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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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十六.生贄娘、心配する

 砥青が来てから約二週間が過ぎた。

 一日の授業が終わり、夕食と入浴を済ませて与えられている部屋に戻ると、香世は一つ息を吐いた。

 調薬の勉強は順調で、砥青の教え方がうまいのもあり、困ることはない。

 だが、いくつか心配事があった。

 一つは授業の最中に時折、砥青がつらそうに頭を抑えているのだ。

 体調が悪いのかと尋ねるが、砥青の方は夢見が悪いだけだと言うばかりだ。一応、自分で作ったという体の気の巡りを整える薬を飲んでいるというものの、あまり効いている様子はない。本人は心配はないと言っているが、体調に改善する兆しが見えず、香世は心配していた。


「私にも、何か出来る事があればいいのに」


 でも、薬師の知識は砥青の方が上で、まだ薬師として駆け出しの香世に出来る事は何も無かった。


「……私は私で、出来るところから、進めていくしかないわね」


 文机の上には、既に三冊目になった帳面が並んでいる。

 すべて砥青に教わった内容だ。

 さらにもう一冊、授業には持って行っていない帳面もあり、香世はそちらを手に取った。

 これは、砥青が持って来た図録を借りて、夜の空き時間に書き写させてもらっているのだ。

 図録の残りをめくって、香世は「うん」と気合いを入れた。


「今日の分を進めましょう」


 毎日取り組んでいるのに、ようやく三分の一が終わったというところだ。


 学ぶ事が嫌なわけではない。砥青は優しいし、調薬について学ぶのも楽しい。

 この図録を写し終わる頃には、砥青の不調も治っていれば良いと祈るばかりだ。



 墨を磨りながら、ふともう一つの心配事の方も思い浮かぶ。


(でも、こちらも考えても仕方が無いことだわ……)


 その心配事とは、最近、白麗と会えていないというものだった。

 砥青が来て二日目の朝餉を最後に、その姿を見ていない。

 桜に聞いても手が離せない用事で会えないだけで、楓が付いているから大丈夫だと言うばかりだ。

 香世はその言葉を信じるしかないが、白麗と二人きりの朝餉の時間も、毛繕いの時間も無くなってしまった事に寂しさを覚えていた。

 もしかしたら、砥青の授業に集中できるようにという気遣いかもしれないと、そう思うようにしている。

 香世が作った薬草茶は気に入って毎日飲んでくれているようなので、薬草茶自体の作り方も伝えているので、こちらも香世が出来る事はない。


「お会いしたいな……」


 尊大な態度は神として当然ながら、なにかと香世のことを気遣ってくれて、香世の毛繕いに満ち足りた雰囲気を出す白麗と過ごす時間が恋しかった。

 だからといって、香世の方から神である白麗を呼び出すわけにはいかない。

 それに、まだ薬師の知識も中途半端にしか習得できていない。

 全てを学び終えて砥青が帰れば、きっと以前の日々が戻ってくるはずだと、香世は再び借りている図録に向き合った。

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