日常、あるいは非日常
「おーい、そろそろ出るぞー」
伏見 啓介はスーツの襟を整えながら、リビングへ声をかける。
ダイニングテーブルでは、妻の沙耶が7ヶ月になる娘に朝食をあげている。
「今日も忙しい?」
「まぁな。うちの銀行も最近、セキュリティ強化とかで色々やる事増えてるし」
啓介の仕事は都内の大手銀行・資産管理部門のサラリーマンだ。
主に高額な現金や貴金属を扱う部署で、金庫の管理にも関わる。
「うちは現金の取り扱いが多いからな。最近は強盗事件なんかも多いし」
「そんな物騒なこと言わないでよ」
妻は眉をひそめるが、啓介は冗談めかして笑った。
まさか、そんな日が今日訪れるとは―――
この時は思ってもいなかった。
昼休み、スマホを弄っていた同僚の竹原が顔を青ざめさせている。
「伏見さん、ニュース見てください!」
「ん?」
自身のスマホに目をやると、ニュース速報のポップアップが流れている。
―五十会銀行本部ビルに武装集団が立てこもる―
―犯人は複数名、異能力者の可能性あり―
「――っ!」
啓介の心臓が跳ね上がる。
映っているのは、まさに自分が働いている銀行のビルだった。
「……冗談だろ」
その時だった。
――ドォォォン!!!
突如、階下で爆発音が響き、床が揺れる。
悲鳴が上がり、オフィスが一瞬にして阿鼻叫喚の場と化した。