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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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二十六.生贄娘、砥青の話を聞く

 砥青の部屋には、桜が控えていた。

 白麗は、砥青が布団から体を起こそうとするのを押しとどめる。


「砥青殿、どうかそのままで」

「いえ。ですが。そういうわけには参りません。それに、これでもかなり回復したのです」


 そう言って、砥青は布団を出ると、その場で頭を下げた。


「私のせいで、奥方様を結界の外に連れ出し、今回の件にも巻き込んでしまい危険な目に遭わせてしまいました。奥方様、申し訳ありません」


 頭を下げる砥青に、香世は首を振る。


「事情はわかりませんが、あれは砥青様ではなかったと私も存じております。ですので、どうか過ぎた事は気にせず、お体を休めてください」

「そうだ。貴殿も被害者であろう。紫水から預かっている貴方に大事がなくてよかった。それに、結界の外には、私もついて行っていた。だから、砥青殿だけを責められまい」

「えっ」


 驚く香世に、白麗は頷く。

 白麗が砥青に頭を上げるように言い、砥青はそこでようやく頭を上げた。


「結界の外に出る許可を得に来た砥青殿から怪しい気配がしていたからな。眷属ということにして、付いていったのだ」

「では、あれは白麗様だったのですか」

「そうだ」


 白麗が頷き、香世はあの時瘴気から庇ってくれた礼を伝える。


「それで、砥青殿。まだ加減が悪いかもしれぬが、事情を確認しておきたい。もうしばし、話しても大丈夫だろうか」


 砥青は頷く。


「私は、砥青殿は、堕ち神の依り代にされたという認識で居る。そこは相違ないか?」

「はい。油断から、とんでもないことになるところでした。白麗様は、私が依り代にされているといつからお気づきだったのですか」


 白麗は難しい顔をして首を振る。


「砥青殿がこちらに来た頃から、何か違和感のようなものは感じていた。だが、それは堕ち神が近くに来ているのだと思っていたのだ。気が付いたのは、砥青殿に取り付いた堕ち神の分身が、我が屋敷の外に出たいと言いに来たときだ。砥青殿は、どこまで意識があったのだ?」

「意識だけは、ずっとありました。数日前、急に体が意思に反して勝手なことをし始めて、ようやく堕ち神の依り代になってしまったのだと気が付きました。ですが、体の自由も取り戻せず、奥方様に薬と偽り毒を作らせることになってしまったのです」

「つまりは、数日前までは何事もなかったということだな」

「はい。お恥ずかしい話ですが、寄生されていること自体、体を乗っ取られるまで気が付きませんでした。頭が痛い、体がだるいなどの症状は出ておりましたが、それは単に私の管理不足による体調不良かと思っていて。ですが、今思うと、あれは瘴気による不調でした」


 そこではっとしたように、砥青は白麗を見る。


「なるほど。では、あの毒は堕ち神が作らせたと」

「はい。堕ち神が作らせた毒は私も製法を知らないものでした。あれを飲み、白麗様こそよくぞご無事で」

「あぁ。本当には飲んでいないのだ。あれは、依り代に我が神気を与え、それっぽく振る舞うようにした形代だ」

「そうでしたか。疑っていただいて、というのも変ですが、白麗様を害することにならなくて本当によかったです」


 砥青はほっとしたように言う。


「もう一つ確認がある。香世に教えてくれた知識の方は、間違いないだろうか」

「ご安心ください。奥方様の薬師の知識は、確かな物です。白麗様に飲ませてしまったあの丸薬。あれだけが、堕ち神の分身が言い出して奥方様に作らせた物になります。けれど、信用は難しいとも思います。紫水様に私の教えた知識の確認をしていただけるよう、私からお願いしようと思っております」

「そうか……」


 白麗が心配げに香世を見つめ、頷く。


「疑うわけではないが、香世のためにはその方がよいかもしれんな。後日、私の方からも紫水に依頼しよう」


 そう言って、白麗は砥青の顔を見つめる。


「ところで、砥青殿に、堕ち神に寄生される心辺りは?」

「紫水様のところに居た時には、結界の中に籠もりきりでしたので、心辺りと言われてもここに来る途中しかなく。あっ」

「どうした?」

「途中、人間界に下りたのです。何やらよく効く薬を売る者がいると、師の屋敷で話題になっていたので、どんな薬を売っているのかと様子を見ておこうと思ったのです。その時に、そこの店主からお茶をごちそうになりました。薬自体は特に怪しいところもなく、ただ体を温める効果を持つだけのもので、たいした物ではなかったのですが、もしかしたらあれに何か混ぜ物をしてあったのかもしれません。油断しておりました」

「ということは、あの分身は私を狙って砥青殿に寄生したのだろうか」

「ですがどうして私が立ち寄るとわかったのでしょうか……」


 首を傾ける砥青に、白麗も難しい顔をしている。


「それはわからん。だが、貴方も被害者だ。紫水から預かっている貴方に大事がなくてよかった。かなり話しをさせてしまったが、具合はどうだ?」

「はい。白麗様の眷属殿の介抱と、この薬草茶のおかげで不調はもうございませんから」


 だが、そう言う砥青の顔色は、あまり良いとは言えなかった。

 白麗は頷きながらも、心配げに砥青を見つめる。


「だが、あいつに神力を食われたのだろう。その薬草茶は瘴気を浄化する助けをしてくれるが、神力の回復は時をかけるしかない。無理はしないように」

「ありがとうございます。ところで、この薬草茶についてですが、これは、どちらで?」


 砥青が不思議そうに問う。


「このような効果のあるお茶は、見たことがありません」


 そういう砥青に、白麗が自慢げに香世を見た。


「香世が父君から教わったお茶だそうだ」

「なんと。奥方様はお父君の背中を見て薬師を目指されていると伺っておりましたが、お父君がこれほど素晴らしい薬師だったとは」

「父のことをそんな風に言ってくださってありがとうございます」

「香世。このお茶は、本当に素晴らしい物だ。瘴気を浄化するなど、尋常の効果ではないのだぞ」


 白麗にそう言われたものの、香世には実感が薄い。

 ただ、父の作った薬草茶が役に立って嬉しいという思いしかなかった。


「さて、長居しすぎたな。砥青殿はゆっくりお休み召されよ。香世の授業もしばらく休んで、まずは体を元に戻して欲しい。紫水にも連絡をしておる」


 そうして、白麗と共に砥青の部屋を後にした。

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