三十七.生贄娘、デートに行く三
「かわいい……」
再び大通りを歩きながら、香世は白麗にもう一度、飴細工の礼を伝えた。
「白麗様、ありがとうございます」
「香世が喜んでくれているようでよかった。それに、前から頼んでみたかったのだ。でも私一人では頼みづらくてな」
本当だろうか。白麗の顔を見上げるが、表情からは読み取れない。
「すぐに食べるか?」
白麗に尋ねられ、香世は首を横に振った。
「日持ちがすると聞きましたし、持って帰って、楓さんと桜さんに見せてからでもいいですか」
「構わんよ。二人も喜ぶだろう」
「どんな反応をしてくれるでしょうか」
「喜ぶだろうな」
そんな話をしながらしばらく行くと、今度は白麗は櫛や簪を扱う店に目を留めた。
「あちらにも寄っていいか?」
香世が頷くと、露天に向かう。
並んでいる商品はどれも高級そうである。
白麗のように、獣の姿を持つ神のためか、香世が白麗の毛繕いに使っている物と同じ形の櫛なども取り扱っているようだ。
(新しい物を購入されるのかしら)
一瞬、そう思った香世だったが、白麗が手に取ったのは女性向けの櫛だった。
すかさず店主が声をかける。
「旦那、奥方に贈り物かい?」
「そうだ」
「なら、こっちはどうだい? 同じ柄で簪もあるから、おすすめだよ」
「ほう」
差しだされたのは漆塗りの櫛で、螺鈿細工の花の文様が美しく彫られている。店主が勧めるように、同じ柄で簪もあった。簪の方は、縁に真珠の飾りが付いていて、その色が白麗の髪色と少し似ていた。
白麗は、簪を香世の頭に翳し、満足げな表情だ。
「確かに香世に似合うな」
白麗は並べられた他の櫛や簪にも目を走らせたが、他に気になるものはないようだ。
「うん。これが一番いいようだな。香世はどう思う?」
「美しいと思いますが、もう今日は買ってもらいすぎだと思います」
そう言うと、白麗は驚いたように首を振った。
「そんなことはない。本当は着物から一式揃えるつもりだったのだ。だが、それは香世に嫌がられるだろうと、楓と桜に止められて我慢しておるのだぞ」
「一式は、流石に」
「ということで、店主、こちらを頼む」
「毎度あり」
恐縮する香世に、白麗はさっさと店主に包むように伝えてしまう。
「屋敷に戻ったら渡すから、明日から使って欲しい」
「大事に使います」
「早く香世が身に付けている姿を見たいものだな」
白麗は受け取った包みを懐にしまうと、再び香世の手を繋いだ。
「他に見たい物は?」
「ありません」
「なら、そろそろ引き返そうか」
今度は通ってきた道の反対側の露天を見ながら、帰り道を歩いた。




