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四.生贄娘、湯をいただく

 翌日、香世は日の出と共に目を覚ました。

 いつも起きていた時間だから、身体が覚えていたのだろう。


「雨は、どうなったの……?」


 白麗は、雨は上がったと言っていたが、本当だろうか。

様子を見るために外に出てみたいが、勝手に出歩いてもよいだろうか。

 悩んでいたところで、襖の外から高く可愛らしい声がかかった。


「失礼致します。花嫁様、もしやお目覚めですか?」

「は、はいっ!」


 人の気配は感じなかったが、居住まいを正して返事をすると、すっと襖が開いて、おかっぱに切った黒髪の少女が二人姿を現した。

 二人は双子のようで、並んで立つと鏡写しのようにそっくりだ。よく見ると、瞳の色だけが違っている。


「花嫁様、初めまして。私は主様――白麗様の眷属の楓と申します」


 その名の通り、楓の若葉のように鮮やかな緑色の瞳の少女が言う。


「私は桜と申します。私達が花嫁様のお世話を致します。以後、お見知りおきください」


 続いて、桜の花のように薄い紅色の瞳の少女が挨拶をする。


「香世と申します。これから、よろしくお願いします。楓様、桜様」


 挨拶を返し、頭を下げると二人が慌てる。


「あぁ! 香世様、私達相手にそうかしこまらないでください」

「いえ、でも……」


 二人が白麗様の眷属ならば、香世にとっては敬うべき対象である。


「でもではないのです! 香世様は主様の花嫁様なのですから、堂々となさっていてください!」


 桜が言い、楓もうんうんと頷いている。


「わ、わかりました。では、桜さん、楓さんと呼ばせてください」

「呼び捨てでもいいのですが」


 少し不満げに言う楓に、とんでもないと香世は首を振り、仕方が無いと楓と桜は頷いた。


「香世様はもっと自信を持ってくださってよろしいのですよ! 香世様がいらしてくださったおかげで、主様の調子も安定なさいました」

「その証拠に、地上の雨は上がり、今日は晴れているようです」


 地上に太陽の日差しがもたらされたと聞いて、香世は心の底からほっとする。


「私は、無事にお役目を果たせたのですね……」


 だが、桜の言葉には気になる言葉も含まれていた。


「ところで白麗様は、お加減が良くないのですか?」


 体調のせいで、雨を止ませる力もないほど弱っていたのだろうか。

 香世が、そんな白麗に無理をさせてしまったのだとしたら、とんでもないことをしてしまったのかもしれない。

 気まずげな顔をする桜に、楓が首を振る。


「白麗様にも色々とご事情がおありなのです。そのうち、香世様にもお話があるかもしれません。ですが、香世様のおかげで状況は良い方向に向かいましたから!」


 桜は必死に頷いている。そして、何かに気が付いたかのように言う。


「そうでした! 香世様。朝食の前にお風呂などいかがですか?」

「お風呂?」

「まだ時間も早いですし、この宮はいつでも入れるようにお風呂が沸かしてあるのです」

「気持ち良いのですよ!」

「でしたら、いただいてもよろしいでしょうか」


 楓と桜に促され香世が頷くと、それからの二人の行動は早かった。

 何も持たないで良いからと言われ、白麗の屋敷について説明しながら湯殿に向かう。

 案内された浴室は芳しい匂いがする木が使われていて、湯船には暖かくたっぷりのお湯が用意されていた。香世は二人に言われるがまま朝湯を満喫した。

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