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雨の日の透明人間

作者: 恵京玖


 えーっと、はい。お話し、します。


 えーっと、肝試しに行く途中で、雨が降っていたんです。ザーザーって。だから家に戻って、傘を持って行ったんです。カズキ君が雨でもやるって言っていたから。だから肝試しの待ち合わせの時間に遅れてしまったんです。


 それで傘を持って待ち合わせ場所の学校に向かった時、透明人間を見たんです。


 ……、えーっと、透明で人の形をしてしました。僕と同じくらいの背丈かな。

 え? 何で透明なのに見えているのかって?

 透明人間がいたところは、何にもないのに雨を弾いていていたから。


 待ち合わせ時間は過ぎているし、急いでいかないといけないって思っていたんです。でも透明人間が気になっちゃったんです。

 だからジッと透明人間を見ていたんですけど、雨に濡れて可哀そうかもって思ったんです。


「ねえ、傘、一緒に入ろう」


 って、言って傘に入れてあげたんです。


 傘に入れてあげた事で透明人間がどこにいるか分からなかったんですけど、隣にいるって感じはありました。

 でも入れてあげてすぐに雨がやみました。だから、そこまで長い間一緒には居ませんでした。

だから「僕、学校に用があるんだけど、一緒に行く?」と透明人間に聞いたんです。でも何にも答えなかったから、「じゃあ、ここでお別れだね」と言ったんです。


 だけど透明人間はついてきました。


 え? 見えないのに、何で分かるの? って。何も無いのに時々、僕の肩とか腕に何かが当たっていたし、誰もいないのに足音もあったから。

 それで透明人間と一緒に学校へ向かったんですけど、全然つかなかったんです。

 学校ってコンビニのあるところを曲がって、ずっと真っすぐにいった場所にあるはずなのに、コンビニを曲がっても、違う道に来てしまったんです。それでずっと迷っていて透明人間と一緒に歩いていました。

 でもどんどんと不安になってきて泣きたくなった時、なぜが学校の裏門へと続く道に入ったんです。すぐにその道を走って、僕は裏の門から学校へ入ろうとしたんです。


 だけど、学校の窓が真っ暗だったんです。


 豪雨の時は真っ暗だったけど、雨が上がれば雲の切れ間から光が差し込んで明るかったんです。だから学校の中も明るいはずなんです。

 でも真っ暗なカーテンが付けられているって思うくらい、真っ暗だったんです。


 カズキ君達がいたずらしているのかな? って思って怖かったんですけど向かったんです。誰かが僕の背中を引っ張る感覚があったんです。振り向いても誰もいない。何にもなかったから怖いって思うんですけど、なぜか僕は透明人間が引っ張っているのかな? と思いました。


 でもカズキ君の約束があったから。

 肝試しは、本当は行きたくなかった。怖かったし、時々カズキ君、僕をからかってくるから、きっと肝試しの時も脅かしてくるって思ったんです。

 だけど肝試しに行かないともう遊んであげないって言われて……。


 ……でも行けませんでした。


 真っ暗の窓に無数の目玉が見えたんです。

 一つの窓じゃない。目に見える窓から目玉がぎょろぎょろと見まわしていました。


 それを見て、僕は固まってしまいました。怖くて、本当に怖くて歩けないくらい、怖くて。

 僕がじっと動けないでいると窓の無数の目が一斉に僕を見たんです。


 その瞬間。


 僕は後ろに吹っ飛びました。

 吹っ飛ぶというより、誰かに後ろから抱っこされて高速で移動した感じでした。倍速した感じで景色が変わっていくような。そして地面に足がついたと思ったら透明人間と会った場所に戻されていました。


 しばらくぼうっとしていて、もしかしたら学校の窓の無数の目も、透明人間も、全部、夢だったんじゃないかなって思ったんです。でも明らかに傘を取って戻ってきた時から、長い時間が経っていて周りは真っ暗で街灯もついていました。


 そして透明人間は居なくなっていると思いました。


 もう一度、カズキ君達がいる学校に行こうと思いました。きっと肝試しも終わっているし、カズキ君達も怒っているだろうなって考えたけど、行かないといけないと思いました。


 透明人間と会った時のように学校へ行く道は迷う事はありませんでした。いつも行き慣れている道だから、そうなんですけど……、透明人間と一緒にいた時は知らない道になったりしておかしかったんです。


 コンビニを曲がると学校が見えてホッと安心しました。でも学校には救急車が停まっていて、僕のお母さんやカズキ君達のお母さんが集まっていて……。

 学校に着くとお母さんが僕を抱きしめて「良かった、良かった……」って言っていて……。

 でも「カズキ君たちを知らない?」って言われて、そこで肝試しで何かヤバい事が起こったんだって思って……。



 え? 肝試しをやるって決まった時、カズキ君が何か言っていたかって?

 ……えーっと、なんか、家の祠にあった小さな箱を見つけたから、開けようって言っていました。家の人たちは開けちゃいけないって言っていたから、何かヤバい物が入っているから見てみようぜって。


 ……ん? え? 何って言う箱ですか?










***


 ええ、確かに小学校四年の時、僕が話したものですね。あの時、誰かが僕の話しを録音して、今になってネットに流したんでしょう。

 ラッキーなのは僕の顔が写っていなくて、声のみだったことかな。それとそこまでバズっていない事も。それに怖い話じゃ無いですからね。


 え? この出来事は本当に起こったのかって? ええ、実際に僕の身に起きた話ですよ。


 肝試しに行く時にあった透明人間も、真っ暗な学校の窓にあった無数の目も、カズキ君や他の友達が精神的な病になった事もすべて本当です。

 あははは、確かに匿名掲示板の怖い話にありそうな話ですね。開けてはいけない箱を開けるとか。


 その後、どうなったかって? 実はお話しできないんですよね。引っ越ししちゃって。


 あの肝試しがあった日から僕達家族は、ちょっと村八分みたいな感じになっちゃったんですよ。

元々他所から来たし、よそ者なのにあの事件で無傷だったのが気に入らなかったんだと思います。それとまたまだ呪いのような事が起こるかもって変に煽られたため、敬遠されることになったんですよ。

 

 まあ、それにあんな事が起こる前から差別じゃないですけど、回覧板を回してもらえないとか、色々と嫌がらせがあった事を後から母が言っていましたね。僕もカズキ君からよく意地悪されていましたし。

あまり外から来る人間を歓迎しない場所だったんです。


 だけど僕だけじゃなくて父も母も住人との関係が悪化してしまって、申し訳なかったと子供心に思いましたね。でも「ごめんなさい」って謝ると、僕のせいじゃ無いって言ってくれていたんですけど。


 ああ、あの透明人間に会いましたね。


 肝試しから数年くらい経って、僕が中学生になるタイミングで引っ越しする事になりました。全部荷物をトラックに入れて、父が運転する車に乗り込んで発進した時、サクラ並木のある大きな公園を通ったんです。

 ピンクの花弁がチラチラ舞っていて綺麗だなって思っていた時、一部だけサクラの花弁が弾いていたんですよ。もちろん、そこには何にも無くて、透明な何かがある感じでした。

 

一瞬で分かりましたね。透明人間がいるって。


 だから車の窓を開けて、手を振って、「ありがとう、バイバイ」って言いました。

 あの透明人間もまた手を振っていた気がします。

 これが僕にとってあの場所の、最後の記憶ですね。




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― 新着の感想 ―
透明人間さんの恩返し。 怨返しでもあるのかな?
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