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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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42/65

四十二.生贄娘、白麗の寝起きに翻弄される

 宴は深夜近くまで行われた。

 途中から酒が振る舞われ、香世は遠慮したが白麗は紫水にかなりの量を勧められていた。

 砥青も途中で撃沈し、意識を残している白麗に紫水が杯を乾かす間もなく注ぎ続けたからだ。


「大丈夫ですか?」

「あぁ。少し休めばこれくらいは」


 白麗の足下は覚束ないが、それでもなんとか離れまで辿り着くと、いつ寝てもいいようにと部屋を不在にしている間に敷いてあった布団に倒れ込み、白い狼の姿へと形を変える。

 そんな白麗に香世は湯飲みに水差しから水を注いで持って行った。


「白麗様、お水です。少しでも口になさった方がよろしいですよ」

「……いまは、だいじょうぶだ。それより、今は香世の、ひざまくら……」

「えっ、白麗様?」


 白麗は言うだけ言って、くぅと寝入ってしまったようだ。

 目を閉じて静かに寝息を立てる白麗に聞いていないとわかっていながら香世は言う。


「膝枕でしたら、いつでもして差し上げます」


 そして白麗の毛並みを数度撫でると、寝支度をしに行き、明かりを消した。

 白麗が酔い潰れて眠ってしまったおかげで、同室とはいえ思ったほどに気詰まりな思いをすることもなかった。

 明日から、どんなことを教えてもらえるのだろうと期待しながら香世は目を閉じるのだった。



 翌朝のことである。

 香世は寝返りをしようとしたのに、体が動かず違和感を覚えた。


(なに、かしら……)


 けれど目を開けるほどには意識は覚醒しきれておらず、暖かな温もりに包まれていることもあり、そのままもう一度寝入ろうとしたところで、首筋にくすぐったさを感じた。


「…………?」

「……良い、匂いだ」

「え?」


 耳元で聞こえた白麗の掠れた声に、一気に目が覚める。

 途端に、自分が置かれている状況が飲み込めていく。

 暖かいと思ったのは、布団にくるまれているわけではなく、背後から白麗に抱き込まれていたからだった。

 しかも、狼の姿で寝ていたはずの白麗は人型に戻っている。

 首筋に埋められた温もりは、白麗の顔だろうか。

 頬どころではなく全身が周知で熱くなる。


「白麗様、起きてください」

「……ぅ、……ん?」


 起きているのかと思ったが、白麗はまだ眠っているようだ。


「白麗様、起きてください」


 そうして何度か声をかけていると、ふと白麗が寝ぼけた声を上げた。


「なん、だ……? 香世? あたたかいな……」

「待って、寝ないでください。白麗様、よかったら腕をどかしてください」


 ようやく起きてくれたと思った途端、何故か白麗は二度寝の態勢に入り、香世は慌てて声をかける。


「……やだ」


 だが、返ってきたのはそんな返事で。


「白麗様、お願いです」


 香世が繰り返し頼むと、しばらくの間の後に、白麗が口を開いた。


「……なぁ、香世、私達の関係は?」

「夫婦です、が」

「なら、私にこうされるのは、嫌、か?」

「……嫌では、ない、ような」

「なら、いいだろう」


 そう言って、白麗が首筋に顔を埋めるものだから、香世はひゃぁと悲鳴を上げた。


「まままま、待ってください。やっぱり、よく、ありません……!」


 答えない白麗に、このままだと白麗は本当に寝入ってしまうと、香世は慌てて頭を振り絞る。


「こ、この向きでは、白麗様のお顔が見えません」

「む」


 白麗が考え込む気配がして、ふと後ろから香世を抱きしめていた腕が緩む。

 意図を図りかねていると、白麗のすねたような声が聞こえた。


「こちらを向かぬのか?」


 尋ねられ、香世はおそるおそる体ごと後ろを向く。

 途端、再び白麗にぎゅっと抱き締められ、香世の鼓動が跳ねた。


「うむ、これはこれで良いな」


 満足げに言われ、白麗はそのまま二度寝の態勢に入る。

 香世はただ白麗の胸に顔を埋めることしかできなかった。

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