見知らぬ血
いつも読んでいただきありがとうございます。
他にも作品がありますので読んでもらえたら嬉しいです。
宜しくお願いします。
見知らぬ血
幼稚園の頃、父が浮気をして家を出ていった。
私は母に連れられて引っ越しをし、父の顔も、あの騒動の記憶も、意識の底に沈めていった。
大学に入り、平凡な毎日を送っていたある日、校門の前に一人の少女が立っていた。
長い黒髪、白いワンピース。年齢は高校生くらいか。彼女は私が近づくのを待っていたように、まっすぐに視線を向けてきた。
「お姉さん?」
通りすがりの学生に声をかけているのかと思い、私は目を合わせずに歩き続けた。
知らない人に不用意に絡まれるのは煩わしい。
大学の門をくぐろうとした瞬間、背後から再び声がかかった。
「佐々木愛さんですか?」
足が止まった。
旧姓だ。
結婚して姓の変わった母と、私だけが知っている名前。
ゆっくりと振り返ると、少女は不安そうに、
しかし確信を持った目で私を見つめていた。
「…そうだけど」
「私、玲奈といいます」
少女は一歩近づき、声を潜めて言った。
「お父さん…田中弦一郎の娘です。腹違いの妹です」
時間が歪んだ。
校門の喧騒が遠のき、幼稚園の頃に聞いた父母の怒鳴り声が耳の奥でよみがえった。
父が去った後、母は彼のことを一切話さなかった。
新しい家族がいたことなど、露ほども思っていなかった。
「証拠は?」私の声は乾いていた。
玲奈は小さなポーチから古びた写真を取り出した。
若い頃の父が、幼い女の子を抱きかかえて笑っている。
その女の子の面影が、今目の前に立つ少女に確かに重なる。
写真の裏には「玲奈、三歳の誕生日」と父の字で書かれていた。
「お父さんは昨年の暮れに病気で亡くなりました」玲奈の目が潤んだ。
「父の日記を読んでお姉さんのことを初めて知りました。お父さんはずっと…あなたに会いたがっていましたが、連絡する勇気がなかったそうです」
父は私を捨てた。
一度も連絡はなかったと思う。
祖父母も母も親戚も父の事は話題にすら上がらなかった。
「なぜ今?なぜ私に?」
「お父さんの形見です」玲奈はもう一枚、封筒を差し出した。
中には手紙と、小さな水晶のペンダントが入っていた。
手紙は父の筆跡で、私の名前が書かれていた。
「読んでみてください。そして…もしよかったら、たまに会えませんか?私、姉さんがどんな人か、ずっと知りたかったんです」
玲奈の瞳には、孤独と憧れが混ざっていた。
私と同じ血を引く者が、これまでの人生を知らずに、私を探し続けていた。
複雑な感情が胸を渦巻く。
怒り、悲しみ、戸惑い、そして微かな好奇心。
「今日は突然すぎて、考える時間をください。」
私は正直に言った。
「すぐには答えられないの」
玲奈は少しうなだれたが、うなずいた。
「わかりましたでも、連絡先だけ…教えてもらえませんか?」
私はためらった。
過去の扉を開けることは、傷をえぐり返すことかもしれない。
しかし、目の前の妹は、私の知らない父の一面を、そしてもう一つの家族の物語を持っていた。
スマートフォンを取り出し、LINEを交換した。
玲奈の顔にほのかな笑みが浮かんだ。
「ありがとうございます、お姉さん」
彼女が去った後、私は父の手紙を開いた。
最初の一行で、涙が止まらなくなった。
愛へ。幸せになりなさい。
産まれてきてくれてありがとう。
私は父のことを知らない、義父には私の一つ年上の早苗さんがいて四人家族だ。
帰ったら母に聞いてみようと思う。
そしてどうすればいいか相談しよう。
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