四十五.生贄娘、書庫に向かう
午後からは紫水の眷属で山吹という、黒髪に鮮やかな黄色の瞳の女性が案内についてくれた。山吹は小柄で、香世と同じ位の背丈だ。
書庫に向かう途中、紫水の眷属達の作業場もちらりと見えた。
白麗の眷属は楓と桜しか見たことがないが、紫水の眷属は何人もいる。
「紫水様の眷属様は何人くらいいらっしゃるのですか?」
尋ねた香世に、山吹が答える。
「今は三十くらいでしょうか」
「そんなにいらっしゃるのですか」
驚く香世に、山吹は頷く。
「ですが、その中で初めから紫水様の眷属でいらっしゃった方は数名です。他は、怪我や病気で紫水様に助けを求めてやってこられ、感謝の気持ちから眷属にと申し出た者や、紫水様の知識を学びたいから弟子にしてくれとやってこられ、そのまま眷属になられた方などです」
「なるほど。山吹様が眷属になられたのは、どういった経緯だったのですか?」
「私は、病気を助けられた口です。何の病かもわからず、助かる見込みがないからと山に捨てられ死を待つばかりのところを紫水様に助けられました。その恩をお返ししたいと眷属にしていただいております」
「それは……。辛いことを聞いてしまい申し訳ありません」
「いえ。もう過ぎたことですし、おかげで紫水様の元にいられますから」
微笑む山吹に、香世は彼女の気分を害していないことにほっとする。
「ちなみに、私には薬師の才能はなかったので、書庫の整理や、屋敷の維持などのお仕事をさせてもらっています。書庫にある本もだいたいは把握しているので、香世様のお役にも立てると思います」
気にした様子がなく、にっこりと笑う山吹に、香世も「よろしくお願いします」と頭を下げた。
そんな話をしている間に、書庫へと着いた。
本が傷まないよう採光も絞ってあり、少し薄暗い。
書棚が並んでいるため、余計に暗く感じるのかもしれない。部屋には、綴じられた書物だけではなく、古い時代の巻物の形の書も保管してあった。
「すごい……」
思わず呟いた香世に、山吹は言う。
「どういった物を読みたいかなど、ご希望はございますか?」
「まずは、こちらをお願いします」
「少々お待ちください」
紫水に勧められ、書名を書いてもらった紙を渡すと、山吹は書棚の奥に向かい、すぐに探しだして戻ってくる。
「お待たせしました。こちら、書写もされますか?」
「はい。紫水様にも許可をいただいているので、そうしようかと」
「なら、この部屋ではなく専用の部屋がありますのでそちらに参りましょう」
山吹はそう言うと、書庫を閉めて踵を返した。
その部屋は書庫のすぐ隣にあった。
山吹が専用の部屋というだけあって、机が並べられ、筆や硯、紙も準備してある。
中には紫水の眷属らしき人も居て、黙々と本を写している。
「書写用の部屋なのですか?」
香世の問いに山吹は頷く。
「各自、必要と思った物はこちらで自分で写すのです。もちろん、紫水様の許可も必要ですが」
そして、部屋の使い方や紙の場所を教えてくれる。
「香世様がこちらで作業をなさるのでしたら、私も共に作業を行ってもよろしいですか?」
「構いません」
「ありがとうございます」
隣から本を取ってきた山吹と隣合わせに座って、香世は図鑑を書き写す作業に集中した。




