三十三.生贄娘、誘われる
五日経つと、砥青からも綺麗に瘴気の影響はなくなった。
その間に、紫水と共に薬草茶を完成させ、香世も紫水に教わった分の知識に間違いが無いかも確認してもらっている。砥青が取り付かれていた堕ち神の分身から誤った知識を教えられていないかというのを、紫水も砥青も気にしていたのだ。
けれど、その問題もなさそうで、香世としてはほっとしていた。
紫水と砥青は、今日、紫水の屋敷に戻ることになっていた。
「世話になったな。落ち着いたら、今度はこちらに招待する。香世殿にもまだ中級や上級の薬師の知識を伝えたいところであるしな」
「感謝する」
紫水の言葉に、白麗が短く礼を述べる。そして紫水の隣に居る砥青の方を向く。
「砥青殿には、香世の教師として世話になった。これは、ささやかだが土産に持って帰って欲しい」
砥青の前に、包みが運ばれてくる。
白麗が言うと、砥青は驚いた顔をして首を振る。
「そのように過分のお心遣いをいただくわけには。既に謝礼はいただいております」
「だから、土産だと言っておる」
白麗が微笑む。
「砥青、いただいておきなさい」
「ですが」
紫水が促すものの、頑なな砥青に、白麗が続ける。
「中身を言うのは無粋かもしれんが、これは私が瘴気に蝕まれていた際に、楓と桜に取り寄せてもらった、この辺りでは珍しい薬草だ。私の元にあるよりも、そちらで使ってもらった方が役に立つだろう。香世にはまだ扱いが難しいものだそうだから、置いていても悪くなるばかりだ。だから遠慮はいらん」
「……そういうことでしたら。ありがたく、いただきます」
紫水には、砥青とは別で薬草を渡してあるし、それに加えて香世と作った薬草茶も持たせてあった。
「では、長い間お世話になりました」
「世話になったな」
そう言って、砥青と紫水は帰って行った。
二人が行ってしまうと、急に屋敷の中が広く感じる。
「なんだか、急に静かになりましたね」
「寂しいのか?」
白麗に背中からすっぽりその懐に抱え込まれて、香世は驚いて振り向いた。
「白麗様?」
「香世は抱き心地が良いな」
「突然どうなさったのですか。びっくりしました」
「やっと香世を独り占めできると思ったら、我慢ができなかったのだ」
そんなことを言われると、なんだか振り払うに振り払えない。
でも、紫水達がいても、二人きりの時間は結構取っていたと思うのに。
そんな気持ちが伝わったのか、白麗がすねたように続ける。
「本当は、毎日香世と会いたかったし、香世と一番に庭を歩きたかった」
「それは……」
香世が来た頃は、白麗は瘴気に蝕まれてそれどころではなかった。
「自分でも、無理だったとは分かっておる。だから、今日は私に付き合ってくれるか?」
「はい」
「よし、では、早速支度をしよう」
楓と桜を呼ぶ白麗の声が弾んでいる。
「支度? 屋敷で過ごすのではないのですか?」
「いや? どこに行くかは後でのお楽しみだ」
楽しそうな白麗に首を傾けながら、香世はやってきた楓と桜に連れられて着替えに向かった。




