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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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十七.白麗の事情 二

 紫水の眷属であり、弟子でもある砥青を招いて、もう二週間が経つ。

 白麗は、ふがいない自分自身に憤っていた。

 本当なら、香世が砥青と学んでいる時間も、もっと香世の側についているつもりだった。

 だが、実際は、食事の時間すら香世の前に出ることが出来ずに、ただ部屋の中でうずくまっている。

 本当は、香世との時間を削るつもりなどなかった。

 だが、苦しんでいる姿を見られたくなくて、香世との時間を減らし引きこもっている。



 砥青が来る数日前、香世が作ったという解毒の薬草茶。

 それが、効き過ぎているのである。

 あるいは、飲む量を増やしたことも関係しているのだろう。


「ぐっ……」


 腹の奥から、吐き気が込み上がってくる。

 吐き出す物は胃に入っていないというのに、気持ちの悪さにその場にのたうつ。


「……はぁっ、あぁっ」


 同じ薬草茶を飲んでいる、香世はもちろん、楓と桜の身にもこのような変化は起こっていない。

 最初は、単に、薬草茶との相性が悪いのかと思った。

 だが、この気持ちの悪さが一段落すると、白い毛束が増えているのだ。

 この体調不良は、薬草茶の解毒作用に瘴気が反応し起きている物だと思われた。

 だからこそ、楓と桜には薬草茶を元の量に戻した方が良いのではないかと言われたが、白麗は頑なに拒んでいた。


 香世と契約結婚をした当初は、ゆっくりと瘴気を浄化していければ良いと考えていたが、薬草茶を飲むだけで浄化 を早く進めることができるのならば、できる限り急いだ方がいいに決まっている。


「早く……、力を、取り戻さねば……」


 力が無ければ、何も守ることは出来ない。


 最初にまみえた時は、瘴気に取り込まれた相手に、白麗も戸惑いがあった。

 同じ神という位置にいたのに、瘴気のせいで違う存在に変わってしまった、そんなモノに対して、心のどこかで哀れみを感じていた。だからこそ、躊躇いが生じ、白麗は呪われ身に瘴気を移されることになった。


 だが、もう、そんな醜態をさらすつもりもない。


 それに心配もある。

 瘴気を白麗に取り込ませた堕ち神の気配を、近くに感じるのだ。

 ソレは、白麗もいずれ堕ち神になると思っているだろうから、白麗が堕ちた姿を見に近くまで来ているのかもしれない。結界の中にいるわけではないだろうから、それでも気配を感じるというのは、最初に会った時よりも力を増しているのだろう。

 もし、白麗が堕ちきっていないと知られれば、眷属の楓と桜はもちろん、婚姻を結んだ香世にも魔の手が及ぶかもしれなかった。


「ぐるぅぅぅぅ」


 そんなことは許せないと、白麗は無意識にうなり声を上げていた。

 次に堕ち神が来た時は、躊躇なく滅する。

 そのためにも、早く万全の体調に整えたかった。

 そうして、気が付く。


「少し、落ち着いた、か……?」


 体を見ると、また少し白い部分が広がっていた。尾の他に、手足も元の白い毛並みを取り戻しているが、胴と頭の部分に黒い毛が残っている。


「これでは、まだ、しばらくかかりそうだな……」


 当初考えていた速度からしたら、随分早いはずなのに、どうしても気が焦ってしまう。

 溜息をついていると、楓がやってきた。


「白麗様、薬草茶をお持ちしました」

「楓か。すまない。手間をかけるな」

「いえ。ご気分は……」

「今は悪くはないが、また悪くなるだろうな……」


 苦笑気味の白麗の答えに、楓は白麗の苦痛を察してか、心配そうな表情をしている。


「香世は、つつがなく過ごしているか?」

「はい。砥青様に薬草や調薬について、毎日学ばれておいでです」

「砥青を呼んでおいて助かったか」


 香世も退屈せずに済んでいるだろう。

 頷く白麗に、楓が控えめに声をかける。


「ですが、白麗様にお会いできていないと時折寂しそうにしておられます」

「……わかっていると思うが、香世はこちらに近づけないように」


 何か言いたげにしながらも、楓も白麗の気持ちもわかるのか、口をつぐんでいる。

 楓が立ち去った後、白麗は新しく運ばれてきた薬草茶に口をつけるのだった。

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