四十八.生贄娘、盗み聞く
目が覚めると、夕方だった。
長く寝てしまったようで、気分はすっきりしていた。
布団を抜け出し隣の部屋に向かうと、机の上にはおにぎりとお茶が置かれていた。
誰もいなかったが、白麗は紫水達と昼餉を食べただろうし、これは香世に準備されたものだろうと判断して、手を合わせていただく。
食べ終わると、食器を持って台所の方に向かう。
ここ数日、紫水の屋敷で過ごしているので、どこに何があるのか、大体の場所は把握している。迷っても、紫水の眷属に聞けば良いだろうと気軽な気持ちで廊下を進んだ。
その時だった。不意に白麗の声が耳を打った。
「……こんな所に呼び出して人払いまでして、話とはなんだ」
「眷属が、白麗の体を調べているだろう」
「それがどうかしたのか」
白麗はうんざりしたような声で言う。
「気になることをいっておった」
「もったいぶらずに、話して欲しい」
「……おそらく、お前の体にはまだ堕ち神の呪いが残っている。もう少し詳しく調べてみなければ確実とは言えないが、私は、可能性は高いとみている」
「なんだと」
驚いたような白麗の声の後、しばらく沈黙が続き、紫水が言う。
「思い当たる節は、何かないか?」
「ない……いや、ないこともない、か?」
「というと?」
「ここしばらく、夢見が悪い。ただ、あんなことがあったから気持ちの問題かと思っておった。だが、瘴気は出ていないだろう」
「それは香世殿の薬草茶のおかげだろう。白麗はここに来ても常飲している。本体の堕ち神が弱っているのもあるだろうが、そのおかげもあって呪いが生み出す瘴気よりも、浄化される瘴気が多いのだと思う」
「呪いを解くには?」
「本体の堕ち神を倒すしかないだろうな」
「……そうか」
そうして、はっと何かに気が付いたかのように白麗が言う。
「香世には、まだ伝えないでほしい」
「夫婦だろうに」
呆れた声の紫水が続く。
「だからこそだ。香世には余計な心配はかけたくない」
「後で知られて泣きを見ても知らんぞ。それに、奥方は既に気づいておる。相談を受けた」
「そうだったか」
それきり黙り込んだ白麗に、紫水は一つ息を吐くと告げる。
「ひとまず、他に悪影響がないか、毎日眷属に診察するよう伝えておいた」
「なっ――」
絶句する白麗に、紫水は微笑む。
「何かあってからでは遅いからな」
そこまで話を聞いて、香世はそっと気配を殺しながらその場を後にした。




