十一.生贄娘、庭を散策する
白麗が飲み干した茶器を台所に運ぶと、楓と桜が待っていた。
「主様のご様子はどうでしたか?」
「お喜びでしたでしょう?」
「そこまではわかりませんが、明日は私の分も持ってくるようにと言われました」
「まぁ! よかったですね、楓さん」
「ええ。思った以上ですわ、桜さん」
二人は顔を見合わせて微笑んでいる。
「明日はとっておきのお茶を淹れましょう」
「甘いお菓子も準備をしておきましょう」
白麗以上に甘やかそうとする二人を、香世は慌てて止める。
「その、いつも通りでお願いします」
「そういうわけには参りません」
「そうです。それに。香世様の笑顔を引き出せれば、主様もやる気が出るというものです」
「そういうもの、でしょうか……?」
「はい! ですので、香世様、私達にお任せくださいね」
そう言う楓と、頷く桜に押し切られ、香世は頷くしかなかった。
後片付けをさくっと終わらせ、三人で庭に向かう。
白麗の屋敷の庭は、樹齢何百年もあるような松があり、菊や牡丹、芍薬と、父が持っていた図鑑の中でしか見たことがないような、珍しかったり高価だったりする草木が生き生きと茂っている。
そんな庭を隅から隅まで歩いて回り、庭の北側にあたる場所に、香世は馴染みのある懐かしい植物を見つけた。
「ドクダミだわ……!」
建物と庭の木々の丁度影になる場所に、赤みを帯びた茎と深緑の葉を持ち、小さな白い花を咲かせるドクダミが群生している。
香世は着ている着物を汚さぬよう気を付けながら進み、目当ての草の前で腰を落とした。
「ドクダミが、お好きなのですか?」
「傷の手当てで使うから植えていますが、においがきついから苦手です」
確かにドクダミには癖の強いにおいを持つ。
楓と桜は余程苦手なのか顔をしかめて近寄ってこない。
そんな二人に香世は言う。
「これを使って、薬師の父様がよくお茶を煎じてくれていたのです」
香世の言葉に、二人は目を丸くする。
「へぇ、この臭い草が?」
「傷薬になるだけではないのですね」
味を想像しているのか、渋い顔になる二人に、香世は言葉を足す。
「はい。お茶になると意外とこの匂いはしないのですよ」
「そうなのですか……?」
「それならちょっと、飲んでみたいかも……?」
「ちなみに、香世様はそのお茶をお作りになられることができるのですか?」
興味を惹かれた様子の楓と桜に、香世は答える。
「はい、簡単です。でも、お茶になった後はにおいませんが、加工してしまうまではそれなりににおいがします」
「うっ」
「で、でも、香世様の思い出の味に興味があります。桜はどう思います?」
「そうですね、私も飲んでみたいです!」
もし楓達の口に合わなくても、自分が飲めばよいことだと、香世は頷いた。
「わかりました。では、作ってみますね。こちらのドクダミを少々分けていただいてもよろしいですか?」
「もちろんです! ね、楓」
「はい、桜。香世様、お手伝いすることがあれば教えてください!」
「でしたら、他にも必要な薬草があるのですが」
香世がいくつか薬草の名を述べると、楓と桜は庭を指差し場所を教えてくれた。
「では、こちらのドクダミの後にそちらも摘ませてください」
「香世様のお茶、楽しみです! ね、楓」
「はい、桜」
においが苦手と言いながらも、二人は楽しげに薬草茶の準備を手伝ってくれたのだった。




