二十二.生贄娘、久々に白麗と対面する
白麗は、来客用の座敷で待っていた。
久々に会う白麗は、尻尾の先まで真っ黒な毛並みに戻っている。
香世は砥青と共に、座卓を挟んで白麗の対面、下座の方に座った。
「白麗様、面会の時間を取っていただきありがとうございます」
頭を下げる砥青に、白麗は首を振る。
「いや。私も少々立て込んでいて、この一月、なかなか会う時間を作れず申し訳なかった」
「お構いなく。奥方様の授業の方に集中できました。既に初級の薬師と言って良い程の腕前です」
「それはありがたい。香世、頑張ったのだな」
「ありがとうございます」
香世が頭を下げると、ゆっくりと白麗の尾が振れた。
「それで、要件をお話願えるか?」
「はい。奥方様のお力添えを賜り、白麗様の御身を煩わせる物に効くお薬を調合したのです」
「なに?」
砥青の言葉に、白麗は驚いたようだ。砥青に目配せをされ、香世は白麗の前に盆ごと丸薬を差し出した。
「こちらをお飲みいただければ、御身を蝕む瘴気は消え失せます」
「……誰に聞いた。我が身について、お前に話してはおらぬはずだが」
ぐるると低いうなり声を上げ、歯を見せて威嚇する白麗に、砥青は涼しい顔をしている。
「白麗様のそのお姿を見れば、誰にだってわかりましょう。ましてや私は薬神として名を馳せる紫水様の眷属です。隠しておられてもわかります」
「余計な事を」
砥青の側で、香世は二人のやりとりをただ驚いて見ているしかなかった。
(本当に、白麗様は瘴気に体を蝕まれておられたのね)
砥青はあくまで推測だと言っていたが、やはり本当だったのだ。
この場所に来た時から、白麗は何か事情を抱えていそうだった。
だが、それが、瘴気に体を蝕まれているなんて思いもしなかった。
白麗は、険しい目つきで砥青を見つめたままだ。
「本当に瘴気に薬などあるのか。そのような薬が存在するとは聞いたことがない」
「神の身では調薬が出来ない薬ですから、お見かけする機会はほとんどないかと」
「なるほど、それで香世の力、か」
砥青は頷くと、にこやかな笑顔を浮かべて、盆を白麗へと差し出す。
「さぁどうぞ、お飲みください」
「本当に、これで瘴気を払えるのだな」
にこやかに頷く砥青に対し、白麗はじっと丸薬を見つめると、パクリと丸薬を口にした。
「これはどの位で効果が出始めるのっ――?」
言葉の途中で白麗は苦悶の声を上げると、苦しみにのたうつ。口や目、鼻からは黒い煙のようなものが立ち上っている。
「白麗様!」
「来る、なっ」
香世は白麗の元へ行こうとするも、白麗に制止され、その足が止まる。
そうしている間にも、白麗は体を畳に擦り付け、もがいていた。
後ろから甲高い笑い声が聞こえ、香世は振り返った。
「あははは! なんとあっけない!」
そこには、笑い声を立てる砥青がいた。




