六十.生贄娘、帰ってくる
「香世、もう、目を開けて大丈夫だ」
そう言われ目を開けると、元の村に戻っていた。
香世は何度か目を瞬かせ、状況を確認する。
白麗と真白が争ったため、荒れてはいるが、もう瘴気は残っていない。
血や埃に汚れた真白の体だけが、そこに取り残されていた。
「紫水に、弔う場所を聞かねばならんな」
「紫水様を呼びにいきましょうか?」
香世が申し出ると、白麗は首を振った。
「瘴気が消えたのだ。様子を見に来るだろうし、すれ違いにならぬようここにいよう」
そう言って、白麗は上着を脱ぐと、丁寧な手つきで真白に上着を被せる。
黙り込み、真白から目を離さない白麗に、香世は思わず尋ねていた。
「真白様を、助ける術はなかったのでしょうか……」
「……無理だろうな。堕ち神になって長かったようだし。……だが、堕ち神ではなく、楠実村の真白として死ねたのだ。本望だろう」
一度、言葉を切ると白麗は香世を見る。
「香世は……」
だが、言葉は続かず、白麗はそのまま黙り込む。
白麗が何を言おうとしていたのか気になったが、随分待った後に「やはり、いい」と言う白麗に、香世は別の事を尋ねることにした。
「あの場所は、どこだったのですか?」
「……神界の、黄泉の国に繋がる原だ」
「あのように、簡単に行き来できるのですか?」
すると、白麗は首を振った。
「あの時は、死期が近い真白殿がいたからだ。私の力が十全であっても、簡単に行ける場所ではない」
「そうなのですね……」
「私や、紫水の屋敷にも、道を通ってきただろう?」
言われてみると、そうだった。
香世が頷くと、白麗もそれきり黙りこみ、今度こそ二人の間に沈黙が落ちた。
紫水がやってきたのは、それからすぐのことだった。
「彼が、あの瘴気の主か」
白麗の説明で状況を把握すると、一つ頷く。
「この村にある私の社に、葬ることにしよう」
「いいのか?」
「彼が昔、祀られていた村の生き残りもいるのだろう。それに、最期は神として旅立ったのだ。問題は無い」
「紫水がいいのならば、それが一番良いだろう」
白麗が真白の体を抱え、紫水の社に向かうと、その場に避難していた村人と共に丁寧に弔う。
後日、村が落ち着いてから塚を築くようだった。
もう日は暮れかけていたが、他の村を見に行くという紫水と別れ、香世は白麗と共に先に屋敷に戻るのだった。




