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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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20/65

二十.生贄娘、屋敷の外に出る

 翌日、言われた通りの動きやすい服装で準備を整え屋敷の庭に出ると、同じような支度をした砥青と、白い紙を顔の前に垂らした見たことのない男性が待っていた。長い白い髪に白い着物で、腰には刀を差している。


「あの」


 誰だろうと首を傾ける香世に、砥青は言う。


「白麗様の眷属だそうです。外は危ないので、護衛に連れて行くようにと言付かっております」

「そうでしたか」


 香世は眷属に向かって頭を下げる。


「香世と申します。本日はよろしくお願いします」


 白麗の眷属と紹介された男性は頷くだけだ。


「では、参りましょうか」


 砥青に促され、香世達は出発した。



 恐ろしい場所だと聞いていた屋敷の外は、思った以上に平穏な風景が広がっていた。

 青空の下、どこまでも葦原が続いている。

 おどろおどろしい場所を想像していた香世は、知らず肩の力を抜いた。


「足下が悪いので、気を付けてくださいね」


 そう言う砥青は、言葉とは裏腹に軽やかに歩き出した。


「うーん、こちらの方かな?」


 明確な目的地があるわけではないようで、香世は不安に思いつつ砥青の後を付いていく。

 地面は水でぬかるんでいる場所がほとんどで、歩きにくかった。砥青が足を置いた場所を覚えて後を追うけれど、歩幅の違いか、気が付くと砥青は随分離れた所に居る。置いていかれないよう、香世は足を速める。


「あっ」


 不意に目の前に白い袖が差し出され、香世は立ち止まった。


「どうなさったのですか?」


 だが、白麗の眷属は何も答えず、無言で葦の茂みを見つめている。

 眷属が香世を守るように一歩前に出たその時、茂みが音を立て揺れた。そして黒い嫌な臭いをする塊が香世達に飛びかかって来た。


「ひっ」


 上がりそうになった悲鳴をこらえている間に、白麗の眷属が刀を抜き、塊は真ん中で両断されていた。二つに分かれた黒い塊は、べしょりと水たまりに落ち、切り口が沸騰するように泡立っている。

 いつの間にか、先を進んでいた砥青が戻ってきていた。


「香世様。ご無事ですか……? 気が付かず申し訳ありません」

「いえ……。これが、瘴気なのですか……?」

「はい。今その眷属殿が切られたモノが瘴気が具現化したものです。あれが集まり意思を持てば、人にモノノケと呼ばれるモノになります」

「瘴気が、モノノケに……」


 瘴気と聞いて、もっと、湯気のような気体のような物を想像していたが、実際は全然違うようだ。


「あの瘴気は眷属殿が切られてしまったので、眷属殿を通じて伝わる白麗様のご神威で浄化が進んでいます。もうすぐ消えてしまうでしょう。なので、消えないうちにこちらに採取をお願いできますか?」


 差し出されたのは、側面に呪文を書き付けた紙が貼られた竹筒だった。


「瘴気が漏れ出ないよう対策をしています。こちらの注ぎ口を向けるだけで大丈夫ですから」


 促されて進み出ると、背後から砥青の声が掛けられる。


「くれぐれも瘴気には触れないようにお気をつけください。香世様には障りがあると思います」

「……はい」


 脅すようなことを言われ恐怖が込み上がってくるけれど、これはお世話になっている白麗様を助けるために必要なことなのだ。

 気持ちを奮い起こし、大分小さくなってしまった瘴気の塊に近寄り、竹筒の栓を抜くと口を向ける。途端、瘴気の塊は竹筒の中に吸い込まれ、香世は急いで注ぎ口を塞いだ。


「流石白麗様の奥方様。さぁ、竹筒をこちらに」


 言われた通りに竹筒を渡すと、砥青は竹筒の栓の上からさらに文字が書かれた紙を貼り、にこりと笑った。


「これで大丈夫です。では、戻りましょうか」


 砥青の見せた笑顔に、一瞬、ぞくりとした物が背筋を走る。それが何故なのかわからないまま、香世は白麗の屋敷へと戻るのだった。

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