第四十八回「万引きの真相」
学生達の大祭が無事に終わった夕御飯時。
校舎裏で私は人知れず大の字になり横たわる見知った者へ話し掛ける。まるで何も知らないかのように。
「あらあら、蒼山君こんな所でお昼寝とはお行儀が悪いですね?」
「なんか眠たくてな。ソウルイーター先輩もどうだ?」
アザと泥だらけの蒼山君は気持ちよさそうだ。達成感が顔へにじみ出ている。
「それは嬉しいお誘いですが今回は遠慮しますよ。代わりに後夜祭はお暇ですか?」
「普通に帰る。皆と仲良くフォークダンスなんて俺には関係ないイベント。それに紅羽先輩誘えたんだろ? ならもう俺は無罪放免さね」
「残念ながら紅羽君は予定が空いてなかったです。なので貴方に代役を依頼したいのですが? まさか生徒会長の私がボッチになるわけにはいかないので」
「おいおい、俺は悪名高い嫌われ者だぞ。踊ったら先輩がいい笑いものだ。男なんて一杯いるんだから代わりは他を当たってくれ」
「お断りです。私は蒼山君を指名しています。それに失笑? 爆笑? そんなことで済むのでしたらーーいや、済むんだからお安いもの。私は君と踊りたいの。これは会長命令だよ、拒否権はない」
「職権乱用だぞ……分かったよ。でも周囲から白い目で見られても返品効かないからな」
「ふふふん、それは望むところだよ」
私はいつの間にか敬語をやめていた。親しい間柄でも徹底していた習慣を。
——時は戻り
文化祭当日 生徒会室 八時三十分
冷えてきた朝の空気が文化祭へ向けて気持ちが引き締まる。
「引き受けてくれてありがとう。頼りにしてますよ。なずなちゃん、いや風紀委員長代理」
「大任だから緊張しますよ。本当に私で大丈夫ですか? ソニア会長」
私は不安がるなずなちゃんの腕に腕章をつけながら、「真面目な貴女ならこなせるでしょう。もし生徒間もしくはお客さんの間でトラブルになったら事前の打ち合わせ通り緑川先生へ相談してください。すぐに対処してくれる手筈になってます」とエールを送る。
なずなちゃんの眼鏡には寝不足気味で隈が目立つ私が映っていた。
まだ暴漢に襲われたショックから立ち直ってない。
無傷とはいえあれは怖かった。
比べて一緒にいたなずなちゃんは強い。
恐怖など億日にも出さずこの場に立っている。
「了解です。まあ、他のクラスより自分の教室が一番不安ですけどね……」
「一年二組の出し物は執事&メイド喫茶かぁ。文化祭では難しい接客業だから心して掛からないと」
「はい。ぐだぐだだったのを何とか土壇場まで粘り開店まで持ち込めたみたいなので、みんなバラバラだったから心配が募るばかりです」
電気ケルトで沸かしたお湯で珈琲を淹れる。
蒼山君が補充してくれている挽いたブレンドした珈琲豆とフィルターのお陰で毎日美味しい一杯を味わえていた。
「もし蒼山君が何か問題起こしたら教えてくださいね。野放しにしている私の責任ですから」
「はははっ、大丈夫。それどころか蒼山君がいなかったらここまで辿り着けなかったです。本人に言ったら嫌がりますがMVPは蒼山君。それより和を乱しているのは他にいると思いますけど。例えば文化祭準備副委員長の灰原先輩関係とか」
「冗談はともかくあの人は頭が痛い。年長だからきつく注意することもできませんから。気をつけてください」
灰原瑠衣音先輩。何かと私にちょっかいを出してくる人。
昔、卑怯なやり口で票を集めるも生徒会長戦で正々堂々コテンパンに伸した以来、何かと嫌がらせをしてくる。
でも尻尾を掴ませないのは不良というより秘密結社のボス。
表向きは猫を被って学校に忠実な品行方正な優等生だけど、黒い噂が絶えない蒼山君並の要注意危険人物。
……いや、敵意むき出しで私に巧妙な罠を仕掛けてくるあたりこちらの方が厄介。
「はい、何処まで期待に答えられるかまだわかりませんけど、精一杯務めさせてもらいます」
「それともし裏で暗躍している人が誰が分ければ教えてくださいね。大方予想はついてますが決めつけるは性に合わないので」
「あの間違っても蒼山君じゃないですよ」
「わかってますよ。いくら不良でもこんな大衆の中一匹狼の蒼山君に何かできるわけがないです」
「わかってません。蒼山君に口止めされていたので言いませんでしたが本当のことを話します」
「本当のこと?」
「はい。実はだいぶ前ソニア会長が警察に呼び出されたのは元は私が原因なのです」
「どういうことですか? 蒼山君が万引きしてなずなちゃんが それを戻したのは知ってます」
「真実は違います」
なずなちゃんは語る。
万引き犯と警察に補導されていた時たまたま通り掛かった蒼山君が事情も聞かず罪を全て被ってくれたこと。
「なるほど、弟さんが万引きやったのをなずなちゃんがこっそり元の場所へ戻そうと行動を起こしたと」
「はい。その時おまわりさんに発見されまして。本当なら真相を話すべきだったんですが親に負担をかけたくないから蒼山君の判断に移乗しました」
「むむ、それは私でも判断に困りますね……」
「後日、緑川先生に相談したら蒼山がそれでいいのなら好意に甘えておけと」
そうだったんだ。蒼山君、君ってやつは……。
何故か私は疑わなかった。今までの行動が全て辻褄が合う。




