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第7話 魔法使いの弟子

                 -Uxmal

 ウシュマル最大の見どころは意外にも最初に登場する。チケット売り場横の小さな門扉を開けて中に入ると、石畳の歩道の先にその威容がさっそく姿を現す。通称、魔法使いのピラミッド。魔法使いの老婆に育てられた小人が、超自然的な力を用いて一夜にして造った、という伝説に基づいて名づけられた。


 それにしてもデカい。いや、実際のサイズもかなりのものだとは思うが、それ以上に見た目の威圧感が凄い。まるで相撲取りがにじり寄ってくるかのような印象を受ける。アンコ型をした造形のせいだろうか。敷地に入ったばかりだというのに、誰もが思わず足を止める。圧倒的な存在感に押され、なかなか次の一歩を踏み出そうということにならない。


 間もなく南中の時刻。日向と木陰のコントラストが強烈で、足元の芝生すら目に眩しい。と、その芝生が何やら動いた。


「イグアナ? イグアナだよ。てっきり岩かと思った」


 体長1mくらいだろうか。独特のトゲトゲがあることからしても、普通のトカゲではなく間違いなくイグアナだ。こんなに大きな種がガラパゴス以外にもいるのか。というか、イグアナは大陸にもいるのか。しばらく観察していると、ちょっと動いては固まり、ほとぼりが冷めたころにまたちょっと動く。この手の爬虫類がよく見せる挙動だ。


 発見だったのは色が変わることだ。日向の岩場では全体的に白っぽいのに、木陰の草むらに入ると緑の縞模様が目立つようになる。カメレオンとまでは言わないが、ある程度は変幻自在で、立派に保護色になっている。どうりで近くにいながら気づかなかったわけだ。


「お出迎えに来てくれたんだね」


 これ以上ない歓迎に妻も僕も喜ぶ。しかし、ふと思うのだが、これが童話だと、魔法使いの弟子が変身したものだったり、囚われた王子が魔力で姿を変えられていたりするのが相場だ。ひょっとして本当は人間だったりはしないか。僕たちに何かを伝えるために現れたのではないか。気になり始めると際限がないが、隊列が進み始めたので慌てて後を追いかける。


 入口から見えた魔法使いのピラミッドは実は裏側で、回り込んだ反対側が正面だ。頂上の神殿へと昇る階段が競り立った斜面に築かれている。その勾配はなんと70°。一般的には30°を超えると真っ逆さまに感じるというから、これはもう尋常な角度ではない。


 「今日は修復中なので残念ながら登れません」とガイドは言うが、それなら普段は登れるということか。見た目かなりボロボロと崩れていて、急角度でなかったとしても危険極まりないのに。


 かつては王や神官だけが登頂を許された神聖な場所だが、逆に言うと、これを登れる勇気や体力を備えた者だけが、そうした高位に就くことができたということなのかもしれない。


 広大な敷地の中を尼僧院、総督の宮殿と歩いていく。そして最後に辿り着いたのは、一面を草に覆われた小高い山だった。未発掘のピラミッドだという。どんな経緯で土に埋もれたのか想像もつかないが、階段の部分は掘り出されていて、それだけで魔法使いのピラミッドを遥かに凌ぐ規模だということがわかる。


 息も絶え絶えになりながら頂上まで登ってみると、これまで見てきた建物が信じられないくらい彼方にあった。芝生の中を通ってきたはずなのに、ここから見えるそれらはみな森に沈んでいる。


 頬を叩く強風と肌を灼く陽の光。その中に佇んでいると、頭の先から足元まで余計なものがすべて吹き飛ばされていく。なんという比類なき爽快感。これはひょっとして魔法使いの仕業かもしれない。いや、それとも弟子のイグアナか。

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