を聞くのか分からないといった感じだ…
「何処をどう見たら恋人に見えるのさ…」
僕は少し呆れた感じで聞き返すと、その女の子は少し考えるしぐさおした後。
「女の勘?」
「聞き返されても分からないよ…」
「だって男女二人で、見た感じ…平民でしょ?」
平民という言葉に引っ掛かりを感じたが彼女は悪意をもって言っている訳じゃなく純粋に区別として使用している気がした…
「まぁ、平民だけど…それで何で恋人同士だと思ったのさ」
「だって、この学校って学費が凄く高いのよ?それこそ一般市民が払えるような額じゃなくて…」
「そうだな…僕はあまり言いたくないけど、推薦状をもらってここに来たんだ」
それを言うと周りから小さく驚きの声が聞こえた。
「だからお金はかかってない…まぁそっちのマリーは入学費払ったけどね」
「へぇ…どうやって?」
「それはその……僕が立て替えた…」
すると疑問がまた増える。そして質問してきていた女の子はそこで素の反応が出てしまう。
「え、何で?」
「何でって聞かれても…僕もわからないよ…なんでそんな事をしたのか僕自身も聞きたいよ……」
言っていてなんだか悲しくなってくるのは何でだろう…
「じゃーやっぱり二人は恋人同士ってことね!」
「ならないよ!こいつとはただの腐れ縁、幼馴染!」
目を輝かせて聞いてきたので全力で否定する。
「てへっ!」
「………」
僕は何だか会話するのが疲れてきた…横目でマリーを見てみると腕を組んでうんうんとうなずく仕草をしている。
そしてそこでマリーは…
「訂正させてくれ、セレクトは私の子分だ」
めんどくさーい!すごくめんどくさいぞこの女は!話が明後日の方向に飛んでいくのが見える…
「え!なにそれ…どういう事!」
目を輝かせてそんな事聞かないで…無視してください、お願いします。
そこからはかみ合っているのかいないのか分からない会話が続き、僕は途中から会話を放棄し机に突っ伏す状態になる。そして何でこんな会話になったのか考えてみる…
(何でこの子は最初にあんな質問したのだろうか…あ、僕たちの関係を見るため…だとしたらとんでもないぞ!僕はどんな反応をした?リザやマリーは!?)
考える度に頭と心が重くなっていく…わかるのは主導権を握られたんじゃないかと言う事…彼女が面白く可笑しい方面へと転んでいく事態…
そんな状態を打開してくれたのはリザだった。
「もう、その辺でいいよね?」
「え、まだ聞きたいことが…」
「カトレア」
「…っう」
女の子の名前はカトレアと言うらしい…そんな事はどうでもいい!今の現状が打開したのだ…でもリザが妙に迫力がある事に少し驚いたが…
各々で自己紹介を終え多ところで―――昼の鐘が鳴り響く、午前の授業が終了した合図と昼食を知らせる鐘。
僕たちに群がっていた生徒たちは急ぐように教室から出て行ってしまった。そしてこの場に残ったのは僕と少し不機嫌なリザ、お腹が空かせたマリー、僕たちに興味津々なカトレア………後は僕の隣で白くなっている男子。
カトレアが提案してきた。
「せっかくだしお昼は一緒に食べない?」
僕たちは拒む理由もないので了解する…すると
「それなら僕に任せてくれないかい?」
いつの間にか黒色に戻っている男が言い出す。
「そんなに嫌な顔をしないでほしいなぁ…」
マリーはともかくリザが嫌そうなオーラを放つ、カトレアは何処か面白そうにしている。
何だか僕はこいつが少し不憫に感じた…
「何か食べたい物があれば行ってくれ」
「肉が美味しい店がいいな!」
マリーが即答する。もう少しみんなの意見を聞いてからにして欲しかったがリザとカトレアは何処でもいいらしいのでマリーに合わせてくれた。
校内を出ての食事なので少し歩く、道中忘れていたことを思い出したかの様に…
「そういえば僕の自己紹介がまだだったね、僕はゴルバス帝国の五本の指に数えられる程の名家出でね、リロイ家のハーベス・ランス・リロイと言うのは僕の事さ。親しみを込めてハーベス様と呼んでくれればいい」
「はいはい、末っ子ってところも付け加えとかないとね」
「ちょ、カトレア!なんで君はそう一々突っかかるんだい」
「帝国の人って見ていて恥ずかしいのよ…あなたみたいに聞いてもいない自慢話や武勇伝?話し始めるし」
「なっ!僕はいいけど祖国の悪口は許さないぞ!」
「へぇ~…じゃーあなたの事は悪く言ってもいいのね?いい事聞いちゃった!」
「そういう事じゃなくて!!」
そんな問答は昼食を済ませるまで続いた。
「ふー、味はそこそこだったな。あとは量が少なすぎる…」
「まぁ、あのぐらいが普通だと思うよ?マリーは期待し過ぎだよ」
「何を言っている…セレクトが同じ材料で作ったら百倍は美味いぞ」
「はは、ありがと」
そんな会話を聞いていたカトレアが。
「え、セレクトって料理できるの?」
「まぁね…」
するとリザが。
「私も久しぶりにセレクトが作ったケーキ食べたいな!」
「ああ、また作るよ」
カトレアがまた食いついてくる。
「ケーキ?今ケーキって言った!?今はやりの貴族や富豪の間で話題になってる甘菓子の!?」
「あれ、言わなかった?」
「リリア考案で作られたって事しか知らないよ」
「言ってなかったか…ちなみにケーキを作ったのもセレクトだよ…ね?」
「え?…ああ…まぁそういうことになるかなー」
確かに僕がこの世界で初めて作ったと言えばそうだ…すこしいたたまれない気持ちになる…
カトレアの中で僕達への興味がさらに湧くのが目に見える。もちろんその後は僕が料理を作るという流れになったのは言うまでもないわけで……
「じゃー今度の休日にって事でいいよね?」
―――鐘の音がなる。午後の授業の合図…
「あ、もうこんな時間か…じゃーこの辺でお別れかな?」
午後からは専攻した学科に移動になる。よってマリーやリザとはここでお別れだ。
「マリーは剣術科だよね、場所は前に教えた訓練場だよ」
「ああ、私は大丈夫だ。では行ってくる」
「僕も大丈夫だよ…じゃー……また明日になっちゃうかな?」
別れた後は迷路のような校内を歩き目的の錬金科に移動する…
「………あの、何でついてくるの?」
真後ろにハーベスがついてきていた。
「君と同じ僕も錬金科に行くんだよ、まぁ僕は剣術科や魔法科も掛け持ってるんだけどね」
「ほぅ、そんなに掛け持ってて両立できるのか?」
「僕は平民とは違うのさ、貴族だからね」
「んー、そうか」
「まるで興味がなさそうだね…」
こいつは貴族をするために努力はしているようだ…
錬金科の部屋の前に来るとハーベスが先に入る、つられて僕も部屋の中へ…
部屋を見渡す…最初に目についたのは人の少なさ、実験のテーブルの数は限られた台しかないように見えるのに、それらも余ってしまっている。ハーベスは自分の定位置テーブルについて何やら紙を広げている…僕はとりあえず教師を見つけ話しかける。
「あのーすいません。こちらの錬金科に入ろうと思って来たんですけど…」
「ん?」
振り返った顔は見覚えがあった…特殊技能試験で審査員をしていた人だ。
「君か~やっと来たね、待ってたよ」
「待ってた?」
「君みたいな優秀な子が錬金科に入ってもらえるのがとても嬉しくてね」
優秀と言われて少し嬉しくなるが…試験で作った鈍のナイフでこんなに評価を受けるのは心苦しい所があった。なぜかと言えば、やろうと思えば空気中からダイヤモンドを生成するだけの力量を隠しているという事実が僕に罪悪感を与えるからだ。
教師から一通り説明を受ける。
この錬金科での授業は基本的に分からない事を教師に聞く、後は独自に研究を重ねて月一回発表会なるものを実施、そしてこの教師と他2名を加えた教師で採点をして単位を貰うという内容だった。
僕は説明を受け終えてから適当な席を探していた…
「こっちの席が空いているよ?」
ハーベスに誘われる、他にも空いている席はいっぱいあったが、誘われては仕方がないので隣の席に座る。
「………」
席に座ってみたもののやる事が無い…周りを見渡してみると他の生徒達はグループを作って研究をしているようだ。
ハーベスを見る、こいつは一人だけだ…何やらメモ用紙とにらめっこをしている。
「ハーベスはどんな錬金をテーマにやってるんだ?」
「ん?ああ、見てみるかい?…それと今後はハーベス様と呼んでくれないかい平民君」
「ありがとなハーベス」
「………」
何かつまらない事を言っていた様だが無視してメモを受け取る。
内容をはいたって真面目な事が書かれていた…
「平民には理解しがたい内容だろうね」
「僕の名前はセレクト・ヴェントだ…これは風景をそのままコピー出来ないかって事でいいんだよな?」
「あ…ああ」
「そうだな…じゃあまずは僕達が何時もしている”見る”と言った事から教えよう………」
最初は何処か腑に落ちない態度で僕の話を聞いていたハーベスだが、話の内容が濃くなるにつれて真面目に聞き始める。
「まぁこれが”見る”という構造になるわけだが…分かった?」
「………セレクト、君の話はとても面白い…だが証拠を見せてもらわないと納得が出来ないな…」
「どれを取って証拠と言っていいのか分からないけど…試しに作ってみようか」
僕の知りえる知識を集めて科学的に写真を撮る事は出来る…しかしそれではつまらない。僕がしたいのは魔法の研究なのだ。ただ普通にカメラを作っても魔法で再現できなければ意味がない。したがって魔法寄りのカメラを作る事になる。
「こんな感じかな?」
箱に穴が開いている物が出来上がる…
構造は理解してるので後は組み立てるだけだった。難しかったのは魔法の術式で自然文字を分からないように組み立てる事ぐらい。
「これがそうなのかい?にしても見た事のない魔法の式だったけど………」
「試してみようか」
この箱の中に一枚の魔法が書かれた紙が入っている、ボタンを押すと魔力が込められて光の粒子をとらえ紙に模写する…といった簡易的な仕掛け。実際にボタンを押してもカメラの機械的な音はならず魔法を発動した時の発光現象が起きる。
「今ので出来たのかい?」
中から先ほどの紙を取り出す…
「何だかもやがかかっている様に見えるね…」
「最初からは上手くいかないな…シャッターも作らないとダメか…それと穴の調整も加えてレンズも追加しないとな…」
材料が足らなすぎる…外を見えると夕焼け色に染まっている。他の生徒たちはすでに帰宅していて教室には僕達だけになっていた…
「明日は素材集めだな…」
「セレクト、君はすごいな…今日一日だけでここまで作り上げてしまって、僕は見ているだけだったし………」
「ハーベスだってちゃんと僕の言う事を理解してるだけ凄いぞ」
理解出来なくて根本から否定するやつだったら僕も早急に諦めていたが、こいつは僕のやっている事を理解しようと何度も質問して来た…
「そうだな、レポートはハーベスがまとめるって事で、分からない事は聞いてくれ」
「僕が作成するのかい?」
「何もしてないと思うなら、原理ぐらいちゃんと理解してもらわないとね」
そんなこんなで役割が決まる。
僕達は校内から出て寮へと向かう…
「じゃー、また明日なハーベス」
「え…ああ…また明日…セレクト」
なぜだか別れの挨拶で少しハーベスは困惑していたようだ…
自分の部屋へと戻ってきた…
「あー図書館に行けなかったな今日は…とりあえず今ある資料をかたずけないと…」
一人ごとを口に出して机の前までやってくる…
「と…その前にご飯と風呂を済ませなきゃな…って材料買ってないじゃん!」
僕は急いで夕食の材料の買出しに町に出かけていくのであった。