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魂の決闘、リングは鬼ヶ島

 小学生のコウタは、妹のミオをかばうように前に出る。


「僕の命を差し出すから、妹は助けてください!」


 涙ながらに懇願するコウタに、黒鬼は嘲笑する。


「許さぬ。二人揃ってこそ、価値があるのだ」


 その瞬間、ブラディの魂が少年の肩をポンと叩いた。


「よく、男を見せた」


 それは、かつてリングで死闘を繰り広げた強敵への、あるいは、戦いの途中で散っていった戦友への敬意にも似た、重みのある言葉だった。


「その願い、俺が叶えてやる」

 ブラディは黒鬼に宣戦布告する。


「鬼ヶ島で60分一本勝負のプロレス勝負だ!  俺が勝てば、お前は二人を解放し、病を治す万能薬を渡す。負ければ、俺の魂も、このガキどもの魂も、お前のものだ」

「いいだろう、面白い!」


 黒鬼は、ブラディの挑発に乗った。彼は、ブラディの正体が成仏できないプロレスラーの霊だとは知らなかった。ただの魂ごときが、伝説の黒鬼に勝てるはずがない。そう信じて疑わなかった。


 ゴング代わりの雷鳴が轟き、試合開始。鬼ヶ島全体がリングと化した。全盛期さながらに、ブラディの魂は鎖を振り回しリングインする。鎖は、ブラディがかつて愛用していた凶器だった。


 島に住む妖怪や悪霊たちは、どちらが本物の鬼なのか区別がつかないほどのラフファイトに、固唾を飲んで見守る。ブラディは、魂となっても、そのプロレスラーとしての本能を失ってはいなかった。


 黒鬼は、岩を投げ、炎を吐き、ブラディを追い詰める。ブラディは、半透明の体でそれを受け流し、時に自らも体当たりを食らわせる。


 試合は、ブラディの劣勢で進んだ。魂だけの存在となった今、かつての鋼鉄の肉体はもうない。黒鬼の猛攻に、ブラディの魂は少しずつ削られていく。


「くっ…!」

 ブラディは膝をついた。その時、幼い兄妹の声が、彼の耳に届いた。


「頑張れ、ブラディ!」

 コウタとミオが、必死にブラディを応援している。その声に、ブラディの魂に再び炎が灯った。


 その時、ブラディの脳裏に、親友であるスタンク・ホンセンの雄叫びが響き渡る。

「おい、ブラディ!  まだ終わってねえぞ!」


 あの男の必殺技――!


「うぉおおおおおおお!」


 ブラディは渾身の力を込めて、黒鬼に必殺の「アメリカン・ラリアット」を決めた。強烈な一撃が黒鬼の体をマットに叩きつける。ブラディはゆっくりと黒鬼に覆いかぶさり、審判役の魂がスリーカウントを数えた。


1、2、3!


 ブラディの勝利だった。


 黒鬼は顔を歪めながらも、約束通り、病を治す万能薬を兄妹に渡した。そして、試合に敗れた黒鬼は、死神によってあの世へと連れて行かれていく。


 この世に未練がなくなったブラディの魂は、穏やかな光に包まれていく。


「ありがとう、ブラディ!」

 コウタとミオの感謝の言葉に、ブラディは優しい笑みを浮かべた。

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