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第十五回「夕暮れ時のセンチメンタル」後半

「信じなれない。ノックぐらいしてください!」

「済まない。扉が開いていたからてっきり誰もいないとばかり」

「調子が悪くなり休んでいたんです! 大体なんで貴方がこんな所に来ているですか⁉ 一番縁のないところでしょう?」


 ソウルイーター先輩は急いで毛布で身体をくるみ緊急回避している。

 当たり前だが顔面は真っ赤だ。化粧はしていないからメイクという訳でもない。そんなに熱が高いのか……。


「軍曹殿……緑川先生に用事を頼まれたんだよ。別にやましいことをするつもりはない」

「本当ですか?」

 

 うわ、全く信用しない目だ。迷惑を散々かけたから言わずもがな


「ああ、机の上にある奴だ」

「あれは身体測定の結果表じゃないですか? まさかあれをネット販売もしくは男子達に高値で情報を売りさばくつもりじゃないいんですか? 貴方ならそのぐらいやってのけそうです」

「しねえよ。本当に先生に頼まれたんだ」


 口が滑ったようだ反省。

 中々信用しないソウルイーター先輩へ、ほらよとスマホを取り出し軍曹殿とのチャットのやり取りが表示されている画面を提示する。


「あら、猫ちゃん可愛い。先生が幸福で満ち溢れてます」


 そこには幸せそうな軍曹殿とマロンちゃんが写ってた。

 ってか、これじゃねぇよ。いつの間にか先生がマロンちゃんの最新写メを送りつけていた。

 

「ソウルイーター先輩こっちだ」

「どれどれ……」


文字が見えにくいのか俺に近づくも、「あ……先輩まずい」振動で毛布とブラがずれ落ちた。

 アメリカンサイズの妹には勝てないけど中々の大きさ……ではなくて、やはり栄養不足なのか細いな。


「ぎゃあああああ! 覗き魔! 強姦魔! 早く出ていってください!」

「済まない!」


 俺は取り敢えず重いの我慢して身体測定結果表を一気に全部持って保健室から退避した。

 ちな、のちに噂になり俺がソウルイーター先輩を強制わいせつ行為に及んだと学内に広がった。誰かが聞いていたのか? 障子に目あり壁に耳ありか……怖いな。


「——やあやあ、ご苦労様」

「ぜはぜは。もってきたっす……」


 再び職員室。

 鬼のような重量に全体力を使い果たした……。


「そんなに一気に持ってこなくて良かったんだぞ。そんなに私へアピールしたかったのか?」

「全く無いです。まぁ、これには深い事情がありまして——」


 場所を職員室の応接の間へ移動して、俺は保健室のアクシデントを好き包み隠さず全てゲロった。じゃないとあとでまたトラブルになる。


「蒼山、武者小路また倒れたのか?」 

「また?」

「ああ、あいつ元々体が弱いのに無理するから。それでなくても馴れない独り暮らしで体調管理できてないのにな」

「顔色悪いのはそういうことか」


 あばら骨がくっきり確認出来るほどだから、満更先生の心配しすぎというわけじゃないらしい。まーあれだけ細ければダイエットだったらやりすぎかも。


「蒼山、もし現場を目撃してヤバそうなら助けてやってくれ」

「あの人、俺を追いだそうとしてますが?」


 あからさまに退学してくださいと笑顔でお願いされたことも多々あるし、挨拶しても基本無視だし、やたらと持ち物検査しようとするし、(スポーツバックの中身が裁縫道具と簡易掃道具と調味料と簡易食器一式なのは引かれたが……)俺がなにかやっていると警戒するし、もう好感度は改善の余地はない。


「なら良い機会じゃん。恩を売ってチャラにしてもらえ」

「無理ですよ」

「大体本来はお前の方が先輩なんだから、年下女子の面倒を看るのは言を待たないほど至極当然のこと」


 俺は修学機関のない海外の国へ行っていたこともあり二回留年している。なので本来は三年生だったりする。

 免許も普通免許と普通二輪の2つを習得していた。


「簡単に言わないでほしいっすね。俺のこと滅茶苦茶嫌ってますよってか、もうビール飲んでいるんっすか。しかも職員室で」

「タイムカードは押したよ。グビグビ、あーあ、つまみほしいな。なにかないかなー」


 いくら人不足の世の中でもよく上司に叱られないものだ。恐るべし人材不足。今は伝説になっている就職氷河期の企業戦士達が哀れだ……。


「あからさまに催促してますね。ないですよ」

「ビールだけじゃない物足りないなー」

「分かりましたよ。ウインナーの燻製いりますか?」


 俺のバックから紙の皿と割り箸、タッパから数本の燻製ウインナーをだして盛った。

 味付けにはパプリカ、マスタード、ブラックペッパー、オニオンパウダー、ガーリックパウダー、チリペッパー、乾燥タイム、クミン、塩で配合したバーベキュースパイスを燻製前によく馴染むまで擦り込んである。燻す木はリンゴチップとオークチップをブレンドして試す。

 料理部で密かに作った珠玉の一品。厳選したアメリカンな味わいのミックススパイスが働き、表面が黄金色に輝いていた。


「料理部に出すのか?」

「いえ、食堂のプレゼン用に試作したっす。マンネリしているので新しいメニュー考案しているので」

「まさか誰も学生食堂の料理メニューをお前が考えているなんて知らないだろうなぁ。今年は売上が半年で例年の倍になったそうだ」

「大したことはしてないっすよ。ただ元々あるものをアレンジしただけ。今までのおばちゃん達の努力があればこそっすね」


 ついでに家で食べようとしていた玉子の燻製と竹輪の燻製も披露。


「滅茶苦茶うまいぞ! もう私のお嫁さんになれ蒼山!」


 いつものプロポーズ。冗談が好きな人だ。


「お断りです。苦労が絶えそうにないっすからねぇ」

「それは残念だ。今ならマロンちゃんの肉球揉み放題の特典もついてくるのにな」

「それは魅力的ですが、ゴミ屋敷もとい猫のアスレチックジムにしてしまう感性にはついていけませんので」

「そうか、駄目か。そんなにゴミ屋敷にしてしまう女は失格か?」

「人間としてアウトっすね」


 しかもやばくなったらいつも俺に泣きついて大掃除させられるのを込みでだ。


「罰としてうちを掃除してくれ」

「またですか? ついこの前徹底的に浄化した筈っすよね。職権乱用だ」

「良いんだよ。可愛い教え子には苦労をさせるのが私の方針だ。頼んだぞ」


 俺は先生の家の合鍵を持っている。でも男女の仲ではなくて、本当に召使い扱いだ。


 でもマロンちゃんと遊べるから悪いことばかりでもない。中々相手にしてくれないのも可愛いもの。


「会長もこれだけ他人をこき使えれば苦労しないんだろうけど、真面目なんだろうね」

「武者小路はなんでも一人でこなすやつだから、自分の弱い部分をさらけ出せないのだろう。ある意味不器用だな」


 などと指摘。

 緑川先生は意地っ張りなところはどこかお前と似ていると言ってのける。

 何処が似ているって?

 あんなわからず屋の意地っ張りと? それは不服だ。


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