Installed deleterious drugs.
私は醜いね
〔そうだね。醜いね〕
皆離れていくの
〔可哀想に〕
私って不気味だね
〔さあ?〕
全部嘘にまみれ続けて汚れたの
〔そうだね。〕
生きていていいのかな?
〔さぁ。〕
死にたい
〔死なないで〕
だったら、離さないで
〔離さないよ〕
愛して
〔愛してるよ〕
一人で寂しい
〔どこにも行かないで。〕
誰も信じられなくなって
君しか、信じられないの
〔もう俺しか、信じられないでしょ?〕
――――――――――――――――――――――――――
「…どういうこと?姉さん」
天界。
そこは神や悪魔等が集う楽園である。
そこで、過去最大の修羅場が起きていた。
世にも美しい男は、宝石だと讃えられるエメラルドグリーンの瞳で目の前にいる女を睨む。
「…なんで…」
抑えられない震え声で、絞り出すように呟く。
その女――悪を司る大悪魔ベリアルは、自分の双子の弟――癒を司る智慧天使ラファエルのことが怖くて仕方がなかった。
「…飽きた?俺の愛が伝わってなかったの?」
天界で勝るものが居ないと言われる美貌をもって、ラファエルは誘惑する。
双子の姉弟である序列トップの二人。
愛し合っていたはずの彼らは今や、決戦が起きそうなほど緊迫した状態で対峙していた。
ベリアルは、血が滲む程拳を握りしめる。最悪の状況を打破する方法を考えるも、頭が回らない。
……なにが最悪なのかというと、ラファエルが姉の性質をよく理解しているということである。
「…ミカエル…」
――端的に言うと、ベリアルが浮気した。
軍事を司る神ミカエル。燃えるようなオレンジの髪と透ける様なレモン色の瞳を持った彼は、神々の中でも軍事に関して秀でた才能を持っている。
…かつて、ラファエルの忠実な犬でもあった。
だが、出逢ってしまった女は森羅万象の真理を表す女。彼を根本から変えてしまったのだった。
なぜ浮気がバレたかなんてたかが知れているが。
「ねえ、もう十分でしょ。お利口な姉さんなら分かるよね?」
「………」
「俺以外は愛せない。なぜなら俺がそう躾けたから」
「…っ…しらない…そんなはずないっ…」
「もう誰も信じられないでしょ?――俺以外」
べリアルは言葉に詰まり、ふいと顔をそらした。
図星だと言わんばかりに、その顔は悔しそうだ。
「姉さん、今なら許してあげるよ。ほら、ごめんなさいして?」
「…嘘…」
未だ抵抗しようとするベリアルを、ラファエルは嘲けるように口角を釣り上げた。
――ベリアルは重度のバグ…所謂疾患を抱えているため、自分に逆らうことなんて鼻から無理だと知っている。
暗記や覚える事は得意だが、自分で何かを判断することもできず、行動することもない。人に教えてもらわないと行動できない。
普段はバグ修整のため、エメラルドグリーンの雫型ピアスを嵌めているのだが…
今、ベリアルの耳にそれはない。
「謝らないもん…ミカエルのこと、本当に好きだったワケじゃないから…」
…だから、手を出さないで、と。
謝るつもりはなかった。私が浮気をしたきっかけはラファエルにあるから、弟にも非があるはずなのだ。
――だが、彼はそれを許さない。
そもそも赦すつもり等毛程もない。伝えてはいないがミカエルにはとっくに制裁を下していた。
「じゃあ、いらない」
目を見開き硬直したベリアルに、更に追い打ちをかけた。
「お前に拒否権なんて与えたことないけど。いい子じゃない姉さんはいらない」
ベリアルは完全に思考が停止した。段々パニックに陥り、視界がぐるぐると歪み始める。まるでパブロフの犬のように。
「…ごめ、さ、…悪い子…や…」
「可愛いね。でも、今回は流石に許せないよ?」
悪魔的にそう呟くラファエルは、抑えきれない愉悦の笑みを浮かべ、脳髄に染み込ませるように囁く。
「これから100回姉さんを転生させようと思うんだ。」
「は…」
「全ての人生を俺が終わらせてあげる。そうしたら、きっとわかるよね?」
「……なに、それ……あ、や、」
「俺が姉さんの全てだって」
「ひっ…――うわっ!?」
エルは視線を地に落とした瞬間、世界を操る巨大な魔法陣が浮かび上がってきた。
乱暴に突き飛ばされ、魔法陣に拘束された。強者を怒らせてしまった、その事実に本能的な恐怖がベリアルを襲った。
「ラファエル!止めてよ!やだ!」
「ずっと見てるからね」
徐々に意識が遮断していく。
暗闇の中で唯一はっきりと刻み込まれた言葉――
「姉さん、愛してるよ」