水に流してなんていませんが?
ローズマリーには魔法の才能があった。
しかし、誰かを助けたいとか守りたいという思想はまったく持ち合わせず、現実主義者で手堅い職業である事務官になることを願っていた。
『私の領地に嫁に来るのなら将来のためにも、絶対に魔法使いの資格があった方がいい』
『もうローズマリーもその気だと私の両親には言ってあるから』
『別に、事務官の資格なんていつからでもとれるだろ? 魔法学園の後に目指したらいいじゃないか』
ローズマリーの婚約者のレジナルドは一方的に、ローズマリーのやるべきことを決めつけて挙げ句の果てに外堀を埋めた。
たしかに彼が言っていることはさほど間違っていない。
彼の実家であるケンドール伯爵領は、ローズマリーの実家のメイスフィールド侯爵領よりも魔獣が多く危険な土地柄だ。
婚約者のレジナルドがその後に事務官の仕事をするための期間を許すとまで言っている以上、ローズマリーはその提案を拒絶する理由も方法もなかったのである。
そうして魔法学園一年目を終えたある日のこと。
二つ年上でもうすぐ卒業を控えているレジナルドからある日突然手紙が届いた。
魔法学園に入学しもう一年も終わるという頃なのに入学してから初めての手紙だった。
普段は、ローズマリーと文通などしても楽しくないと言う理由で何の連絡もしてこないのに不思議なこともあるものだ。
そう思って開いてみると丁寧な字で長々とした文章が記載されていた。
『私の愛する婚約者ローズマリーへ。学年末の試験も終わり、長期休暇に心を躍らせる日々だろうが、実は私の心はあまりすっきりとしていない。
というのも、君の学年末試験での結果が喉の奥に引っかかっているからだ。
学年首席という功績はとても華々しく、誰もが期待を寄せる代物であることはまず間違いないだろう。それを得るために君がどれほどの努力を重ね、どれほど苦労をしたのかと考えると尊敬に値するものだと思う』
奇妙な文章の始まりに、ローズマリーは怪訝な表情をして読み進める。
たしかに、ローズマリーは学年首席だ。
しかしそれを祝うためだけの手紙ではない様子だった。
『私も自分ごとのように嬉しい。君を誘ってこの学園に入れたのは間違いではなかったのだと実感するような思いだ。
君の才能をくだらない仕事で、使わずに腐らせるなんてそれこそ馬鹿のやることだろう。
それを私が阻止したんだ。君も自分の婚約者のレジナルドを誇らしく思っていい。
もちろん私も君を誇らしく思っている。
ただ、勘違いしないで読んでほしいが、学年首席という結果は素晴らしいと思いながらも、同時に配慮がないと言わざるを得ない。
特に長期休暇を前にしたこのタイミングの試験での結果だ。
君の身内も私の身内も、帰ってくる私たちがどんな成果を持ち帰るのかじれるような気持ちで待っているだろう。
そうして帰ってきた私たちがそれぞれ持ち帰った成績が、学年首席と平凡よりは優秀な成績。
そうなれば誰も彼も否応なしに君を褒めるしかない。
素晴らしい、さすがだと褒め称えるしかない。
心の底では皆、これがレジナルドの成績ならな、そう思っているのに。
私の成績は決して悪いものではないのに、君の成績があまりにも突出しているから私は比べられるしかない。
女がそんなにいい成績を残したって、なにができる?
将来は子供を産んで、ろくに研究も魔獣の討伐もしないのに、そんな成績を取って褒め称えられて天狗になった君など、嫁に迎え入れてもやっかいに思う人間が多い。
それって、君にとって賢い選択と言えるんだろうか?
夫になる人間よりも有能だと示さずにはいられない勝ち気な女で、どうしようもない自己顕示欲の塊ですと叫ぶようなことをして、君に得はあるのか?
賢い君ならわかるだろ? 私に当てつけをして、辱めを受けさせて、将来そんな男と結婚するのは君だぞ?
いい加減にして欲しい、君は自分の立場をなにもわかっていない。
こんなことなら婚約者ですらいたくない。
成績を落とせ。さもなくばもし結婚したって君のことなど妻としても遇さない。
女なら女なりに賢い生き方をするべきだ。
これ以上私のことを馬鹿にするのなら容赦はしない。
くれぐれも勘違いしないでほしいが、これは私の優しさから来る助言だ。
多くの人間は女というだけで君に厳しい。君が他人からそんな指摘を受けて傷つけられる可能性を考えてあえて、私はこういう手紙を書いた。
君のためのことを思っての配慮なんだ。
君を誇らしく思っている気持ちに変わりなどなく、心から愛している。だからこそ、お互いに良き結婚生活を送るために君にも協力をしてほしいんだ。
愛しているよ、ローズマリー。君の今後の配慮のある身の振り方を期待している。』
最後まで読み終えて、ローズマリーはその紙をクシャリと力を込めて曲げた。
それから、魔法具を取り出して水の魔法を使う。
魔法によって出現した丸いボールのような大きな水の塊に指をつけて、ポタポタといくつも水滴を落としていく。
インクは水を含んでにじみ、ローズマリーはそれを急いで拭った。
そうすると水滴を拭った跡ができる。
最後に『くれぐれも』から始まる最後のページは先をつまんでぶら下げて、持ち前の炎の魔法で端から灰にしていく。
跡形もなく消え去ったのを確認して、それから手紙を封筒の中に戻したのだった。
それから何事もなかったかのように長期休暇を過ごし学園に戻ったのだった。
「ロ、ローズマリー……最近、大丈夫……?」
今日は待ちに待った年始めの試験の日。
その様子を見て、友人のセオドアがものすごく不安そうに声をかけてきた。
ローズマリーのがんとした態度にクラスメイトは誰も口にしなかったのに、彼は勇気を出して問いかけてきた。
「なにか、すごく嫌なことでも、あ、あった? 皆びっくりしてると思うし、その、僕も普段から友人のつもりでいるけど、君が思い詰めているのに気がつけなかったのかな……」
「……」
「君には勉強を教えてもらったりすごくお世話になってて、だ、だから僕も君がなにか困ってるならどんなことでも! 力になりたくて……」
セオドアは祈るみたいに胸の前で手を握っていて、なににおびえているのかわからないが、瞳には涙を浮かべていた。
その様子がローズマリーから見て少しかわいそうに映って口を開いた。
「……どんなことでも、だなんて貴族が簡単に口にしてはいけない言葉ですわ。セオドア」
「! か、簡単じゃないよ」
「なら、かまいませんが。それでなにか困りごとがあるのか、ですか?」
「う、うん! なんでも聞くよ」
セオドアは今度は両手で力こぶを作って、キラキラとした笑みを見せる。同じ年にしては彼がなんだか幼く見えるのは、ローズマリーが冷めているからだろうか。
「ありません。まったくもって。むしろ調子がいい」
「え?」
「絶好調です。セオドア、だから人の心配などしていないで、あなたは明日の予習をするべきだわ」
「あ……でも、だって、ローズマリーこのままじゃ――」
「勉強」
「う、うん」
「明日までつきっきりで教えてあげましょうか。よく考えればあなたにはわたくしも大変お世話になりました」
いいながらローズマリーは今朝から一切なにも出し入れしていない鞄を持って立ち上がる。
「そ、そんなお別れみたいな」
「必要なければかまいません。絶好調ではありますが、退屈でもあるので、ほかの誰かがわたくしに付き合ってくださってもいいのですが……」
セオドアが納得せずに、話を続けようとするので、ローズマリーはならば別の人に勉強を教えようかと教室の中に視線を巡らせる。
ローズマリーの様子を窺っていた人たちの中から数人その言葉に反応を示す人がいる。
しかし、ぐっと腕をつかまれて、ぱっと振り返った。
「ま、待って、僕! 嫌だなんて言ってないじゃん!!」
「……」
「さ、さすがに話し聞かなさすぎ!」
「……」
「もう聞かないよ。わかったから、でも! 退屈なら一緒にいてよ」
傷ついたような顔をして、それでもセオドアはローズマリーのことを嫌いにはならないようだった。
まぁ、学園に入ってからそれなりに深く付き合ってきた。
この程度で愛想を尽かされるとは思っていないが、さすがに彼もはっきりとものを言うようになった。
さらに勉強を教えてほしいのではなく一緒にいてほしいらしい。
そうしてストレートな言葉を言ってくれるのは、言われないよりもずっと、ありがたいことでローズマリーももちろん誰でもいい誰かに勉強を教えるよりも、彼と過ごす方が楽しい時間になると思っている。
しかし自分からは言わない、彼が侯爵家の跡取りで決まった相手がいないとしても、ローズマリーには婚約者がいて、二人はただの学友だから。
「手、離してください」
「あっ、ごめん」
「いいえ。ねぇ、セオドア」
「うん」
「……ありがとう」
「な、なにに対して?? どういう意味??」
「……」
(一緒にいてほしいと言われて嬉しいとは、言えないのよ。残念ながら。それに、わたくしの今日の行動にも声をかけてもらって嬉しかったのも事実なんですの)
いろいろな感情が絡み合っても言える言葉は少ない。
もとより二人の間の関係には枷がある。
だから、必要以上にローズマリーはセオドアを気にかけないようにしていた。
ローズマリーは落第して実家に帰った。
教師から考えを改めるように何度も言われたし、なんならローズマリーのためだけに追試を行おうかとも提案をされた。
しかし全部拒絶して、最短で落第して退学となった。
テストをすべて空欄で提出し、実技の試験は棒立ちを決め込んだ。
その様子を見て猛烈に心配してくるセオドアに意図を聞かせないのは大変だったが無事終えて、領地の屋敷に到着した。
ローズマリーの実家のメイスフィールド侯爵家は魔法学園からほど近い距離にあり、帰宅したローズマリーを怒れる父が迎え入れた。
今にも怒鳴り出しそうなその様子にローズマリーはさもありなんと思った。
父は娘がどれほど優秀か知っているのだ。
それが突然成績不振で落第。多くの期待を背負っていながら、貴族という立場でありながらと腹を立てるのも当たり前だろう。
「言い訳の一つぐらいは、聞いてやる」
絞り出すように父は言った。その言葉に、ローズマリーはぐっと拳を握ってうつむいた。
それから侍女が手紙をさっと差し出し、受け取ってスンと鼻をすすりながら父に差し出した。
「む、なんだこれは」
「……」
無言で静かにしていると、父は多くのことを察してくれた。
涙の跡も、ローズマリーの態度も、割と都合のいいように解釈してくれる。
まぁ、情緒的な部分を抜きにしても、事実として成績を落とせと言う命令のような婚約者の手紙があり、学年首席だった期待の星が打ち落とされて落第した。
メイスフィールド侯爵家としてもレジナルドの実家であるケンドール伯爵家も同じように将来に渡って得るはずだった利益を失い、大きな損害を被った。
そういう事実があるだけであり、これが争いの種にならないわけもなく。
何の仕事もしていない結婚もしていないような娘は当然メイスフィールド侯爵家の所有物という扱いになる。
しっかりとした教育をし素晴らしい成果を出し始めていた価値のたっぷりあるそれを、ぶち壊して害をもたらした。
将来にわたってローズマリーが手に入れるはずだった給金や得は無に帰し、今までの教育に使った費用や、損害の賠償を求めるのは当然の権利で証拠もある。
ケンドール伯爵夫妻が何度屋敷に謝罪に来たのか覚えていない。
それほど騒がしくなって、ことは混乱を極めた。
無理をしなくていいと言われて、ローズマリーはまったりと勉強する日々を過ごしていたが、どうしてもレジナルドが会いたがっているという話を受けた。
両親の監視の上でという話だったが、ローズマリーは自分で決別したいからと決意を固めた体を装って、応接室に二人、ローテーブルを挟んで向かい合った。
レジナルドは両手をじっと見下ろして、うつむいたまま何度か言いよどんでそれから言った。
「こんなことになるなんて想像もしていなかった。君がこんなことをするとも、自分がこんな大事になるようなことを言っている自覚もなかった」
彼の口から出てくるのはまごうことなき言い訳だ。しかし、本当に後悔はしているように見える。
それは軽率な謝罪よりもよっぽどましに思える代物ではある。
「ただ、当たり前のことを言っているつもりでいたし、それですっきりしていた」
「……」
「それに、正しいと思ってた。君を糾弾するロジックは正しくて、皆大きな声では主張しないだけで、私のことをまぁ当たり前のことをしただけだと、認めると思ってた」
「……」
「君は賢いからこんなことで騒ぎ立てるはずもないし、うまくやるだろうとも思ってた。もっと賢いと思ってた、でもおろかだったのは私だった。君が捨て身でこうすれば公になった私の行動は誰にも擁護されない」
「……そうでしょうね」
レジナルドのつぶやく後悔に、ローズマリーは考えながら適当な返事をした。
「明らかに他人をおとしめた人間なんて、男だろうと女だろうと擁護されるはずがなかった。私は学園でも教師どもから嫌味を言われ、友人は離れ、すでに授業にはついて行けていないし、両親も私をこのまま跡取りとして遇する気がない」
「……」
「君が人生を捨てるわけがないと言う思い込みのもと、動いて今は自業自得の後ろ指を指されてる」
彼の語る言葉は、彼の置かれている状況をありありと想像させた。
どこにいてもどの居場所でも針のむしろだろう。
「後悔は……してもしきれない。どんな謝罪の仕方をしたって君が納得してくれる許してくれるとは思えない、君だって落第という代償を支払っているし、人生が詰んだ。魔法使いの夢は途絶えた。そうまでなって私をここまで追い詰めた」
レジナルドの言葉にローズマリーは、首をかしげる。
「お互いもうどこにも行けやしないし、もうどうしようもない。……でもそれでも、謝らせてくれ本当に心から後悔してる。申し訳ありませんでした。なぁ、ローズマリー」
「はい」
「その上で、私ができる君に対する償いはないか? すぐに許してもらおうとは思っていない……でも君も汚点の一つもない学年首席の令嬢という立場を失った。利用できるものはなんでも欲しいんじゃ――」
そうしてレジナルドはまずは許しの可能性を見つけるために、自分にできることはないかと問いかけてくる。
ローズマリーだって、転落した彼と同じように夢と希望をドブに捨てて、落第したからには何かはあるだろう。
そんなふうな言い分だった。
許しを得て、彼がなにを手に入れたいのかはローズマリーにはよくわからない。
両親からの言いつけで、許されなければ彼の貴族としての立場が怪しいのか、それとも今までの友人を取り戻すために許されたと言う実績が必要なのか。
そのどちらでもない可能性もある。
しかしともかく必要で、彼はもう十分思い知って謝罪をするぐらいには追い詰められたのだろうと理解できる。
けれど、彼の申し出はそもそも無意味だ。
なんせ、前提が間違っている。
「レジナルド」
レジナルドの言葉を遮ってローズマリーは、彼を見つめた。
彼は言葉を切って、真剣にこちらを見つめた。
「話はわかりました。その上で言わせてもらいます」
「あ、ああ」
「あなたの思考ってお花畑ですのね」
「……」
突然の暴言に彼は眉間にしわを寄せて目を見開く。そんな反応も気にせずに続けた。
「それに……わたくしの真意に気がつかない人ばかりで少し驚いていますの。ねぇ、レジナルド」
「……」
「わたくし、ただあなたをずっと前から、いつか背中を刺してやろうと思っていただけです」
「は、え?」
「わたくしは、あなたの言葉に心折れて悲しみのあまり落第した訳でも、あなたに復讐をするために首尾よく退学した訳でもございません」
レジナルドは当事者のくせに、本当に自分にとって都合のいいことしか覚えていないらしい。
それほど女というものを、侮っているのだろう。
「水に流してなんていませんよ? わたくしが将来を選択しようとするとき、あなたは、ケンドール伯爵領が魔獣が多いことを理由に勝手に話を通し、外堀を埋めて、わたくしの夢はその後叶えさせてやると言ったでしょう」
レジナルドはやっとそのときのことを思い出したみたいな、はっとした顔をした。
遅すぎである。
「わたくしはもとより、才能があるものよりも堅実で手堅い事務官を目指すつもりだと話をしてあったのに、あなたは裏切って、将来、自分が楽をする方法ばかりを考えていて」
「っ……」
「わたくしの夢など関係なく、無理矢理入学させ……ねぇ、水に流してもらえたと思っていたんですか」
「そ、それは」
「もうローズマリーは魔法学園に入ってこんなに素晴らしい成績を残していて一年もたっていて、その時のことをなにも言わないということは自分が正しかったと思ったのですか?」
「…………」
「わたくしはずっとあなたの背後を狙っていましたよ。鋭いナイフを持って、目を光らせていましたわ」
レジナルドの横暴はあの手紙から始まったわけではない。
それ以前からも、ローズマリーは彼のせいで苦労させられた。
だからずっと待っていたのだ。いつでも事務官を目指し直せるように、彼がプライドをこじらせて、何らかの行動に出る時を虎視眈々と待っていた。
そんな前のことは態度に出さないからには許してあげているはずだ。きっとこの手紙が理由なのだ。
そう思うなんて、お花畑としか言い様がない。
「隙を見せたあなたが悪いのです。自分のしたことを忘れて生ぬるいことをしたあなたが悪い」
「っそ、そんな」
「そして思い出せばわかるでしょう。わたくしの夢、魔法使いなんかじゃありません」
「…………」
「事務官です。事務官の試験は勉強さえできれば、いついかなる時でも受けられる。魔法学園と違って年齢制限もない」
ローズマリーは目を細めて、口元に指を置いてたまらず笑みを浮かべた。
「あなたと違って、わたくしの人生は詰んでなんていませんの。むしろ自由を得た。破滅したのはあなただけ、朽ち果てるのもあなただけ」
「ふっ」と声が漏れる。じんと嬉しい気持ちが広がって高笑いしたい気分だった。
「捨て身の復讐? そんなことをする価値はあなたにはありません! せいぜい一人で勝手に朽ち果ててください。勝手に終わってください。あなたがわたくしに与えられるものなど一つもないのですから」
「クッ、クソ……」
「では、まだ勉強がありますので。失礼いたします」
満ち足りた気持ちでローズマリーは立ち上がる。レジナルドは恨み言の一つも言えずに頭を抱えて小さく縮こまったのだった。
婚約は破棄され、レジナルドは跡取りの地位を正式に失った。さらに損害賠償の請求など公的に記録が残る汚点を彼は背負っているので婿に行くことも難しい。
火の車となったケンドール伯爵家でギリギリの生活を強いられているだろう。
一方、ローズマリーの日々は充実していて、魔法学園を退学になってから半年で、宮廷事務官の試験に合格した。
ローズマリーの年齢では早いほうであり、やっぱりやりたいことには身が入り夢中になって日々を過ごしていた。
そんなある日、王都のお屋敷にローズマリーの学園時代の友人が訪ねてきた。
もちろんそれはセオドアであり彼は、会った途端「ろぉずまりー……」と感極まったように言って、情けなく涙を浮かべていた。
とりあえず応接室へと入れると、セオドアは吐き出すようにいった。
「何にも説明せずに学校やめちゃうんだもん。僕だって同じクラスの子たちだってさぁ、ローズマリーには助けてもらったのにいきなりいなくなって」
「……」
「かと思えば、君の婚約者の話でしょ。皆怒っちゃって、特に女の子たちなんて悔しいとかいって泣き出して、僕なら会えるかもって、ローズマリーの助けになることを見つけ出してこいって言われて」
セオドアはもたもたと事情を話した。
しかし、同じクラスの生徒たちまでそれほど怒っているとは驚きだった。
ローズマリーにとっては不本意な場所だったが、それでも彼らにとってローズマリーは同じ夢を目指す心を許した同士だったらしい。
「でも、さすがに渦中の君には会わせてもらえないし。やっとだよ、僕だってクラスメイトの言葉なしにね、会いたかったんだから」
そしてセオドアにとってもローズマリーは、同じクラスの同級生でなくても会いたい人だったらしい。
「寂しかったんだよ。ここ一年毎日一緒にいたのにさ。……でも僕は結局さ、なんかなんとなく君がどこか遠く見てたのわかってた気がする。今じゃなくて遠くを見てて、不本意そうなの……わかってたよ」
「意外です」
「さすがにね。でもやっぱり仲良くなったからには一緒にいたくてさ、知らないふりしていたし、気のせいだと思ってた。でも違った。……事務官の試験合格おめでとう」
「ありがとうございます」
「クラスの子たちには、君はやりたいこと見つけて楽しくやってるから手出し不要だって伝えておくよ」
セオドアは悲しげな表情を崩さずにしょんぼりしたままそう言って、少しすねているみたいな独特な声だった。
不服を訴えるような、でも責めている訳ではなく甘えているようなそんな声だ。
「……助かるわ」
「……」
「……」
「……でも僕は寂しいよ」
そして素直にだだをこねた。
そんなことを言われてもローズマリーは学園に戻らないし、戻ることだってできない。
やりようがないと彼もわかっているはずなのに、少し子供っぽい台詞だ。
それが彼の愛情表現であることをローズマリーはもうずいぶん前から知っている。
「一緒にいたい」
そしてその愛情表現に今まで答えられずにいた。でも今はもう口をつぐむ理由はない。
「じゃあ、一緒にいますか?」
「!」
「あなた、わたくしが好きですわね」
「う、うん」
「わたくしに婚約者がいても隠す気ありませんでしたわね」
「……ごめん」
「いいえ、嬉しいと思っていたからそばにいたので」
「えっ」
「今はやっと、気持ちを素直に言える立場を手に入れましたから、わたくしだって言いますよ。……一緒にいましょう。セオドア」
「っっ!!」
ローズマリーが優しい声で言うと、セオドアは脅かされた小動物みたいにびくついてそれから涙を浮かべて顔を赤くした。
「ふっ、かわいい人ですね」
それにローズマリーはまた本音をこぼしたのだった。
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