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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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三十八.生贄娘、おやつを食べる

 屋敷に帰ると、楓と桜が笑顔で迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、主様、香世様」

「お疲れになったでしょう。お茶をお淹れいたしますね」


 そう言って、座敷に案内しようとする二人を呼び止め、白麗が桜に声をかける。


「桜、こちら、半分は今度紫水の所に持って行く。残りは香世の部屋に運んでくれるか?」

「かしこまりました!」

「あと、茶は、楓と桜の二人の分も共に淹れてきてほしい」

「はい!」


 白麗が楓に声をかけ、座敷でくつろいでいると、二人は一緒に戻ってきた。

 席に着くと、桜が早速といった様子で尋ねてくる。


「三斎の市は、いかがでしたか?」

「とても楽しかったです」

「その飴細工、可愛らしいですね。子犬ですか?」

「飴細工もあると聞いていましたが、そのような物もあるのですね」

「白麗様が買ってくださったのです」


 楓と桜の質問に答えると、白麗が尋ねる。


「ところで、何故香世は子犬をねだったのだ?」

「というと?」

「子犬以外にも形があったのですか?」


 桜と楓の疑問に、白麗が答える。


「こちらから要望を言って作ってもらったのだ」


 その言葉に、楓と桜も興味津々の様子で香世を見る。

 香世は、頬を赤く染めながらも答えた。


「その、初めてお会いした時の白麗様のお姿が思い浮かんでしまって」

「なるほど。確かに」

「あの頃は、力をできるだけ使わずに過ごすために子供の頃の姿でお過ごしでしたものね」


 楓と桜は頷くが、白麗がじとっとした目で香世を見つめる。


「待て。香世。私は犬ではないのだが」

「あっ、はい。狼だとは存じていますが、初対面でのあの時は、子犬だと思ったので」

「なら、子狼と言えばいいだろう」


 白麗はむすっとした様子で言うが、それで相手に伝わるか迷ってしまったのだ。


「主様、子狼なんて言われても、相手も困ってしまわれますよ」

「そうですそうです」


 同じ事を思ったようで、楓が宥めるが、白麗の機嫌は傾いたままだ。

 だが、楓と桜は気にしないようで、話し続ける。


「とはいえ、食べるのが勿体ないくらい可愛いですね」

「飾りますか? 香世様、どうなさいますか?」

「日持ちがするとは言っても、数日の間に食べた方が良いそうです。二人に見せたくて持って帰って来たので、早速食べましょう」

「私達もいただいてよろしいのですか?」

「もちろんです」


 香世が答えると歓声をあげて喜ぶ二人に、香世は飴細工を四等分しようと試みた。

 耳の方からいくか、尻尾の方から行くか、迷うところだが、香世は簡単に割れそうな尻尾の方から割ってみることにした。


「えいっ」


 力を入れてみるが、割れたのはひとかけらだけ。


「ま、まずは、こちらを買ってくださった、白麗様に」


 白麗はまだむすっとしていたが、飴を口元に差し出すと、驚いたように香世を見て、口を開けてくれた。


「白麗様、いかがですか?」

「……甘くて、美味いな」


 案外気に入ってくれたようで、ほっとする。


「香世様、無自覚ですか」

「そうみたいですね」


 その香世の後ろで、楓と桜がひそひそと話している。


「では、次は二人に」


 今度は思っていたところで飴が割れ、欠片を楓と桜に手渡す。


「ありがとうございます!」

「甘くて、美味しいです……!」


 二人の頬もにこにこと笑み崩れるのを見て、香世も自分の分を取り分ける。


「私も、いただきますね」


 最後に自分の分を口にすると、優しい甘みが口の中に広がった。


「美味しい……」

「美味いです!」

「まだありますよ。おかわりをなさいますか?」


 四人で分け、尻尾の部分はなくなってしまったが、飴はまだまだ残っている。

 そんな風に四人で飴を分けていると、いつの間にか白麗の機嫌も直っていた。

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