十四.生贄娘、薬学を学ぶ
それから何日かして、紫水の眷属が到着した。
香世はいつもよりも豪華な着物を準備されており、支度を調えた後に、御座敷に座る白麗の隣へと案内される。
白麗も今日は黒い羽織を着ているため、白くなっている尾は羽織の裾で隠れていた。
香世が座ると、楓と桜に案内されて青年が入ってきた。
「紫水様に言いつかって参りました砥青と申します。白麗様、この度はご結婚おめでとうございます。師からも祝いを預かってきております」
頭を下げるのは、長い若竹色の真っ直ぐな髪を背で一つにくくり、薄黄の瞳をした青年だった。
「砥青殿、遠いところ良く来てくれた。紫水に聞いていると思うが、我が妻に薬師の知識を授けて欲しい。よろしく頼む」
「恐縮でございます。師からもご用件は伺っております。白麗様のご信頼にお応えできるよう、私の全ての知識を奥方様にお伝え致します」
「よろしくお願いします」
白麗が頷き、香世は砥青に頭を下げた。
翌日から砥青の授業は始まった。
「午前中は座学で基礎的な薬草の知識をお伝えします。午後からは実践で、薬草の扱いや調薬について学んでいきましょう」
「かしこまりました。よろしくお願いします、先生」
「砥青で結構ですよ、奥方様」
「では、私のことも香世とお呼びください」
少々緊張しながら答えた香世に、砥青は小さく笑う。
「いえ、白麗様の奥方様の名をお呼びするわけにはまいりません。このまま奥方様とお呼びします。それに、私のような者にそのように畏まらなくてよろしいのですよ」
「いえ、私は教わる立場ですので、砥青様がよろしければこのままでお願いします」
「そういうものでしょうか。では、今日はよく使われる薬草とその効能についてお話ししましょう」
「はい」
話し始めた砥青の知識は豊富で、さらには香世のために薬草の図録も持って来てくれたらしい。それらを見ながらの授業に、香世は楓と桜にもらった帳面に砥青の知識を書き付けていった。
午後からは、午前中に学んだ薬草を白麗の庭に探しにいく。
白麗の庭は薬草が豊富で、砥青の持ってきた図録に載る草のほとんどが植えてあるらしい。
香世は庭の茂みをいくつか見て回ると、指示された薬草を見つけた。
「あっ、見つけました! これですね!」
「正解です。花の時期でないと見つけにくいのに、良く見つけましたね」
「朝の授業で、見分け方を教えて頂いていたからです」
「それにしてもこの短時間で見つけるとは、才能がおありだ。……奥方様は草花がお好きですか?」
「はい!」
「なら、きっと、薬師は向いているのでしょうね」
「……そうだといいのですが。砥青様に教えて頂くのですから、最高の薬師を目指します」
「では私もご期待に添えるように励まなくては」
そうして砥青はその場で間違いやすい薬草についても教えてくれた。




