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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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五十七.生贄娘、知らせを受ける

 老婆――初江が去った後も、香世は一人考えていた。

初江が暮らしていた楠実村で祀っていたという真白様が、堕ち神となり、白麗を呪い、流行病を生み出したのだろうか。


(そんな、悲しいことがあっていいの……?)


 初江も、自分勝手に村を捨てたわけではない。

 どうしようもない理由で村を離れ、戻れなかったために紫水の庇護下に入ったのだ。

 もちろん、堕ち神が真白様ではない可能性もある。

 初江が聞いたという、真白様に似た遠吠えについては考えないようにして、香世は頭を振った。


「今はここで、考え込んでいる場合じゃないわ」


 考えて、何かわかるわけでもない。それに、香世には香世でやるべきことが、まだ残っている。

 香世は立ち上がると、作業の途中だった水場に向かった。



 しかし、すぐに作業を中断することになった。

 山吹が帰ってきたのだ。何故か紫水も一緒にいる。

 二人が顔色を青くしているため、香世は何かあったのかと急いで二人の元に向かった。


「紫水様、山吹様……? どうなさったのですか?」


 山吹は背負子に、半分程の薬草を積んでいる。あまり、採れなかったのだろうか。

 疑問を浮かべる香世に、山吹は悲痛そうな表情を浮かべている。


「香世様……」

「私から話そう」


 そう言って、言葉を失った山吹に、紫水が続ける。


「私が見守る村に、堕ち神が出た。山吹が薬草を摘んでいたところ、急に空に瘴気が渦巻きだし、村を一つ覆ったそうだ」

「村の人は、大丈夫だったのですか?」

「あぁ。すぐに白麗が駆けつけて村人の救助に当たってくれたそうで、彼らに被害はない。だが、最後、白麗が出てくる瞬間に中から瘴気の塊が吹き出し、白麗を飲み込んで村の中に引きずり込んでしまったそうだ」

「そんな、白麗様が……」


 白麗ならば、確かに瘴気が見えれば駆けつけて、村人の救助に行くだろう。だが、瘴気の中に飲み込まれて無事でいるとは思えない。


「山吹が駆けつけた時には、白麗は瘴気の結界の中に引き込まれた後だった。村人から話を聞いたところ、どうやら村に堕ち神が入り込んだようだ」

「その、堕ち神というのは、砥青様に分身を取り付かせていた者なのでしょうか……」

「確証はない。だが、堕ち神はそう滅多に見るものではないから、おそらくはそうだと思う」


 紫水は重々しく頷いた。


「私はこれから村に向かう。香世殿も同行するなら、一緒に連れて行こう。もちろん、ここで白麗の無事を待っていても良い。むしろ、白麗ならば、地上よりも安全なこの屋敷から出るなと言うだろう。だが、香世殿は違う意見かもしれんからな」


 そう提案され、香世は数秒逡巡し、手の甲に刻まれた契約紋に目を落とす。

 この契約がある限り、白麗は堕ち神になることはないだろう。

 白麗の神格は、まだ香世の中にある。

 ならば、香世は安全な場所で、白麗の帰りを待つべきだ。

 だが、心配だった。

 迷う香世を見かねて、紫水が口を開く。


「危険ではある。だが、白麗の身を思って躊躇うのならば、来た方がいい。その手の甲に刻まれた紋を見るに、香世殿の中には白麗の神格があるのだろう?」

「どうしてそれを」


 驚く香世に紫水は微笑む。


「見る者が見ればわかるのだよ。香世殿の存在があれば、白麗がすぐさま堕ち神になることはないだろうが、言い換えれば、今の白麗は完全な力を持たない状態だ。力で負け、堕ち神にその身を抑えられれば、いくら神格を分けていようと白麗が堕ち神になることは防げまい」

「そんな……」


 絶対に、白麗は堕ち神に勝つしかない。

 そう言う紫水に香世は血の気の引いた顔を更に白くする。

 白麗が負けるとは思わないが、完全な力を持たず、瘴気が満ちた場で、白麗はどれ程力を振るえるだろうか。


「行きます。紫水様、どうぞ私も連れて行ってください」


 そして、紫水と、山吹と共に、白麗が囚われたという村へと向かった。

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