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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第2章――
10/59

10話 別れは何時も寂しく…

 まだ冬の寒さも残る季節、より一層と寒くなる明け方、暖かい布団の中で僕は起きる。

 寝癖の付いた頭を掻きながら再度、布団のぬくもりに身を投じたくなる。でも、そんなわけにはいかない。

 ラフな格好に着替え、歯を磨く。母さんたちはまだ起きて来ないので、朝食の準備を済ませてしまう。

 そして、いつものマリー達との待ち合わせ場所に行く。かれこれ、こんな毎日を6年続けてきた。僕は13歳。町にもだいぶなれ、もう故郷と呼んで差し支えない。


 走りながら噴水を横切ると、マリーが後ろから追いかけて来た。この5年でマリーは髪を伸ばし。綺麗な赤味が加わったブロンドヘアーを今は首の後ろで結び、それが走るたびにゆれている。出る処はまだ出ていないおかげで目を奪われる事はない。

 マリーに気を取られてたていると、いつの間にか隣に並走するように走る影、ガイアスだ。

 ガイアスもだいぶ成長した。何時もマリーの後ろをくっ付いている印象が会ったが、今ではマリーと良きライバルになっている。



 朝の走り込みも終わり、朝食を取った後、また特訓。

 今日は剣術の特殊訓練。



 場所は変わり―――ここは薄暗く、狭い通路。人が一人歩ける程しかない。


「今日の訓練はこの細い通路での模擬戦をしてもらう」

「こんな所で戦うのか?」

「そう、戦いでは場所は選べない。もし仮に細い通路で挟み撃ちになったら勝ち目は無いだろ」

「そうだな。身動きも取りづらいし、剣なんて振り回せない」

「とりあえず自分達なりに戦ってみてよ」


 戦闘が始まる。不慣れながら木刀を振り回す。

 攻防を見ながらアドバイスをしていると、後ろから声を掛けられた。


「そこはもう少し踏み込んで伸ばすように撃つんだ」

「セレトンはここで何をしているのかな?」


 話しかけてきたのはヤルグ…誰がセレトンだ!


「狭い通路での模擬戦。それと、変な呼び名を付けないでください」

「うーん、ここは仕事場でも有り。僕の家なんだけどな」

「そんな事が言いたくて、話をかけたんですか?」

「それもそうだね。奥に来て貰おうか」


 ヤルグは部屋に戻ろうと、扉に手をかける。僕は二人に、訓練を続けるように伝える。


「じゃー、ヤルグが僕に話があるみたいだから。二人でとりあえずやってて」

「続けるんだ…」


 何かヤルグがぼやいた様だがどうでもいい。


 部屋に入ると。ヤルグが趣味で集めている民芸品が目に入る。


(また民芸品ゴミが増えてるな…)

「さーてと、本題に入ろう」

「どうせ商売の話でしょ」

「セレトンは話が早くてとっても僕は嬉しいよ」

「で?」

「ずっと前さ、船を爆破したの覚えてるよね。もうそろそろ教えて欲しいなー…なんて」


 ヤルグが言っているのは、大海蛇シーサーペントをやっつけた際、船に積んでいた火薬の事だ。


「それは前に話したでしょ。武器に転用の恐れが有る魔法は教えないって」


 船を爆破したのは魔法でなく火薬だが、誤解をしていれば好都合、こいつには絶対に内所だ。


「そんなー、発掘とかにすごく役立ちそうじゃん」

「………」


 僕は知っている。前の世界で火薬がもたらした悲劇を。たしかに発掘や建物の破壊等にも使われたが。同時に世界を混乱に陥れた。


「分かったよ…じゃーこっちの資料の事何だけど」

「……なっ!」

「とても難解な言葉で書かれてて、分からないよ…」


 それは僕が日本語で書いた資料。日本語という言葉は暗号としては便利で、文体の中に漢字、ひらがな、カタカナ、英語、アラビア数字を色々な表現で取り入れられる。もちろんこの世界に日本語など存在しない。それ故に解読不可能な暗号になる。


「5分の1ぐらいは、解読出来たんだけど」

「解読するな。何のための暗号だよ」


 そういって奪い返す。


「えー」

「あんたが盗み見ると思ってそうしたの!」

「ケチー」

「うるさい。第一、僕はちゃんとお金になる様な事はちゃんと教えてるよね?」

「この、チーズとかワインとかパンの事?」


 僕は食品関係なら問題ないと思い。自分自身にも利益がある事を教えていた。現に町は儲かっているし、移住してくる人の数が増えた。それなのにこの男はまだ儲けたいと言う。


「だって手間が掛かるんだもん」

「それ以上言うと協力しませんよ」

「えーそん…」


 ヤルグ言いかけた所で、扉に木刀が刺さる。外からマリー達の声が聞こえる。ナイスだマリー!!


「はぁ、分かったよ。本当に君は頑固だな」

「あなたが、自重しないからです」


 僕は扉を開けて、マリー達の下へ戻る。扉に穴を開けた事で怒られるんじゃないかと、怯えている。


「場所を移そう」

「えー、楽しくなって来たのに」

「ここじゃなくても、他の場所で出来るよ」


 扉の向こうから大きな溜め息が聞こえた気がした。



 さも、当たり前な毎日。

 何時ものように、リザの家で特訓をしようと集まった。


「今日の特訓は…」

「ちょっと、待って」


 僕が言い終わる前にリザが皆を呼び止める。皆の視線がリザに集まる。


「大事な話があるの」

「どうした?」



 場所が変わり。リザの部屋…空気がすこし変わる。


「………」

「ん?」

「私…学校に行くの。来週から…」

「それは良かったじゃないか!」


 マリーやガイアスが満面の笑みで喜ぶつられてフェリアも喜んでいる。しかし、唯一僕だけは理解した…


「………」

「で、何所の学校だ?」

「共同国立魔法学園…」

「それは遠いのか?それでも私は会いに行くぞ」


 共同国立の魔法学園…これはここリリアが所属する国。セプタニア王国。他、北西に位地するゴルバス帝国、南西に位地するスペリアム教国。これらの三カ国が共同で建てた学園。その歴史は長く1000年に及ぶ。なぜそのような学園があるのか…それは度々出現する魔王という存在があったからである。魔王は出現するたびに膨大な被害を出す。そのことを恐れた国々が魔王の早期排除を目的として建てた。その為、如何なる国の軍事介入も許されない。

 場所は…これらの三ヵ国の丁度、接点になっている場所にある。ちょっとやそっとで行ける距離では無い。会いに行こうにも、行けない。

 行けたとしても特殊な行路で行く為、膨大なお金が必要になる。

 様々な問題が浮上して…結果的に。


「ごめん、マリーちゃんにはなるべく早く言おうと思ったんだけど。いい出せなくて」

「………」

「あの、でも、夏には少しだけでも帰って来れるし……」


 マリーは少し溜めてから、呟くように言った。


「…リザは親友と思っていた。リザは私が居なくても、大丈夫だったんだな」

「あ!」


 リザが何か言おうとする前に、マリーは部屋を出て行ってしまった。頬には涙が見えた気がした。

 やれやれと思い。リザに顔を向け心に話しかける。


(追いかる。フェリアを頼む)

(うん…)

「ガイアス、マリーを追うぞ」

「え、あ、うん」


 僕はガイアスを連れて外に出る。


 意外とすぐに見つかった。待ち合わせの何時もの噴水。マリーは腰掛けていた。


「マリー…」

「分かってる。私は我が儘を言ってる。ここは喜んで送らなきゃ行けないのに」


 下を向いたまま僕に問いかけてくる。


「なら、なんで」


 顔を上げて、涙を溜めた目で訴えてきた。


「それだったら、もう少し前でも良かったじゃないか。それなのに一週間前だとか」

「それは、色々事情があったんだろ…本人も言ってたじゃないか」


 一歩僕は前に出て、マリーの肩に手を置く。


「そこまで分かってるならさ、リザの事を思ってやれよ。こうなる事が怖かったんだろ…多分…マリーの悲しい顔とかさ」


 しばしの沈黙…


「………私は馬鹿だ」

「知ってる」


 若干睨むように見てくる。彼女なりに整理が付いたようだ。


 それから、一週間。特訓はせずにリザと思いっきり遊んで過ごした。




「夏はちゃんと帰って来るんだぞ」

「うん」


 リザと別れの日。皆で見送るために、町の北西の門に来ている。


(セレクト、マリーちゃんをよろしくね)

(ああ)

「マリーちゃん、私諦めてないから」

「何の事だ?」

「何でもない」


 リザが小さくガッツポーズをしている。

 そして時間になり。最後の最後まで別れを惜しんだ後…馬車を見送った。

 リザを乗せた馬車が見えなくなるまで。手を振る僕達。


「リザぁぁ…リザぁ!」


 マリーが途中から我慢が出来なくなって泣いていた。


 数日の間、マリーは気分が沈んでいたのは言うまでもない。


 寂しくも、リザが居ない毎日が普通になる。


 マリーは、リザから送られてくる手紙を喜んで僕に見せてくれるが。僕にも同じ手紙が届いてる事は知らない。だって、折角喜んでるんだもん…


 夏にはもちろんリザは帰って来た。その際、僕たちは。大きなサプライズを用意した。


 そんな楽しい夏も終わると。リザは学園に帰ってしまう。そして沈むマリー。


 その後は何事も無く秋を向かえ、冬になる。僕は14歳になり、気が付けば春になっていた。

 そんな、過ぎていく時間の中で僕にも転機が訪れる。




 過ごしやすい、暖かさが続いた日。何時もの様に特訓を終えて自宅に帰る…

 家の中から珍しく母さん達の笑い声が聞こえる。お客さんが来ている様だ。


「ただいまー」

「セレクト。こっちへ来なさい」


 居間に入ると。母さんと父さん、それと神父様が居た。


「あ、神父様!」

「やぁ、セレクトくん久しぶりだね。全然会いに来てくれないから来ちゃったよ」

「すいません、色々忙しくて」

「でも、そんな君に朗報がある」


 神父様は懐から何か手紙を出した。だいぶ大きい。


「とある知人に君の事を話したら。是非にと送ってくれたんだ」

「僕の事?」


 神父様が僕の耳元で小さく囁く。


「大丈夫。自然文字の事は伏せておいたから」

「ああ、はい。でコレは何ですか?」


 神父が直り、手紙を広げて僕に告げる。


「セレクト・ヴェント。君は優秀な頭脳と功績を称え。我が、共同国立魔法学園の入学を許可する」

「「「え…ええ!!」」」


 母さん達も初めて知らされたようで、一緒に驚いていた。


「で、でも神父様、確かお金が凄く掛かるんじゃ」

「大丈夫、この手紙はそれらを全部、免除してくれる物ですから」

「…」

「で、どうするセレクト君」


 僕は俯いて悩んだ後に。


「少し待ってもらってもいいですか?」

「君にも何か思う所が有るんだね。大丈夫、急ぎの話じゃないから。ただ、学園にはこの世の記された魔法が全部在ると言われる位の図書館があるとだけ言っておくよ」


 神父様は卑怯だ。僕の迷いが傾くのを知っている。今まさに頭に描かれる図書館。きっとそこには、僕の気付いてない法則の魔法も在るだろう。それを考えると居ても立っても居られなくなる。しかし、その感情を押しとどめるとマリーの悲しげな顔が浮かんだ。

 僕は手の平を強く握る。


 神父は「また来ます」と、言って帰って行った。

 そして残された僕はマリー達にする言い訳を考えて次の日を迎える事となった。



「すっげー料理」

「コレ食べていいの」

「………」

「じゃんじゃん食べてくれ」


 ガイアスとフェリアが目の色を変えて料理を食べる。自分なりにアレンジしたピザや、昨晩から煮込んで作ったビーフシチュー、他にも色々。しかし、マリーだけは手を付けない。


(やばい、感付かれたかも。まぁ、どうせ話さなきゃ行けなかったんだしなぁ…)

「…セレクト、何か隠してないか?」


 ガイアスとフェリアが食べるのをやめてこちらを見てくる。


「いや、その…」


 僕は昨日、神父が来た事、学校の事を話した。


「それで、どうするんだ…セレクトは」


 そんな目で見ないでくれ、決心が揺らぐ。それでも意を決して言う。


「行こうと思う」


 数秒の空白になる時間、


「………っまえ」

「ん」

「行っちまえ!何所にでも行っちまえ!私を置いて皆、何処か行っちゃえ!!」


 マリーは逃げるように僕の家から出て行った。後を追ってガイアスも出て行く。フェリアはおどおどしながら、僕の顔とマリー達が出て行った扉を見比べてから。マリー達を追って飛び出していく。フェリアが出て行く際”何でそんな事言うの”と、いう顔をしていた。



「ただいまー…ってすごい料理!何かあったの」

「かぁさん…」


 僕の様子を見て察してくれたようだ。近くに来て僕の顔を見つめる。


「お別れはしたの?」

「上手く出来なかった…」

「そう、セレクトは強い子ね」


 そういって、やさしく抱きしめてくれた。

 僕も出来るなら離れたくない。マリー達の毎日が楽しく無かったと言えば大嘘吐きになる。楽しかった、心の底からそう思える。だから僕も今も悲しんでいるのだ。



 あれから、何日かたつ。マリーは現れなかったがガイアスが来た。


「やっぱりここにも居ない」

「どうした?」

「マリーが町に居ないんだ。昨日から」

「え…」

「で、変な噂が立ってる…何でも俺等と年が変わらない女の子が傭兵ギルドで依頼を受けてたって」


 それを聞いた瞬間に僕は走り出していた。ガイアスも必死に追いかけてくる。


 まず、最初に向かったのは傭兵ギルド。

 情報を聞き出す…たしかに、僕達と年が変わらない女の子が来たらしい。子供は依頼を受けられないと断ったらしいのだが。その場で茶々を入れてきた傭兵の一人をやっつけ、その傭兵の変わりに傭兵団に加り、町の正門に向かったらしい。

 僕は急いで正門に向かった。ガイアスが苦しそうだったがそんな事には構っていられない。


 正門にたどり着き、門番の警備団員に話しかけた。

 しかし、警備団員は子供は見て無いと言いう、それに居たら絶対に止めているはずだとも言っていた。

 多分だが何処かに隠れて出て行ったのだ。マリーならそのぐらい出来る。

 僕がそのまま町の外に出ようとしたら止められた。当たり前だ、子供なのだから。

 僕は踵を返しある所に向かう。もしかしたら見間違いかもしれない。実は家に居て、引き籠ってるのだけなのかも知れない、一握りの可能性を胸にマリーの家へ向かう。



 ―――場所は鍛冶屋の前、マリーの家。

 中に入り、金槌で鉄を鍛えているマリーのおじさんに話しかける。


「すみません、マリー居ますか」

「マリーだぁ?そんな奴は家に居ない。人様の剣を勝手に持ち出すような奴は知らん!」


 確信へと変わる。マリーはギルドで依頼を受けて、出て行ったのだ。

 依頼の内容を思い出す。


(たしか、オーク退治だったな。マリーが強いのは確かだから、大丈夫なはずだけど…)


 もし、無事に帰ってくれば。明日には町に戻ってくるはず。






「………」


 次の日…僕はマリーの家の前で待つ事にした。やがて太陽が天高くに昇り…今度は下り始める。


「………」

「あー、そんな辛気臭ぇ顔して店の前に立たれちゃ、売れるもんも売れねぇよ」

「………」

「ほら、ずっと立ってるだろ、中に入って座れ」


 そう言って店の中に入るように言われた。マリーのおじさんは又、鉄を鍛え始める。僕はたまらなくなって…


「…マリーの事は心配じゃないんですか?」

「ああ?心配に決まってんだろ。でもなぁ、心配したってどうしようもならねぇ。あいつを心配してたら、こっちの身が持たないんだよ。お前もよく知ってんだろ?」


 マリーの叔父さんも心配をしている。よく見れば何度も同じ鉄を鍛えている。


「………はい」

「でもよう。あいつはそんな人が心配してるのを横目に笑うんだ、憎ったらしい程にな。でも、そん笑顔を見てると何でか許しちまうんだよな。不思議に」


 僕もあの笑顔が見たくて助けていた気がする。


「分かります」

「だからよぉ、お前あいつを見ていてやってくれねぇか?」


 だからと言って、これ以上付き合うのも可笑しい。僕の選択した人生だ。僕が好きなようにしたい。


「なんで、そうなるんですか」

「お前は覚えてねぇかも知れないがよ。小さい時にお前はマリーの手を引いて俺等の前まで来たんだぜ。その時、俺は思ったね、こいつはマリーの面倒をずっと見るんだろうなってな」


 覚えている。あの時から始まっていたのか…確かにこの町に来てからずっとマリーに振り回されている気がする。そのおかげで研究もままならないし、危ない事にも巻き込まれた。今もまた心配して僕があたふたしている。でも大事な事も教えてもらった気がする…人との繋がりとか、遊ぶ楽しさ…前の世界では味わえなかった事をたくさん。


 そんな事を考えているとマリーが帰ってきた。剣を引きずりながら…目に力が無く…何時ものマリーがそこには居ないい。

 僕がマリーの前に立つ。目の前に立つまで気が付かなかったようで、そこでやっとマリーの焦点が合う。


「セ…セレクト…わた」


 乾いた音が広がる。

 僕の手には熱くて響く痛みが残る。


「心配するだろ!何がしたいんだよ!」

「だって、セレクトが一人で前に行っちゃうから…追いかけなきゃ行けなくて」


 多分、魔法学園に入る為のお金稼ぎをしていたのだろう事は分かった。


「それにしても、何でそんなぼろぼろなんだよ」

「私、オーク倒したんだよ…でも、ちゃんと倒せてなくて。そしたら傭兵のおじさんが目の前で…」


 ため息おついた後、僕はマリーを抱きしめた。


「そんな事、ちゃんと出来なくて良いんだよ!何でマリーの面倒を僕が見なきゃいけないんだよ。こんなんじゃ僕は行けないよ」

「ごめん…私…足手まといだよね…」


 マリーから離れる。僕は深く溜め息を吐いた。


「ちょっと、待ってろ」


 僕はマリーをその場に置いて走り出した。行くべき場所が出来たからだ。




 着いたのは薄暗い狭い通路―――扉を叩く―――返事を待たずに中へと入る。

 驚いた顔をしているヤルグ。


「ビックリしたなー…セレトンから来るなんて…どうしたの?」


 ヤルグの机に手を激しく突いて、


「お前の大好きな単刀直入に言う」

「うんうん」

「金が欲しい。金貨二百枚。直ぐにだ!」


 金貨二百枚。豪邸が建てられる額。そして、学園に入るために必要な額。

 当然、一般人が手に出来る額ではない。ヤルグのこの後の反応も仕方ないことで…


「ぶっ!二百枚。急にどうしたの?」

「学園に入るために必要なんだ。すぐに用意して欲しい」


 僕の事を四六時中監視しているこいつだから事情はそれなりに理解してくれた…が、


「ああ、なるほどね。でも金貨二百枚なんて今すぐ用意できないし。それに簡単にはあげられないよ」


 机を台にしてヤルグに迫る。


「僕が稼がせてやったお金が有るだろ」

「いやいや、割りに合わない。てか、今の手持ちだと用意できない。用意するにしてもあと半年は必要だよ」

「どうすればいい。どうやれば手に入る」

「またまた、分かってる癖に」

「…よし、もっと儲けられるアイディアが欲しいんだろ。くれてやる」


 まるで子供みたいに、手ごろな所にあったボールを投げて喜ぶ。


「やったー」


 くるくると回りながら、民芸品ゴミを撫でている。


「ただし、兵器以外でね」

「えー」


 それから、軽く約束事と契約を交わし。商会ギルドを後にする。

 その後に向かったのはマリーの家。辺りはもう暗い。


「マリー居る?」


 部屋から慌ててマリーが出てくる。僕の顔を見て一瞬喜んだように見えたが、すぐに暗くなる。


「マリー…」

「さっきはごめん。セレクトの決めた事だもんね、私がとやかく言う事もないし。私が…」


 しおらしくなっているマリー…


「聞いてマリー」

「ん?」

「マリーも一緒に学校へ行けるようにする。だから一緒に行こう!」


 僕は彼女に手を伸ばす。あたふたし始めるマリー。


「え、でも。足手まといで…」

「あれ、嫌なの?」

「嫌じゃない。行く、私も一緒に行く!」

「じゃー、一緒に行こう」


 そういって僕はマリーの手を握る、きっとこれからもこうやって引っ張って行くのだ。彼女が一人で歩けるように。間違えず進めるようになるまで。

 そこで疑問が浮かんだ。


「あ、ガイアス」



 翌朝、ガイアスに報告しに行く。


「ああ、そうか。俺は大丈夫だ、フェリアも居るし。何より俺が出て行ったら、この町の平和は誰が守るんだよ」


 意外とあっさりした答えが返ってきた。そして家に帰ると、見計らったかのように神父様が居た。

 神父様に事情を話すとこれまたあっさりと、


「では、入学は一年後と言う事になりますが」

「待って貰えますか?」

「一年ぐらいなら待てます。こちらからも事の様伝えて置きます。それに、この手紙にも期限が書いて有る訳じゃないですしね」



 今年の一年は大事な一年になりそうだ。

 それから、毎日の様にガイアス達と遊ぶ事にした。別れの日が来ても泣かないように。笑って迎えられるように。

 もちろんヤルグの件は忘れてはいない。

 そして、夏になる前。リザから手紙が届いた、今年の夏は帰って来れないそうだ。マリーは前より気落ちはしてない。むしろ次はこちらから会いに行くのだから。


 そんな夏が過ぎた頃、有る事に気が付いた。


「マ、マリー確認なんだけど。魔法って使えたっけ?」

「ああ、この光を出す奴だろ。使えるよほら」


 僕は大事な事を忘れていた。

 魔法学園と言うだけはある。基礎の魔法だけじゃ、いくらお金が有ろうとも入れない。ましてや、光を出せるだけでは話にならない。


「今から魔法の勉強だ」

「えー」


 それから半年、みっちりと魔法の基礎を叩き込んむ。剣術とは違い物覚えが悪く。教えるのに四苦八苦した。


 そして、別れの日が間近に迫る……

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