三十四.生贄娘、仕度をする
楓と桜に着せられたのは、白い生地に朝顔が描かれた着物で、紺色の帯に薄い緑色の帯紐の涼やかながらも可愛らしい着物だった。
着物の生地も、光に透かすと向こう側が見えそうな位の薄いもので、『紗』と言うそうだ。
楓と桜が、満足げに香世を見ている。
「香世、準備はできたか?」
襖越しに白麗の声が聞こえ、香世は楓と桜を見る。
「準備は完璧です」
「楽しんできてくださいね」
「では、行って参ります」
「どうぞいってらっしゃいませ」
香世が襖を開けると、濃い紺色の着物を見に纏った白麗が待っていた。
「白麗様も着替えてこられたのですね」
「あぁ。折角の香世とのお出かけだからな。今日もとても愛らしいな」
相好を崩す白麗に、正面から褒められ、香世は頬を染めた。
そんな香世に微笑むと白麗は手を差し出す。
「危ないから、手を繋いでおこう」
「ずっとですか?」
「うむ」
香世がおそるおそる手を乗せると、白麗が嬉しげに笑みを深くする。
「こうして香世と手を繋いで歩くことができて嬉しい」
香世は白麗に手を繋がれたまま屋敷の外に向かう。
どこに行くのだろうと思って、手を引かれるがままに歩いていると、次第に大きな川が見えてくる。
道の行き止まりには船着き場があり、船頭が乗る小舟が待っていた。
「今日は三斎の市の日だろう。市場通りまで頼む」
「かしこまりました」
白麗が船頭に小銭を渡し、船に乗る。
「香世、揺れるから、気を付けて」
先に船に乗った白麗に支えられながら乗り込み、ほっと息を吐くと船は滑るように進み始めた。
かなり大きな川なのだろう。霧がかかっていて、対岸が見えない。
しばらく乗っていると不意に霧の向こうに明かりが見えた。
対岸も来た所と変わらずに芦原が広がっているように見える。
しばらく川を行くと、対岸から人の声が聞こえてくる。
市が立っているようで、道の両脇に露天が連なり、沢山の人が歩いている。彼らも、白麗や紫水、砥青のように色とりどりの髪の色をしているから、神やその眷属なのだろうと察せられた。
「あれは……?」
「三斎の市と言って、月に三度、この通りで市が開かれるのだ。今日が丁度その日であったから。香世の気晴らしになればと思ってな。折角だから、見て回ろうか」
香世は頷くことしかできなかったが、そんな香世を白麗は満足げに見ている。
そうしている間に船着き場に着き、白麗が先に降りて香世を手助けしてくれた。




