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生贄娘と呪われ神の契約婚  作者: 乙原 ゆん


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十五.生贄娘、砥青と話す

 砥青が来て三日。

 今日は白麗は都合がつかないとのことで、朝食の席には現れなかった。

 残念に思いながらも、香世は砥青と朝食を食べ、そのまま場所を変えてその日の授業が始まる。

 授業の開始前に、砥青はこほんと咳払いの後、少し言いにくそうに口を開いた。


「今日は、授業の前に一つ奥方様に尋ねたいことがあるのです」

「何でしょうか」

「今更の質問になりますが、奥方様はどうして薬師になりたいと思われたのですか?」

「薬師になりたい理由、ですか?」


 頷く砥青に、香世は続ける。


「それは、もともと父が薬師で、私も薬師を目指しておりました。それで、今も目指しております」


 砥青がどのような意図でそう言ったのかわからなかったが、香世はそう口にする。

 だが、砥青はその答えでは納得できなかったようだ。


「なるほど、ですが、それは地上でのこと。こちらでは奥方様の暮らしは保証されていらっしゃるではないですか。なのに、わざわざ薬師の勉強を始められたことが疑問でして」


 部屋の端に控えている桜が厳しい目で砥青を見ていて、砥青は慌てたように付け加える。


「誤解なされないでください。私は、奥方様の熱意を疑っているわけではありません。その、奥方様は遊んで暮らしていても良いはずなのに、真剣に学ばれているので。むしろ、何か必要があってのことかと思っておりました。そうでしたら、むしろそちらに照準を合わせた授業をした方がよろしいかとも考えているのです」


 砥青の言葉に香世は首を振る。


「必要に迫られて、というわけではありません。私は、怪我や病気で苦しむ人のために薬を調合する父の背中を見て育ちました。幼い頃は、私もそうやって生きていきたいと思っていたのですが、あいにく私は薬師に必要な事を色々と教わる前に、父を亡くしてしまって、薬師になるのを諦めざるをえませんでした」

「それは、お悔やみ申し上げます。苦労してこられたのですね」

「いえ。周りの方に恵まれていたおかげで、そう酷い暮らしではなかったと思います」


 ほっと肩を落とす砥青に、香世は続ける。


「今までの私は、誰かに助けてもらうばかりでした。なので、いつかは、私も誰かを助けることができるような人間になりたいのです。でも、今のままでは何もできません。それで、薬師の知識を授けていただけたら、その、すぐにでは無理でも、いつかは誰かの役に立つのではないかと思って」


 話していて、気が付く。

 確かに、他の人に助けてもらってきた分、周りにその恩を返したいと思う。

 でも、一番は、助けてもらった白麗に、役に立つと思ってもらいたいのだ。


(それに、何もできない人間だと、見限られたくない……)


 白麗に花嫁として扱ってもらっているが、この結婚も白麗に必要があってのこと。

 契約が不要になれば、香世は元の村に返されるだろう。

 でも、もし、香世が薬師としての腕を磨き、役に立つと認めてもらえたなら、ずっと側に置いてもらえるかもしれない。

 贅沢な暮らしが目的ではない。

 ただ、白麗の側を離れたくないのだ。

 白麗は、ずっと香世に好意を示してくれている。

 そんな存在と離れて、再び一人で生きていくことなんて、もう、香世には考えられなかった。

 両親を亡くしてから、三年も経つ。

 助けてくれる人もいたし、一人での暮らしにはもう馴れたと思っていたのに、思った以上に孤独を感じていたようだった。

 薬師を目指す理由の底に、そんなよこしまな思いがあることに気が付いてしまい、香世は慌ててその思いを振り払う。


「白麗様には、折角機会をいただきました。ですので、砥青様が授けてくださるなら、その全てを学びたいと思っています」

「わかりました。では、授業はこのままの方針で進めましょう」


 砥青は、納得したように頷いている。


「香世様、なんて素晴らしいお志……」


 桜が感動したように香世を見ているが、香世としては自分に下心があることに気が付いてしまったので、桜の感動を素直に受け取ることはできなかった。


「そういうことでしたら、このまま授業を進めましょう」

「よろしくお願いします」


 頭を下げた香世に、砥青は頷き昨日の続きの図録を開くように言うのだった。

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