五十一.生贄娘、手を繋ぐ
その夜のことだった。
夕餉の席で紫水に渡された香が薫っている。
これは、普通に眠れている香世が嗅いでも問題はないと聞いていた。
「よい香りですね」
「思っていたより薬っぽくないのだな」
白麗がそう言って、真面目な顔で香世を見る。
「もし、また私がうなされていても、香世は気にせず眠って欲しい」
「そんなことはできません」
「だが、それだと香世の体が心配だ」
実際、今日一日ほとんど眠ってしまったので、白麗の言葉に大丈夫だと答えることはできなかった。
「……でしたら、手を繋いで眠りましょう」
「手を?」
「うなされそうになったら、隣に私がいると思い出してください」
言ってしまって、なんだか自信過剰な言葉に頬が熱くなる。
だが、白麗は嬉しそうだ。
「頼もしい」
そうして、いそいそと布団に潜り込むと、香世にも早く隣に来るようにと急かす。
香世が入ると、手を繋いだ。
「おやすみ、香世」
「おやすみなさいませ、白麗様」
昼間も結構な時間眠ってしまったのに、夜も眠れるだろうかと考えたところで香世は眠りに落ちていた。
気が付くと朝を迎えていた。
障子越しに差し込む光にはっとして隣を見ようとしたところで、背中に温もりを感じて振り返る。
そこには穏やかな顔で眠る白麗がいた。
いつの間にか、また抱き込まれていたようだ。
香世は途中、目覚めなかったが、白麗は眠れたのだろうか。
不意に、白麗の長いまつげが揺れた。
「白麗様、おはようございます」
「……香世? おはよう」
声を抑えて呟くと、挨拶が返った。
「起きていらっしゃったのですか」
「いや、今起きたところだ。久しぶりに夢を見ずに眠れた」
「よかったです。私も朝まで一度も起きなかったので。でも、手を繋いでいたはずなのにどうしてこの態勢なのでしょうか……?」
香世が言うと、白麗は困ったように眉尻を下げる。
「無意識、だと思う。香世は嫌だったか?」
「いえ、その、驚いただけで嫌というわけでは」
「そ、そうか」
どぎまぎと答える香世につられたのか、白麗も耳を赤く染めている。
そのようなやりとりをしている間に、起こしに来た眷属に仕度を手伝ってもらい、朝餉の席に向かった。




