偉大なるアドバイス
ある罪人がいた。
彼は名前を呼ぶことさえも憚られるほどの大罪人だった。
彼は幾人もの人間を殺して刑務所に入り、今や死刑を待つだけの身だったが、その間に暇を持て余して小説を書いた。
そして、その作品を名だたる作家達が口を揃えて『彼にしか書けない大傑作だ』と褒め称えた。
故に彼は死刑囚でありながら、それと同時に比類なき小説家でもあったのだ。
死刑当日。
彼は私に言った。
「人を引き付ける文章の書き方を教えてやろうか」
興味はなかった。
しかし、比類なき小説家である彼の最期の言葉だ。
手向けに受け取ってやろうと思い私が無言のままに頷くと彼はにやりと笑って教えてくれた。
「人を殺せ。それも一人や二人ではない。出来る限り多くの人間を」
ぽかんと口を開ける私に彼はなおも告げた。
「そうすりゃ、適当な文字の羅列さえも『あの罪人には違う世界が見えていた』だとか言って連中は勝手に自分の中で解釈を作る。そうしている内に難解なものが出来ていく。俺の預かり知らぬところでな」
人生を終えるために歩きながら彼は世界を嘲笑う。
「売れっ子になりたきゃ今すぐに人を殺せ。十人、二十人、三十人……そうすりゃ、落書きの一つが崇高な芸術に変わる。殺した数だけ馬鹿共がありもしない中身を作り出してくれるのさ」
死刑は予定通り終わった。
彼の作品は今でも多くの人に読まれている。
その本質を捻じ曲げられたままに。