十.生贄娘、お茶を運ぶ 二
白麗の元に向かうと、書見台の上に広げた本を読んでいるところだった。
その様子が意外で、香世は思わず首をひねる。
「どうした?」
「いえ、その。意外で」
「あぁ。この姿だと、こういう動作は不便だからな。だが、やろうと思えば案外できるものだ」
そう言いながら、白麗は鼻先を使って器用にめくって見せる。
感嘆の声を上げる香世に、白麗は苦笑を滲ませて答える。
「流石に、本を台に乗せるのは、楓に手伝ってもらったが。ところで、今日は香世が持ってきてくれたのか。二人はどうしたのだ?」
「我が儘を言って、楓さんと桜さんに代わってもらいました」
「そうだったのか」
白麗は頷くが、その声色からは白麗が香世の行動をどう思っているのかよくわからず、香世は思わず白麗に尋ねた。
「駄目でしたでしょうか」
「構わん。香世が好きなように過ごすのを咎めたりはせん。だが、他にやりたいことがあるなら、そちらを優先していいのだぞ?」
白麗が好意からそう言ってくれているのはわかるが、むしろ、何もさせてもらえない方が香世は困ってしまう。
「今のところはありません。ですので、明日からも私が来てもよろしいですか?」
「あぁ。その時は香世の分の茶も、一緒に持ってきてほしい」
「私の分も、ですか?」
「二人に、私の休憩をさせろと言われているのだろう? だから、香世も付き合え」
「わかりました」
「代わりに、その茶がもう少し冷めるまで、香世が撫でてくれるか?」
香世は迷った末に無防備に横たわった白麗の首元へと手を伸ばした。
柔らかであたたかな感触に、思わず笑いが零れる。
「どうしたのかい?」
「白麗様がふかふかだったので嬉しくて」
「香世が毎朝梳いてくれるからだな。ん……、背中側も頼む」
背中側は、首元よりも少し硬い毛が生えている。
その感触も気持ち良く、香世は白麗の反応を見ながら撫で続けた。
「そろそろいい。疲れただろう?」
「いえ、疲れてはおりませんが……」
香世は、一瞬躊躇ったものの、思わずそう尋ねていた。
「また、撫でさせてくださいますか?」
白麗は、驚いたように金色の瞳を丸くすると、嬉しげに細める。
「あぁ、また頼む。良い気分転換になった」
白麗の尾がゆったりと振られ、香世は断られなかったことを嬉しく思うのだった。




