終わらない雄叫び
昭和の終わり、日本列島は燃えるような熱狂に包まれていた。プロレスは、夢とロマンを人々に届ける壮大なスペクタクルであり、その中心には「燃える闘魂」アントキのイノノキがいた。
しかし、伝説には影がつきものだ。
鬼ヶ島――。名に負う荒々しい孤島は、その日の熱気を吸い込んで、より禍々しく見えた。夕焼けに染まる空の下、特設リングが設置され、数多の観客がその時を待つ。
ゴングが鳴り響き、リングに立つ二つの影。一方は、日本の英雄、アントキのイノノキ。そして、もう一方は、二メートル近い長身に、長く伸びた髪。全身を覆う毛深い筋肉はまるで鋼鉄の鎧。その風貌は、日本の伝説に語り継がれる鬼そのもの――米国から来たプロレスラー、「ブルドーザー・ブラディ」だった。
ブラディは雄叫びを上げ、イノノキを挑発する。観客は興奮の坩堝と化し、両者の名を叫ぶ。壮絶な打撃戦、激しい関節技の攻防が繰り広げられた後、勝負はクライマックスを迎えた。イノノキが、伝説のジャーマン・スープレックスを放ったのだ。
「うぉおおおおおおお!」
イノノキの雄叫びが響き渡る。だが、その技の角度が悪かった。ブラディは頭からマットに叩きつけられ、観客の歓声が悲鳴に変わる中、彼は二度と立ち上がらなかった。
それ以来、鬼ヶ島には鬼が出ると噂されるようになった。その正体は、成仏できずに島を彷徨うブラディの魂。彼は怒りも恨みも抱いてはいなかった。ただ、プロレスという自身の「生」を唐突に奪われたことへの、尽きることのない未練だけが彼をこの世に縛り付けていた。
彼の魂は、夜な夜なリングインを繰り返し、対戦相手のいないラフファイトを続ける。魂だけの存在となって以来、幾度となくこの島を訪れる人々の願いを聞き、心を痛めてきた。だが、自分には何もできない。そう思いながら、虚無の時間を過ごしていた。




