第6話 ある意味超進化。絶妙に可愛くなった悪役令嬢ハナちゃん十四歳。
幼児のような生き物の涙を大量に吸った魔法陣が強く光り、クールなお兄様のキッチン周りが深夜のコンビニエンスストアどころではないただならぬ輝きを放つ。
部屋が広いことがあだとなった。
余計なことしかしない妹の侵入を許したまま仮眠をとるなどという常軌を逸したアクトにチャレンジしているクールなお兄様は、悪役令嬢ハナちゃんのお手々の薄皮が切れたことも、深手を負ったように号泣していることも、クールな雰囲気のせいで流血させられそうになっていたことも、猫でもできる悪魔召喚術がハナちゃんには難しかったことも、その結果バーカウンターの裏と妹が大変なことになってしまったことにも気付かなかった。
恐ろしい悪魔がクールな部屋に住み着くのと同じくらい大変なことになってしまった妹ハナちゃん十四歳が、バーカウンターの裏から素早く駆け出す。
ふわふわなルームシューズを脱ぎ捨てても足音を消せる最高のあんよと、まさか綿でも……と疑うほど軽量化された体を手に入れた彼女は、シュタタタタ! とフローリングを超え、毛足の長いラグを超え、ついにクールな人物が寝ているクールなベッドへと到着した。
そうして、ジャンプ力も増した彼女は、シュッ! と、もこもこの体を上手に操り、ふわふわなベッドで仮眠中のお兄様の上に飛び乗ったのだ。
◇
――……にゃー……――。
――……にぃにゃーん……――。
――お兄にゃーん――。
まどろむ彼の耳に、猫のような妹のような両方を混ぜ合わせてしまったかのような、謎めいた鳴き声が届く。
彼は目を開け、自身の顔を押さえる肉球の持ち主、非常に見覚えのあるぬいぐるみに縦ロールのカツラを被らせたような、絶妙に愛くるしい生き物を見た。
「……ハナ、今度は何をしでかした」
「わたくし、大悪党を悪魔で遠くへ殴り飛ばそうと思ったのです。お兄にゃーん」