恐怖
「お邪魔させてもらうぜぇ?」
――オフィスのドアが荒々しく蹴り開けられた。
いかにも半グレといった風貌の男たちがオフィスへなだれ込む。
リーダー格と思しき男の右手に紫色の光が収束し――
――巨大な大剣を生み出す。
異能犯罪者、と呼ばれる者がそこにはいた。
「金庫を開けろ。拒否するなら全員殺す」
男たちのその冷たく重い言葉に、室内が凍りつくような錯覚を覚えた。
「おい。早くしろ。」
男が苛立った様子で続ける。
「見せしめが必要か?……おい、そこのお前。こっちへ来い」
震えている竹原を、部下らしき男が引きずっていく。
怯えきった竹原を見下ろしながら男は口を開く。
「異能ってのは何なんだろうな?俺は毎日毎日願ってたよ。このクソみてぇな世界を好きに生きれたら……ってな」
「そしたらある日突然目の前に現れたんだよ。この大剣がなぁ。こいつは良いぜぇ?最初は大したことねぇ。だけどよ、生き物を斬るたびに……"馴染む"んだ」
「そうして俺の剣は、何でも斬れる最強の刃になるってわけよ」
――男は叫びながら、大剣を横薙ぎに振るう。
その先には真っ二つになったデスクが、砕けた破片を撒き散らしながら転がっていた。
それを見てひとしきり大笑いした男。
「んじゃ、ま。運が無かったな。俺の為に死んでくれや」
――そう言うと男は、命乞いする竹原へ大剣を振りかざす。
―――関係ないはずだった。
他人よりも、自分と家族が大事。俺はそういう人間だ。
……なのに、気付いた時には、もう動いていた。竹原を庇う様に、男との間に割って入っていた。
「何だよお前。ヒーロー気取りか?……チッムカつくなぁ。まぁ誰でも良いわ。死ね」
振り下ろされる大剣。同僚たちの悲鳴。啓介は何も感じない。痛みも、苦しみも。
啓介の心臓が激しく鼓動を打つ。何かが内側から湧き上がり、全身を駆け巡った。
視界が揺れる。背中が焼ける様に熱い。
……何かが、見下ろしていた。
黒い影。異形の腕。"沈んでいる"ような下半身。まるでどこか別の世界から這い出してきたかのように。――いや、それは。"俺の中から生まれた"。
モンスターは男の大剣を跳ね除けると、身体をうねらせ男の部下全てを一瞬の内に切り裂く。
啓介は恐怖していた。自らの内に潜んでいた異形に。まるで、自身の劣等感を刺激されているかのような惨めさに。
「こんな……こんな化け物を……俺が?俺が……生み出した?」
1人残された男が叫ぶ。
「――ふざけんな!!」
「ふざけんなよ……ふざけんな!!銀行勤めの!いかにも幸せですってツラした奴が!生意気なんだよ!!」
「叩き斬ってやんよぉぉぉ!!!」
――男は吠えながら踏み込んだ。
振り下ろされる大剣。だが、その刃は空を裂いた。
異形が、いつの間にか男の背後に回っていた。異形の甲高い悲鳴が響く。それは笑い声にも聞こえた。"嘲るように"、"見下すように"。
それは男に向けられたものじゃない。……俺に向けられたものだ。
"お前が生んだんだろ?"と言わんばかりに。
既に瞳孔の開ききった男を見つめ、啓介は――声すら出せなかった。
「"俺は、一体何を産み落としたんだ?"」




