十九.生贄娘、特別な薬を教わる
朝食の席に向かうと、砥青はもうやってきていた。
「おはようございます」
「今日もよろしくお願いします」
いつになく笑顔の砥青に、香世はほっとする。
「今日はお加減が良さそうですね」
「はい。奥方様には、ご心配をおかけしました。今日は今までで一番と言っても良いほど、体調が良いのです」
「何よりでございますね」
そうして和やかに食事を終えて授業に向かうと、砥青は一枚の紙を香世に差しだした。
「香世様、今日はこちらの薬を調合してみませんか」
砥青に差し出されたのは、まだ香世の知識にない薬の調合法が記された紙だった。
加工方法は確かに今まで習ってきたものだが、見たことのない素材が使われていることで、難しそうだと眉を下げる香世に、砥青は言う。
「少々難しいでしょうか。しかし香世様の腕も上がりましたし、問題はないでしょう」
「ですが……」
迷う香世に砥青は呟く。
「白麗様のためにも、早いほうが良いでしょうし」
「それは、どういう意味ですか?」
「直接聞いたわけではないので、これは私の見立てですが、白麗様は許容量以上の瘴気を取り込まれているようです。おそらくは、それでかなりの神威が損なわれていると見えます。香世様もお心辺りはあるのでは?」
「心当たり……ですか……?」
瘴気がどういったものかは分からないが、もしかしてそれが楓や桜が言っていた不調だろうか。
「例えば神の加護が弱まったせいで、地上で天候不順が起きたり、不作が起きたり、などです」
ここ二年のことを思い出し、香世は砥青を見る。
「その様子だと、心当たりはおありですね。でしたら、出来るだけ早く薬を作って差し上げた方がよろしいでしょう」
「それなら、砥青様が作られれば――」
言いかけた香世に、砥青は首を振る。
「神を瘴気から癒やす薬は、人にしか作れないのです」
「えっ」
「材料の中にある瘴気の欠片は、神や、私達のような神の眷属が触れると勝手に浄化してしまいます。ですが、薬を作るには、浄化が終わっていない瘴気の欠片が必要なのです」
「そうだったのですか……」
「この薬が出来れば、きっと白麗様の神威は戻り、地上への加護も元に戻るでしょう」
「わかりました。私でお役に立てるのでしたら、教えてください」
「では、薬草の準備を行ってから、瘴気の欠片を取りに行きましょう」
「はい」
頷く香世を見て、砥青は頼もしいと言わんばかりに頷いた。
まずは一日掛けて必要な薬草の下処理を行い、後は調合するだけの状態にしてしまう。
その間に、砥青は香世と共に白麗の屋敷の外に出る許可をもらってきた。
「明日、正気の欠片を取りに出て、帰ってきてからすぐに調合を行います」
「わかりました」
戻って来た砥青が手伝ってくれて、いつもよりも早い時間に材料の準備は終わった。
材料も、後は煮溶かした瘴気を混ぜて丸薬にするだけの状態になっている。
(白麗様が元のお力を取り戻されたら、私は不要だと言われてしまうかも……。でも、出来る事があるのに、何もしないわけにはいかない……)
寝付けないながらも無理矢理に目を瞑り、僅かな時間休息を取ることが出来た。




