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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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六十二.生贄娘、弔いに向かう

 それから数日。

 今日は、白麗と紫水、砥青の四人で堕ち神が根城にしていた場所にやってきていた。

 皆で堕ち神によって命を奪われた生き物を弔うためだった。

 彼らの魂は既に黄泉の国に向かったが、彼らが安心して眠れるようきちんと弔うと、あの日、白麗は真白と約束を交わしていた。

 砥青と白麗が祭壇を築き、お供え物を並べていく。

 そして、紫水が祭詞を唱え、皆で祈りを捧げた。


 紫水の祭詞が終わったところで、その場を一陣の風が吹き抜けていく。

 その風が、その場に留まっていた重苦しい雰囲気をさらっていった。


 その足で、今度は堕ち神が息絶えた村に向かう。

 子供の笑う声が聞こえ、秋に向けて畑仕事を行う人の様子に、あの日見た村とは違う村に来たのではないのかと感じる。それ程の活気が感じられる。

 最初に香世達に気が付いたのは村で遊んでいた子供達で、わらわらと近寄ってくる。


「紫水様だ!」

「しすいさま、いらっしゃいませ!」

「こっちの人は?」

「緑の髪のお方は砥青様! でも、白い髪と黒い髪の人は……?」

「こちらは、私の客で、白麗と香世という。二人は夫婦だ」

「ふうふ!」

「ふうふ!」


 子供達に集られながら、紫水は笑顔を浮かべながら尋ねる。


「皆も元気そうで何よりだ。村長はいるか?」

「うん!」

「呼んでくる!」


 そう言って、何人かの子供が駆けていく。

 残った子供に、紫水が尋ねる。


「何をして遊んでいたのだ?」

「今日は、鬼ごっこ!」

「元気で何よりだな」


 そうして話していると、村から慌てたように初老の男性がやってくる。


「村長様だ!」


 村長は子供達に遊んで来るように言うと、頭を下げる。


「紫水様、砥青様、そしてお連れ様もようこそいらっしゃいました」

「うむ。息災のようで何よりだ」

「すべて、紫水様と、砥青様をはじめとした眷属様のおかげでございます。あの、そちらの方は」

「こちら、ここから東にある村を守る狼神の白麗と、その奥方の香世殿だ。白麗、香世殿、こちらはこの村の村長だ」

「おぉ。白麗様というのは、先日、あの堕ち神を退治してくださった神様であっておられますか。村の者を守ってくださってどうもありがとうございました」

「できることをしたまでだ」


 頭を下げる村長に、白麗が首を振る。


「奥方様にも、御礼を。この村はおろか近隣の村のために、あの薬草茶を作ってくださったと聞いております。おかげで、皆でまた顔を合わせることができました」

「お役に立てたのでしたら、何よりです」


 挨拶が済んだところで、紫水が言う。


「それで、石碑と塚を作るという話だったな。村人の総意であっているか?」

「はい。その、紫水様の土地ですが、建ててもよろしいでしょうか?」


 おそるおそる尋ねる村長に、紫水は頷く。

 石碑については聞いていなかったが、ここは堕ち神が最期を迎えた土地となるため、弔いの意味を込めて塚を築こうという話があるというのは聞いていた。


「むしろ、塚に関してはこちらから願い出ようと思っていたことだった。堕ち神とはいえもとは神。そのままにしておくことで後々障りがあるのではないかと心配していた」

「ありがとうございます」


 頭を下げる村長に、紫水は尋ねる。


「だが、石碑は、何のために建てるのだ?」

「石碑には、この度のことを忘れぬよう、紫水様と白麗様とその奥方様のご活躍を後世に残し称える言葉を刻みたいと思っております」

「いいことだと思う。白麗と香世殿はどうだ?」

「異論はない」


 白麗があっさりと頷いたため、香世は戸惑う。

 石碑に、自分がやったことが残るのだ。

 大げさな気もするが、紫水も白麗も当然という顔をしている。それに、折角申し出てくれた村長の厚意を断るのも忍びなく、香世は少し考え頭を下げた。


「……よろしくお願いします」


 村長は不安そうにしていたが、香世も反対を述べなかったためほっとした表情をした。


「重ね重ね、ありがとうございます」

「予定地は決まっているのか。石碑はどこでもいいが、塚の場所は私も見ておきたい」


 紫水が、村長に尋ねると、村長は頷いた。


「はい。ご案内します」


 そう言って案内されたのは、村の入り口近く。紫水が村の瘴気を祓った場所だ。


「塚はこちらにしようと思っているのですが……」


 不安そうに言う村長に、紫水は頷く。


「いいと思う。できたらまた見に来よう」


 そして、他の村を見て回るという紫水と砥青とは別れ、香世と白麗は先に紫水の屋敷へと戻るのだった。

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