十二.生贄娘、薬草茶を作る
香世は摘んできた薬草を水で洗って、竹で作られた籠に干す。
(上手く出来ますように)
作り方は覚えているが、それでもそう思わずにはいられなかった。
香世も、ただ懐かしいからというだけで薬草茶を作ってみようと考えたわけではない。
父の薬草茶には、解毒作用があると聞いていた。
詳しい事情はわからないが、白麗は体の不調を抱えているらしい。
だったら、自分が出来る事で、ここまで良くしてもらった恩を返すことができたならと思ったのだ。
効果があるかわからないから、詳しい話は手伝ってくれている楓と桜にも話していない。
(自己満足で終わるかも知れないけれど、それでも)
父の薬草茶が白麗に良い効果をもたらすようにと願わずにはいられなかった。
それから数日で香世の薬草茶は完成した。
楓と桜に頼んだ味見の反応も悪くなく、お茶の時間になると香世は薬草茶を淹れ白麗の元へと向かった。
「今日は変わった茶だな」
白い陶器の底が透ける薄黄色の飲み物に、白麗はしきりと匂いを嗅ぐ。
ちなみに白麗は犬の姿ではあるが、本物の犬ではないので食事に制限はないと聞いている。でなければ、お茶も飲めないだろう。
ただ、熱には敏感なようで、熱い物は苦手なようだ。
「父が教えてくれた薬草茶です。お庭の薬草を分けていただいて、作りました」
「楓と桜が、楽しみがあるといっていたのはこれか。ドクダミが入っていると聞いたが、全然あのにおいはしないな」
「ふふ、楓さんも桜さんも同じように言われていました」
眷属だから、反応も似るのだろうか。
微笑ましいが、白麗は気まずげに咳払いして話題を変えた。
「香世の父君は薬師だったのか?」
「はい。もとは旅をしながら薬草を摘んで薬を作って村を回っていたそうですが、母が私を妊娠したのを機にあの村に腰を落ち着けたと聞いています」
「では、香世も何か薬を作るのか?」
「いえ。教えてもらうつもりだったのですが、その前に両親は亡くなってしまって。このお茶と簡単な傷薬だけしか作れません」
「そうだったのか……。悪いことを聞いたな。苦労したのではないか?」
白麗の尻尾は香世を案じているのかしおしおと垂れており、香世は慌てて首を振る。
「傷薬しか作れなくても、村の人は何かと気に掛けてくださって困ることはありませんでした。それに、父に少しだけでも教えてもらっていたおかげで、白麗様にこのお茶を飲んで頂けます」
「そうか」
緩やかに白麗の黒い尾が振られ、優しい声で頷かれて、香世はどこか気恥ずかしい気分で手元のお茶に視線を落とした。
「そろそろお茶もよい温度だと思います。どうぞお召し上がりください」
「いただこう」
白麗は飲みやすいよう香世が差し出した茶器に鼻を近づけ、もう一度匂いを嗅いだ後、ぺろりと舌を出し器用にお茶を飲む。
「ほう。飲みやすいな。美味い。気に入った」
「嬉しいです」
楓と桜も気に入ってくれたが、白麗に言われるとより嬉しい。
「世辞ではないぞ。明日もこの時間には香世の薬草茶が飲みたい」
「えっ、そんな……。本当によろしいのですか?」
白麗が口にする物は、きっと全て一級の素材を使った品だろうに。
「花嫁殿の思い出の味だ。共に味わいたいのだ」
白麗の言葉に、香世は胸があたたまる思いがした。




