三十六.生贄娘、デートに行く二
「たくさん、ありがとうございました」
「折角来たのだし、香世が気に入るものがあってよかった」
白麗がにこやかに答え、手を繋がれる。
白麗の反対側の手には、風呂敷にくるんだ半島人参がある。
「重くないですか?」
「全く問題ない。香世はまだ疲れてないか?」
「はい」
「なら、あちらも見てみないか?」
そういって、白麗が指さしたのは、少し先にある露天だ。
甘い良い匂いも漂っているので、食べ物を扱う店のようだが、客を集めて何やら芸を披露している。
白麗に連れられて近づくと、そこは飴細工の店だった。
お客の要望で、鍋で熱した飴で一筆書きの要領で絵を描いて、それを渡してくれるようだ。
店の前には、飴で作られた鶴や亀、縁起物の動物が並んでいる。
飴屋の店主は、丁度前のお客の注文で、鳳凰の絵を描いているところだった。太さを変えながら、胸を張って羽を広げる鳳凰の絵がどんどん出来上がっていく。
「さぁさぁ、もうすぐ出来上がりだ。しかと見ておくんなせぃ。これが、天界一の技術だよ」
店主が出来上がった飴細工を掲げながらの口上に、集まった人から拍手が湧く。
「すごい……!」
香世もその美しさに感嘆の息を漏らしていた。
白麗も隣で頷いている。
「ちなみに、香世だったら、何を頼む?」
「私だったら、子犬、でしょうか」
思ってもみない質問に、咄嗟に、出会った当初の黒い子犬姿を思い出してそう口にしていた。
「子犬か」
むぅっと眉間に皺を寄せ複雑そうな顔をしながらも、白麗は頷く。
もしかして頼んでくれるのだろうか。
「さぁ、お次のお客様はいらっしゃいますか-!」
前の客に飴細工を手渡し、店主が客引きを始めた。見物客は沢山いるものの、注文する者はいないようだ。
その時だった。白麗が一歩前に出て声を上げる。
「店主、子犬を頼む」
「はいよ! 子犬ね!」
「お客さん、特等席で見ていってくださいよ」
店主が前の客が居た場所を指し示し、白麗と共に移動する。
「では描きますよ」
鍋に砕いた飴を入れ、溶けたところで店主が鉄板の上に絵を描き始めた。
そうして、白麗も楽しみな様子で飴細工が出来上がっていく様子を見つめている。
店主が作っているのは、鞠で遊ぶ可愛らしい子犬の絵だった。
「はい、出来上がりだ! 口をつけなきゃ何日かは持ちますから、すぐに食べなくても大丈夫ですからね」
店主は出来上がった飴細工を香世へと渡す。
手渡された飴絵は、食べるのが勿体ないくらいの可愛らしさだ。
「白麗様、ありがとうございます……!」
「うむ。気に入ったのならよかった」
感極まった香世に、白麗は満足げに笑う。
白麗が店主に銀貨を渡している間も、香世は飴絵に目が釘付けだった。




